試練の日
※6月1日誤字修正。ご報告ありがとうございます!
ガラリとドアを開けると大勢の目が私を見た。
「おはよ」
「……おはよう、言い訳は言わんでいいぞ」
私はいつもの通り完璧な歩き方で席に向かう。その後にエステレア、クロエ、フェリスが続く。
言い訳とはもちろん遅刻の言い訳だ。
だがそれでも言い訳しておくと、この学園には一応ルールがあって、5分以内の遅れは遅刻として扱わないらしいのである。
つまり私達は毎日のように遅刻してるように見えて一度も遅刻をしていないという事になる。
先生としてももう諦めているらしく怒ることもない。
「そうそうトモシビよ。お主魔導院の所属になったそうじゃな」
「うん」
「ワシもそこの所属じゃ。分からないことはワシに聞くがいい」
意外、とまでは言わないが驚いた。私も何をして良いかイマイチ分からないので助かる。
「ありがと」
「馬鹿に素直じゃな……」
私も大人になったものだ。エステレアと目を合わせて微笑む。その様子を見るクロエが何かを察したかのような表情をした。たぶんその想像は概ねあっている。
「エステレアさん、何かあったのですか?」
休み時間、妙に機嫌が良いエステレアにメイが尋ねた。
「うふふふふ、お分かりになりますか?」
「とてもお加減が良さそうですし、お肌の艶が色めくように感じられます」
「なんかすごく色っぽいね」
今日のエステレアは朝から踊り出しそうなテンションだった。それに肌に透明感、というか、ツヤツヤしてとても綺麗だ。
「やっぱり昨日のご入浴で……?」
「ふふふふふ」
「その反応! や、やっぱり!!」
「どういうことですの?」
「お嬢様のご寵愛を賜った、と申し上げましょうか……」
皆がギョッとして私を見る。近くで机に突っ伏して寝たふりをしていた男子がびくりと動いた。
「ご寵愛?」
アナスタシアはまだよくわかっていないらしい。
「お、女同士で? どうやって?」
鼻息の荒いジューン。彼女が考えてる事まではやってない。
とはいえ、私としても一つ大人の階段を登った気分であり、今日の髪型もまとめた髪を片側に流したサイドテールで大人っぽくしてみたりした。
「私にも御入浴のお世話させてくれるって言ったじゃないですかぁ!」
「そうですね、では今日はクロエに手伝って貰ってもよろしいでしょうかお嬢様?」
「うん」
「うへへへへ……」
エステレアも今日はいつもより余裕がある気がする。
そんな会話をしていると、周りの男子がニヤニヤと見てくる。気持ち悪い。
「おら、お前らさっさと演習行くぞ」
そんな男どもを追い立てるグレン。もはや不良ではなく委員長のごとしである。こちらと目が合うとニヤリと笑って自分も出ていった。
なんだあれ。なんか腹が立つ。
みんなは気付いていないようだ。気付いてたらキモいの大合唱だっただろう。
「私達も行きましょうか」
「今日はまず私と模擬戦しようね、トモシビちゃん」
「グレンを殴りたい」
「え、なんで?」
でもフェリスとやった方が楽しそうだしまた今度でいいか。
と思っていたら予想外の展開が待っていた。
「前から言っておった通り、今日は中間考査じゃ! 準備は良いな!?」
「聞いてませんわ」
「言われてねえよ」
「……カリキュラムを見ないお主らが悪い!」
この先生のいい加減さもここまでくると犯罪である。
誰か副担任とかつけてあげた方が良いのではないか。
「とにかく集団戦をしてもらうぞ! お主らもいい加減一対一は飽きたじゃろう」
「べつに飽きてねえよ」
「お主と違ってサポート向きの者だっているのじゃ。大体、実戦など集団戦ばかりなんじゃからな」
ぼっちのバルザックは不満そうだ。いい加減誰かと仲良くすれば良いのに。休み時間は一人でどっかに行くし、お昼ご飯もたぶん一人で食べてる。可哀想なやつである。
「今回は成績を見て戦力が均等になるように分けるぞ。すまんが仲良い者と組めるとは思うなよ」
ブーイングが起こった。ヤコ先生は全く取り合わず生徒の名前を呼んでチームを作っていく。
そしてできあがった私のチームはというと……。
「うわ! お嬢様おるやん!」
「なんだよこのメンバー、弱すぎだろ」
「お前ら足引っ張るなよ」
「ラッキーw」
名前は知らない。
関西、ツリ目、イキリ、オタでいいか。ツリ目は見覚えがある。バトルロイヤルで乱闘を始めたけっこう強い人だ。
他の人はよくわからない。ただ連戦連敗の私よりはましである事は確かだ。
「お主らはトモシビをうまく使え」
私は不本意ながら後衛向きだ。むしろ特化型と言って良いだろう。彼らをパーティーに入れてサポートすればなんとかなるかもしれない。今まで登録したみんなを消さなきゃいけないのが嫌だけど。
「聞いて、大事なこと」
「なんだよ」
「お嬢様声かわええええ!」
「うまく使うってエッロw」
ダメだ。ヒャッハー系のツリ目が一番まともなのが悲しい。
しかしめげてはいられない。私はなんとか頑張って説明してパーティー登録までこぎつけた。もうそれだけで疲れた。
先生の説明によるとトーナメント戦をするらしい。私達のクラスは30人なので6チームあることになる。第1試合に勝ったチームが3チームできるので、その3チームで1〜3位を決めることになるわけだ。
私達の最初相手は、ルーク、ゲイル、セト、ジューン、メイ。つまり全員アナスタシア親衛隊である。
これは酷い。連携力に差がありすぎる。私はこんななのに。
「ずるい」
「先生に希望したわけではないのですが……」
「忖度は否定できんがな」
「恨まないでねトモシビ」
恨まないが負けるわけにはいかない。私もこんな事もあろうかとこれまで色々考えてきたのだ。
「作戦会議しよ」
「普通に仕切ってんじゃねえ」
「お嬢様まじお嬢様w」
「お嬢様って男に興味ないんか?」
やる気あるのだろうか。4人が茶々を入れる中、私は辛抱強く作戦を説明する。
この四人に特筆すべき能力はないようだ。ヤコ先生が言うように勝利の鍵は私の魔法頼りである。つまりは彼らを壁にして私がどうにかするのだ。
「だから頑張って耐えて」
「べつに倒してしまっても構わんのだろう?」
「もっかい頑張ってって言ってくれや、万感の思いを込めたって感じで」
「……頑張って」
「よっしゃあ!!」
「し、死なないでお兄ちゃんってい、言ってw」
「……死んで」
「うひょおおおお!w」
まるで姫プレイだ、と思う。
ああ、そうか。理解した。
大抵の男にとって女の子を守るのは誇らしい事らしい。特に私のような美少女の場合は。
彼らはただ嬉しくてテンション上がっているだけなのだ。そう考えると微笑ましいものである。
本来その役割になりたかった私としては若干の悔しさを感じるのだが、さすがにこれまでの授業で自分の肉弾戦の弱さは思い知っていた。
私とて、勝つために沢山努力をしてきたのだ。今がそれを出すときだ。
「そろそろいいか? 準備したか?……でははじめ!」
相手のやり方はよく知ってる。ルーク、ゲイル、セトはバルザック相手でもわりと耐えられる猛者だ。全員模擬刀を構えている。私は全体化した身体強化をかけた。
できれば彼らが距離を取ってるうちに先手を取って突撃してほしい。
「トモシビ様申し訳ありません」
メイが魔法陣を描き始めた。これはよく知ってる。爆竹だ。私がみんなに教えた。
メイは一瞬で8個の爆竹をばら撒いた。やるものだ。
「爆竹」
「りょ!」
爆竹の魔術はしょせんねこだましである。目の前で破裂させて驚かせるのが目的だ。理解していれば問題ない。
先に言っておいたので対応が早い。相手はそれに乗じて攻めてきたが、うまく止めてくれた。
よし、今度はこちらの番だ。本家のを見せてやる。
私は爆竹をいじくり回して目くらましの閃光に特化した魔術に改造したのである。
これはもう爆竹ではない。
閃光弾だ。
両手に2つずつ、4つ生成する。
そして生成した球を飛ばす。
「引いて!」
私の声で4人が一斉に飛びのいた。なんだかんだでちゃんと作戦聞いてくれていたようだ。
そして閃光弾は3つが親衛隊チームの眼前で炸裂し……1つはオタの後頭部に炸裂した。
「あ」
「ぶほぅ!」
今までの爆竹は空気の衝撃とその音で怯ませるものだった。光は花火程度であり大した効果はなかったのである。
しかしこの閃光弾は違う。目を焼かれてしまうのだ。
視力を奪われた相手チームにオタを除いた3人が襲いかかる。
闇雲に振り回す武器を弾き飛ばし、剣を突きつける。
とはいえ3対5、メイがフリーだ。
ツリ目は2人を倒してくれたが、オタがやられた分1人余った。
しかもどうやらメイは回復しつつあるらしい。仕方ない。私は走りつつスカートの下のガーターからナイフを取り出す。もちろん刃引きしたものだが、これには丈夫な糸が付いている。
先生の宣言が遅いので3人は相手を拘束したまま動けない。私がやるしかない。
「おい先生!」
「うむ、その4人は敗退じゃ」
目をしかめながら剣を構えるメイにナイフを投擲。糸の操作で狙い通り剣に絡みついてくれた。
そして糸を引っ張りながらブースターの力を借りて懐に入り、模擬刀を突きつけた。
「……上達されましたね」
「メイのおかげ」
メイはなぜか暗器の扱いがうまいのである。私は彼女に投擲のコツを習って密かに練習していたのだ。
恩を仇で返すことになったが……いや師を超えるのは恩返しだろうか。
……よく考えるとメイが回復しても4対1だ。焦る必要なかった。冷静にならなくては、と自分に言い聞かせる。
「負けちゃったかー。トモシビの魔術はさすがだね」
「それに連携も取れていました。あの方達もしっかり手懐けられたようですね」
「普通に言うこと、聞いてくれた」
彼女らは特に悔しそうでもない。随分あっさり勝ってしまったが手加減してくれたのだろうか? それとも閃光弾が思いの外強力だった?
でも勝ちは勝ちだ。私の手には久しぶりの……もしかしたら初めての確かな勝利の手ごたえがある。
「警戒しなよトモシビ。男なんて変なことしか考えてないんだから。人気のないとこについて行っちゃダメだよ」
「わかった」
私に欲情してるなら、そういうこともあるかもしれない。心を許すところだった。危ない危ない。
私は座り込んで後頭部を撫でているオタを模擬刀で突っついてみた。警戒してのことだ。
「大丈夫?」
「え、あ、頭の傷は名誉の顔面セーフ」
頭を掻きながらよくわからないことを言うオタ。威力はあまりないはずだが、頭を打っておかしくなったのだろうか。
「ごめんね」
「……お嬢様意外と優しいw」
サムズアップで応えるオタ。大丈夫のようだ。私もサムズアップしておいた。
オタは目を輝かせて満面の笑顔になった。
が、次の瞬間に顔色が変わった。そそくさと逃げていくオタ。
……私の背後に誰かがいる。
怒りの気配を感じる。その人物はばね仕掛けのように私をホールドした。
うん、これはエステレアだ。
「お嬢様!お戯れが過ぎます!」
慣れ親しんだ感触と匂い……落ち着く。私が男と仲良くしてるのを見て気が気でなかったのだろう。私も安心させてあげなければ。
「襲われたらどうなさるのですか」
「警戒してたから大丈夫」
ジューンにも言われたし、ちゃんと距離取って接していたのだ。
エステレアはそうでしたかと納得しかけた。
だが、そこに物申す者がいた。
「こんなとこでいきなり襲う奴なんていねえだろ」
グレンだ。
なんという運命のいたずら、いや先生のいたずらか、彼はエステレアと同じチームなのである。無言でグレンを睨むエステレア。
「へ、変態の貴方に言う資格はありません」
そう言ったのはクロエだ。クロエも彼と同じチームである。私達の間ではグレンは変態で通っている。知らぬは本人ばかりである。
「何で俺が変態なんだ」
「トモシビ様をいつもいやらしい目で見てます!」
「見てねえ!」
「おい、敵と仲良くしてんじゃねえぞ」
ツリ目だ。それにチーム全員いる。オタが呼んできたらしい。
敵と仲良くって……私に言ってるのだろうか。
「次はそいつらとだ。敵だろうが」
「もうお嬢様は俺たちのもんだからw」
「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」
「ワイのお嬢様から離れろや」
エステレアが修羅のような顔になり、ブルブル震え始めた。
「わ、私のお嬢様に……」
「勝手に言ってるだけだから」
今日は余裕があると思っていたが、限界を超えてしまったらしい。
頭を撫でていると次第にエステレアの興奮は治まってきた。
……エステレアに酷いこと言ったな。
前言撤回だ。全然微笑ましくない。
遠慮なく魔法に巻き込んでやる。それなら私もやりやすいというものだ。
「早速やっとるようじゃな」
「どういうおつもりですか先生」
「いやなに、洗脳された姫を取り戻すと思えば面白かろう? くふふふ」
「趣味悪いな」
先生もいちいち煽る必要ないのに、何なのだこの人は。だが、ひとしきり笑うと先生は真顔になった。
「真面目な話をするとじゃな。お主らそろそろ真剣にやれ」
「どういう意味ですか?」
「友達と戦えんだとか、 女は殴れんだとか、甘ったれるな。お主らは戦士じゃと自覚を持て」
そんな事言われても、敵と味方は違うのだ。まさかエステレアと殺し合いなどできない。
「納得できぬか。まあ良い、しかしわざと負けたりはするなよ」
「炎の魔術は?」
私の得意なのは殺傷力の高い炎の魔術だ。自慢じゃないが……いやむしろ自慢だが、全力で魔力を注げば人間と同じ強度の人形を灰にする火力だ。生身で食らえば命がない。
「……エクスプロージョン級以下ならグレンとバルザックだけには使って良いぞ。ただしくれぐれも他を巻き込むなよ。クラスメイトを殺したくなければな」
「まあ俺とあいつ以外には耐えられねえだろうな」
エクスプロージョン。
ゴブリンの焼死体を思い出す。
……やっぱりちょっと怖い。
切り札として考えておこう。
「ふぅ……要するにその者達からお嬢様を取り戻せば勝ちという事ですね」
「そうじゃな」
「ま、負けません!」
「しょうがねえな」
「グレン、てめえは俺とだ」
「お嬢様は俺のw」
「よし!はじめ!」
ってちょっと待って、まだ何も作戦立ててない。
相手はグレン、エステレア、クロエ、それに残り2人はメガネとモヤシ、とでも呼ぼうか。
開始と同時に全員で突っ込んできた。
他はともかくまともにグレンと戦っては勝ち目がない。
全員に筋力強化、そして視力強化を施す。
「いいなこれ」
グレンはバルザックほど無茶苦茶な攻撃能力はない。彼は防御の方が厄介なのだ。これでなんとか対抗してもらいたい。
「死ねグレン!」
「てめえじゃ無理だ」
ツリ目は模擬刀に炎をエンチャントしてグレンに立ち向かう。なかなか強い。エクレアを彷彿とさせる太刀筋だ。それ王都で流行ってたのかな。
「お嬢様!」
「トモシビ様!」
ふと目を離した隙にクロエとエステレアが眼前に迫っていた。速い。
このスピードは脚力強化とジェット噴射のブースターを併用していると見た。
味方は視力強化したのに抜かれてしまった。
2人は完全に私を奪い去る事に特化したやり方のようだ。
……ん? さっき先生が私を取り戻す戦いって言ってたけど、ひょっとしてそれで勝ち?
だとしたらまずい。
緊急避難発動だ。
ショートカットを起動して両足からジェット噴射を放ってジャンプ。ロケットのように自らを垂直に射出した。以前思いついたものを工夫して実用化したのである。
せいぜい浮くくらいで自在に飛ぶことはできないがこういうとき役に立つ。
「お嬢様!下着が!」
「おほーw」
しまった。私は慌ててスカートを押さえる。観戦してる連中が指差してニヤニヤしている。オタもニヤニヤしている。私の側にいたのか。
上を見上げているオタにクロエがこっそり近づく、そしてその股間を思いっきり蹴り上げた。
「えいっ」
「おっ……」
うわ。私にはないはずの器官が何か信号を発した、気がする。
哀れオタは崩れ落ちた。戦闘不能だ。
これで4対5、しかも1人はグレンだ。グレンは1人でも並みの相手なら5人に勝てるだろう。
これはもう無理……。
……ではない。
負けてたまるか。私だって一人ででも勝ってやる。
私は上空から各々の位置を確認する。私を見上げてるメイド2人。
イキリと関西はそれぞれの相手を追い詰めたらしい。メガネとモヤシはグレンに隠れるようにして逃げ腰だが、一応3対3でやりあっていることになる。グレンと組むくらいだから残り2人は相当弱いのだろう。
とにかく今は6人が固まっている。今ならやれる。
ここは土と水の魔術を使う。炎は破壊力が高いが何かと使いにくい。色んな経験を通してそれを思い知らされた私は他の魔術も練習してきたのである。それが今役に立つ。
作るのは水の入った大きめの落とし穴だ。目標は自分の足元。
これを全体化する。
そうすると……。
「うわ!」
「何っ!」
「きゃっ」
こうなる。土の魔術は文字通り土を操る。
私は浮いてるので不発だが、私のパーティー全員が自分中心に落とし穴を作ったわけだ。
6人まとめて穴に落ちた。さらに中に水が溜まるはずだ。
空飛ぶ私の足元からも水が滝のように流れ落ちる。
……お漏らしじゃない。
味方に攻撃魔術など普段はしないが今回は別だ。ちなみに最後の悲鳴は倒れ伏したオタが穴に落ちて驚いたクロエの声である。
ここからだ。
私は間髪容れずにナイフを投げる。スカートが翻って下から丸見えになるが構ってる暇はない。
ジェットで飛べる時間はそんなに長くない。飛んでる間大量の魔力を消費し続ける諸刃の剣なのだ。
そしてナイフから伸びた糸の先端を握り、描くのはエンチャントと雷の式。
私は以前、騎士団の魔導院に行ったとき雷の魔術についての話を聞いていたのである。
どうやって狙ったところに電撃を飛ばすのか?
一番簡単な方法がこれだ。導線を使う。幸い私は軽くて丈夫で電気をよく通す繊維に心当たりがあった。
サンダーウール。
我が家の絨毯に使われているものだ。
中の6人がビクンと動いた。効いたらしい。さらに魔力を込めてもう一撃。
仕留めただろうか?
……頭がクラクラしてきた。魔力切れである。
ジェットを切るしかない。
その瞬間、フワリという感覚。
重力に従って落下しているのだ。
下まで5、6メートルだ。打ち所が悪ければ死ぬかもしれない。
しかし心配はしていない。
下には私のメイドが2人もいるからだ。
「クロエ!」
「はい!」
衝撃はほとんどなかった。2人で全部吸収してくれたらしい。
「お嬢様!」
「ご無事ですか?」
「大丈夫、信じてたから」
ぐっと言葉に詰まる2人。それより、言わなきゃいけないことがある。
私は2人に腕を回して抱き寄せるとこう言った。
「捕まえた。私の勝ち」
私を奪えば勝ちなら、私が奪っても勝ちで良いではないか。
2人は一瞬キョトンとすると笑い始めた。
「捕まっちゃったなら仕方ないですね」
「私の心は最初から捕まっております」
私達がキャッキャウフフしてると、はぁーというわざとらしく大きなため息が聞こえた。
ヤコ先生である。
「だから真剣にやれと言っとるのにのぅ。お主らほんともう……はぁー」
「私の勝ちでいい?」
「ああそうじゃな。まあ本人達がいいなら」
「おいちょっと待て」
グレン……。
こいつ不死身か。
だがさすがにちょっとフラついている。無敵の防御を誇るグレンでも電撃は堪えたようだ。
「これ以上やるなら私達が相手になりますよ」
「お前ら俺のチームだろうが」
「私達はお嬢様に奪われましたので」
「はぁ……ではどっちも姫を奪還したということで引き分け。それでいいじゃろ」
「なんだそりゃ……まあ、仕方ねえな」
え、いいの?
私のチームは全員倒れ、相手は3人が立っている。どう見てもグレン達の勝ちなのだが……。
例えクロエとエステレアに邪魔されてもグレンなら苦もなく倒すだろう。
「さっきの魔法はちょっと効いた。やるじゃねえか、トモシビ」
「そっちも」
「ふっそうだな」
それだけ言って、後ろ向きで手を振りながらドラマのワンシーンみたいに去っていくグレン。
なんか格好付けてるけど、授業中にどこ行くんだろ……。
そういえば首尾よく10万字を超えたのでESN大賞のタグを付けてみました。夢はでっかくですね。




