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初めてのことばかりです

※6月1日誤字修正。ご報告ありがとうございます!



「いらっしゃい、トモシビ・セレストエイムちゃん。来てくれたんだね」



相変わらずぽわぽわした感じの騎士団のお姉さんは、突然の訪問にも拘わらず笑顔で歓迎してくれた。



「例の魔法の件で来てくれたのかな?」

「うん」

「じゃあこっちの部屋でちょっと待っててね。 担当の人呼んでくるからね」



この人は受付担当なんだろうか? 本職が騎士とは思えないほど物腰が柔らかい。

私はエステレアを伴って指定された部屋で寛ぐ。来賓用なのだろう。壁には絵がかかっているしソファも良い感じに沈み込む、机や壁も凝った意匠が施されていて豪華な内装となっている。

ほどなくして、メガネのお兄さんが現れた。



「こんにちは、魔導技術班のスミスです。こちらがセレストエイムさんだね、それにエステレアさん」

「こんにちは」

「よろしくお願いいたします」

「よろしく、じゃあ早速だけど、その魔法陣を見せてもらいたいんだけど良いかな?」

「まって」

「どうしたの?」



そもそも、なぜ私が忙しい中わざわざ出向いてよく分からない研究だかに付き合おうとしているのか?

それは先日、私が実家からの仕送りで贅沢三昧してる私自身に疑問を持ったことに由来する。

それ自体は未成年であり学生の身分でもあるからして、ある程度仕方ないことではある。

ただ私が勝手に騎士見習いやらメイド見習いを作っている以上、できれば自分で稼いでお給料を払いたいと考えたのだ。

そんなわけで何かお金を稼ぐ手段を探していて、この話を思い出したのである。

つまり早い話、ちゃんと出すものを出してもらわなきゃ困るのだ。



「お嬢様はご多忙な身、協力するからにはそれなりの対価が必要となります」

「ああ、それなら研究費からアルバイト料を支払うよ……いや最初からそうしようと思っていたんだが気が焦ってしまってね。このくらいになるけどどうかな?」



そう言って示した金額はというと。



「すくない」



普通の学生アルバイトの平均くらいである。しかも時給だ。

私が実験か何かに協力するとしてせいぜいが1〜2時間程度だろう。むしろそれ以上は時間が割けない。1ヶ月に数回行けるとしてもうちの実家から貰えるお小遣いの50分の1程度である。

うちって実はお金持ちだったのかな。



「すまないがアルバイトの給料形態は決められているんだ。いくら珍しい魔法の研究でも変えることは出来ない」



世知辛い世の中である。しかし皆こうやってお金を稼いでいるのだ。いや私などまだ良い方ではないか。単純な労働力ではなく降って湧いた謎の魔法で稼ごうとしているのだから。

それを考えると、このくらいは、我慢して……。


……いられるわけがない。

もっと良い方法を考えるべきだ。



「見て」



マップ画面を開いてみせる。先日、アナスタシアの通信機の位置取得の式を組み込んだことだメンバーの位置が表示されるようになったのだ。

私が作ったアイコンが王都のマップの各所で光っているのが分かる。



「おお……すごいな、報告書にはこんな機能はなかったが」

「うわー! 作戦本部みたいね」



と、お茶を持ってきたお姉さんが部屋に入って驚きの声をあげた。

作戦本部?



「これはもしかして君が?」

「うん」

「お嬢様が夜なべして一生懸命お作りなられたのですよ」

「そうなんだ、頑張ったね!えらいね!」



なぜこの二人は微笑ましい方向に持っていこうとするのか。

世紀の大発明のつもりが夏休みの自由研究みたいな扱いになってしまった。

軍で使ったらとても有用だと思うので特許を取得したらどうかと思ったのだ。



「機能増設できるということか、そして何の魔導具もいらず手軽に個々の人の動きを把握できる」

「特許取りたい」

「難しい言葉知ってるんだね。でも、うーん……」



お姉さんの煮え切らない反応。二人は顔を合わせると話し始めた。



「実は似たような魔導具はもうある。そして特許も取られてる」

「ぇ……」

「でも軍の最新研究に一人でたどり着いたのはすごいよ。きっと天才だよ? 」



……通信機の魔法式を見てそれっぽいところをコピペして弄っただけである。正直よく分からない部分が多かったので苦労したが、決して一から考えたわけではない。

その後色んな機能を見せてみたが、どれも大したものではないらしい。今ある魔導具で再現可能だそうだ。私が理解できる程度のものは大したものではなかったようだ。



「ただ、それらをいつでもどこでも身一つで使えるのが素晴らしいんだよ。その魔法陣は万能魔導具の器なんだ。我々が知りたいのはその基幹部分の仕組みなんだよ」

「でもお金がないから」



断って別の金策を考えようか。エステレアに何か良い意見はないかと横目で見る。

エステレアは幸せそうな顔でケーキを頬張っていた。ダメっぽい。

その代わり、女騎士のお姉さんが抗議の声をあげた。



「なんとかしてあげられないですか? その基幹部分の特許は?」

「仕組みがわからないからね。申請のしようがないし……実際に解明してからは可能かもしれないが、他人には使えないものだったりしたら無駄骨だよ」

「じゃあいっそ学生アルバイトじゃなくて共同研究者として雇ってあげればいいじゃないですか。もう自力で解析してるんですから」

「それは……たしかに学生も可能だったはずだね。……うん、ちょっと事務に確認してくるからその間お願いね」

「了解でーす」



言い残してスミスは出ていった。

よく分からないが共同研究者になれそうらしい。



「ええとね、ただ魔法陣を見せるだけじゃなくて、ちゃんとした研究員としてお仕事ができるならもっといっぱいお給料が出るの」



え、本当に……?

研究員って何するんだろう? 論文とか書くのだろうか? はっきり言って私の頭でできるのか不安、いや不安どころではない。たぶん無理だ。

と、その思いが顔に出たのだろうエステレアが頭を撫ではじめた。



「お嬢様は少し緊張しておられるみたいです。何しろはじめてのお仕事ですので」

「大丈夫だよ。今まで通りそれを解析して分かったことを報告してくれれば良いからね。トモシビちゃんならきっとできるよ」

「……報告?」

「うん。具体的にはその基幹部分になると思うけど、分かったことをまとめて……お姉ちゃんに手伝ってもらってもいいからね。まとめて紙に書いて持ってきて欲しいの。トモシビちゃん、できるかなー?」

「……やってみる」

「うん、頑張ろうね!一年生で研究員のお仕事するなんて本当にすごいんだよ」

「さすがはお嬢様。はい、ケーキ、あーん」



差し出されたケーキをもそもそと食べる私を2人はニコニコしながら見ている。

このお姉さんが私を子供扱いするのはまだわかるが、エステレアまでやりすぎではないだろうか。

とはいえ彼女の喜んでる顔を見ると、怒る気にもなれない。


そんな寛いでるタイミングで丁度よくスミスさんが戻ってきた。



「おまたせして申し訳ないね」

「スミスさん。トモシビちゃんやる気になってくれましたよ。こう、おててを握りしめて『やってみる』って。かわいいでしょ」

「そうかい、おててを握りしめたのかい」



……ちょっとげんなりしてきた。どうやら彼女は私の一挙手一投足がかわいく見えるらしい。

たしかに私はかわいく見られるのは好きだが、これでは赤ちゃん扱いである。



「さて給料だけど、こんな感じでどうだろう」



と、彼が差し出した紙に書いてある数字は……基本給30万?

これはけっこうすごいのでは……?



「その他手当諸々と……保険料は領主の娘さんだから必要ないね。全部で35万くらいかな」



これなら十分に生活できる額だろう。仕送りも貰うけどね。結局親の脛をかじるのは同じだが、これはみんなに支払ったりする分なので良いのだ。

その他様々な手続きやら契約を確認していく。



「契約更新は1年ごとだ。結果が出せないならすまないがそこで契約打ち切りになる」

「わかった」

「あとは書類で確認してほしい。それから、もちろん君のご両親にもご連絡させてもらうけどいいね?」



そういえば私の両親は前世の記憶や変な魔法のことなど全く知らないはずだ。何しろ王都に来てからこちら便りの一つも出していない。

以前の私がこんな行動するだろうか? 突然娘の様子が変わったらどんな反応するだろう?

エステレアをチラリとみる、いつも通りそれだけで何が言いたいか伝わったらしい。



「近況については私がご報告差し上げておりますが、そろそろお嬢様から直接お手紙をお送りした方が良いかもしれませんね」

「ダメだよ、トモシビちゃんはまだちっちゃいんだからご両親も心配してるよ」

「お嬢様、初めてのお手紙頑張ってお出ししましょうね。ご主人様ならきっと涙をお流しになられながら領民に自慢されますよ」



私のお父様ならお屋敷の前に手紙を貼り付けた立札を立てて領民に晒すくらいのことはやるかもしれない。

手紙送りたくなくなってきた。



「ふむ、まあ君から知らせた後に私が送った方が良さそうだね」



案外融通の利く人である。

そんな感じで話はまとまった。

その後、色んな手続きや魔法の話などをし、私達はお土産にまたケーキをもらって帰ったのであった。







しかし手紙といってもどう書けばいいのやら。書き始めは、いかがお過ごしでしょうか的な挨拶でいいのかな? 他人行儀すぎるかな。そもそも敬語が他人行儀だろうか……。



「ふふ、早速悩んでおりますね」

「書き方わからない」

「お嬢様が書きたいように書けばいいのですよ。お嬢様が書いたものが正義なのです」

「……そうだった」



私が他人の決めた書き方に従う必要などないのだ。いやむしろ私の書き方を他人が参考にするのが正しい。

何も飾る必要もない。思う事をそのまま書こう。

セレストエイムからこの王都グランドリアまでは馬車で2日ほどかかった。

思えば最初は寂しかった。前世の記憶事件のせいで紛れていたが、意識すればやっぱり今も寂しい。

両親は疑いようがないほど私を溺愛していた。エステレアに負けず劣らず……いやエステレアほどおかしくはないかな。

もしかしたら、ここに来てから今まで両親のいない寂しさを感じなかったのは、そのぶんエステレアが愛情を注いでくれたからかもしれない。



『……会えなくて寂しいけど、エステレアがいるので大丈夫です。エステレアはいつも私の事を考えてくれます。私が寂しい時は抱きしめてくれるし困ってる時は励ましてくれます。たまに私の身体を弄ったり舐めたりするけど、女の子同士だし変な事じゃなくて二人で気持ち良くなるだけなので、もし帰った時やってもびっくりしないでください。

それから友達もいっぱいできました……』



なんだか筆が乗ってきた。

コト、という音に目を向けるとエステレアがカップを置いた音だった。夜なのでお茶ではなくホットミルクだ。

彼女は私が手紙に彼女自身のことについて書いているのに気付いたらしい、読んで涙ぐんでしまった。



「お屋敷でもスーパーお嬢様タイムをやらせて頂けるなんて……」



そこに感動したのか……。

それに自分の行為を私の両親に報告されても特に何も思わないようだ。その鋼の精神力は見習いたいものである。



「お嬢様、これからもいっぱい気持ちよくして、さ、差し上げますからね」

「……よしよし」



縋り付くエステレアの頭を撫でてあげる。彼女はただ純粋にスキンシップが好きなだけなのかもしれない。

それを常識などに囚われず自由にやっているだけなのだ。それは私の是とする生き方である。またエステレアに教えられてしまった。



「……今日はエステレアがしたいようにしていいよ」

「お嬢様、それはしかし……いつもさせて頂いております」



そうかもしれない。しかしエステレアはわざと触れるのを避けている部分がある。

それは、唇だ。

一応、他にもあるがそこら辺は本格的に触れてはいけない部分であろう。



「じゃあ私がする」

「お嬢様が、ですか?」

「後でお風呂で」



彼女は普段のスキンシップからは想像もつかないが、性的な接触は絶対にしない。キスもその範疇らしく、唇と唇が少し触れるだけで真っ赤になって固まってしまう。

しかし考えてみると、それは嫌悪の反応ではない。どう見ても好意だ。つまり単純に恥ずかしいだけだと思うのだ。

私だってエステレアとイチャイチャするのは好きなのである。エステレアがしたくてもできないなら私からすべきだ。男として……などとはもう言わないが。







手紙を書き終えた私はすぐにお風呂に入ることにした。

いつもウキウキで私を脱がせてくるエステレアが今日は不安そうだ。

私を手伝ったあと、彼女は彼女らしからぬゆっくりした動作で服を脱いでいく。

私も″俺″の記憶が戻った当初はエステレアの一挙手一投足にアタフタしていたが、今では慣れたものだ。とはいえ全く無感情というわけではない。意識しないように抑えているだけだ。



「目、瞑って」

「はい……」



洗い場で椅子に座り、向かい合った状態で囁くように言う。いつも私がやられてる事だ。

目の前にエステレアのぷっくりした唇がある。

何をされるかある程度理解しているらしい。瑞々しいという表現が似合うそれを少し突き出すようにしている。

私は勇気を出してそこに自分の唇を重ねた。



「んぅ……」



柔らかい。

少しビクリ動いたが逃げる様子はない。



「目開けて」



彼女の目は少し濡れているようだ。

見つめ合いながらまた唇を啄む。エステレアの匂いがする。私の大好きな匂いだ。

息が荒くなっている。肌が桃色に染まっていくのがわかる。

たぶん私もそうなっているのだろう。



「エステレアは嫌?」

「嫌なわけ……ありません」



それなら次はディープなのを……していいのだろうか。

言うまでもなく初体験である。″俺″の記憶でもそうだ。悲しいことに。

私はそっと唇を重ねるとその柔らかな唇の隙間に舌を滑り込ませた。

エステレアは目を見開いて動揺している。

私は彼女の首に手を回してホールドすると、舌先の感覚に意識を集中した。



「……」

「……」



エステレアの舌が私の舌に絡む。受け入れる覚悟を決めたのか積極的だ。

身体が熱い。脳が気持ち良い。

しばらく夢中になっていたが、ふと自分が太ももを擦り合わせてる事に気付いて我に帰った。

まずい。

蕩けた顔をしているエステレアからそっと唇を離す。唾液が糸を引いて落ちた。

二人とも全裸である。クロエあたりが見ていたらとんでもなく淫靡な光景に墳血していたかもしれない。



「……」

「……エステレア?」



蕩けきったメイドはぼーっと私を見ているだけで呼びかけても無反応だ。

こんな彼女は初めて見た。



「エステレア?」

「……」

「大丈夫……?」

「……」



普通じゃない。

衝撃でどっかおかしくなってしまったのだろうか?

もう一回キスしたら治るかな?

私は泣きそうになりながら再び彼女の首に手を回し……。



「お嬢様!」



その瞬間、トラバサミのような勢いでガバッと捕獲されてしまった。



「お嬢様はこんな事をなされてはいけません」

「でも嫌じゃないって」

「私は嫌ではありません。ですがお嬢様が穢れてしまいます」



正直よく分からないが、もうやらない方が良さそうだ。残念なようなホッとしたような。



「……じゃあこれは? はむ」



耳を噛んでみた。エステレアがいつもやってる事だ。



「んっ……それならOKです。ふふ」

「すべすべ」

「お嬢様セラムのおかげですわ」

「じゃあもっとそれあげる」



身体全体で肌と肌を擦り付けたりしていると、なんというか、少し発散できる。

エステレアもそうなのだろうか。

私達はいつもより密着しながらしばし甘い時間を過ごしたのであった。



なんか感覚が麻痺しててよくわからないのですが、今回のはやっぱりR15くらいに入るんでしょうか。

一応タグ追加しておきます。

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