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入学式にて



グランドリア魔法学園の入学式が始まった。

新入生は体育館に集められ、校長やら来賓の長ったらしい挨拶を聞かされる。



「このグランドリアにおいて魔法を専門に扱う学園は我が校のみです。厳しい入学審査をクリアした君達はこの国で最も優れた素質を持っていると言えるでしょう。君達のほとんどがこの国の将来を担う重要な職につくことになると思います。だが入学がゴールと思わないでほしい……」



そんな話を聞き流しながら、私は周囲から視線を感じていた。



「お嬢様、注目されておりますわ」



隣に座るエステレアが囁いた。エステレアは私の保護者ではない。同級生として入学するのである。

この学園に入学する年齢は決まっているわけではないのだ。大抵は幼学校卒業後入学するのでエステレアのように14歳が多いのだが、中には私のようなのもいる。

一際小さく、やたら目立つカラーリングをした美少女である私に注目が集まるのはいつものことだ。

見たいなら存分に見せてやれば良い。恥ずべきことなどないのだ。

ということを考えつつ、私の口から出たのは、うんの一言だった。



「さすがはお嬢様です」



エステレアにはそれで何が言いたいか大体伝わったようだ。たぶん。







この学校にはAからGまでのクラスがある。

これらは専門分野ごとに分かれており、名目上、クラス間に優劣は存在しない。

A、Bは魔法戦クラス。戦闘行為における魔法の活用を実戦を交えて習うことになる。

C、Dは魔法理論クラス。座学中心で魔導研究者を目指す者が多く在籍する。

E、F、Gは一般クラス。社会生活における魔法の活用を習う、職人や商人など一般生活において魔法を有効活用する術を習うことになる。


入学試験の結果によって割り振られるが成績優秀なら自分で選択することもできる。

私もエステレアもそのおかげで魔法戦クラスを選択することができた。

魔法戦ではあらゆる分野の知識を活用する必要があるため、優秀なものが集まる傾向があると言われている。

二人とも同じAクラスになったのは運が良かった。

いや、配慮してくれたと考えるべきだろうか。







「Aクラス担任のヤコ・クズノハじゃ。魔法戦クラスは主に戦闘行為を学ぶことになる。実習では本物の魔物と戦ってもらうし、卒業すれば軍属となる者も多かろう」



ヤコと名乗った先生はニヤリと凄みのある笑顔を見せた。



「戦うということは殺したり殺されたりするということじゃ。そのことをよく考えよ。怖気付いたなら他へ行っても良い。まあ、このワシの目が届く内は一人も死なさぬから今は安心せよ」



一人一人を見回して続ける。



「よいか、生きることは戦いじゃ。ならば強さとは生き残ること。お前たちをどんな時でも生き残れる最強の魔法戦士にしてやる」



生徒達は神妙な面持ちで聞いている。

ヤコ先生は頭の上に大きな狐耳のついた少女と見間違うばかりの小さな先生であるが、態度はやたら自信に満ち溢れており、妙な説得力がある。

見た目通りの年齢ではないのだろう。

数百年生きる狐の妖怪とか言われても納得する。



「では一人一人前に出て自己紹介してもらおうかの。舐められるでないぞ。ここにいるのは自ら戦いを選んだ血の気の多い奴らばかりじゃからな!自分がどれだけイカれているかアピールするんじゃ!」



自ら率先してイカれた事を言うヤコ先生。



「面白い先生だね」



私の隣に座る猫耳の少女が話しかけてきたので、うんと頷いて肯定の意を示す。

自己紹介は進んでいく、たしかに血の気の多い生徒は何人もいるようだ。



「アナスタシア・グランドリアですわ。知っての通り王女ですのでそのつもりで。魔法戦クラスに来たのは将来の部下を吟味するためですわ。せいぜい私の目に適うように頑張りなさい」



如何にも貴族という感じの金髪縦ロール王女様の自己紹介である。彼女の周囲にいるのは取り巻きだそうだ。王族付きならエリートなんだろう。



「バルザックだ。王族だろうがなんだろうが俺に舐めた口聞く奴は許さねえ。いいか、俺が来たら頭下げて挨拶しろ。それがAクラスのルールだ」



などと言ってクラス全員に喧嘩を売ったのは大柄な獣人の男子。狼の顔と尻尾がついていて、如何にも強そうである。

そんなやつらに影響されたのか、その後も血の気の多そうなのが挑発的な挨拶をしていく。

男子ばかりである。女子は少数であるが怯えた子がいないのはやはり戦闘クラスを選ぶだけのことはあるということか。



「このあとクラスの頭決めるタイマンゲームやるからよ。さっきからキャンキャン吠えてるやつらは来いよ。逃げんじゃねえぞ」



グレンと名乗った老けた男子が低い声で言う。顔も老けているが背丈もバルザックと同じくらい大きい。制服を着ていたら誰もが最上級生と判断するだろう。



「おもしれえ!てめえから殺してやらあ!」

「やってみろ犬野郎」



楽しそうに笑うバルザックに挑発を返すグレン。

早速騒ぎ始める二人を見てヤコ先生も好戦的に笑って言う。



「うひひひひ!今年も盛り上がってきたのう!争いは大歓迎、と言いたいところじゃが今のワシは教師じゃ。止めねばならん」



このクラスは毎年こんな感じなのだろうか。一応エリート揃いのはずなのだが、″あっち″の基準だと、不良校のノリである。



「放課後のそのタイマンゲームとやらじゃがな。体育館の鍵を開けてやるからそこに来るがよい」



その言葉に渋々座る二人。

そのまま何事もなく順番は巡り、エステレアの番になった。



「エステレアと申します。天から舞い降りし天使トモシビ・セレストエイムお嬢様にお仕えするメイドでございます。侍従ではありますがお嬢様は全世界の支配者となられるお方、私は世界で二番目に高貴な存在と言えるでしょう」



このメイドは一体何を言ってるんだろう。

笑顔でこちらを見るエステレア。これが俗に言うドヤ顔というものだろうか。



「ほう、じゃあお前とそのお嬢様とやらもタイマンゲーム参加でいいな?」

「女は殴りたくねえなぁ。すぐ泣くからなぁ」



先ほどの二人が小馬鹿にした笑みを浮かべている。

いや、私は体の小さい女の子だ。いくら魔法があるとはいえ戦闘の基本は身体能力である。こんなでかい男達とやり合うのは無謀だ。


無謀……だ。

……それでいいのか?

何かが囁く。私が体験したことが無いはずの記憶が蘇る。

無理だ。失敗したら怖い。そう思って挑戦すらしなかった。

周りと違う事をすれば馬鹿にされるかもしれない。他人の上に立とうとすれば敵視されるかもしれない。普通の中が心地良かった。

それでまた、無難に生きる?


昨日、この世界がゲームだと思って悲しかった。その一方で少し嬉しかった。自分は特別な存在なんだと思ったから。

しかし例えどんな力があろうとも、ここで無難な道を選ぶなら……。

私はまたただの脇役になるのではないのか。


お屋敷の自室から外を眺めていた日々を思い出す。起伏のない日々。

それは私自身の記憶だ。

喋るのが苦手で、人見知りで、体が弱い自分。

変わりたいと思った。

今がその時ではないのか?

私は今度こそ自分の生きたいように生きたい。

私は……()()()()()()()は怯えて縮こまったりはしない。



「トモシビ・セレストエイム。得意なのは炎の魔術。12歳だけど私が一番強い」



そして苦手なことは喋ること。

皆、なんだかニヤニヤしているのが見える。

そんな中を手を握りしめて席に戻る私。

エステレアが頭を撫で始めたので振り払った。







休み時間になり、フェリスというらしい隣の猫耳の子が話しかけてきた。彼女はなんと私と同い年である。とても人懐っこくて可愛い子だ。



「このクラス濃い子達ばっかりだね」

「うん」



同意した私にさらに声がかかる。



「貴女も人の事は言えないでしょう」

「アナスタシア様!」



会話に入ってきたのはアナスタシア王女だった。それを見てエステレアが私を守るように間に立つ。



「今日のお昼休みは空いてるかしら?」

「お嬢様、前哨戦ですわ」



そうなのかな? 彼らの勝手に決めたゲームに乗るつもりはないということだろうか。



「私はいつでもいい」

「お嬢様は常在戦場。入浴中でも排泄中でも好きな時にかかってこいと仰っております」

「大きく出ましたわね……」

「トモシビちゃん?! 王女様だよ!それにおトイレで闘うなんて汚いよ!」

「そんなつもりはありませんから安心しなさい」



私もそれは遠慮したい。



「お昼をご一緒しようと思って。3人とも食堂に行くでしょう?」



喧嘩の誘いではなかったみたいだ。

友達ができるのは大歓迎なので了承する。ついでに謝っておこう。



「勘違いしてごめん」

「あら、素直で良い子ね」

「そこがお嬢様の魅力でございます」

「えっ、エステレアさんが唆したんだよね?」



エステレアとフェリスももう仲良くなっているようだ。この猫耳少女のコミュ力は大したものである。



このくらいの長さでいいんでしょうか?

文字数4000字前後で投稿していこうと思います。

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