エピローグ
新訳聖火書 序文
神の去った地上は荒廃し、魑魅魍魎が蔓延り、人々は怯えて暮らしていました。
哀れに思った聖火神は1人の美少女となって天から降りてきました。
それがセレストエイムのトモシビお嬢様です。
これは使徒クロエが聖火神トモシビ・セレストエイム様の救世の軌跡を記した新たなる聖火書、その決定版です。
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目を開けた私の意識が急速に浮上していく。
ここはフカフカのベッドの上。
天蓋付きで乙女チックな私のベッドだ。
体を動かそうとするが、もちろん動かなかった。
拘束されているのだ。
エステレアによって。
「お嬢様……ちゅっちゅっ……」
首筋に柔らかく生ぬるい感触がある。
エステレアは私を抱きしめながら首筋にキスをしてるらしい。
「エステレア」
「あら? おはようございますお嬢様」
「起きるから、はなして」
「まあ! 我儘を仰ってはいけませんお嬢様。起床時間まで後5分あります」
エステレアはそう言うと、なんら悪びれることなく再び私の首筋に顔を埋めた。
私から分泌される成分、俗称お嬢様セラムを欲しているのかもしれない。
エステレアが魔人だと言うことは本人は分かってない。
いや実はそれとなく伝えたのだが、エステレアの中では私の眷属か何かなので体液が必要ということになってるようだ。
蛇に睨まれた……むしろ捕獲されたネズミのようにエステレアに巻きつかれていると、きっかり3分後にドアが勢い良く開いた。
「おはようございます! ご飯ですよトモシビ様!」
そう言ってドスっと山盛りのスムージーを置くクロエ。
相変わらず朝に強い。
そして私の朝ごはん相変わらずこれだ。
私のような珍獣でも野菜を取ることは重要なのである、たぶん。
「ふむ、時間通りですね」
「はい! もう文句は言わせませんよ!」
「そうですね……そろそろクロエも見習いは卒業かもしれません」
「えっ、私まだ見習いだったんですか?」
とっくに卒業させたつもりだったがエステレアの中ではそうだったらしい。
でも他者を私付きの本メイドと認めるなんてエステレアにしてはすごい事なのだ。
本当に信頼している証である。
私はメイド達の手を借りて起き上がるとゆっくり伸びをした。
大鏡にはツヤツヤした寝巻き用キャミソールとショートパンツを着た美少女が映っている。
吸血姫を思わせる赤い目と先端が赤い銀髪。
華奢で小さな体も小さな胸も相変わらず全く変化がない。
魔力で弄ればすれば成長もできると思うけどそんな気もしない。
可愛い服が似合わなくなっては困る。
「トモシビちゃ〜ん」
「あ、来ましたね」
フェリス達が迎えに来たらしい。
私は鏡台に座り、支度をすることにした。
今日は始業式、私は今日から3年生になる。
気合を入れなくてはならない。
王都滅亡から自宅登校状態だった学園が再開ついにするのである。
下着を履き、ブラを付けてブラウスを着る。
そしてその上にはいつもの魔法戦クラスの制服。
短めのスカートから除く真っ白な生脚も相変わらず眩しい。
ばっちりだ。
私は編み込み作ったロングヘアをサラリと払った。
「トモシビちゃんは3年生になっても変わらないねえ」
「トモシビ様はこのままでいいわ」
でも変わったことはある。
まずここはセレスエイムだ。
王都グランドリアは悪魔の沼に沈み、首都機能はセレスエイムに移ることになった。
ついでに学園もセレスエイムに移設されることになり、私の実家の近くに寮も建てられた。
ここはその女子寮だ。
私は実家ではなく女子寮で寝起きすることにしたのである。
私がそう言うとお父様がすごい絶望的な顔で騒いだ。
「なぜだトモシビ!? 父が嫌いになったのか!?」
「なりそうだけど、ちがう」
「あなた、トモシビも大人になったのよ」
「何!? つ、つまり……」
「ちがう」
と、そんな感じで何か勘違いしてそうなお父様を説得して私は実家を出た。
とりあえず抱っこさせてあげて、定期的に戻って来ると言ったら簡単に頷いた。我が父親ながらチョロいものだ。
実家に不満があったわけではない。
ただもう少し学園生活を楽しみたかったのだ。
「学園も変わらないね」
「パーツが同じですからねえ」
学園までの短い道を歩く。
新しく再建された学園だが、部品は王都から運ばれたのを使ってたりする。
悪魔による腐食の魔法は地面から離れていると効果が低いので意外と無事な部分は多かったのだ。
ちなみに、部品はドラゴンを初めとするペットの魔物が運んでくれた。
彼らの貢献のおかげでただでさえ薄れつつあった魔物に対する悪感情もなくなった。
ちなみに、再建はミナを筆頭とするゴーレム達が大いに役に立った。
彼らは魔物より器用で人間より力が強くて重機いらずの働きをしてくれたのだ。
現在彼女らは施工図が解析された聖域を再建するために奔走している。
「そういえばカサンドラさんは? 最近見ないけど」
「魔王城で魔王を復活させるべく邪悪な儀式をしてるみたいですよ」
「またなの……」
めすいぬことカサンドラは魔王を私が消滅させたことでまた鬱になるかと思ったが、そうでもなかった。
「めすいぬ……どんまい」
そう慰める私に彼女はこう言った。
「……トモシビ様、お願いがございます」
「なに?」
「ほんの少しだけ……血を頂きたいのです」
「おのれ、ついに魔人の本性を表しましたか」
「エステレアさん……そんなこと言わない方がいいですよ」
「飲むのではありません。魔王様の依代としたいのです」
魔王と一体化した私の血を元に、魔王の復活を企んでいるのだそうだ。
とても不穏だけどエステレアを助けてくれた臣下の願いだ。
私はその願いを聞き入れた。
ここまで一途ならもう大したものである。魔王なんてのし付けて持って行ってもらいたい。
「トモシビー!」
「やあ、待ってたよ」
新入生達が行き交う大ホールの入り口でアナスタシアとアスラームが出迎えた。
その胸には2人とも勲章が光っている。
邪神討伐の功績で受勲されたのだ。
ちなみにクラスのみんなも全員受勲された。
私が作った神の魔法……ゲートから溢れてきた新鮮な天脈によって悪魔の胞子は押し流され消滅した。
……のだが、生き残った部分が地上に降り注いだらしい。
それを騎士団やドラゴン達と協力して討伐したのである。
彼らは彼らで色々あったのだ。
「挨拶は大丈夫? 生徒会長なのだから長くお喋りするんですのよ?」
「大丈夫、スライムがいる」
「はい、全て記憶しています」
「……それで良いのかしら?」
「いいんじゃないかな、不得意なことくらいあっても」
私は聖少女になっても生徒会長になっても神になっても相変わらずお喋りは苦手だ。
セレスエイムに来た難民への挨拶も、獣人への挨拶もスライムに助けてもらった。
天にまで上り詰めた私だけど、やっぱり今でもこの美貌と魔法以外はほぼ何もできない。
アスラームのいう通り、それでも良いと思う。
足りない点は助けて貰えばいいのだ。
最初からそれが私の理想だったのだから。
「こうして天に昇ったトモシビ様は再びこの地に戻り、薄情な神々との差をこれでもかと見せつけたのでした……つづく」
「続くんだ」
「続きますよ。まだまだ偉業を記すのです。だってトモシビ様は学園を卒業すらしてないんですから」
読んでくれてありがとうございました!
続きそうな感じですけど終わりです。
作品を終わらせるのって物凄い辛いですね。
書いてる間も辛い記憶が多かったのですが、なんだかんだで終わりまで漕ぎ着けられたのは読んでくれた方々のおかげです。
特にコメントや紹介なんかしてくれた方は本当に救われました。