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クソザコお嬢様は天を目指した

※三人称視点になります

※2月8日文章校正しました

※2月21日誤字修正、ご報告ありがとうございます。



「神とは生贄。お主は天脈の源となりここで永遠に世界を維持する装置となる」

「…………」

「……ま、やめておけ。トモシビ、誰もお前を責めなどせん」



フェリスはトモシビを見つめた。

彼女は表情に乏しいくせに顔に出やすい。思い詰めたような顔をしているように見える。

悩んでいるのだ。

悩んでいるということは生贄になってもいいと思ってるということだ。

自分と世界を天秤にかけて自分を犠牲にしちゃうかもしれないということだ。

やるかもしれない、とフェリスは思ってしまった。

トモシビはそのくらい無茶をする。

フェリスの顔から血の気が引いた。


そして、トモシビが顔を上げた。

何かを決意したかのような顔。

決めたのだ。

言うつもりだ。



「ダメ!!!」



フェリスはトモシビに飛びかかった。



「わあ」



そしてそのまま押し倒した。

爽やかで甘い香りがする。

大好きなトモシビの香りだ。

最初は守ってあげなきゃいけないと思っていた。

何しろ彼女はひ弱で戦う事なんてとてもできないような可憐な女の子だったのだ。

妹みたいだった。


でも違った。

トモシビはいつも挑んでた。

あんなに可愛いくせに勇敢で、優しくて、頼りになって、皆を守ってきた。

その姿はフェリスにとってヒーローのように映った。

いつしか彼女は自分の手を引っ張って先を行くようになった。

彼女の隣にいるのが誇らしかった。

彼女の決断はいつでも正しかった。



「生贄なんてダメ! トモシビちゃんなんでいっつも言われたらすぐその気になっちゃうの!?」



でもフェリスは知っている。

トモシビは実際本当に危なっかしいのだ。

変なおじさんにホイホイついて行こうとするし、何かと太ももを見せて誘惑しようとするし……やっぱり守ってあげなきゃいけない。



「なってない……」

「なってるよ!」

「ちがう、生贄、ならない」

「なるよ! ……えっ!?」



あれ?

フェリスはキョトンとした。

さっき確かにトモシビの気持ちは生贄になる方に傾いていた……気がする。

フェリスには顔でわかるのだ。



「ほんと?」

「ほんと」

「うむ? あっさりじゃな。もっと頑固に粘るかと」

「せ、先生が変なこと吹き込むからじゃないですか!」

「役目じゃ。許せ」



フェリスは思わず絡ませた尻尾と尻尾をすりすりと動かした。

トモシビは彼女特有の囁くような舌ったらずな声で呼びかけた。



「フェリス……みんな、手伝って」







『ミナ、きこえる?』

「マスター!」



セレストエイムの屋敷に避難したミナは、トモシビからの通信に思わず叫んでしまった。

周囲の避難民が何事かとミナを見る。

ミナは平然と彼らを見返した。

天使たるマスターの通信に大声で反応して一体何が悪いのか?

メイド長も全てにおいてトモシビを優先しろと言っていた。

ザザっとノイズのような音が聞こえる。

トモシビからの通信にしては音質が悪い。

トモシビの魔力は特別性だ。ちょっとやそっとでは他と混ざらない。

よほど遠くから通信しているのかもしれない。

ミナは再び大声で喋り始めた。



「ご無事でしたか!」

『うん、悪魔は?』

「頭上に。攻撃はありません。戦力を整えているのでしょう」



天蓋を覆う肉の雲は広がる一方だった。

王都の攻防で消費した魔力や胞子を蓄えているのだろう。

トモシビがいない今、対抗できる存在はない。



『聖域の、データは?』

「聖域ですか……? 残りの解析データは60%ほどです。まだまだ時間が」

『天使の座のとこだけ、抜き出して、優先的に、解析して』

「は……はい! ただ時間がかかります。計算では10日ほど……」

『大丈夫、ネットワーク、ひろげてあげる』



その瞬間、ミナに送られる解析データが桁違いに増えた。

文字通りデータ量の桁が3つは増えた。

明らかに聖域の生き残りのゴーレムたちだけではない。

これは……。



「きなこもち先輩に……おもち1、おもち2……?」



きなこもちと同型機の警備ゴーレムのようだった。

かなりの数だ。

それらが一斉に解析を始めたらしい。

ミナは知らないが、それは以前魔導院とレメディオスによって作られたゴーレムだ。

カインによるクーデターの際、住民監視に利用された彼らは、事件の後は各地で警備の任に着いていた。

セレストエイムにもいる。

住民と一緒に王都から避難してきたのでこの屋敷の中にもいる。

トモシビはそれらを全てネットワークにつなげたらしい。

これなら30分……いや20分もあれば完了するだろう。


『5分でおねがい』

「ご、5分で!?」

『おねがい、やって』

「は、はい……!」



主は急いでいるらしい。

作業の指示を的確に行えば可能だろうか?

とにかく速やかに問題の箇所を特定する必要がある。



『がんばれ、がんばれ』



ゴーレムも応援されるとやる気が出るものらしい。

ミナは目を瞑り集中解析モードに移行……つまり演算に没頭することにした。







エステレアはトモシビの指示に従ってガラクタを集めていた。

ここに浮いているのは管理システムが各地から集めた最新鋭の魔導具の数々だ。

この部屋で見つけてからも事態が事態だけに誰も気にしてはいなかった。

なぜ管理システムがそんなことをしたのかは棚上げされていたのだ。



「修理しようとした、たぶん」

「なるほど」



ヤコが頷いた。



「神の不在を故障と再定義したわけか。なんとか魔導具でゲートを構築しようとしたのじゃろう」

「そんなことできるの?」

「やってみる」



トモシビは小さな手で積み木みたいに分解したガラクタを構築していく。

昔からそうだった。

この小さなお嬢様はどんなに難解な魔導書も根気よく魔法式を探して解いてしまうのだ。

エステレアはずっとそれを見てきた。



「その管理システムはどこ行ったの?」

「下が悪魔に侵食されとったじゃろ。システムダウンしとる」

「大変じゃない! 大丈夫なの?」

「大丈夫ではない! だから急いでここに来たのじゃ!」


「窓に何か張り付いておりますが」



カサンドラの言葉に一同が窓を見た。

暗闇の宇宙空間から浮かび上がるように見えるのは黒い紐のような物体。

それは悪魔の種だった。



「登ってきたの!?」

「魔力の源泉を探しとるんじゃ! トモシビ! もう時間がないぞ!」

「まって」



トモシビは魔導具の部品を展開して魔導回路を作っている。

その中心には魔法陣。

圧縮魔法陣だ。

渦を巻くような特徴的な……。



「遺跡の魔法陣だよ!」

「時間と空間を繋げる、魔法式」

「い、いや、しかし座標が古い! かつてはこれで良かったのじゃろうが……!」



そこでミシリと部屋が軋んだ。

窓の外を見る。

そこにはもう宇宙空間はなかった。

ヘドロのような色の悪魔の触手がびっしりと張り付いていた。



「ひっ……!」

「触手です! 本格的に来ましたよ!

「トモシビ! 脱出なら言え! ワシがなんとか」

「大丈夫」



相対座標は変化する。

だからいちいち計算しなくてはならない。すぐ近くを対象にするのですらトモシビがいつもやっている複雑な演算が必要だ。

トモシビはさらにその圧縮魔法陣を弄って別の渦に変えた。



「これでいいはず」



ギシギシと嫌な音が響く中、トモシビは冷静に告げた。

こんなことが前にもあった。聖域で同じことがあったのだ。

エステレアは知っている。

彼女の可愛い主人は一度経験したことは必ず克服することを。



「こ、これが座標か……? なぜわかるんじゃ!?」

「14年前に見た」



エステレアは知っている。

トモシビは一度見た魔法は決して忘れない。

例え物心つく前でも、産まれる前のものでも。



「時空間を繋ぎ、この魔導具で固定……いや神の座に設置せねば……」

「異空間シフトさせる」

「トモシビちゃん!悪魔はどうするの!」

「大丈夫、新鮮な天脈で、くちくする」



トモシビの強力な魔力は他と混ざらない。

異界の魔力はこの世界に馴染むまで時間がかかるのだ。

使い方によってはこの世界の物体を侵食し消滅させるほど強力なマイナスの作用を持っている。



「じゃ、やるね……天の魔法」



変な名前をつけられた魔導具の輪郭がぼやけ、代わりに空間がぼんやりと光り始める。


エステレアは知っていた。

この体が弱く人を怖がっていた小さな女の子がいつかその手に天を掴み取ることを。



あとはエピローグ的な感じですかね……。


※次回更新は14日から15日くらいになります。

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