表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/199

トモシビ

※2月1日、文章校正しました。



「なぜ?」



魔王の体がブレた。



「お嬢様!!」



慣れ親しんだ剣戟の音がした。私の前に立つエステレアが魔王の剣を受け止めたのだ。

それはもういっそ勇者の剣と言った方が良いような華美な装飾のついた剣だった。

魔王を自称する哀れなおじさんはなんだかショックを受けたような顔をしている。

でも正直よく分からない。

感情があまり表に出ないらしい。私と同じだ。

ただ違うのは……そんな私の表情を読み取ってくれる人が大勢できたということだ。

このエステレアみたいに。



「お前は生贄になれと言われて即答しなかったな」

「……」

「迷ったからだ。お前のことはよく知ってる。お前なら……理想のお前なら自分を犠牲にしてでも他者を生かすからだ」



合ってる。それは正しい。

今でも迷ってる。

魔王が無理やり剣を振り抜き、エステレアが弾き飛ばされた。



「ならやり直せばいい!例え俺の記憶がなくてもお前はまた生まれるだろう。そして俺が救った世界で平和な時を過ごせば」

「やだ」

「なぜ?」



なぜって……。

嫌だからだ。

その提案は私にとって生贄より嫌なのだ。



「聖域も壊させない! 悪魔もいない! 番人のクルルスがいれば世界は盤石だ! 魔物との戦いも最初から起こらない! 王都も滅亡しない!」



ほぼ視認できない斬撃をエステレアが受け止める。

言葉と攻撃が私とエステレアを襲った。



「……やだ」

「なぜ!?」



私は俯いた。

わがままかもしれない。でも嫌だった。

できるわけがない。

全て今の私を作った私の物語だ。

無に返すなんて絶対に嫌だ。



「結末は生贄だぞ!」

「まだ、終わってない」

「無駄だ!」

「無駄じゃない。私も……あなたも」



そして″俺″の人生も。



「ッ……ふざけるな!!」



その叫びと共に魔王の真っ赤な眼が光った。

クラリと眩暈がした。



「お嬢様!」



バランスを崩した私をエステレアが支える。

バランスが崩れた理由はすぐにわかった。

尻尾が消えている。

そして気がつけば魔王の姿も消えていた。



「お前を娘と言ったな」



魔王の声が私の頭に響いた。



「訂正する。お前は夢のようなものだ」

「んっ……!」

「お嬢様! 頭が痛いのですか!?」

「″俺″の見た夢。失敗した俺が見つけたかつての夢のカケラ」



エステレアには声が聞こえていない。彼は完全に私の中にいる。

いや最初からいた。

魔力信号は精神に作用し、彼は魔力に意思を乗せることができる。

彼は私の精神の片隅にいたのだ。

頭が痛いというのは正確ではない。

彼の心が入り込んでくる。

今、彼の思い出や希望、絶望、怒りも悲しみも全て自分のものだった。


……手加減されていた。

思えばずっと彼は私を害する気がなかったのだ。

彼は私が1000年研鑽した姿だ。最初から比較にならない。

その熟成した魔法技術と執念が今、本気で私に牙を剥いた。



「俺が念じれば今すぐ消える。わかってるだろう?」



溢れる感情に翻弄される私に、彼は死刑宣告をするように静かに語りかける。

彼の記憶が蘇る。

父親を亡くした時のこと、王都を追われたこと、カサンドラと出会って沢山の時を過ごした思い出、ドラゴンを保護した時のこと。

それに……″俺″の記憶。



「消えない」



私は答えた。

消えるものか。

私は″俺″から生まれた″俺″の理想そのものだ。

だから生きてる限り消えない。

例えこの私が消えても、トモシビは消えない。



「本当に……消すぞ」

「よみがえる……心の底を、焼き尽くして、這いあがる」



何度でも、何度でも。

理想に向かって進む。

なれなくても目指す。

生きてる限り、少しでも近づく。


ドクンと脈打ちそうになった燃え上がる心臓を……私は握りしめた拳で止めた。

私の中の灯火が輝きを増した。


……そうか、ずっとここにいたのか。

ただ踏み出すだけでよかった。

最初からずっと、こんなに眩しく、輝いて……。







目の前に光の渦が見えた。

まるで銀河のように数多の光点が集まって渦巻いている。

みるみるうちに銀河は視界いっぱいに広がり、俺の体はその中の一つの光点に落下していくようだった。

すごいスピードだ。視界いっぱいに光が溢れる。ぶつかりそうで怖くなり、思わず目を閉じてしまう。


覚悟したような衝撃はなかった。

目を開けてみる。

俺はどこかの部屋にいた。

目の前にはこちらを見つめるやけにでかい婆さんとベッドに寝転んだ若い女性。



「はじめまして。私の赤ちゃん。あなたの名前はトモシビ……トモシビ・セレストエイムよ」



産まれるところから体験させてくれるゲームだろうか?

俺は勝手に産声を上げる自分の体を感じながら…………こう願った。


それなら、今度はみんなに愛されたい。愛されるように生きたい。

せめて幸せな夢を見たい。







気がつけば私がいた。

私はたった一人、ガラクタの浮かぶ天の頂にいた。

エステレアはいない。先生もフェリスもクロエもエクレアもいない。

きっと夢だ。本当の夢。

ちょっと記憶が増えた気がするけど私は私だ。

尻尾も生えたまま。


部屋の中心には不思議な物体があった。

輝く同心円のような物体だ。しかも浮いてる。

私はそれが神の座と言われるものだとわかった。

神の座に手を添える。

その瞬間、イメージが見えた。

世界のイメージだ。時空を飛び越えて全てが頭に……。

びっくりして手を離した。


私の中にある異世界への扉。膨大な魔力を放つこれと繋げれば世界は救われるらしい。

私は……どうなるだろう?

生きたまま永遠にここで世界を見ることになるのだろうか?

この魔力は私の願いを叶えた。

この体は愛されるための体だ。小さくてか弱い守ってあげたくなる少女。

ゲームでキャラメイクをするように、私が私の意思で私の体を作ったのだ。


もう……十分に愛された?

呼吸を整える。

ビルの屋上に立って下を見る時みたいに。



『トモシビちゃんは私のヒーローだったんだよ』



こんな時、理想の私は……トモシビは迷わない。

トモシビは最強で最かわで。

可憐で、勇気があって、凛として、強い意思があって、知恵と閃きでヒーローのように問題を解決していく。

それから欲深くて、加虐的で被虐的で、性的で、偉そうで、他人の決めた事なんか従わなくて。

それで……それで……。



『私を……置いていかないで下さい』



それで……愛する人を悲しませたりなんか絶対にしない。

二者択一なんてぶち壊して、理想の世界に続く道を歩くのだ。



「みんなで、いっしょに」



それが私だったはずだ。



ほぼ精神世界のお話です。


※次回更新は1月7日、8日くらいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ