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お嬢様とメイドは離れられない

※1月18日文章校正しました。



なんだろうこの感じ。

体が熱い。

元気が有り余ってる。

私の中ですごいエネルギーがどんどん湧き出してる。

体の奥がむずむずしてじっとしていられない。

体が鋭敏になってる。

その敏感な体にピリピリと感じるものがある。

……いる。

風圧シールドの外殻に細かい黒い埃みたいなのが……。



「胞子だよトモシビちゃん!」



私の全身から炎が迸る。

炎は導火線をたどるように黒い埃に燃え移り、衝撃波のごとく360度に広がって大空を一舐めした。



「やったの!?」



いや……。



「ダメみたい」



体の奥が熱い。

もうこの玉のお肌がジンジンするほどに魔力を感じやすくなってる。

空気が澄んでいるのは今焼き尽くした私の周りだけだ。

広い広い大空、その地平の彼方までスモッグみたいな澱みが覆っているのが見える。

大気の汚れと区別がつかないような澱み。

でも私にはすぐわかった。



「胞子、あれ全部」

「ぜ、全部!?」



私は確かにあの悪魔を消し飛ばした。

復活したのはここに胞子が沢山あったからだ。

あれは私達が倒した腐食の魔物の近縁種だと思う。

魔力を糧に分裂して増えるタイプだ。

地面に寄生するのが特徴だが、アスカによるとどうも地面を分解して魔力にしている可能性があるらしい。

地面から地脈を吸うついでに地面そのものも食べてしまおうというのだ。恐るべき生態である。

私も尻尾を物質にしたり魔力にしてるのでそういう魔法もあるのだろう。

でもそんな訳の分からない魔物も魔力がなければ増えることはできないはずだ。

あんな一瞬で増殖するような魔力を得られるとすれば天脈しかない。

黒い埃が天脈の流れに乗ってまた私達の周りに漂い始めた。



「汚染してるってこと……? 天脈に取り付いて」

「そ、それってやばくないですか!?」

「落ち着きなさい。お嬢様ある限りメイドは狼狽えません」



と言いつつエステレアは私を後ろからギュッと抱きしめた。

この黒い埃みたいな悪魔の胞子は天脈を完全に汚染している。

合体して飛行形態にならず、こんな小さな胞子で生きていられるのは天脈の魔力のおかげだ。

今の私ならこの有り余る魔力で視界の全てを焼き付くことは可能だろう。

私の炎は私の意志で動かすことができる。

それは裏を返せば私の認識できない場所……例えば地平線の先なんかには届かないという事である。



「どうしようトモシビちゃん」



……どうしよう?

いや、手はある。

むしろ最初からそれしかなかったのかもしれない。

魔王やカインの悪徳中年がずっと言ってきたことだ。

私は足から無数のブースターを生やして加速をかけた。



「ちょっと、急ぐね」

「どこ行くの!?」

「天の頂」



天脈はもうすぐ枯れるらしい。

でも神がいれば枯れないらしい。

よく分からないが天脈の秘密はあそこにあるのだ。



「汚染された天脈を、全部捨てて……新しく天脈をもってくる……トイレみたいに」

「例え悪いよトモシビちゃん」



止まったものをまた流せるならそれだって出来ると思う。

天脈が枯れるのを待ってはいられない。その前に人間が死に絶えそうだ。

住人を避難させたセレストエイムだってどうなるかわからない。

ならば今やるしかない。

目指すは西。

魔王が暮らしていたという村、プロメンテ村だ。

そこからあの椅子で侵入するのが最も近い。







「おじゃましますね」

「な、なにごと!? トモシビ様、どこへ!?」

「ちょっと、そこまで」



長老の家に侵入し、有無を言わさず椅子を発動する。

一時期いなくなって廃村みたいになっていた村はすっかり元通りになっている。

私達は瞬時にしてあの白い空間に移動した。

耳鳴りがするほどの静けさが私たちを包んだ。

もう何度も来たけどこの静寂はいつ来ても緊張感を掻き立てられる。

いや違う。普通に緊張してるのだ。

これから神の座に行くのだから。



「トモシビ様は……神になるおつもりですか?」

「最初から神だっていつも言ってるじゃない」

「そうですけど……でも、なんか不安で」



静寂の中、廊下を歩く足音と私達の声が響く。



「ほら、聖域で天使は閉じ込めるって言ってたじゃないですか。つまり……」

「お嬢様」



唐突にエステレアが私を呼んだ。

ズブっと変な音がした。

何の音だろう?

私の前にいたエステレアがガクッと膝をついた。

血がポタポタ流れた。

その体からズルりと触手が引き抜かれた。

…………エステレア?



「え、エステレアさん!!」



クロエがエステレアの体を抱きとめて直ちに神術を施す。

エステレアの胸元が赤く染まっている。

私はエステレアにしがみついてそれを見ている。



「トモシビ様、危ない!」



ビクッとしてそちらを向く。

千切れた触手がのたうち回ってる。

よく見ると通路の白い壁から触手が何本も出ている。

……これが。

こいつのせいで。

私の奥から煮えたぎるような怒りが湧いた。

ドクンと脈打つ。

炎が迸る。


全てを燃やし尽くすその炎は……触手の直前で暗黒に飲まれて消えた。

魔法封じ……なんでこいつが。

そのまま鞭のように音速で動く触手が、私に……。

届く直前でガンと弾かれた。



「トモシビちゃん、逃げよ!」

「後ろにもいる!」



後ろから触手が飛んでくる。

一度に数本。

一つ一つが人体を簡単に貫く凶器だ。

その全てをエクレアが見事な剣裁きで弾いた。

いや……掠めて傷を負った。



「……エステレアは?」

「まだです、まだ……!」



まだ……というかこんな怪我、治せるのだろうか?

胸を貫かれてる。人体急所だ。

エステレアは目を瞑ってる。

一瞬にして意識を刈り取られたのだ。

……このまま。

このまま、目覚めなかったら……。



「血です!」



声がした。

同時に入り口側の触手がちぎれ飛んだ。

黒い紐みたいな胞子が舞い散って消えていく。

その向こうに、カサンドラがいた。

血……?

……そうか。

私は剣で自らの掌を切った。



「トモシビ様……!?」



その傷口の血を口に含み……エステレアに口付けをする。

ビクっとエステレアが動いた。

……助けられる。

また血を含んで飲ませる。

……知っていた。

エステレアが普通じゃないことなんて。

手が冷たい。それは元からだ。

冷え性だと思ってた。

でもカサンドラも冷たくて……。

薄々気がついていたのだ。エステレアが魔人だなんて。


エステレアの唇が動いた。



「お……」

「エス」

「お嬢様!」



その瞬間、私の視界がブラックアウトした。

ブチブチ変な音が聞こえる。



「……は?」

「今、素手で……」



一瞬の後に視界が戻り、私はエステレアにお姫様抱っこされたまま広間に移動していた。



「エステレアぁ……」



私は泣きそうになり、首にしがみ付いて顔を埋めた。

……生きてる。

しかも元気すぎるくらい元気になってる。

胸の穴は塞がってるらしい。

相変わらず意味わかんない体だけど……どうでもいいや。



「お嬢様……私すごく気持ちが良いのです。体の隅々にまでお嬢様成分が染み渡ったような……」

「知ってる……もっといっぱいあげる」



エステレアはきっと私の変な成分で魔力を補給してるのだろう。

彼女の言ってることは全部本当だった。

私はエステレアがいないと生きていけないような人間だ。でもエステレアも私がいなきゃ生きられなかったのだ。

珍獣なのは2人ともだった。その特性が奇跡的に噛み合っていた。

なんて歪な主従だろう。



「血、じか飲みしていいよ」

「血……? まあ! お嬢様の美しいおててに傷が! クロエは一体何を……!」

「な、何って、そんな理不尽な」

「お楽しみのところ申し訳ありませんが……」



なんだろう?

水を差す声に振り向くとカサンドラがいた。

そして隣にいるのは……ヤコ先生だ。



「先生」

「早く上へ行くぞ。悪魔は死んでおらん」

「上?」

「上じゃ。王の中の王……トモシビよ、お主は資格を得ておる」



円形広間の床にある円状の灯火が光を放っている。



『王……確認…………た』



愛し合うお嬢様とメイドはとても良いものだと思います


※次回更新は1月24日25日くらいになります

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