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そして王都は滅びた

※1月11日文章校正



眼球を作るという特徴は悪魔によく見られる特徴だ。

だからこの天空を覆う肉雲も悪魔の一種なのだろう。

ただ大きさが違いすぎた。

空の端から端まで肉雲で覆われている。

一体どれほどの範囲に広がっているのだろう?

私は台風の雲みたいなのを想像してみた。

宇宙から観測したらヘドロみたいな色の雲が覆っているように見えるだろう。



「ご安心ください!」



よく通る声が響いた。

カインの声だ。

先程まで上機嫌で演説していたテロリストが、今度は王城の入り口で声を張り上げていた。



「ここにはトモシビ嬢がおります!ドラゴンやスカイサーペントを消滅させるトモシビ嬢の魔法なら!」



期待の眼差しが私を射抜いた。

衛兵に拘束された状態のカインに王様が声をかける。



「カイン……まさかお前がこの事態を?」

「まさか! しかしどんな形にせよ大いなる危機は来ると思っていました。そしてその時にこそトモシビ嬢が必要になることも」



確かに大いなる危機だ。

ここまで大きくなると悪魔というよりもう邪神だ。

セレストブルーの砲撃もぬかに腕押しだろう。

クルルスと同じかそれ以上の規模の敵だ。

倒し方もあの時と同じやり方しか思い浮かばない。


私はフェリスから降りて尻尾に精神を集中させた。



「わかった!」

「ま、待ちなさいトモシビ」



王様とお父様が慌てて止めた。



「ステュクスの言うことを聞く必要はないぞ。封印を解けばまた精霊に狙われるかもしれんのだぞ」

「でもやられる前に、やらなきゃ」

「魔王に乗っ取られる危険があると言ったではないか」

「乗っ取り返すから、大丈夫」

「さすがはトモシビ嬢、いや大魔王様ですな」

「衛兵、そやつを黙らせろ!」

「トモシビ、とにかくまずは……トモシビ?」



口うるさいお父様達を無視して私は再び精神を集中した。

私だって魔王の力に頼るのは嫌だ。せっかく封印したものを解放するのも怖い。

でも仕方ないではないか。

悪魔はどれもこれも危険な相手だ。

王都全体に腐食の魔法を使われたらもうその時点で壊滅確定だ。

私のお父様やエステレアも私のファンのおじさん達も皆死ぬかもしれない。


やられる前にやらなければ死ぬ。

迷ってる暇はない。

天秤にかけるには犠牲が大きすぎる。

尻尾をフリフリして、いつものように魔力を操作する。

だんだん封印が解けていくのを感じる。

魔導書の仕掛けと変わらない。

幼い頃から慣れ親しんできた私ならパズル感覚で外せる。


パキンと卵の殻が割れるような感覚。

凶暴な魔力を感じる。

……大丈夫。

これは私の魔力と同じ。

私は使いこなせる。

いつもの尻尾や猫耳みたいに、魔王と戦った時みたいに、クルルスを倒した時みたいに。

ドクン、と私の中の燃え盛る心臓が脈を打った。

そこから炎が溢れて魔王の魔力を塗り替えていく。

例えようのない高揚感が私を支配する。

空に右手を掲げる。

あの目玉から全てを焼き尽くしてやる。

凶暴な衝動が私を支配する。

ドクンと心臓が脈を打つ。

私の体からプロミネンスみたいな炎が迸り、周囲に飛び散った。



「うわ!?」

「だ、大丈夫です! トモシビちゃんの炎は安全だから!」



私の小さな右手から発射されたとは思えない極太の真っ白な柱が空を貫いた。

スカイサーペントを落としたレイジングスターと同じくらいの太さだろう。

それは軌跡に炎を残して手元から消えていく。

お父様もお母様も王様もカインも息を呑んで見ている。

空に浮かぶ巨大な目玉から光が漏れた。



「おお……」



目玉が崩れて中から太陽のような光球が顔を覗かせる。

やったことはクルルスの時と同じだ。

あの悪魔の全ての魔力を炎に塗り替える。

空いっぱいに広がる雲の全てが崩れていく。

肉の雲の隙間から光が漏れ、雨上がりみたいに地上を照らした。



「き、消えた? 終わったのか?」

「なんだこれは……」

「これが魔王の力なのか……」

「と、トモシビ、大丈夫なのか?」

「平気」



何ともない。

私は尻尾を振ってみた。いつも通りだ。

封印を解いても私の一部みたいに操れる。

魔王と和解したおかげだろうか?

先生の許可なくやっちゃたから怒られるかもしれない。



「……トモシビ、先に帰って休みなさい。後処理は私と愚王がする」



お父様の言葉に私は空から地上に眼を向けた。

畏怖の視線。

私はお言葉に甘えて帰ることにした。

また魔王だなんだと言われては困るけど、まあ何とでもなるだろう。

今の私のアイドル的人気はもうそんなのでは揺るがないと思う。

ともあれ危機は去ったのだ。

他のことは後から考えれば良い。


私はあくびをして、空を見上げた。

まだ明るい。

私は日傘″窓″を出した。

会議はまた明日開かれるのだろうか?

被害がないから今から再開されるかもしれない。

雲で光が遮られる。

辺りが暗くなる。



「トモシビちゃん、なんかあれ……」



頭上を見上げてみる。

肉色の雲があった。

それは急速に発達し、全天に広がっていく。

目玉ができてそれがこちらを見た。

その瞳孔が収縮して行く。

同時に、魔力が。

間に合わない。

……これは、ダメだ。

邪神から腐食の魔法が迸る。


そして、王都は滅びた。







「トモシビ!」



……が、私達は滅びていなかった。


眼下には腐食の沼に沈む王都。

私達は空に浮いてそれを見ている。

議員や官僚、会議に参加した各国の大使も浮いている。

それだけではない。

王都の住民全てが同じように空に浮かんでいた。



「お嬢様、なんという……」



エステレアがぎゅっとしがみついた。

ただの全体化だ。ただしかつてない規模の。

私はもはや私は王都の全てと繋がっていた。

全てが私のフレンドでパーティーで大切な存在だった。

異常な量の魔力が私の胸から溢れてくる。



「ショコラ、イチゴダイフク、チョコミント、メレンゲ……あとエイの子」



無数の召喚魔法陣が空に浮かぶ。

そこからペット達がポコポコ生えてくる。



「みんなを、セレストエイムに送って」

「トモシビ! お前はどうする気だ!」

「トドメをさしてあげる」



私は天蓋の目玉に向かって突進した。

目玉を炎で突き破り、また上を目指す。



「敵は下ですよ!?」

「お嬢様のやることに間違いはありません」



もちろんエステレア達も一緒だ。

なんかもういないと不安になる。

肉の雲の上、目指すは上空一万メートル。

そこに広がる天脈に私は辿り着いた。



よく空を飛ぶ主人公ですが、やっぱりタイトル的にそうだからですね。


※次回更新は1月17日〜18日の境目くらいになります。

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