天へと至る物語
※1月4日、誤字修正文章校正しました。
アルグレオは元々地脈の豊富な国ではない。
彼の国の魔力は皇帝の住む塔、タブロバニーが天脈から収集している。
それが枯れたとなると地脈の流れが変わったというレベルの話ではなくなる。
「話の重さの割に余裕がありますわね」
「我が国の生活はそれほど魔力に頼っておらん」
「そっか」
魔力は皇帝が独占しているとか言って嘆いてたのを覚えている。
となると皇帝が贅沢できなくなるだけであんまり影響はないのだろうか。
偉そうなアルグレオ皇帝御一行と話していると今度は珍しい衣装の集団が固まっているのが見えた。
東方の人たちだ。
この会議はいわば国連とかG20とか30みたいなものだ。
世界中の国が集まって色々話し合うことになる。
それが王都で開かれたのは立地とか国の役割とか考えると妥当なところだと思うのだが、東方諸国は別の場所を希望していたと聞いている。
別の場所とは他でもない、セレストエイムである。
理由は一つ。
私の国だから、だそうだ。
嘘みたいだが本当のことである。
東方の国々は、夢のお告げ……諸国のトップ達が同時に夢で私の姿を見たという珍現象のおかげで私に何か期待しているらしいのである。
彼らはそういうゲン担ぎが好きなのだ。
東方諸王の先頭にいる女性が狐耳を動かしてこちらに向け、次に首ごと私の方を見た。
タマヨリだ。
私は手を振った。
「タマヨリー」
「おお、猫姫ではないか」
狐人の女王が笑顔で小走りになってこちらにやってくる。
「猫姫や、贈り物は届いたようだな」
「うん……ありがと」
タマヨリは私の猫耳を優しい手つきで撫で始めた。
私は獣人と会う時は猫耳を生やすことにしている。
だってその方がチヤホヤしてもらえるのだ。
もちろん尻尾も出してる。
尻尾には宝石をあしらった花の飾りがついてる。
タマヨリからの贈り物とはこのことだ。こちらの聖誕祭にわざわざ会わせてくれたのである。
猫耳用耳カバーも2組入ってたのでフェリスとお揃いで寒い時付けたりしてる。
「ういやつういやつ」
耳を撫でる手が心地良い。
タマヨリは獣人の国の女王だけあって猫耳の撫で方がうまい。
私の喉が勝手にゴロゴロと音を立てた。
さらにその手が尻尾に伸びる……が、その前にグイッと背後に尻尾が引っ張られた。
後ろを見る。
アナスタシア……ではない。
皇帝だった。
「それまでしておけ。獣人の尻尾は特別な意味があると聞く。みだりに触れて良いものであるまい」
「……そういうそなたが今触っているようだが?」
「当然だ。余なら許される」
「はなして」
私は尻尾を引っ張って皇帝の手から抜き出した。
許されるわけがない。
女性な分タマヨリの方がマシである。
「おお可哀想な猫姫や。美しい毛並みが乱れたではないか」
「え、ええと……ご紹介しますわね。ことらがウガヤフキアエズ国の女王陛下で、こちらがアルグレオ国の皇帝陛下」
「報告で聞いている。ディラが世話になった」
「あのエルフか。あれも可愛いらしい娘だった」
「貿易でもまたディラとレメディオスに……」
睨み合う2人はよくやく普通に雑談をし始めた。
乱暴に扱われた尻尾の毛並みを整える私。
ドMが時計を確認して発言する。
「トモシビ様、そろそろ時間のようです。また後ほど」
「ほんとだ」
「もうそんな時間か」
「なぜ余ではなくトモシビ・セレストエイムに言う? まったく……」
私達は連れ立って大ホールに急いだ。
もう皆、席について資料を読んだりしてる。
皇帝とドMは自席へ、タマヨリは東方の一団に戻り、アナスタシアは王様の所へ行ってしまう。
私の席はどこだろう?
見渡すとよく目立つ前の方に私の両親がいた。その背後にはエステレアが控えている。
両親の間にはご丁寧に空き椅子がある。
急いでそこに駆けつけ、スカートを正して座る。
「遅かったなトモシビ」
「挨拶まわり、してた」
「すごいなトモシビ、もう挨拶回りを習得していたとは」
「偉いわ。もう完全にトモシビが領主ね」
お父様は挨拶回りとか苦手なタイプである。
私も苦手だ。
でも親しい相手なら苦にはならない。
思えばアルグレオとも東方とも敵対したり騙されたり色々あった。
そんな関係でも何もないよりは親しくなれるものらしい。
会議は私が席についてすぐに始まった。
「……本日はご足労感謝する。人類のため実りある会談にしようではないか」
「国王陛下ありがとうございます。では最初のテーマですが……」
最初の挨拶は王様、進行役は見覚えのあるおじさんだった。
一緒にアルグレオに行った外交官の人だ。
設置された大きなモニターには最初のテーマである魔力枯渇問題の詳細が表示されている。
要約すると魔王領のようにならないように備えましょう、みたいな話だ。
とっても平和的だ。
「エステレア、お茶のみたい」
「はいお嬢様、ロイヤルミルクティーでございます」
「トモシビ、おトイレ行きたくなるからちょっとにしときなさい」
「大丈夫」
エステレアの差し出した私用のティーカップは乳幼児並みのサイズしかない。
いくらティータイムを嗜んでも平気なのである。
会議に目を向ける。
「……最近各地に現れている大型の魔物、悪魔についても魔力不足との関係が示唆されております」
聖域がなくなったのは魔力が途絶えたせいだ。
そして悪魔は魔力を求めて世界中を襲来している。大体魔力不足が原因であると言える。
話が一段落したところで王様が拡声魔導具を取った。
「この問題について詳しい人物を呼んでいる。犯罪者だが聞く価値はあるだろう」
その言葉で壇上に上がってきたのは私のよく見知った人物だった。
カインだ。
ステュクス家の党首代行で、自国民に核ミサイルみたいな魔導具を発射した黒幕気取りのテロリストおじさん。
「話せるかね?」
「もちろん、この時をどれだけ待ったことか」
「ではカイン・ステュクス殿。貴殿はこの事態を予見していたそうだが」
「いかにも。私の行動は全て人類のため。破滅的災害を避けるためのものです」
出席者がガヤガヤした。
そんな良いことしてただろうか?
「第一段階として、再来の魔王トモシビ嬢の英雄化と神聖化」
「トモシビ?」
視線が私へ集まった。
エステレアの両手が私の肩に添えられる。
私は澄まし顔で視線を受け止め、髪の毛をサラリと払ってみた。
「旧魔王軍は彼女を魔王の依代にしようとしていたようですが……私としてはどちらでも良かった。計画の失敗を受けて、私は彼女が聖少女となるまでお膳立てをしました」
「飛空艇での会談を襲撃したワイバーンは貴様の仕業らしいな」
「その通り」
エン帝の糾弾を涼しい顔で受け止めるカインおじさん。
「プレメンテ村をメチャクチャにしたのも」
「私です」
「まさか……王都の地脈の異変とスカイサーペントの襲来も……」
「クルルスの像が消えたのもか」
その二つは私だ。
私の目が虚空を泳いだ。
真相を知ってる王様が咳払いをした。
「んん……それでトモシビを聖少女としてどうする? それが何になると言うのだ?」
「神に至るには地上の王権が必要です。魔王は志半ばで倒れましたがトモシビ嬢は成功なされた。もっともすぐに降りてしまいましたが」
魔王のおじさんが夢の中でそんなようなことを言ってた気がする。
カインの祖先も魔王から聞いたのだろうか? それとも彼が直接? わからないけど魔王と彼の意志は一致してるようだ。
「話が見えんな」
「魔力枯渇は神の不在が原因です。わかりますか? 次なる神が誕生すれば問題は解決するのです。悪魔もどうにかなるでしょう。何しろ今までどうにかしていたのですから」
「馬鹿な、何か根拠があるのか?」
「いや魔王の予言は全て当たっている」
「たしかに夢のお告げは……」
「静粛に、静粛に」
大ホールがすごくうるさくなった。
皆が私を見たりカインを見たりしてなんか議論している。
これも魔王の言っていた事とほぼ同じだと思う。
なんだか私が物語の主人公みたいだ。クラスをまとめ、学園の代表となり、国を救って英雄となり、最後は神になるのか。
思い描いた通り天に至る人生。
でもあんまり嬉しくないのはなぜだろう。
「神とはどういうことだ? どのように神になると?」
「資格があれば至高天より神の座へと導かれます。至高天の場所は……もうご存知でしょう? トモシビ嬢」
いきなり私に話を振ってきた。
知っている。
精霊の本拠地、管理システムのある場所がきっとそれだ。
皆が私に注目した。
久しぶりに視線が気になる。
私が立ち上がり、口を開こうとしたその時、大ホールに兵士が駆け込んできた。
「申し訳あげます!!!」
「なんだ?」
「そ、空に! 見たこともない大型の悪魔が……!」
「王都の……ここの上空にか?」
「治安部隊が避難勧告を出しております!」
「トモシビ、出るぞ」
お父様が素早く立ち上がった。
場馴れしてるので行動が早い。
警備についていたフェリスが私をお姫様抱っこする。
会場はもう神どころではない。
王様と司会が避難を促し、集まった諸王が我先にと脱出する。
外は夜のようと暗かった。
空を見上げる。
真っ暗だ。星すら見えない。
雲……いや違う。
「まずいな」
「と、と、トモシビちゃん……」
見渡す限りの全天を覆っているその物体は空でも雲でもない。
肉だ。
鈍色と紫の中間の色をしている。
肉が裂け、そこに人間みたいな目玉がギョロリと覗いた。
お城より大きな目だ。
管楽器みたいな音が空に響き渡っている。
どこかで悲鳴が上がった。
あけましておめでとうございます。
この作品描き始めて3年目くらいですかね?
見てくれてありがとうございます。
ちなみにトモシビちゃんの国はお正月はあまりお祝いしません。そのかわりクリスマス的なものをずっと祝ってます。
※次回更新は1月10日の24時くらい……だと思います。