表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/199

お嬢様は生足で危機に立ち向かう

※12月28日文章公正しました。



「いたよトモシビちゃん」



私はフェリスの指差す先を見た。

木々の隙間から白いモニュメントみたいなものが顔を出している。

かなりの大きさだ。



「全く同じだわ」

「あれも分裂して増えるんでしょうかね?」

「あそこで、止まって」



林を抜け、見晴らしの良い広場のような場所で馬車を停める。

ここからならよく見える。

私達は馬車から降りてそれを眺めた。

それは身長30メートルほどの真っ白な巨人……みたいな不気味な魔物だった。

人間が魔物化したら魔人になるわけだが、この魔物は違うと思う。

人間みたいに二本足で歩き、人間みたいにバランスをとって、人間みたいに手を振り回している。

その手が狙うのは周囲を飛び回る敵……私のクラスメイトだ。



「ぶた、ぶた、どこ?」

『お嬢様、ここに!w』

「これ、持っていってあげて」



白い巨人の近くにいたオタがノタノタ走ってこちらにやって来る。

私は足元に幾つかの剣を無造作に放り出した。



「あ、な、な、生足……」

「うれしい?」

「う、嬉しいです!w」



オタはニヤニヤしながら私の足元に這いつくばり、剣を拾い集めるとまたノタノタと走っていった。

打てば響くようなドMである。

実はこの巨人、私にとっては2匹目の獲物となる。

先程倒してきたのだ。

嫌な相手だったがなんとかなった。


飛び回りながら巨人を攻撃する男子達は見事な連携でヒットアンドアウェイを繰り返して巨人に的を絞らせない。

蝶のように舞うというよりなんだかハエのようだけど、とにかくそれだけ鋭い動きなのだ。

これなら決着は近いだろう。

凍りつく風が私の両足の間を吹き抜ける。

私はキュッと太ももを閉じて、プルプルと震えた。



「お嬢様こちらへ。そのような格好をされていては私の理性が限界でございます」



エステレアがコートを広げて私を捕獲した。

私の剥き出しの太ももに手を這わせ、そのままお姫様抱っこに移行する。



「トモシビちゃん、やっぱり生足はやめた方がいいよ」

「やだ」

「そんなにあったかい格好してるのにどうして足は出すの?」



王都付近の冬は寒い。氷点下が当たり前の世界だ。

そんな世界で生足を晒す人間はそうそういない。

私を始めとする一部の女子生徒だけである。

足を出す理由は可愛いからだ。

私が生足を晒せば誰もがチラチラ見る。男は言うに及ばず女性すら見る。

いや私がこんな容姿である以上最初から視線は集めていたわけだが……やはり肌を見せればその視線の熱さが変わってくる。

最近はそれがないと物足りなく感じてしまうのだ。



「だってかわいいから……」



このコートから生える生足を見てほしい。

上半身と下半身のギャップが素晴らしい。

戦闘用のガーターも映えてとってもお洒落だ。

私はいちいち見た目を気にしなければ何事も楽しめないのでコートだって良いやつを着ている。

モコモコで可愛くて私に相応しいエレガントさを醸し出しているコートは、私専用コスチューム職人と化したルビオラ制作だ。

デザインだけではなくちゃんと寒さに耐えるように作ってある。

そして下は生足。

せっかくの防寒性能が台無しだけど、鏡で見てこれが一番しっくり来たのでそうするしかなかった。



『ありがとうトモシビさん。これでやれる』

「合図して」



武器を受け取った返事が来た。

観戦する私達にヒュウヒュウ音を立ててまた風が吹き付ける。

私は太ももで自らのモフモフ尻尾を挟んだ。

たしかにちょっと寒い。

でも極寒の高度1万メートルですらなんとかしてきた私たちにとってこの程度の寒気など問題にならない。

私は魔術を発動し、ゆるい風圧シールドで自らを包み込んだ。

これでよし。

温かさに釣られてフェリスとクロエもエクレアも入ってくる。

私は温もりに包まれていると通信″窓″から声が聞こえた。



『お嬢、あれ頼む!」

「……がんばれー』



あれ、つまり応援である。

ついでに手を振ってみる。



『うおおおお!!!』



グレンが雄叫びを上げながら巨人の目を潰した。

すごい張り切りようだ。

私の応援のおかげだろうか?

私ってすごい。

なんで私ともあろうものが大怪獣を目の前にして応援に徹しているのか?

それはこの巨人に魔術が通じなかったからだ。

北の神殿遺跡で戦ったウーパールーパーの魔物と同じ魔術をかき消す霊術を使う。

座標指定して体内にエクスプロージョンを送り込んでみたが、それもダメだった。

障壁の魔術みたいに対象を意識的に消せるのかもしれない。

ウーパールーパーは意識外からの不意打ちだから効いたのだろう。

そんなわけで今回の私の役割といえば全体強化と応援、それから後一つ……とどめ役だ。



『今だ! トモシビさん!』



合図が来た。

リンカー解除。

ボゴっと嫌な音を立てて巨人の全身が膨らみ、爆裂した。

突き立てられた武器にエンチャントした魔術を解放したのだ。

思った通り、こういう不意打ちなら魔術は消せないらしい。

頭の半分と足と腕が吹き飛んだ巨人は、雷みたいな地響きを立てて地面に倒れた。

土埃が舞い上がる。

私たちの勝ちだ。

私は立てた人差し指に風の魔法陣を作った。土埃を突風が吹き飛ばしていく。



『エクセレント! 作戦成功だ』

「トモシビちゃん、どう?」

「……倒したみたい」

「さすがはお嬢様」

『今回は早かったなー』



目立つ相手だからすぐ見つけられた。

これで今回の任務は終了だろうか。

この巨人もおそらく悪魔と呼ばれる魔物の一体だろう。

グランドリアにこんなのが生息しているなんて聞いたことがない。

聖域から飛来したものの可能性が高い。


またしても、である。

これで何体目だろう?

ここのところ大型の魔物の討伐ばかりだ。

腐食の魔物に始まり、やたら大きい透明な魔物、隕石みたいな鉱物の魔物……などなど。

どれも正体不明だった。キョウカ先生の話では全部悪魔だろうとのことだ。


もちろん戦ってるのは私達だけではない。各地の騎士団も総出で当たっている。

野良の魔物がいなくなったと思ったら今度は大怪獣達の襲来である。

当然、国は対応に追われている。

数が多いのだ。

私のドラゴン達や飛空艇も使って各地で討伐が行われている。



「じゃ、帰るね」

『おう』

『ありがとう助かったよ。また明日』

「また明日」



私達は馬車戻ってすぐにマンティコアを走らせた。

また明日も普通に学園に登校しなくてはならないのだ。

ハードスケジュールだが今はどこの軍もそんなものである。

悪魔は基本この巨人くらいのサイズがあるので生半可な戦力では勝てないのだ。



「ふぁ〜……疲れたね〜」

「ですねぇ……」



季節は真冬、色々あった2年生も終わりに近い。

ヒーターの効いた馬車の中で私達は5人で身を寄せ合って眠ってしまったのだった。







それから数日後、私は相変わらず生足を出していた。

ただし太ももだけだ。

太ももから下は編み上げのついたニーハイタイツで隠れている。

今日の服装はこういうのが可愛かったので合わせてみた。

ちなみに今日は制服ではなく正装である。

アルグレオの使者を迎える時にもらったやつだ。

ドレスや聖少女ファッションも好きだけど、軍人感を出したい時はこれに限る。

それに今回はまたアルグレオの使者を出迎えることになる。

国際会議に出席するために来るのである。

いつものようにアナスタシアにエスコートされながらお城の絨毯を歩くと、おじさん達が口々に挨拶をする。



「おお、セレストエイム様」

「トモシビ様、ご機嫌麗しゅう」



私は手を振って答えた。

私みたいな幼げな少女がこんな軍服っぽいのを着て、屈強な軍人達に傅かれている。

私、すごく絵になってる。



「トモシビ様!!!」



そんな中、遠慮の少ない声が横合いからかけられた。

何事かとおじさん達がそちらを見る。

私も見る。



「トモシビ様! お久しぶりです!」

「ドM!」



久しぶりに飼い主にあった犬みたいな顔で走り込んできたのは通称ドMだった。

アルグレオのハーフリザードマンで彼の国のスパイだった男である。



「ああ我が女神、美しすぎて目が……目が潰れそうです……」

「勝手に、つぶれたらだめ」

「はい!」

「ええと、トモシビの靴に縋り付いているところ申し訳ないのですれど……アルグレオの使いの方ですわよね?」

「もちろんです」



ドMは何事もなかったようにスッと背筋を伸ばした。

周囲の貴族達は、気の毒な人を見るような目で見るのが半分、もう半分は羨ましそうに見ている。



「ドM、出世した?」

「いえ俺は生涯トモシビ様の性奴」

「おい貴様、余を放って挨拶に行くとは良い度胸だな」



またしても横合いから知った声がかかった。

この偉そうな声。一度聞いたら忘れられない。

アルグレオの皇帝がそこにいた。



「皇帝」

「トモシビ・セレストエイムよ、幼いままで何よりだ」

「ん」



私は偉そうに左手を差し出した。



「……なんだ?」

「口付け、させてあげる」

「またこれか? まったく、グランドリアの風習は面倒だな」



皇帝は跪いてそこに軽く口をつけた。

私の口の端が上がった。

どうやら彼はこれを挨拶か何かだと思ってるらしい。



「皇帝陛下自ら来られるなんて思ってもおりませんでしたわ」

「余もたまには花嫁に会いたくもなる……冗談だ。半分はな」

「トモシビ様に無礼な口を……!」

「ドM、まて」

「人に任せてはおけなくなった。そういう事態だと理解してもらいたいな。アナスタシア王女」

「では、やはり?」

「ああ、アルグレオでも魔力が枯渇し始めた」



その言葉に、私達は驚かなかった。

深刻だが予想された事態だ。

私は真剣な表情を作り直すと、臣下の礼の姿勢をとったままの皇帝をスクリーンショットに取った。



トモシビちゃんは脚の魅了が強力なので冬でも頑張って生足を出したりします。結果、魅力されたメイドに襲われるのが日課です。


※次回更新は1月3日の24時前後だと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ