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女騎士は姫君の胸に溺れる

※12月19日誤字修正、ご報告ありがとうございます!



討伐はその日のうちに終わった。

私は分裂型の魔物なら一部を発見すればサーチできちゃう。

フレンド登録の応用。

遠隔で頑張ってフレンド登録すればマップに光点が表示される。

私達はアナスタシアに救援に向かった後、その方法でしらみ潰しに退治した。

それでたぶんこの魔物、スライムみたいな群体っぽい。

イトミミズとか言われてた紐は胞子みたいなやつで、地面に出てくる目はそこから発芽したキノコみたいなものかもしれない。

……って、スライムが言ってた。


倒したらただの地面になるから、残念だけどサンプルは取れなかった。でも似た感じの触手の魔物と同じような生態なのは普通に考えてわかる。

この魔物は聖域から飛んできたかもしれない……可能性が高い。

聖域には悪魔っていう魔物がいっぱいいた。

このイトミミズ魔物が聖域の悪魔だったら他の悪魔もグランドリアに飛んでくるかもしれないって、容易に想像できる。

早めにどうにかしなきゃ。

ちがう?



「なんじゃこれ」



長々と送られてきたフレンドリーな感じの文章を見てヤコは思わず独り言を発した。

それを聞いたわけではないだろうが、トモシビから追い討ちのように次の文章が送られてきた。



『報告書、とりいそぎ送ってあげる』



報告書のつもりらしい。

いちいち紙で書いて届けるより確かにこの方が早い。

それはそうだが役所というものには決まった形式というものがある。

データとして保管するにあたって、フォーマットがめちゃくちゃでは後で分かりにくくなるのだ。

ちなみに文体がひどいのはいつもの事である。

仕方ないのでヤコは紙に書き直し始めた。



「これじゃから今時の若いやつは……」



トモシビは色んな部分でとても優れた能力を発揮するが、やり方がいちいち型破りなのでこういったところに皺寄せが来るのである。

ただ内容は要領を得ている。

以前の報告にもあった謎の魔物の襲来は警戒すべきことだ。

ゴーレム達が聖域の悪魔と呼ぶその魔物達。



「……聞いたことがないのう」



ヤコの知るデータに聖域などと言う名前の領域はない。

おそらくトモシビのような人物が適当なデータ管理をしたのだろう。

隔絶具合から言って重要な役割があったのかも知れないが、失われた今となっては正確なところはわからない。

ただ、キョウカによると捕獲した悪魔は人工的にデザインされた魔物の可能性が高いという。

それはつまり……。



「あなた方のせいでトモシビ様がご苦労なさっているのでは?」



部屋の隅にいたカサンドラがいつのまにか隣で文章を覗き込んでいた。



「……学園史の編纂は終わったのか?」

「つまらないのでやめました」

「まじかこやつ」



働く気になったので仕事をよこせと言ってきたのはカサンドラの方だ。

仕方ないので誰もやりたがらない学園史編纂をやらせたら一瞬で飽きたらしい。



「……仮にそうであってもワシ無関係じゃし、ワシに言われても困るわい。所詮はワシなど道具に過ぎん」

「ふん、道具なら黙ってトモシビ様の美文を書き写しなさい」

「貴様に言われる筋合いはないわい。まったく自分はろくに仕事もせんくせに……」



現在のヤコは管理システムと繋がっているわけではない。

何の責任もなければ責められる言われもない。

ヤコにだって管理システムが何を考えているかは分からないのだ。

そう、システムだって考える。

最近のあれは自立的に何か考えて行動をしている。

データの蓄積と学習アルゴリズムがあれば思考することは可能だ。

ゴーレムだって考える。

聖域のゴーレムは言われなければ人間と区別がつかない。

そしてヤコ・クズノハと呼ばれている自分自身も今では自分で考えているではないか。







遠征帰りの夜営の中、エクレアは考えていた。



「んっ……」

「……気持ち良いですかお嬢様? ふふ、本当にお嬢様は全身どこを触ってもお嬢様なのですから」



エステレアがトモシビの体を布で拭きつつ艶かしく迫っている。

街によると遠いので今夜はテントに泊まることになる。

もちろんいつも通りトモシビチームは皆同じベッドで寝る。


どうやら自分達はいわゆる百合嗜好であると周囲から思われているらしい。

男子からもそう思われているし、女子からも思われている。

クロエなどは自分達の集まりを百合園と自ら称しているのだから無理もない。

ただエクレアはは他の女子に興味はなかったし男子に惹かれたこともない。

女の子が好きなのではない。トモシビが好きなのだ。

幼い頃凛々しい女騎士に憧れたことはあったが、現在感じているような危険な衝動を伴う感情を覚えるのはトモシビに対してだけだ。



「お嬢様、おねむはもう少しお待ちください。ちゃんとお着替えいたしますので」



トモシビがキャミソールに頭を通し、長い髪を外に出す。

絹糸のように流れる銀と赤の髪の毛がサラサラと煌めいた。

美しい、とエクレアは思った。

入学試験で初めて見た時からずっとその印象は全く変わらない。

圧倒的な魔術の力、そして優雅で可憐なカーテシーを見てエクレアの胸は苦しくなった。

彼女に近付きたい。

全くオシャレに興味がなかったエクレアは変わった。

トルテに教えてもらいながら化粧を覚え、髪をいたわり、服装に気をつけるようになった。

それからトモシビと再会し騎士の契りを結んで胸の苦しさは脳を満たす幸福感へと変わった。



「…………」



エクレアは目の前でイチャイチャするエステレアをじっと見る。

最近のエクレアはまた胸が苦しい。

今の彼女はもうトモシビの騎士団団長だ。

憧れの騎士になったのである。

訓練ばかりしてる見習い騎士団とはいえ数は力だ。

有事の際には十分に役に立ってくれている。

彼らの訓練にはたまに顔を出しているし、なんなら直接指導することもある。

決して大人しくはない彼らを従えるにはトモシビの威光だけでは不十分だ。

きっちりと実力を示して分からせた。

そんな凛々しい女騎士は可憐な姫君に甘えたりはしない。

立場という物があるのだ。

そのシチュエーションがいくら甘美でも……。



「エクレア」



可憐な姫君が名前を呼んだ。



「甘えて、いいよ?」

「え……」

「お嬢様ったら……」

「いっぱい我慢できて、えらいね」



エクレアは意を決して、両手を広げる主人の胸に顔を埋めた。

甘く切ない香りをいっぱいに吸い込むと頭がクラクラした。

自然な感じで欲望を読んでくる主人にはもはや驚かない。

自分も主人の感情が何となく読める。



「はぁ、はぁ……トモシビ様ぁ……」

「いっつも頑張って……私を、守ってくれるご褒美……どうしてほしい?」

「な、撫でて、このまま……」

「じゃあ……なでなでしながら……こうやって……囁いてあげる」



甘く静かな吐息混じりの声が神経を痺れさせていく。

いくら我慢してもダメだった。

この心地良さは忘れることなどできない。



「あったかい、でしょ」

「ん……」

「エクレアは、私の臣下だから……いつでも、なでなでしてあげる」



トモシビも疲れてるはずだが、そんな時こそ人間の本性が出る。

とは孤児院の先生の受け売りだが、トモシビの本性は一体何なのだろう?

クラスの男子やおじさんには挑発的に迫り、フェリスとはまるで猫の姉妹のように微笑ましい。

それでエクレアにはこの母性。

ただ一つ言えることはトモシビは何も我慢もしてなければ無理もしていないということだ。

エクレアもファン達も何か考えがあって籠絡したのではない。

何も考えず自然体で接して虜にしたのである。


とりあえずこれがあれば明日も明後日もずっと頑張れる。

エクレアは五感でトモシビを感じながら深く深く彼女に溺れていった。



エクレアちゃんは女の子が好きかどうか自分でもよくわかっていませんが、よく知る人からは一番ディープだと思われています。


※次回更新は12月20日になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヤコ先生、むかしは道具だったのですね。
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