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意識のないザコを応急処置します

※12月7日、文章校正しました。



私はクラスの男子に対して普通の女子が抱くような思いはない。

ここで言う『普通の女子が抱くような思い』というのは恋愛感情だけではない。

異性の気持ちというのは同性と比べて理解しにくいものだ。

だからこそ想像する。時に期待し、失望し、嫌悪したりもする。

オタやメガネのような人間はわりと他の女子から嫌われているようだが私にとってはそれほどでもない。

彼らが私に欲情してもそんなに気持ち悪くはない。思春期の男子などそういうものだと受け止めるだけである。

特にあのメガネはやたら私に突っかかってくるしストーカーしたりスカートの中を覗こうとしてくるけど、そんなもの前世が男だった私にとっては……。

……いや、やっぱり最初から治安部隊に通報するべきだったかもしれない。


まあそれはそれとして、ともかく私は彼らが嫌いではないのだ。

私のファンがピンチなら助けなければならない。

ノブレスオブリージュである。



「援軍行くから、まってて」

『ま…………め……』



ノイズの後、通信はプツリと切れた。

端末がダメになったのかもしれない。

心臓が嫌な鼓動を打ち始めた。

私は猛禽類みたいに引っ張り上げた馬車とマンティコア達を無事な地面に下した。

そしてそのままメガネ達のいる方向へ向きを変える。

私の足に魔法陣が描かれ、渦巻く風が集まる。



「後からきて」



私は4人とマンティコアに告げた。

一刻を争うかも知れないのだ。

一番早い方法で行った方が良い。

危険な魔法を使う魔物と戦ったせいで、彼らの状態が容易に想像できてしまう。

私なら倒せる。



「お嬢様! お待ち下さい!」

「わあ」



飛び立とうとする刹那、私は地に引きずり下ろされた。

エステレアが飛び付いてきたのだ。



「またお嬢様ったらお一人で行こうとして!」

「でも」

「そうだよ! トモシビちゃんが気絶したら誰が運ぶの!」

「……フェリス」

「治療にはクロエが必要ですし、不意の襲撃に備えてエクレアもいります。私も定期的にお嬢様を抱きしめる必要があるのですよ」

「そうね。最後はともかく、二次災害は危ないわ」



……たしかにそうだ。

ちょっと冷静になった。

こんな時最も重要な事は犠牲を増やさない事だ。

死の罠にかかった仲間を救うために自分も罠にかかっては犠牲が増えるだけである。

例えばこの大地を溶かす魔法が毒の類だとしたら? 私はそういうものにはてんで弱い。

毒ガスを空に放たれたら私は炭鉱のカナリアみたいに真っ先に倒れるだろう。

でもそんな時でも強靭な肉体を持つエクレアやフェリスがいれば安全な場所まで運んでもらえるかも知れない。

基本的に私の戦いは一撃でやるかやられるかであり、庇ってもらわなきゃ死んでいた事は実際何度もある。



「……馬車ごと飛ぶから、のって」



仕方がない。

それならマンティコアや馬車もあった方がいいかも知れない。

ちょっと魔力は消費するがスライムがいるからまだ全然大丈夫だ。

私は馬車の御者席に座ると再びスカイドライブを発動させた。

マンティコアと大きめの馬車が魔界のサンタクロースみたいに空を駆けた。







荒れ地の中に黒い沼みたいなのがある。

あのイトミミズみたいな魔物の魔法だと思う。

私達に使われたものより規模は小さいけど威力は強くなってる気がする。

念のため風圧シールドは張っているがマンティコア達が反応しないという事は空気に異常はないらしい。

沼の中心くらいに抉り取られたような穴が空いてる。

魔物は見当たらない。魔力も感じない。

どうなったのだろう?

よく見ると沼の周囲にも似たような穴がたくさん空いてる。

これは戦いの痕跡だ。

もしかしたら別の魔物かも知れないが、メガネ達は何とか対抗しようとしたのだ。



「いました! 倒れてます!」



ぼこぼこ空いた穴の近くに人が倒れていた。

メガネ2だ。

……遅かった?

私達は薄汚れたメガネ2の体の側に馬車ごと降り立った。



「……生きてる」



間違いない。

死んで魔力が霧散すれば私にはわかる。

ただ、倒れているということは正常な状態ではないということだ。



「息してるよ」

「外傷は……ないように見えますね」



ならば……こんな時やる事は一つだ。

私はメガネ2の傍らにしゃがみ込んで呼びかけた。



「ざぁこ……ざこメガネ」

「トモシビちゃん……?」



応急処置である。

前世で習ったことがある。

まずは肩を叩いたり呼びかけたりして反応を見るのだ。



「よわよわ意識……恥ずかしくないの……? ほら、がんばれ、がんばれ」

「うっ……め、メスガキ?」

「意識戻りました!」

「それで戻るの……?」



良かった。

前世も今世も人間は同じだ。応急処置のやり方も同じで正解だったらしい。

意識が戻らなかったら電気ショックを与える用意もあった。



「頭いてえ……魔力使いすぎたか」

「魔力切れですか、放っておけば良かったですね」

「他の人は? てか何があったの?」

「何ってか……ああ、そうだおいメスガキ!やってやったぜ!」



唐突にテンションを上げたメガネ2が両手の拳を上に掲げてガッツポーズをした。

それから経緯を語り始めた。

突然地面から現れた魔物に襲われて、パニックになったこと。

飛び回りながら目玉を片っ端から剣で刺して魔術で潰していったこと。

最終的にみんな力尽きたそうだが……どうやら彼らは勝ったらしい。

私達は顔を見合わせた。



「よく貴方達で勝てたものですね」

「舐めるなよ。これでも地元じゃ」


『トモシビさん、聞こえるかい?』



メガネの言葉を通信が遮った。アスラームの声だ。

メガネは反射的に口をつぐんだ。

彼は強者に相対するとこうなるのである。

馬鹿にはすまい。

私も外向的な性格ではない。



「きこえる」

『無事のようだね。地面を探したらいたよ。腐食の魔法を使う目玉の魔物だ。君のと同じかい?』

「うん。どうやって、さがしたの?」

『地面に潜る虫がいるの。 岩蝕虫っていうのよ、今度見せてあげるわ。手の上で卵産んだりして可愛いんだから』

「やめて」



どうやらアスラームとエル子のチームは普通に見つけだして勝利したらしい。

なかなかやるものだ。

私のライバルと委員長仲間だけのことはある。



『どうやら、この魔物は群体らしいね。いくつかの塊に分かれて、地面に潜んでるんだ』



そういうことになる。

まあ潜んでるというより地面と一体化してると言った方が近い気がする。

触手の魔物もそうだった。

魔物というのは魔力を求める。

魔物が少なくなってきた彼らが魔力を得るためにはどうすればいいのか?

効率が良いのは星を流れる魔力を集めることだ。

おそらく、悪魔というのは最初、あの聖域の空域で天脈の魔力を吸って生きながらえていたのだろう。

聖域が崩壊して空を彷徨い、この地に辿り着いて地脈を吸うことにしたのだ。

どんな仕組みで地面になってるのかはわからない。アスカ達の研究待ちである。



『もしもしトモシビ?』



と、その時、また″窓″から別の声が聞こえてきた。

今度はアナスタシアだ。



「アナスタシア」

『援軍お願い。ターゲットの魔物なのだけれどちょっと数が多くて……トモシビが来てくれれば楽ですわね』

「わかった、待ってて」



ターゲットというのはもちろん当初の目撃されたイトミミズ改め、腐食の魔物のことだ。

アナスタシアの声には余裕がある。

そこまで苦戦はしていないらしい。

腐食の魔法も目玉を潰す攻略法も分かっているようだ。


私達は目覚めたメガネ達を置いてアナスタシアを救援に行くことにした。

馬車の中にはもう緊迫した空気はない。

アナスタシア達はメガネよりずっと強くて頭が働くのだ。



「なんかみんな強いねトモシビちゃん」

「うん」



私は頷いた。

そして反省した。

ちょっと皆を過小評価してた気がする。

思えば戦い続けて一年以上だ。

キャリアとしては短いように見えるが、親善試合や戦争や凶悪な魔物と何度も戦ってきた経験は魔法戦クラスの皆を相当レベルアップさせていたようだ。

なんでもかんでも私の魔法が必要不可欠と思うのは少し傲慢だったかもしれない。

私はスルリと自らの尻尾をフェリスの尻尾に絡ませた。

フェリスはそれを受けてスリスリと尻尾を動かす。

落ち着く。



「……トモシビちゃん、これ食べる?」

「たべる」



フェリスからもらった猫人用液体オヤツは普通に美味しかった。



猫用オヤツはそんなに美味しくないらしいですが、猫人用は意外と美味しいらしいです。


※次回更新は12月13日になります。

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