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呪われし大地と獄炎のお嬢様

※11月30日文章校正



私達はサンデール村を中心にして広範囲を手分けして探索することにした。

こっちは1パーティーというわけではない、

2クラス分の人数がいるのだ。

前世の軍隊なら小隊程度の人数だが、魔法使いによるエリート制のこの世界では軍隊の総数が少ない。

詳しくは知らないけど、治安部隊だって詰め所に入りきるくらいの人数しかいないのである。

このグランドリア魔法戦クラスは学生とはいえまあまあの人数と戦力を有しているのだ、たぶん。


そんなわけで私のチームはいつも通りクラスと皆と離れて……寝転がって寛いでいた。



『おーい、お嬢』

「……なに?」

『もう帰っていいか?』

「だめー」

「何の成果もなく帰ってどうすんのよ?」

『6時間何も出ないんだぜ? 他のやつは何してんだよ?』



グレンとツリ目の組からの通信である。

クラスの皆は暇を持て余していた。

何しろ魔物がいないのだ。

大型の魔物が空を飛んでいたというので、すぐに見つかるかと思いきや全くそんなことはなかった。

それどころか野良の魔物一匹見当たらない。



「……会長、会長、なにしてる?」

『おや、どこからか小鳥の囀りみたいな幼女ボイスが』

「きもちわる」

『今やってるのは撮り溜めたお嬢様画像の編集です』

「……だって」

『よく他人事みたいに流せるなお前』



私のファンクラブなんだからそのくらいやるだろう。

それにそんなものエステレアが日課でやってる。



『トモシビ、お前は何してんだ?』

「ないしょ」

『……そ、そうか』



グレンは照れたみたいに口をつくんだ。

まあ、べつに内緒にするようなことはしていない。

ただ″窓″の端末機能でロリコンおじさんをからかって遊んでいるだけだ。



『めっちゃ可愛いし上手い』

「ありがと」

『制服可愛い可愛い可愛い』

「制服、私が改造した。かわいいでしょ」

『ベロチューしながら◯◯で◯◯◯◯したい』

「おじさん、発情ワンちゃんみたい」

『トモシビちゃんのダンスもっと見たいです! ローアングルで!』

「そっか」


「トモシビちゃん、それ律儀に返答してるだけだよ」

「ちがう、かまってあげてる」



ちなみにこれは私のダンス動画に対するコメントである。

前に授業でダンスを踊った時の映像だ。

どういうわけか録画されて拡散されたらしい。

艶やかな銀髪の美少女が制服のスカートを揺らして踊る姿は、自分で見てもかわいい。

この可憐さと少女特有の健康的なエロチシズムは多くのロリコン……いや多くの人に人気を博したのである。


承認欲求が満たされていくのを感じる。

私の尻尾が機嫌良く左右に揺れる。

そんなに人気ならもっと踊ったりしてあげてもいいかもしれない。

このおじさん達ときたら私がちょっとダンスするだけで大興奮だ。

簡単に手玉に取れる。



「でもたしかに暇ですねえ。魔物はどこに行ったんでしょうか?」

「危険区域で一匹もでないなんて本当に減っちゃったのね」



例によって私達は司令塔なのでこうしてぐーたらする用意をしてきているわけだが、通信してくる皆は違う。

彼らは長い待機時間が苦痛なのだ。

私は寝転がっていた簡易ベッドから立ち上がるときなこもちに話しかけた。



「音楽、かけて」

「了解シマシタ」



ノリの良いアップテンポの音楽が流れる。

魔導具の蓄音器を取り付けたらいい感じに音を調整して流してくれるようになった。

便利なゴーレムである。もはや生活必需品だ。

さらに″窓″を呼び出してカメラをセット。



「お嬢様、よもや」

「見てて」



体を小刻みに動かしてリズムを刻む。

運動は苦手だがダンスは得意だ。たぶんリズム感は良い方なのだろう。

まあ振り付けまでできるかというとそれは自信がないが、リズムに乗ってさえいれば軽く体を動かすだけでもそれっぽく見えるものである。

特に私のような美少女が制服で踊っていたらもうそれだけで最強だ。


やがて曲がサビに入りかける。

撮るのはサビだけで良い。

数十秒あればロリコンおじさんなんて十分に魅力できる。

退屈してるクラスの皆にも見せてあげよう。

私は息をしっかり吸って手と体を動かし、サビに入ったところで……ブースターで飛び上がった。



「エ、エス……」



もちろん、ダンスの振り付けではない。

足元に……何かが。



「お嬢様、ご安心下さい。これは虫ではありません」

「安心してる場合じゃないですよ!」



地面から黒いウネウネ……細長いミミズのような物体が次々と湧き出してきている。

変な魔力だ。普通の魔物ではない。

4人はもう飛び退いている。

残念だがダンスは中止だ。



「ちっ!」



エクレアが剣で薙ぎ払う。黒いウネウネはさしたる抵抗もなく簡単に斬られた。

2つになって千切れて落ちる。血も出ない。



「ま、魔物ですよね?」

「イトミミズではないようですね」



もう何の魔物なのか分からない。やっぱり悪魔というやつなのだろうか。

ウネウネは斬られても意に返さず、地面から滲み出るように湧き出てくる。

聖域で見た触手とは違う。

短い棒状の巨大ヒジキみたいなのが温泉みたいに湧いて来るのだ。



『トモシビさん、そろそろ出なかった場合の予定を……トモシビさん?』

「アスラーム、でた。地面の下」

『……地下か!』



通信できる状態でもない。

今から援軍を求めるのは無理だろう。

私は飛びながら観察した。

このウネウネ、湧き出てくるのに地面が掘り起こされてない。

変だ。

と思ってたら、唐突に地面にマンホール大の穴が空いた。

そこからギョロリと覗くのは人間みたいな眼球。

魔力が辺り一体に充満する。



「飛んで!」



やばい。

シーカーで見なくても魔物の魔力が地面に流れるのがわかる。

私は即座にスカイドライブを全開にして、馬車を4体のマンティコアときなこもちごと持ち上げた。

なるべく高く。

その瞬間、先程までいた地面が見渡す限り真っ黒に染まった。







先程まで木陰の休憩所として使っていた木がドロリと溶けた。



「げっ……!」

「溶けてるよ! アイスクリームみたい!」



飛ばなかったら私達がこうなっていた……ということだろうか。

間一髪だ。

ちょっと舐め過ぎていた気がする。

これはひょっとするとかなりやばい相手かもしれない。


謎の魔法によって変化した黒い地面にまた目玉ができた。

今度は複数だ。

この目玉だけは触手魔物とそっくりに思える。

どうやら悪魔というのはロリコンおじさんと同じくローアングラーが多いらしい。

また気味の悪い魔力が地面に流れていく。

今度は目玉を中心に。

何をするつもりかしらないが、そうはさせるか。

私の周囲に目まぐるしく″窓″が展開されていく。



「冷却おねがい」

「お嬢様……!」



地面ごと消毒してやる。

黒く染められた地面が真っ赤に染まった。

目玉が急速にしぼみ、そしてすぐに黒く炭化する。

赤い地面はすぐに粘性を帯び、炭化した目玉まで飲み込んだ。

ただ温度を上げるだけの基礎的な炎の魔術だ。

それだってリミッターカットして全力使えばこんな広範囲にこんな地獄を作り出すことができる。



「ひええ、地面が溶けてるよう」

「さすがに倒したみたいですね」

「ゾッとするわね。トモシビ様の魔法がなかったら……いつもだけど」



もし他のチームが襲われていたらどうなっただろう?

アスラームなら精霊術を使えばあの魔法は防げるだろうか?

一番危ないのはクラス最弱1、2位を争うメガネ達かな……。

まあ、争ってる相手は私なんだけど。


私は消耗した魔力をスライムで補いながらフワフワと離れた場所に着地した。

あの場所はもうしばらく草木も生えないだろう。

環境破壊魔物なんて始めてだ。

ホッと息を吐くのも束の間、通信が開いた。



『メスガキ、やばい、死ぬ』



押し殺した声は焦りを我慢してるからだ。

それは彼らが危機的状況にあることを伝えるものだった。



影の薄いクラスメイトですが、なんだかんだでトモシビちゃんとしては嫌いではなさそうです。


※次回更新は12月6日になります。

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[一言] 柄の悪い冒険者のおじさんがぴんち!
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