精霊も半殺しにしなきゃ
※三人称視点になります
※11月16日文章構成しました。
休み時間のBクラスはいくつかのグループに分かれている。
各々が仲の良い同士で固まって喋ったり、遊んだりしているのだ。
優等生クラスだろうがチンピラだろうがトモシビの前世の学校だろうがその辺は変わらない。
一番目立つのはクラスの前あたりで話してる集団だった。
オーラが違った。
皆ルックスが良く、声も大きく、堂々と中心に居座る様子はどう見てもクラスカースト上位である。
その中の1人、銀髪の少年アスラームが不意に扉を見た。
気配を感じたのである。
そこには顔があった。
扉に付けられた窓から覗いているのは、美しさと可憐さが同居した幼い顔。
トモシビだ。
「やあトモシビさん、どうしたのかな?」
アスラームはいつも通りにこやかな笑顔でドアに歩み寄った。
感情を感じさせないスマイルだが、実のところ本心から喜んでいたりする。
今教室にエクレア達はいない。
ならば彼女が訪ねてきたのは自分の可能性が高い。そう推理してほくそ笑んでいるのである。
「今日、おうち、いってもいい?」
「ああそん……なんだって……?」
「アスラームの家、行きたい」
アスラームは彼女の顔を正面から見た。
今、何と言った?
彼女が来る? 家に?
信じられないことが起こっている。
彼女の長いまつ毛に彩られた眼がぱちぱちと瞬いた。
入れても許されるというのか?
この少女を、自分の部屋に。
好きな女子が家に来る。
大人びたように見えて思春期を拗らせたアスラームの心臓は高鳴った。
「……もちろん大歓迎だよ。驚いたな、いきなり君からそんな……夕食は食べて行くかい? 家に連絡しなきゃ」
「うん、アスラームのお父様にも、言っておいて」
そう言うとトモシビはメイドを引き連れてAクラスに帰っていった。
これは一体どうことだろう?
アスラームはあまり回らなくなった頭をノロノロと動かした。
父親に挨拶までするつもりらしい。
つまりこれは……家族ぐるみで仲良くしようと、そういうことだろうか?
それが意味することはつまり……。
「やったなアスラーム、ついに家に行き来する仲か」
「まあ……そういうことになるのかな」
「おいおい、あのトモシビ様が男子の家に行くなんて只事じゃないぞ」
「……あまり騒がれないようにしてくれよ」
そうだ、騒がれれば迷惑になる。
アスラームは気がついた。
彼女はもはや国のスターだ。色恋沙汰のスキャンダルは絶対にまずい。
人払い……いや工作が必要だ。
アスラームの脳は再び回転を始めた。
自分と彼女の将来のため、国民にバレないよう逢い引きしなければならない。
配下の密偵とこの仲間達を総動員して工作を行うのだ。
一方、トモシビは特に何も考えず普通にアスラームの家へ足を運んだ。
「ようこそおいで下さいました、トモシビ・セレストエイム様。どうぞ我が家と思っておくつろぎ下さい」
玄関に並ぶズラリ使用人が一斉にお辞儀をした。
軍属は敬礼だ。
壮観である。
トモシビの案内を仰せつかったプラチナはたじろいだ。
これがトモシビの見る景色なのか。
「と、トモシビ様、どうぞこちらへ」
トモシビはちょっと膨らんだ尻尾を持ち上げて赤絨毯を進んで行く。
プラチナはだんだん気分が高揚してきた。
偉そうな執事長もバルカ派の屈強な軍人も直立不動だ。
王族相手でもこんなことはしない。
全てはこの1人の少女の機嫌を取るためだ。
聖少女だの何だのといった称号のためだけではない。
それだけ彼女に入れ込んでいるのである。
つまり、この来訪をプラチナの主人たるアスラームと関係を結ぶ記念すべき第一歩とすべく……。
(まあ、トモシビ様はそういう感じじゃなさそうっすけどね……)
トモシビの友人としてそれなりの時間を過ごしてきたプラチナは大体わかっていた。
トモシビはそんなことしない。
この恐るべき美貌を持つ傾国の美少女は全く無自覚で傾国させてくるのだ。
男を揶揄うことはあっても本気になったりはしないし取り入ったりもしない。
大方いつものように言葉が足りず、無自覚に振り回したのだろう。
そのプラチナの予想は完全に当たっていた。
「精霊?」
「うん」
精霊の話を聞きたい。
開口一番にトモシビはそう言った。
そのために来たらしい。
アスラームの父親に会いたいのもそのためだ。
たしかにバルカ家元党首たるハンニバルはこの国で最も精霊に詳しい人物だろう。
アスラームはがっかりした。
がっかりしたが……すぐに冷静になった。
ともかく家にトモシビが来たのは事実だ。
むしろこういうきっかけが無くては彼女はこなかっただろう。
それに頼られているのは嬉しい。
人はそういうやりとりをしてる内に親密になって行くものだ。
「君たちのクラスのクズノハ先生には?」
「言ったけど、秘密主義」
「ああ、クズノハ先生はそういうところあるね」
精霊に対してのかのクズノハ教諭の言葉は『深入りするな』の一点張りだという。
なんでもトモシビは最近世間を騒がせている積荷泥棒のゴーレムの正体を突き止めたそうだ。
「ああ例の空を飛ぶっていうゴーレムだね」
「ゴーレムじゃないかも。皮だけで、動いてる……空間」
ただでさえ舌ったらずのトモシビの説明は難解だった。
彼は自慢の頭脳をフルに使って理解に努めた。
それはもはやゴーレムと呼べるようなものではなく、精霊の操る空間とも呼ぶべき現象であり、外からの魔力信号によって発生した力場だけで動く存在だった……ということだ。
彼女はそれを精霊の仕業だと推測した。
要はアスラーム達を操るように精霊がその力場を操っていたらしい。
「なぜそれが精霊の仕業だと?」
「魔力信号の、パターン」
「そうか……」
彼女の魔法に対する解析力は信頼している。
その点においてトモシビは世界一と言っても過言ではないだろう。
そこまで突き止めた彼女は、次の日真っ先に先生に相談しに行った。
しかし、精霊について詳しく教えてはくれなかったのだそうだ。
謎の多い教師である。
「……精霊について知っている事はそれほど多くない。父の所へ行こうか」
アスラームはこの精霊をも攻略した魔法使いの少女に知っている限りの情報を話すことにした。
夕食の席にはトモシビとアスラームとハンニバルだけが座っている。
ハンニバルにとって非常に喜ばしい席だ。
邪魔者は必要ない。
トモシビの連れてきたメイド達とプラチナは給仕をしている。
作らせたセレストエイム風の料理を行儀良く口にしながら精霊憑きの中年男性は語り始めた。
精霊というのは世界の意思のようなものだとハンニバルは解釈している。
特定の人物に力を与えるのは世界を調整する必要があるからだ。
魔王やトモシビに敵対したのは世界にとって良くない影響があると判断されたのだろう。
「もしくはただ単に精霊にとって邪魔だから、かもしれん」
「そんな世俗的な存在ですか?」
「今となっては私もトモシビ嬢の方を信用している」
「父上……変わりましたね」
ハンニバルはトモシビに向かってウインクをした。
彼は機嫌が良かった。
トモシビが遊びに来る日を去年からずっと待っていたのだ。
正直、もう彼女は息子の嫁のようなものだと思っている。
先日のステュクス家が起こした事件でもその絆にほだされた。
彼女を殺そうとした精霊が必ずしも世界を良い方向に持っていく存在だとは思えなくなっていた。
一方、トモシビは髭面のおじさんにウインクされてげんなりしていた。
「世界は精霊の庇護から抜け出す時なのかもしれん。幼年期の終わりというわけだ」
「僕が父上の庇護から抜け出したようにですね」
「そうとも言える。お前達ならやってくれるかもしれんな」
「そっか……じゃ、精霊も半殺しにして、わからせてあげなきゃ」
「い、いや……穏便にな」
個人的にハンニバルは精霊というものに意思があるのかは疑問に思っている。
精霊の操るゴーレムとやらが何を目的にしてるかは分からないが、精霊もまたゴーレムのようなものではないだろうか?
古くからの言い伝えにはこうある。
精霊は万物にあまねく宿る神の意思だと。
トモシビちゃん平和主義の優しい子ですが、力で分からせなきゃいけない時は嬉々としてやります。
理性と本能ですね。
それそうと最近文章が短くなってきました。毎日眠いんですよね……どうしましょう。
※次回更新は11月22日月曜日くらいになります