ゴーレムネットワークの活用について
※11月2日、文章校正しました。
私の″窓″における基本機能の一つに情報の保存がある。
スクリーンショットの保存や機能拡張した″窓″の保存、あるいはフレンドやペットの登録情報は一度記録したら保存され続ける。
この″窓″のやっている情報処理や何やらが私自身の能力だということは、外部ではなく私自身に保存するためのストレージがあるのだ。
私の脳の記憶領域なのか、あるいは何か魔法的な仕組みで保存されているのかは分からないが、その謎ストレージは聖域のデータを入れても全く満杯になることはなかった。
私がミナを通してダウンロードしたデータは彼女内部で魔力信号となり、それを私が受け取ってそのまま魔力信号のパターンとしてフォルダに記録されている。
中身を読み取るにはこの情報を人間がわかるように解析する必要がある。
その情報解析は聖域のゴーレム達にやってもらおうと思っている。
「教授に依頼したらいいのに。教授はすごいんだから」
「仕事させてあげなきゃ、ニートになっちゃう」
データ量が多いのでどのくらい時間がかかるかは分からないけど、ゴーレム内部で変換されたデータなのだから再変化には仲間のゴーレムが最適だろう。
「トモシビちゃん、ニートってなぁに?」
「ロリコ……魔王みたいなひと。社会に、なじめなくて、大変」
「つまり社会に叛逆するやばい奴のことね」
「くふふふ、ならば魔王様に相応しい称号かと」
めすいぬは喜んだ。
まあニートも社会に叛逆してるし似たようなものかもしれない。
私は訂正することなく、温かいティーカップに口をつけた。
甘くて爽やかな果物の香りがする、
新鮮なフルーツをたっぷり使ったフルーツティーである。
たまにはこんなのも良い。
テーブルには焼き立てのスコーンにクロテッドクリームとジャム。
いつもながら優雅な空の旅である。
現在私は皆とセレストエイムまでショコラに乗って移動中だ。
ドラゴンのおかげで私はセレストエイム王都間を簡単に行き来できるようになった。
放課後にちょっと行ってくるとまではいかないものの休日であれば日帰りが可能なのだ。
そうしてしばらくティーパーティーをしていると、やがてジオラマみたいなセレストエイムの街が地平線から現れた。
私たちはその中央付近にあるドラゴン発着場目掛けて降下していった。
「トモシビ! どうしたのだ突然!」
お屋敷に到着すると両親が宝くじが当たったみたいな驚きと喜びが混じった顔で出迎えた。
何も言わずに来たからだ。
「ちょっと寄っただけ」
「日帰りでございます」
「ゆっくりできないのか?」
あからさまにがっかりするお父様。
私が学園に行ってから一年以上経つのにまるで子離れする気配がない。
むしろだんだん酷くなっている。
「ゴーレムのとこ、行ってくるね」
「何しに行くのだ?」
「お世話してあげる」
領民の暮らしを知るのは領主の義務である。
彼らは私が連れてきたのだから責任は持つべきだ。
お母様ともちゃんとお世話すると約束したのだから。
そう言うとお父様は唸った。
「偉いわトモシビ、もうすっかり領主ね」
「ならばせめて制服姿のトモシビを抱っこさせてくれ。もうずっと抱っこしたくて仕事が手につかんのだ」
「あなたはもうすっかりダメ人間ね」
どれだけ私を抱っこしたいのだろう。
何回も抱かせたせいで癖になってしまったらしい。
いや気持ちはわかる。
私という可愛すぎる娘を持ってしまったら誰でもこうなる。
私はなるべく嫌そうな顔を作りながら、目を輝かせるお父様の広げた腕にすっぽりと収まった。
「うむ……ふぅ……やはりこれがないと生きていけん」
「お父様」
「なんだ?」
「お小遣いちょうだい」
「おお、もちろん良いぞ。財布ごと持っていきなさい」
「そんなにいらない」
「なに! 何て謙虚な娘だ!」
私に頬擦りを試みるお父様。
私は両手で必死に抵抗した。髭が痛いからだ。
そんなタワシみたいなので擦られたら皮膚がヒリヒリする。自慢の髪の毛も傷んでしまう。
私もべつにお金に困って言ってるわけではない。
ただなぜか知らないけど私に貢ごうとするおじさんは多いのだ。
受け取ると喜ぶ。
お父様もその点では例に漏れないのである。
ゴーレム達の新居は街の外れの方にあった。
最近新しく作った新区域だ。
「もちろんです。むしろこちらからお願いしたいくらいです」
聖域のデータ解析の話をするとゴーレムは二つ返事でOKした。
むしろ私より彼らの方が早く解析したいだろう。
なにしろ聖域がないと自殺するとか言ってた人達だ。
生きる希望である。
「ミナと通信、できる?」
「はい。ここなら十分な魔力があります」
彼らはゴーレムの例に漏れずネットワーク機能があるらしい。
私から受け取ったデータは彼らで分散して解析され、再変換される。
再変換されたデータはゴーレム同士のネットワークからミナに集約され、また私の元へ帰ってくる事になる。
その辺りは特に私が何もしなくても自力で分散コンピューティングしてくれるらしい。
自律式ゴーレムというものは便利だ。私の能力と相性も良い。
彼らはミナを通じて私というネットワークに接続された末端の端末だ。
各々が記憶装置であり情報処理装置でありセンサーであり、出力装置にもなる。
魔王がゴーレムとペット機能を作っただんだん理由が分かってきた。
私の足やお尻を皿のような目で見つめるゴーレム達を不審に思いながら、私たちはゴーレム達の元を後にした。
「ただいま」
発着場に戻ってきた私を見てショコラが欠伸をした。
寝ていたらしい。
「オカエリナサイ、マスター」
ショコラの背中は既に暖かくなっている。
きなこもちに予め暖房を効かせてもらっておいたのである。
なんて便利なスマート家電なのだろう。
「ゴーレムの方々、元気そうでよかったですね」
「はい、マスターのおかげです」
「むふ」
「これからは心入れ替えお嬢様のために尽くすのですよ」
データ解析したとしても聖域を復元させるのは骨が折れるだろう。
そもそも魔力がない状態でも安定して浮いていたような物体だ。
材質からして不明なのである。
似たような機能を持ったものを復元できれば御の字だろう。
私は冒険用簡易ベッドを出して寝転んだ。
この短いスカートで寝転ぶのは危険だけど、男性がいないので大丈夫だ。
続いてエル子とフェリスもだらしなく寝転び始めた。
私はダラけながら尻尾をゆらゆらと揺らした。
スペースが広いのもドラゴン輸送の良いところだ。
まあ馬車は馬車で楽しいんだけど。
そういえば……魔力がなくても飛んでる物体にはいくつか心当たりがあった。
一つはアルグレオとグランドリアの間の海に浮かんでる花みたいなやつ。
それからもう一つはグランドリアの空を飛び回ってる謎の……。
「ガ……緊急、緊急事態」
機械的な音声が上空を飛ぶショコラの背に響いた。
なんだろう?
気のせいか焦ってるように聞こえる。
私は首を巡らせてきなこもちを見た。
人型の白い雲みたいな謎の物体がいた。
……これだ。
謎の泥棒ゴーレムは。
きなこもちに抱きついてる。
なんで?
「きなこもち先輩!」
「こいつ!」
上下関係を重んじるミナが先輩の名を叫ぶ。
同時にエクレアの剣が空を切った。
きなこもちごと泥棒ゴーレムが浮き上がったのだ。
そのまま猛スピードで離れて行き……いや、そんなに離れなかった。
ショコラがすぐ様反転したのである。
「ショコラ、ほめてあげる」
これなら見失わない。
こいつが魔力を発してなくても、私はきなこもちをどこまでも追跡できる。
マップを開く。
南西へと向かって行く光点が見えた。
きなこもち先輩は普段は家で家電してます。
ショコラちゃんとは東方で放置されてた間に絆を深めて仲良くなりました。
※次回更新は11月8日になります。