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私に仕えたい、の?

※10月12日、誤字修正文章校正しました。



「トモシビ……トモシビ……」



呼ばれてる気がする。

私は胸元を押さえてその震える物体を止めようとした。

物体の振動が強くなる。

抵抗してるらしい。

これは……スライムだ。ピンときた。

スライムが私を起こそうとしている。

私はまだ起きたくないと伝えるために優しく撫でてあげることにした。



「トモシビ……ここは家ではありません」



……?

たしかに、肌に触れているのは布団ではない。

柔らかいクッション素材の中に硬い土台がある。

椅子か何かのようだ。

しかも魔力を吸われるような感覚がある。

その感覚を自覚した瞬間、私の意識は急速に浮上した。

薄目を開けると先程の女性型ゴーレムがいた。

……思い出した。


どうやら彼女は対象を睡眠状態にするような魔法を使ったらしい。

実際それはよく効いた。

寝るのが大好きな私にとってこれほど恐ろしい魔法はない。

私は眠りに落ちた。

しかしこうして目覚めることができた。

抵抗できたのだ。

おそらく……私の意思の強さによるものだろう。



「ワタシが微弱電流を迷走神経に流しました」



意志の強さではなかったらしい。

さっきからスライムが骨伝導で私に語りかけてくる。

どうやらスライムは首あたりの神経に微弱な電流を流して起こしてくれたようだ。



「トモシビ、なぜ起きるまで時間がかかったのですか? 覚醒作用は瞬時に表れるはずです」



寝るのが気持ち良いからである。

私は本能に弱いのだ。

魔力の流出はもう止まっている。

どうやら大した消費はなかったようだ。

本格的に目覚めた私は台の上に座り直して伸びをした。

よくみるとそこは台ではなかった。

椅子だ。



「おはようございますマスター」

「……マスター」

「天使様は無事聖域を起動されました。マスターとなられたのです」



椅子からは四方八方に導線のようなものが張り巡らされていた。

それが聖域とやらの各部に繋がっているのだろう。

私は椅子を回転させると壁側を向いてみた。

椅子の正面にはコンソールパネルのようなものがある。



「現在、聖域は星の魔力を充填しているようですね」



私の魔力で全て動くわけではないらしい。その辺は普通の魔導具と同じだ。

起動や操作にかかる魔力と魔法効果を発動する魔力は別ということだろう。



「マスター、お疲れでしたらここに寝床を用意しますが、いかがですか?」

「……そろそろ帰るね」

「いいえ、マスターはここに留まる必要があります。聖域においてセキュリティレベルの高い操作は全てマスターの魔力が必要となります」

「後で、またきてあげる」

「保証がありません。必要なのは維持することです。マスターがいなければまたすぐに停止してしまいます」



話が通じそうにない。

せっかく穏便に済まそうとしてるのにこちらの都合は一切考えてくれない。

お風呂で私をいじり倒してるときのエステレアみたいだ。

その辺は人間に見えるけどゴーレムっぽいかもしれない。

昔の天使とやらの命令を守っているだけなのだ。

きなこもちだって私の命令した事は一途に遂行しようとする。誰に邪魔されても効く耳持たないはずだ。

私の命令より昔の天使が出した任務を優先しているのである。


要するに……私をマスターと呼んでおいて心は私に向いていないのだ。



「私に仕えたい、の?」



私は再び彼女の方を向くと、床に届かない足を組んで口の端を釣り上げた。







女性型ゴーレムは答えに詰まって私を見つめた。

本当に人間っぽいゴーレムだ。

スライムは黙っている。

私は胸元をそっと撫でた。私に任せて、という意味である。

ここがどこか分からない以上転移で逃げるのは難しい。

暴れるのはできるけど、小さな部屋だし魔法で寝させられた皆が心配だ。この状況では私の使える魔術は限定されている。

できればそういうのは最後の手段にしたい。



「……既に仕えている以上、その質問は無意味です」

「お名前、おしえて」

「失礼しました。ミナと申します」

「ミナ、ここに座って、命令」



私は椅子から飛び降り、たった今座っていた部分をポンポンと叩いた。

ミナは導かれるまま素直にそこへ座る。



「よいしょ」

「なっ……!?」



そして私はミナの膝の上に座った。

体温が低い。ゴーレムだからだ。

男性型ゴーレムなら絶対やらないようなことだが、ミナならあまり抵抗はない。

ゴーレムに性別があるのかは分からない。

ただこのミナはかなり人間らしさがあるように見える。

座った感じも普通の人間の女性と変わらない。

ならばやりようはある。



「ま、マスター、お戯れは」

「ダメ。私に仕えるなら、椅子になって」



私の熱い体温がミナに浸透するのが分かる。

ミナの体は柔らかい。冷たいけど座り心地としては及第点だ。

ワタワタするミナの手を掴み、私を抱きしめさせる。

ミナの落ち着かない挙動が止まった。



「やっぱり」

「どうしました?」

「ミナ、私の体さわった……よね?」

「ッ!?」



ミナはビクッと動いた。

なぜ分かったのかというと感触があったのだ。

さっき微睡みの中でフワフワ持ち上げられたような……。

そして、その時……体を弄られたような。

脳ではなく体に残った微かな記憶。

どうやら当たっていたらしい。



「どうして、触った……の?」

「それは生物の体の温もりに興味が」

「ちがう、よね?」



私は膝に座ったまま横向きになると、彼女の腕の中に収まってその顔に顔を近づけた。

そして囁くように言う。



「興味があったのは……私の体」

「……」

「お尻とか、さわった。そんなに温もり、ないのに」

「あ……」

「ミナは、女の子のゴーレムだけど……ロリコンの変態さん、だね」

「ああああ……!」



ミナは口から意味のない言葉が溢れた。

体がピクピク小刻みに動いて目を見開いてる。

すごく生物的な反応だ。

こんなに激しい反応するとは思わなかった。

まるでここで初めて会った少年ゴーレムみたいだ。



「それじゃ……変態さんのミナに、チャンスをあげる」



私はミナの膝から降りると、少しだけ下に見えるミナを見下ろし、左手の甲を差し出した。







「トモシビ!」



コアルームの一つしかないドアが勢いよく開いた。

私はびっくりして体を引いた。

アナスタシアやアスラームが穏やかでない様子で室内に踏み込む。

私の足元に跪くミナに油断なく剣を向け、寝ている私のチームを介抱し始める。



「一先ず無事なようだね……その女性は?」

「大丈夫、ペットになった」

「……相変わらずですわねえ」



先程頭の中で音がした。

ミナがペットに登録された音だ。

ゴーレムなら当然可能である。

何しろ元々このペット機能はゴーレムからアップデートされたものだ。

人間と見間違うようなゴーレムをペットというのはちょっと気がひけるけど。



「じゃあ帰りますわよ」

「脱出経路が判明した。みんなが押さえてるうちに早く行こう」



アスラームが剣を振った。

どうやら部屋の外は物騒なことになっているらしい。

誘拐された私を助けようとして戦闘状態に入ったのだ。

そしてゴーレム達を押しのけ、見事この部屋までたどり着いたというわけである。

平和主義の私ではあるが、助けるためにしてくれたことに文句は言えない。

というか素直にそこは嬉しい。

皆の立場ならそうするしかなかったと思う。


さらにドタドタと足音が聞こえた。



「待て!」

「ちっ!」



静止の声と共に入り口にゴーレム達が現れる。

武器を構える者、腕が開いて何か機能を使おうとしてる者。

色んなタイプがいるが彼らの目的は同じだ。

私をどうにかしてここに留めようとしているのである。



「殿は僕がやる! トモシビさんは先に!」

「まって」

「ミナ! 天使様を保護しろ!」

「あ、わ、私は……」

「……お嬢様?」



寝ていたエステレア達が起き上がる。

そして目の前の光景を見て直ちに剣を抜いた。

ゴーレムと私の仲間たちが睨み合う。

部屋は一触即発だ。

ミナを籠絡しただけでは解決しないらしい。

どうしようか考え始めたその時、声が響いた。



「魔力が足りません。システムダウンします」



トモシビちゃんはたまにこういうことしますが、演技と見せかけて結構素でやってます。


あと次から更新時間を夜21時〜24時くらいにしようかと思っています。

ただ、もしかして早く書けたら12時くらいになるかもしれません。

取り急ぎお知らせです。


※次回更新は10月18日月曜日になります。

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