空がこんなに青いから
※9月14日、文章校正しました。
王都グランドリアに作られた飛空艇の発着場……2隻の飛空艇が鎮座するその隣にドラゴン用スペースがある。
私のペットたるドラゴン4匹は基本的にそこに着陸することのである。
飛空艇発着場はローマンコンクリートの道路があるだけの殺風景な作りだが、ドラゴン用は芝生が植えられ、脇には花壇と水場を設けてある。
猛獣通り越して怪物であるドラゴンはここ以外侵入禁止なので少しでも居心地を良くするためにこうなった。
ちなみにドラゴン本人は花壇などには興味のカケラも見せなかった。
私の好みだ。
今そこには白くてモフモフしたドラゴンがいる。
背中にリュックサックみたいなのが取り付けられたそのドラゴンは、東方遠征でアスラームのお父さんと戦った時にペットになった個体である。
名前はメレンゲ。
エル子はメレンゲバニーにしようと主張したが却下させていただいた。
どうやら彼女はアルグレオ皇帝とタブロバニーに憧れてるらしく、ペットにはバニーをつけたがるのである。
あんなロリコン皇帝でもエル子からは慕われているのだ。
私はその意外と柔らかな毛を掴んでよじ登ろうとした。
が……できなかった。
体高が高すぎる。
ブースターでも使おうかと考えたら、すぐにその胴体がスッと下がった。
「ありがと」
「大人しいドラゴンですね」
メレンゲはキュウキュウと高い声で鳴いた。
どことなく優雅さを感じる。
なるほど確かに魔王の言う通り優しいドラゴンなのかもしれない。
私は高級絨毯みたいな感触の背中を踏みしめてリュックに手紙を入れた。
「これはタマヨリ……ウガヤフキアエズ。こっちはウルス。それでこれは、アルグレオのドMと皇帝」
メレンゲは頷いた。
「いい子。なでてあげる」
アルグレオのことは知らないはずだが、スライムの分体を同乗させるので問題はないはずだ。
「高度いっぱいあげて、変なのは避けて」
「大丈夫ですトモシビ。未確認物体のおおよその位置は記憶しています」
さすがスライムは優秀だ。
こっちも撫でるとスライムはグニョグニョと蠢いた。
喜んでいるようだ。
私は最後にメレンゲの鼻にローストビーフを突っ込んであげた。
メレンゲはゆっくりと頭を地面に付けて私を降ろした。
その様子を見たレメディオスが頷く。
「脳改造も考えていましたが、なかなかどうして従順ですね」
「やめて」
ドラゴンに手紙や物資を配達させるのは夏休み前からやっていたが、大陸間を股にかけるのは今日が初めてだ。
手紙の他には、レメディオスの開発した魔導具サンプルとか魔術の教本だとか国家間の重要物らしきものも入ってる。
配達には数日かかるだろうけど、うまくやってくれるだろう。
何しろドラゴンである。
天空の覇者だ。
スカイサーペントもおいそれと手は出せないと思う。
私は期待を込めて青空をかけるメレンゲを見送ったのであった。
快晴というものは良いものである。
ただでさえ涼しい王都だが、特にこの季節は気持ち良い風が吹く。
窓を半分開けた放送室にも風が吹き込み、私の髪をサラサラと揺らした。
「今日の気圧はいち……は、これ」
「グランドリアはすっぽり高気圧に包まれているね」
おおーと、ギャラリーがコメディドラマみたいに歓声を上げた。
モニターには簡略化されたグランドリアの地図に気圧配置を表す等高線みたいなのが表示されている。
ウェザーニュースだ。
視聴者からの要望でやるようになったのだが、気圧配置図を表示するのは初めての試みである。
「えと……低気圧だと雨になるから……高気圧なら平気。今週は、ぜんこくてきに、青空がつづく……ます」
「すごいじゃないかトモシビちゃん。天気図が読めるなんて」
「少々、たしなむ」
台本を読んでるだけである。
しかも長いので読み飛ばしてしまった。
「知ってるかな?トモシビちゃん。この天気はフライマンタ……魔物が集めたデータから作られてるんだ」
「ここで、驚く……」
「トモシビちゃん、それは注釈だよ」
読みにくい。
フライマンタとはあの空飛ぶエイの魔物のことだ。
彼らもドラゴン達と一緒に私の配下となったわけだが、彼らはドラゴンほど頭が良いわけでも強いわけでもない。
配達などという器用な真似はできない。
何をさせるか困っていたところ、魔道院から観測用の機器を乗せて飛ばしてはどうかと提案されたのだ。
なので私は事情は全て知っている。
知ってるけど演出的には知らないふりをしなければならないらしい。
「魔物移民のおかげで様々なことができるようになった。これもその一つだね」
もちろん気圧だけではなくもっと色々な観測機器を積んでいる。
なんだかんだ言って魔物に対する嫌悪感はまだ根強く残っている。
特にエイの魔物なんて王都を襲撃したこともあるのだ。
こうやって役に立っていればそんな恐怖もそのうち薄れると思う。
「端末からはリアルタイムの情報も見ることができますので、皆さんもぜひ活用してみて下さいね」
「ほかに、何がわかるの?」
「温度湿度に、地脈の動きや強力なな魔物の移動もわかるよ」
「おじさん、なんか光ってる」
地図の南の方で一点が赤く点滅している。知らない反応だ。
「これは……観測機器が外れたらしい。動き回る魔物だからね。そういうこともある」
「そっか」
あのエイは結構アクロバティックな動きをすることがある。しっかり固定してないと落ちるだろう。
と、納得した次の瞬間。
光点が移動を始めた。
そして数秒後フッと消えてしまう。
「おじさん?」
「……誰かが拾ったのかもしれないね。拾った方はお手数ですが放送室までご連絡を……じゃあトモシビちゃん」
「この放送は明日もやるから、みてね。おねがい」
結局、機材はそのまま行方不明となった。
騎士団が現地確認をしたところ、街道から外れた場所であったため人間が持ち去ったのではなく、大型の魔物に食べられた可能性が高いとのことだった。
そんなに高価な機材ではないのでそこで調査は打ち切られた。
の、だったが……数日後新たな情報がもたらされた。
それはメレンゲとそれに乗ったスライムからだった。
「積荷を奪われた?」
「はい……」
東方の配達を終え、アルグレオへ向かって海上を南下していた時のことらしい。
それは人型のゴーレムみたいな姿をしていたそうだ。
魔力感じなかったので反応ができず、接近を許してしまったらしい。
「全部ですか?」
「いえ……試作魔導具のサンプルだけです」
「それでそのゴーレムはどこへ?」
「そのまま空へ消えました。魔力感知が効かないので追いきれず……申し訳ありません」
スライムはしょんぼりした声で謝罪した。
メレンゲもその後ろで俯いている。
「お嬢様、これは」
「ん」
私はエステレアと顔を見合わせて頷いた。
どうやらグランドリア近辺の空に何かいるらしい。
夏休みパーティーをやった時、ホアンからそういうゴーレムらしきものを見たと報告を受けている。
特徴が合致するので同じやつだと思う。
私は買ってきたフライドチキンをエステレアから受け取り、メレンゲの鼻に投げ込んだ。
フライドチキンはメレンゲの目のあたりに当たって地面に落ちた。
「二人とも、ご褒美あげる」
「……ご、ご褒美ですか?」
「情報もたらした、ご褒美」
スライムには輸入品のモロヘイヤをあげる。
茎を肉塊に突き刺すと一瞬ビクッとしてから取り込んで食べ始めた。
メレンゲも落ちたチキンに口を運んだ。
ドラゴンとスライムにできないなら誰にもできないだろう。
飛空艇で護衛しなければならなくなる。
それよりどうにかしてその謎のゴーレムを捕まえるべきだ。
私は任務の大部分を達成した2匹のペットを撫でながら空を見上げた。
雲一つない青空には何の影も見当たらなかった。
トモシビちゃんは基本的にペットには飴ばかり与えます。
あまあまですね。
どうでもいいことですが最近常に眠いです。仕事辞めたい……。
※次回更新は9月20日になります。