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お嬢様の華麗な生活

※9月7日誤字修正、文章校正しました。



腰を捻って振り向くような姿勢でポーズ。

パシャシャシャシャと連続でシャッター音が鳴った。

周囲360°を囲んだカメラマンによる連続撮影だ。

短いスカートは私の張りのあるヒップの形を強調して盛り上がり、体を捻ることで腰の細さも見せることができる。

胸と腰とお尻でS字を出すのが可愛く見せるコツなのだそうだ。

表情も……頑張ってスマイルしてる。

鏡の前でたくさん練習したのだ。



「トモシビちゃん可愛いー!」

「トモシビちゃんこっち向いてー!」

「こっちも!」

「いいっすよー! 今日も可愛いっす!」



可愛いと言われると自然と口角が上がる。

なんかプラチナみたいな声が聞こえたけど気のせいだと思う。

さっきよりたぶん自然な表情になっていることだろう。

褒められ効果というのは侮れないものだ。

次は両手をプレゼント渡すみたいに両手を突き出して……。



「今キュンてした!」

「お嬢様可愛いいいい!!」



四方八方から聞こえて来る声援が心地良い。

次は階段に座る。女の子らしく内股でちょっとスカートの裾を上げる。



「トモシビちゃんエロい!」

「もっと上げて! お願いします!」

「これ以上は、だめ」



私は断った。

なぜかローアングルおじさんが多いけど今日はちゃんとしたファッションの撮影会なのである。

あんまり下品なのはよろしくない。

見せパンも履いてないし。



「足めっちゃ綺麗!」

「美しすぎて目が潰れます!」

「太腿見せてくれたらもっと可愛いよ!」



…………。

そんなに可愛いなら……もうちょっと足を見せてあげてもいいかもしれない。

ゆっくりとスカートの裾を上げていく。

地面に這いつくばるおじさん達。

私にひれ伏してるみたいだ。

背筋がゾクゾクする。

私は調子に乗ってさらに裾を上げ……ようとしたら、不意におじさんの熱い視線が遮られた。



「終了です。お疲れ様でしたお嬢様」



言うが早いかエステレアは私を抱き起こすと、自らの体でおじさんの視線を遮りながら私を更衣室に連行していく。

ちょっと早いけど撮影会はもう終わりらしい。

私のスケジュール管理はメイドたるエステレアの仕事でもあるのだ。

私の着替えを手伝いながらエステレアが口を開く。



「どうしてお嬢様はすぐサービスしてしまうのでしょう? あのような下劣な男どもの言葉など聞く必要ございません」



どうしてと言われても私にも分からない。自然な流れでそうなってしまうのである。

私は自分を見て欲しいという願望があるのでそこを突かれると弱いのだ。



「でもおじさん達、弱いから」

「お嬢様ったら……男は弱くても油断できないのですよ」



単純におじさんを挑発するのが面白いのである。

撮影会ではいつもちょっとサービスしてしまうので、その度にローアングルおじさんが増える。

下着が見えているわけではないので雑誌にも普通に載る。

そして私の写真があると売り上げは増えるのだ。

私としても国の行く末をどうこうしてるよりよほど楽しい。

私は議会を凌駕する権力を持つ……らしい聖少女であり、セレストエイム次期領主でもあるが、あいも変わらず政治は苦手なのであった。







撮影会を終え、エステレアの手ですっかり着替え終わった私は学園に戻ることにした。

それからフェリスとクロエを伴って生物室に向かった。

例の触手生物についてアスカとキョウカ先生に話を聞くためである。



「現在確認されている生物と一致するものはなかったわ」



先生はビーカーの中でいまだにウネウネ動いてる触手を見せた。

エクレアが切り落とした触手の先端である。

本体は死んだはずなのに破片は生きてるらしい。



「つまり新種の魔物ですか?」

「やったねトモシビちゃん」

「魔物がどうかも分からないわね。一体どこの生き物なんだか」

「どういうことですか?」

「魔物は魔力で変質した生き物なんだから、どこかに変質の痕跡が残るわけじゃん。足が6本あるクマの魔物は4本足だった頃の痕跡が残るんだよ」



アスカは自分の脇腹らへんを手で示した。

その辺から足が生えてた魔物クマのような魔物ことを言っているのだろう。

要は生物の進化の変わらないわけだ。

尻尾の名残りである人間の尾骨のようなものだ。

まあ私の場合は最近尻尾が生えたので尾骨を大いに活用させてもらってるのだけど。



「この触手は最初からそうデザインされた生物のように見える。はっきりとは分からないけどね、先っぽだけじゃ」

「要するにこの生物がいる場所なんて検討もつかないってこと」



生き物に生息域があるのだから、魔物だってそれはある。

ゴブリンはどこにでもいるけど、オーガは南の方に多かったりする。

何の魔物が分かれば、あの場所の大凡の位置が掴めるのである。

ちなみに植物も少し持ってきたが、グランディア山によく生えてる雑草だと一蹴された。



「てかさ……」



アスカがいつものような疲れたOLみたいな淀んだ目で私を見た。



「あんたって聖少女とかになったんでしょ。なんでまだ現場仕事してんの? もう一生宮殿で暮らせるじゃん」



元はと言えば、一生宮殿で暮らしたくないからこうなったんだけど……。

でも確かに、言わんとしてることはわかる。

アイドルが傭兵やってるようなものだ。

名声も地位も人気も得て撮影会なんかするようになったのに、一方では血と泥に塗れながら危険の最先端にいる。

私の魔法が有用だから駆り出されてるとも言えるが、断ろうと思えばいくらでも断れるのが私だ。

好きでやってるのである。

先生もそれが分かっててレクリエーション代わりに冒険させた。



「お嬢様は常に自らに眠る破壊衝動と戦う身。少しづつ解放することで理性を保っておられるのです」

「へえ……アスラーム様と一緒にいたいとかそういうのじゃないんだ」

「ないわ」

「あるわけありません」



そんなことを気にしていたのか。

アスカは相変わらず一途にアスラームを想ってるらしい。健気だ。

そして私も相変わらずなので彼に惹かれるような気持ちはない。

男性を魅了するのは好きだが男性より可愛い女の子の方が好みだったり、平和主義なのに戦いが好きだったり私の心はとてもチグハグなのである。







私はグランドリアにおいて絶大な人気を誇るモデル兼ニュースキャスター兼アイドルのようなことをしているが、最も重要な身分としては学生ということになる。

なにしろ一週間のうち5日は学園へ通っているのだ。

学園の中にはローアングルおじさんもいないし、ストーカーまがいのファンや信者もいない。

クラスメイトや先生からの扱いは私が聖少女になろうが変わることはない。

以前のままの距離で接してくれるのはなかなかありがたいことなのではないかと最近思う。



「キエエエエエ!」

「んっ」



エル子の模擬刀が私の模擬刀に叩きつけられる。

私は歯を食いしばった。

衝撃で手を離しそうになるが頑張って耐える。



「やるわね! この一撃を受け止めるなんて!」



エル子は一旦剣を引き、のたのたとした足捌きで私に背中を向けた。

そのままバックハンドブローみたいに逆側から剣を振り回す。

私はそれを華麗に避ける。

そしてお返しとばかりに模擬刀を振るった。



「えいっ」

「きゃっ」



エル子は何とか避けるも足をもつれさせて転んでしまう。

チャンス……ではない。

あろうことか私の方に倒れ込んできたからだ。

そのままエル子の下敷きになってしまう私。



「いたい、どいて」

「ね、狙い通りよ! このままいつかのように押さえ込んで終わりにしてあげるわ! ふふ、ふ……」

「そんなこと、させない」



いつかの戦いで勝ったのは私の方なのだがまるで自分が勝利したかのように言うエル子。

そして息を荒くしながら私を抱きしめてくる。

多分寝技をかけてるつもりなのだろう。

エル子の金髪が首にかかり、汗でしっとりした首が首に触れる。

めちゃくちゃな押さえ込みだ。

私はコロンと転がってエル子を下にした。



「ずるい!」

「ずるくない」



体重をかけて転がり返すエル子。

再び私が下になった。

さらに転がる。エル子が下になる。

転がる。私が下になる。

何度かそれを繰り返していると、不意に声がかかった。



「もうやめよ。引き分けじゃ引き分け」



先生が呆れている。

ノロノロ立ち上がる私達。



「何で止めるのよ! もう少しで決着だったのに!」

「決着なんざ永久につかんわい。体の使い方が幼児並じゃ」

「エル子、どんまい」

「貴女もでしょ!」

「ナイスファイトでしたわお嬢様」



エステレア達が駆け寄ってきて髪を直してくれる。

まあ魔法を使わない私なんてこんなものだ。

そろそろ私も自分の体の特殊性は自覚している。

鍛えても全く筋肉はつかないし成長もせず太りも痩せもしない。

そして私の髪は魔力器官であり、魔導具のように使える。

たぶん……私は魔力で変質した人間なのだろう。

ちょっと特殊な魔力だったから魔人とは異なる存在になった……のかもしれない。

人間も食べたくなんてならないし。



「ふぅ……残念だけどまた引き分けね」



エル子が全然残念じゃなさそうに言った。



「……ねえトモシビ・セレストエイム」

「?」

「貴女、なんで魔法使わなかったの?」

「エル子も使ってない」

「私は魔導具使いなの! 知ってるでしょ!」

「……ライバルだから」



切磋琢磨するのがライバルだとすると、私にとってエル子以外の相手はいない。

フェリスもエステレアもクロエもエクレアも強すぎて赤子扱いされてしまう。

私と同程度の身体能力なんて他にはそれこそ幼児くらいなのだ。

とても貴重だ。



「そ……そうね。ライバルだもんね。貴女が神でも魔王でもライバルだからね」

「……うん」

「尊い波動を感じます……」



エル子は手でパタパタ仰ぎながら歩いて行った。

ちょっとツンデレ気味だけどいい子なのである。

私は魔王の言葉を思い出した。



『誰かが神の座につく必要がある』



そしてすぐに忘れることにした。



魔王さんはトモシビちゃんに普通に負けましたが、肉体があればもっと強かった気がします。

でもロリコンなので結局負けるしかなかったかもしれません。


※次回更新は9月14日になります。

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