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未知との第3種接近遭遇

※8月31日誤字修正しました。



猛スピードで奥へと引き込まれる白い魔物。

私達は洞窟内をホバークラフトみたいに低空飛行しながらそれを追いかける。

角を曲がり、また次の角を曲がる。



「うわっ!」

「お嬢!?」



横道に誰かいた。

一瞬聞こえた声がそのまま遠くなって行く。

他のチームの行った道と繋がっていたらしい。

それを無視してさらに爆走する私達。

白い魔物の体が右に消える。

この触手何キロあるんだろう? 本体もきっと尋常な大きさではないはずだ。

触手を追って角を曲がった、

その瞬間、不意に視界が白く染まった。







眩しい。

どうやら外に出たらしい。

それなりの時間暗闇の洞窟にいたので目が痛い。

薄目を開けて前を見る。

前方には黒くて凸凹してた景色……それが迫ってきてる。

……壁だ。



「トモシビちゃん前! 前!!」

「ぶつかります!」

「ッ!?」



何も命令してないのに全員が一斉にブースターを逆噴射した。

急ブレーキだ。

体が慣性とブースターの反作用で圧縮される。

戦闘機なんかのパイロットは体の小さい方が有利だと聞いたことがある。

血が偏りにくいのだそうだ。

ちびっ子呼ばわりされる私はこのような急制動に向いているように思えるが……実はそんなことはない。



「お嬢様……!」



エステレアが私を背後から必死で抱きしめる。

私は筋肉もなく骨も細い。変な方向にGがかかるとそれだけで骨折しかねないのだ。

だからエステレアがエアバッグになって補助してくれているのである。



「くっ……! トモシビ様、大丈夫?」

「うん」

「危なかったですね。こんな大きな壁……崖?」



何とか衝突寸前で止まった私達の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。

目の前の壁が何かおかしい。

どこまでも続いてるし……石や砂がくっついて……。


……違う。

これは地面だ。

私の脳みその中で天地がコペルニクス的に回転した。

つまり私達は天から出てきて地面に激突しかけたのか。

スカイドライブ発動中は無重力なので気がつかなかった。

周囲を見回してみる。足元から降り注ぐ柔らかな光の片隅で黒いものが動いた。



「トモシビちゃん!きた!」



斜め下。

目にも止まらぬ野生動物特有のスピードで触手が伸びてくる。

触手はエステレアの構えた盾にぶち当たり、シュルシュルと動いて私たちに巻きつこうとする。



「このっ!!」



エクレアの剣が触手を両断した。

すごい。ヌルヌルして切れなさそうなのに。

切りおとされた触手の先端が頭上でビチビチ動いてる。

触手の根元側は機敏な動きで引っ込んでいく。

引っ込んでいく先は……この地面だ。

大地から植物みたいに生えてる触手が引っ込んで、代わりにそこからマンホールみたいな穴が空いた。

その穴にある瞳がギョロリと私達……いや、私たちの背後を見た。

後ろを振り向く。

人間が降ってきた。



「あ」



グチャッと湿った音がした。

それはアスラームだった。

アスラームが魔物の目に剣を突き立てている。

彼だけではない。クラスメイトが次々と降ってきてる。



「大丈夫か!?」

「う、うん」

「なんだよこいつは! どうなってんだお嬢!?」



私にもよくわからない。



「外に出たら、逆さま、魔物は地面」

「何言ってんだお嬢!」

「お嬢様のお言葉に間違いはありません! そのままです!」

「とにかく、みんなはなれて」

「離れろだぁ!?」

「せっかく近づいたんだぜ!」



魔物に近すぎる。

これだけ近いと余波だけで危ない。

私の周囲に砲門のようにいくつも″窓″が開いた。

魔力が急速に消費されていく。



「離れて……まきこんじゃう」



文句を言いながらもこの地面の魔物から離脱する男子達。

私はそれを見届けてからトリガーを引くように魔法陣を完成させた。

閃光が迸った。

ショットガンのように拡散したレーヴァテインが地面を抉り取る。


熱でゆらめく空気の向こう側に、チーズみたいに穴だらけになった地面が見えた。







「や、やりましたね……気持ち悪い相手でした」



穴だらけの地面はもう動かない。

触手もなくなった。

魔物的な魔力も感じられない。

イカの魔物か何かだったのだろうか?

イカ好きのメイが喜んでる様子がないので別物かもしれない。

地面を掘ったら魔物の死体が出てくるのかな?

周囲を飛んでる皆が隕石の雨でも食らったみたいな大地に着地していく。

私も続けてフワフワと降り立った。

アスラームやアナスタシア達が集まってくる。



「びっくりしたよ。ディラさんが突然君の反応が消えたって言うから」

「エル子?」

「虫に貴女を見張らせてたの。そうしたらいきなり凄い勢いで飛んでくんだもの」

「……虫?」

「大丈夫よ、ただのスカラベだから。気がつかなかったでしょ」



エル子は得意げに踏ん反り返った。

気がつかなかった。

虫嫌いの私としてはあまり気持ちの良いものじゃないけど、そのおかげで私達の位置が分かったらしい。



「消えたってどういうことですか?」

「あれのせいでしょうね」



そう言って上を指差すアナスタシア。

そこには岩があった。

空に浮かんでる。

その岩の底に柱が2本立っている。

つまり……私達は遺跡から転移してあそこから出てきたのか。

見たことないタイプの転送機だ。しかも浮いてる。

魔力も感じないのに。


私はマップを思いっきり拡大してみた。

周辺情報が何もない。

知らない土地だ。

遺跡に転送機ときたら、私達が思い付くものは一つしかない。



「新たいりく」

「……可能性は高いですわね」

「まじかよ、まだそんなのあったのか?」

「陸続きでがっかりするパターンかもな」



こんな浮いてる岩がある土地なんて噂にも聞いたことがない。

東方にも西方にも南方にもない。

となると……。


不意に、ゴリっと変な音がした。

何気なく地面に目を向ける。



「あ……」

「え?」



そこには人がいた。

宇宙船のハッチを開けたみたいに地面が開いている。

開けたのは少年だった。



「あ……」

「なによ、人いるじゃん」

「ここの人かしら? わたくし達は」

「ああああああ!!!!」



少年はいきなり叫んだ。

先程の魔物もかくやというほど見開いた目は私を見据えている。

ビクッと後ずさる私達。

ハッチがパタンと閉じた。



「天使だぁぁぁぁぁ……!!!」



地面の下から叫び声が響いた。







「……ほう、天使とな」

「うん」

「お主が?」

「当然です」



先生は両手を上に向けてヤレヤレみたいなポーズをした。



「お主さあ……ちょっと最近調子に乗りすぎじゃよね」

「でも本当。ね、エル子」

「うーん……私の方見てた気もするけど……」

「はっきりトモシビの方見てましたわね」



記憶を勝手に修正し始めたエル子はともかく、他の皆がそう証言した。



「じゃあ何か? 新式の転移装置があって、新大陸を発見して、謎の巨大な魔物を倒して、そこの原住民がお主に一目惚れしたと」

「すごい、でしょ」

「さすがはお嬢様。新大陸に着いて早々美の何たるかを分からせてしまわれるなんて」

「……まあ良いわい。報告書はそう書いておく。ご苦労じゃったな」



先生は足の届かない椅子を回転させて書類に向かった。


ことの顛末は報告した通りだ。

あの後すぐに少年の消えた地面を調べてみたのだが、そこはもう普通の地面になっていた。

掘っても土が出るだけだ。魔物の死体もない。

しばらく辺りを歩いたが街らしきものもない。

途方に暮れた私たちは、日が暮れる前に帰ることにしたのである。


職員室を出る私たちに先生が声をかけた。



「それでどうじゃ?」

「どうって?」

「夏休みボケは直ったかということじゃ」



そういえばそういう話だった。

自分の中にある感情に目を向けてみる。

自分の心を内観するのは得意だ。

……直った気がする。

疲れてるけどなんだか妙なやる気は湧いてきてる。

未知の世界があることを知ってモチベーションが上がったのかもしれない。



「ならば良い。例の遺跡は改めて調査することなるじゃろう。待っているがよい」

「うん」



たぶんまた私達が行くのだろう。

今日だけじゃあまりに消化不良すぎる。

今度は遺跡を隅々まで調べて……新大陸の住民と交流までしなきゃ。

楽しみだ。


こうして謎の遺跡から帰還した私はモチベーションも新たに平和な学園生活に戻ったのであった。



触手触手って言いますけどイカが伸ばしてくるのは触腕らしいですね。

ちなみにトモシビちゃんは触手には興味ないタイプの魔法少女です。


※次回更新は9月6日になります。


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