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不良中年はかく語りき

※7月27日誤字修正、文章校正



爆炎はすぐに薄れた。

ゴーレムの編隊が推力を失って落ち始める。

私たちの乗ってるやつも同じだ。

滑空するゴーレムの背で私は目を凝らした。

……いない。

魔王がいない。

初めからいなかったみたいに綺麗さっぱり消えている。

墜落した? それともまさか爆散してしまったのだろうか?

私でも耐えられる程度に絞ったのに……。



「トモシビちゃん!落としていいの!?」



……後にしよう。

今はこの落下するゴーレムをどうにかするべきだ。

魔力は火をつければ爆発するというものではないし、衝撃で爆発するという性質もない。

ただこのゴーレムが体当たりを前提で作られているなら、地面に当たった瞬間爆発するよう調整されているかもしれない。

推進装置を破壊したのは悪手と言える。


……だがそれは私達に仲間がいなければの話だ。



「大丈夫」



マップに大きな点がすぐ近くにある。

小さな点が固まって大きく見えているのだ。

それが急速に近づいてくるのを私は戦いながら確認していたのである。上空に目を向ける。

暗くなった夜空に紛れて、私の絢爛たるセレストブルーがうっすら見える。



『トモシビ!やったか!』

「全部、回収して」

『わかっておる! 行くぞ!』



クラスの皆がバラバラに飛び出してきた。

皆ならもうこのくらいの作戦はなんでもない。

私が何も言わなくても構造まで把握して止めてくれるはずだ。

私達は滑空するゴーレムに我先にと取りつくクラスメイトを見ながら、足元のゴーレムの無力化作業に取り掛かった。








……波の音が聞こえる。

目の前に海がある。

いつもの夢だ。

私はまた夢を見ていた。

あのロリコンおじさん……魔王は?


……そうだ。

手加減したエクスプロージョンでうっかりやってしまったのだ。

なんとも言えない寂寥感が胸に込み上げてきた。

私は砂浜にぺたりと腰を落とした。

この風景は一人で鑑賞するには寂しすぎる。


思えばろくな大人ではなかったと思う。

世を捨てた反社会的な不良中年だし。

私のトイレ事情を察して助けてくれたのは良いけど、無理矢理水着着せて喜んでたり、私の事を娘のようなものだとか妄想語りをしてきたり……。

完全に変質者だ。

でももう少し構ってあげたら良かった。

そうすればあんな大事な時に構ってちゃんしなかったかもしれない。



「うまくいかんものだな」

「……おじさん?」



私は夢の中で辺りを見回した。

誰もいない。

いや最初から彼は声だけの存在だ。さっき姿を見せたのが特別なケースだったのだ。



「お前にやられて長年溜めた魔力が霧散してしまった」



おじさんの声は続いた。幻聴じゃない。

……よかった。



「ちょっとだけ、かまってあげる」

「なんだ? やけに優しくなったな」

「水着も、着てあげる。可愛い?」

「…………」



おじさんは沈黙した。

よくある変態の反応の一つだ。

私は太もものガーターリングをクイッと上げて位置を直すと、体育座りに移行した。

とっておきのビキニまで見せるのは和解の証である。

大人の男の人なんて少し肌を見せてやれば簡単に手玉に取れるのだ。



「んんっ! ……せっかく聞く気になったなら語らせてもらうか」

「うん」



そうしておじさんは長いセリフを吐き出した。



「俺はかつて天の頂に至るべく行動を起こした。結果は知っての通り、管理プログラムに邪魔されて敗北した。それから1000年後、危惧していたことが現実になった。星の魔力の異変だ。俺はすぐにわかった、天脈が途絶えつつある。誰かが神の座に着く必要がある。そんな時、俺は一人の幼女を見つけた……」








私は目を開けた。

ここはセレストブルーのブリッジだ。

立ち上がろとする。

……できない。

シートベルトみたいにガッチリとホールドされている。



「お嬢様可愛い……可愛い可愛い……あら?」

「エステレア」

「おはようございますお嬢様、王都はもうすぐですわ」



そうか。

セレストブルーで王都に戻る途中でウトウトして寝てしまったのだ。

何しろもう夜だし、今日はずいぶん運動もした。

それで……夢の中で魔王、ロリコンおじさんにまた会った。

得意分野が出たときのオタクみたいに早口に喋るロリコンおじさんの話を聞いてるうちにまた眠くなってしまったのだ。

頑張って聞いてたけど、話が下手であんまり頭に入らなかった。

……そうだ、思い出した。



「エステレア、魔王のこと、なんでわかったの?」



さっきの戦いの事だ。

エステレアは魔王が見えていたのだろうか。



「お嬢様察知スキルです」



エステレアは何でもない事のように答えた。



「お嬢様の御心を察すれば造作もありません。お嬢様と私は一心同体。赤い糸で雁字搦めでございます」

「そっか」

「そうですとも」



エステレアはぎゅーっと力強く私を抱きしめた。

まあ、エステレアだしそんなこともあるのかな。

ブリッジはいつも通り女子の溜まり場となっていた。



「トモシビ、カインのおじ様捕まったらしいですわよ」

「先程治安部隊から連絡がありました」



何でも無抵抗で捕まったとのことだ。

もう少し早く捕まえて欲しかったが、彼があんな暴挙に出てようやく捕まえる事が可能になったのだろう。

一先ずこの騒動も終わりだろうか。


ブリッジの窓の外、真っ暗な地上の闇の中に光が見える。

セレストブルーのブリッジから見る王都の街はいつも通り魔法の光で輝いていた。







それから数日後、私は朝早くから王城に赴くこととなった。



「ごきげんようトモシビ」

「おはよ」



アナスタシアが私の手を取る。

私が馬車から降りると大勢の人が歓声を上げた。

貴族や官僚、王城に立ち入りする者達だ。

私の履くハイヒールが柔らかなを地面を踏みしめる。

赤絨毯である。

両側に人の壁を供えた赤絨毯がお城まで続いている。

私の服装は純白のスリットの入ったティアードスカートに肩を出したビスチェ。

まるでウェディングドレスのようだが、これは聖火教のお祭りで着たドレスを流用したものだ。

今から行う儀式には普通のドレスではダメなのだ。

私はアナスタシアに先導されて静々と王城への道を歩く。


赤絨毯はお城の中まで敷かれている。

正門から、廊下、そして玉座の間へ。

玉座の間には王様と王妃様、それに議会の人たちが使者を出迎えた時の私たちみたいに並んでいた。

言葉はない。

私はさらに歩を進め……一段高いところにある玉座に腰を下ろした。



「戴冠の、儀」



私の舌足らずな声が響く。

王様が私の前に進み出て、私にお辞儀をした。

……。

…………何を言うんだっけ。



「トモシビ、私の後に続いてください」



スライムが骨伝導で私に言うべき言葉を伝えてくる。頼りになる子だ。



「グランドリア、くんしゅ、ヴィクター・グランドリアを、連邦議員に任命する」

「拝命します」



王様は私の左手を取って口をつけた。

…………王様が私に跪いてる。

口元が綻びそうだ。

でも我慢である。

王様が私に跪いたのはべつに忠誠を誓ったわけではない。

カインと彼の言いなり議員の行った改革のせいだ。

私を聖少女として戴くという改革が効力を持ってしまったのである。

彼の行ってきた政治に違法性はなかった。

それらは民意が反映されたものだ。

本人が逮捕されたからといって、白紙に戻すことは難しい。


というわけで……こうなった。

今は改めて新体制の議員を任命している最中というわけだ。



「アスラーム・バルカを、連邦議員に、任命する」

「謹んでお受けします」



アスラームが私の左手を取って口をつける。

例の事件によって、彼とバルカ家はいくらか権力を回復する事になった。

ステュクス家が自滅した今、彼らが最大派閥と言えるかもしれない。



「アンテノーラ・ステュクスを、連邦議員に、任命する」

「ありがたき幸せ」



アンテノーラのおかげでステュクス家も生き残った。このままだと彼女が当主になるのだろう。

それは私にとっても喜ばしいことだ。


任命式は続く。

私は覚えきれない名前をスライムの助けを借りながら表彰式みたいに任命し続けた。

魔人の議員も生まれた。

結果的にカインの目論見はほぼ成就してしまったわけだ。

私は口を動かしながら、取り調べでの彼の言葉を思い出した。







「全て首尾良くとはいかなかったようですな」



取り調べ室に入った私を見るなり彼はそう言った。



「魔王なら、やっつけた」

「それはそれで結構。魔王が誰であろうと構いませんからな」

「あなた、本当にトモシビちゃんを魔王にしたかったの?」



ラナさんが詰問する。いつものふわふわした声とは全然違う冷徹な声だ。



「ええ。そしてそれは叶った」

「私、魔王じゃないよ」

「では大魔王ですな」

「ふざけないで」

「ふざけてはいません。トモシビ嬢は魔王の果たせなかったことを果たしたのです。王権の獲得を」







これがその……王権なのだろうか。

スライムがいなきゃ任命式すらできず、任命される人達も私が勝手に選べるわけではない。

全然権力者という感じがしない。


おじさん達はどうも勘違いしてる気がする。

私は任命式の最後にこう付け加えた。



「聖少女トモシビ・セレストエイム」

「……?」

「こっか最高機関としての、任を解き……魔法学園Aクラス委員長に、任命する」

「……トモシビさん?」



やめである。

もうこんな事やってられない。

何が国家最高機関だ。

ただのお飾りの人形ではないか。






「果たしてない」



私がハッキリと否定すると、カインは夢から覚めたように私を見た。



「おじさんが私を、聖少女にした」

「……それが?」

「聖人は、拒否権がある」



おじさんは真顔になった。







聖少女とは聖人である。

聖人は国家の命令に縛られないらしい。

議会の命令だって無視できる。

改革だってなんだって無視して良い。

良いはずだ。そう決めた。

これでようやくあの何もかも思い通りみたいな顔した黒幕面おじさんに一泡吹かせた。

私は赤絨毯を逆戻りすべく玉座を立った。



「じゃ、かえるね」

「と、トモシビ。待ちなさい」

「やだ」



カゴの鳥は12歳で卒業した。

こんな立場じゃ世界を回る私の夢が叶えられない。

おじさん達は勘違いしている。

彼らは自分が正しいと思ってる。

だから平気であんなことができるのだ。

……絶対に思い通りになんか動いてあげない。

それは反抗期から来る苛立ちではない。

私の性分である。


そうして私は国の頂点に立ち……その日のうちに降りたのだった。



トモシビちゃんは反抗期で父親にツンデレしてましたが、反抗期じゃなくても似たようなものだと思います。


※先週すごく伸びてました。紹介してくれた方、見てくれた方、某ブログの方、ありがとうございます!


※次回更新は8月3日になります。

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