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新約聖火書・フェリス記



トモシビちゃんは朝ごはんは食べません。私とエステレアさんが食べてるのをお茶を飲みながら見てます。



「尻尾触らせて」

「いいよ〜」



トモシビちゃんは尻尾であやすと喜びます。あまり表情は変わりませんが口の端がちょっと上がっているので喜んでるのが分かります。

私が子供の頃もお母さんが尻尾であやしてくれたのを思い出します。



「最近はお嬢様よりむしろ私が尻尾を生やした方が良いと思うようになりました」

「そ、そうなんだ」



エステレアさんの言葉はいつも私の常識を打ち破ります。



「魔力で動く尻尾を注文したのですが……ところで参考までに、その尻尾はどのへんから生えているのですか?」

「お尻の上くらいかなあ」

「ほんとだ」

「ひゃあっ」



トモシビちゃんが尻尾の付け根を触ったのでびっくりしちゃいました。



「いきなり触ったらびっくりするよ」

「ごめん」

「あらあらうふふ」



手に尻尾を巻きつけるとトモシビちゃんの興味はそっちに移ってくれました。

尻尾の付け根は恋人同士でしか触っちゃダメなところです。トモシビちゃんが男の子なら結婚しなければいけないところでした。

女の子同士ならどうなんだろう?

私はずっと同い年のお友達がいなかったのでよくわかりません。







そういえば、トモシビちゃんは見た目からは想像もできないけど、男の子みたいなところがあります。

とても負けず嫌いで、模擬戦では強い子にばかり挑もうとします。

この間もクラスの男の子に負けちゃいました。



「大丈夫? 痛くはしてないと思うけど」

「我がぜんしんぜんれい破れたり」

「少しでもお嬢様にお怪我をさせていたらどうしようかと考えていましたが……命拾いなさいましたね」

「あ、ああ」

「いい、私が弱いだけ」

「なんて健気なお嬢様……私、涙を禁じ得ません」

「トモシビちゃん、次は私とやろうよ〜」



そのうち本当に怪我しそうなので私が名乗りをあげます。トモシビちゃんはすぐに承諾してくれました。

私はこう見えてけっこう強いので、他の子より余裕を持ってトモシビちゃんの相手ができます。



「いつでもいいよ〜」

「わかった」



トモシビちゃんの手から8つのボールが飛んできました。あれはトモシビちゃんが爆竹と呼んでる、音で威嚇する魔術です。私は耳が良いのでこの魔術はあまり好きではありません。私は耳を伏せてボールの中を突貫します。

当たっても全然痛くないので大丈夫です。

……あれ?

目の前にあるボール、少し大きいような……。

ひょっとしてこれ爆竹じゃなくて爆弾!?



「にゃああああ!」



思いっきり方向転換をかけます。

トモシビちゃんが爆弾と呼んでる魔術は……いつもながら適当なネーミングですが、かなりの威力があります。

でも私の近くで破裂した爆弾は思ったような衝撃が来ませんでした。

そのままトモシビちゃんに駆け寄ると、トモシビちゃんは逃げながら何かを投げて来ました。

投げナイフ? 手で叩き落とします。

私はブースターを使って逃げるトモシビちゃんに同じくブースターで対抗して追い詰めます。



「……負けた」

「私の勝ちだね」



最後はトモシビちゃんの剣を手で押さえて終わりです。

トモシビちゃんは接近戦に弱いのです。

トモシビちゃんも最近は無闇に近付くのをやめて、中距離の魔術とか武器とかを練習してるみたいですが、あまり成果は出ていないようです。


でもその分、座学はクラスで一番なので成績は良いと思います。

そうそう、トモシビちゃんはこの歳で自分だけの魔術を開発したりもできるのです。


この前もこんな事がありました。







「通信機の魔法式を教えてほしいの?」

「位置が分かるやつ」

「最新型なので非公開ですが、姫様の命があれば開示可能かと」

「私のマップに組み込めば便利」

「うーん、そうねぇ……」



トモシビちゃんがアナスタシア様に通信水晶の魔法式を教えてもらおうと頼んでいました。

私には魔法式なんてさっぱりわかりません。だって習ってないんだもん。







なんだかんだで無事教えてもらえたみたいですが、アナスタシア様が色々と頑張ったおかげだそうです。それからトモシビちゃんは暇さえあれば″窓″……ええと『聖火神の魔法陣』を弄っていました。



「トモシビちゃんあそぼ〜。ほらっ尻尾もあるよ〜」

「むっ」



本当にお人形のようになっているトモシビちゃんに尻尾をスリスリします。緩慢に反応して触りますが、顔は空中を見つめたまま上の空です。



「あれはトモシビ様が考え事をしてる時のポーズなのよ」



エクレアちゃんがドヤ顔で説明してくれました。それは知ってるけど、私の尻尾が負けたみたいでなんかショックです。



「み、耳もあるよ!今日だけは尻尾の付け根も触っていいよ!」

「……みみ?」



トモシビちゃんの目の焦点が合いました。

頭を近づけると耳を触り始めます。お手入れしてるから毛並みは良いはずです。

一頻り耳を触っていましたが、やがてその手が離れ、尻尾の方を優しく撫で擦り始めました。



「もふもふ」



私は付け根に手が伸びるのに備えて体を固くしていましたが一向に来ません。

そのうちにトモシビちゃんは『あ』と何かに気づいたかのように魔方陣弄りに戻ってしまいました。

私はなんだか面白くありません。



「いいもん、今日は私がトモシビちゃんをモフっちゃうからね」



トモシビちゃんの髪の毛はサラサラしてとても手触りが良いのです。

私が髪の毛を触ってもトモシビちゃんは魔法陣を弄るのを止めませんが、時折私の尻尾を握ったりします。



「トモシビちゃん、私ね。妹が生きてたらこんな感じかなって思うんだ」



私の妹は、私が小さい頃オーガに襲われて食べられてしまいました。

私の村ではそんなに珍しい事ではありません。

その時のことはほとんど覚えていないけれど、トモシビちゃんといると妹の小さな体や私の尻尾を握られる感触をふとした拍子に思い出します。



「ごめんね。トモシビちゃん、他の人と重ねられるの嫌だよね」

「フェリスの妹なら嫌じゃないよ」



トモシビちゃんは作業をやめて、私を正面から見ました。改めて見ると本当に綺麗な子です。



「……私がお姉ちゃんでいいの?」

「いい」

「ッ!」



私は嬉しくなってトモシビちゃんを抱きしめしまいました。トモシビちゃんも抱き返してくれました。

しばらくそうやってトモシビちゃんの心臓の鼓動が私とシンクロしてきた頃、ふとドアの隙間から二対の目が覗いてることに気付きました。

エステレアさんとエクレアちゃんです。



「あらあら」

「なんで覗いてるの!?」

「べ、べつに覗いてたわけじゃ、ただなんか入りづらかっただけで」

「何も変な事してないよ、トモシビちゃんが妹みたいで可愛いから」

「全て分かっております。同好の士ですからね」



エステレアさんが思わせぶりな目を向けてきました。

いつも言うけど同好の士ってなんだろう?

よく考えると、ここはトモシビちゃんのベッドの上です。そこで抱き合ってる事が急に恥ずかしくなってきました。

と、そのとき、私のお尻の上のあたりに電流が走りました。



「にゃぁ!」

「付け根忘れてた」



トモシビちゃんが尻尾の付け根を優しく撫でます。私は思わず力が抜けてしまいました。



「ふにゃぁぁぁぉ」

「気持ちいいの?」

「と、トモシビ様、それ以上は危険なんじゃない?」

「せっかく焼いたクッキーが冷めてしまいますわ」

「そ、そうだよ、食べようトモシビちゃん」



何事もなかったかのように向かうトモシビちゃん。男の子なら結婚しなきゃいけないけど、女の子ならいくら触られてもいいのかな……?

2人はクッキーを作ってたみたいです。

私達は珍しい木の実やチョコレートが入ったクッキーを頬張り、紅茶を飲んで楽しく過ごしたのでした。







それから私はトモシビちゃんとお昼寝するのが大好きになりました。

……いつも何してるのか詳しく書いて欲しいとクロエちゃんが言うので書きます。

普通にスリスリしたりするだけです。

あ、それからトモシビちゃんは髪の毛を撫でながら耳元で囁くと気持ちよさそうにします。やりすぎると寝ちゃいます。

そんなときは一緒にお昼寝することにします。トモシビちゃんは柔らかくて手触りも良くていい匂いがするので抱いて寝ると気持ちよく眠れます。


時間を気にせずゆっくりできるのは同じ寮にいる私とクロエちゃんだけの特権です。

エクレアちゃんは暗くなると危ないから平日は遊べないけど、休日は一緒に遊んだりもします。そんなときは普段お仕事をしてるエステレアさんやクロエちゃんも一緒にみんなで騒いだりします。


学園に来て、トモシビちゃん達とお友達になってから毎日がすごく楽しいです。

将来のことはまだよくわからないけどずっと一緒にいれたらいいな。


たまには視点の違うお話です。愛猫と親友を一度に手に入れたような感じですね。


※毎度誤字報告ありがとうございます。気をつけててもなかなか一人では分からないので助かります。

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