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神聖少女帝国

※4月27日誤字修正、ご報告ありがとうございます!



世の中には傾国の美女というものがある。

ひとたび顧みれば城を傾け、再び顧みれば国を滅ぼすという。

どんな国でも最高権力者を虜にすれば簡単に崩れるということだ。

世界最かわを内心自称していた私だったが、ここに来てついにその傾国の美少女になってしまったらしい。


しかも3国、アルグレオを含めると4国を落としてしまったのだからこれもう既に世界制服してしまったと言っても過言ではないだろう。

つまるところ、大雑把に言うと私の夢はほぼ叶ってしまったわけなのだが……どうも想像していたのとは違った。



「お嬢様、掃除しておいたよ!w」



飛空艇のブリッジに入るとオタが満面の薄笑いで振り向いた。

このブリッジは私のいない間アスラーム達が使っていたのだが、その形跡がすっかりなくなっている。

私が改造したピュアホワイト姫系空間のままだ。

お嬢様のお嬢様によるお嬢様のための乙女帝国が男臭くなっていたら大変だった。

心なしか香りも甘い感じになってる。



「ルームフレグランス、魔導具に変えておいたよ! 端末と連動して好きな香りを合成するやつ!w」

「え、有能すぎない?」

「私の、臣下だから」



私は満足した。

これだ。

傾国の美少女に対する態度はこうでなくてはならないはずだ。

これがアイドルとファンとの正しい関係だ。

いや、正しくはない気もするけど、それは彼の性癖で補正がかかっているからだ。

少なくとも彼は勝手に婚約しようとしたりはしない。

私はニヤニヤしているオタのよこを通りすぎ、館長席に優雅に腰を下ろした。



「見て、ぶた」

「な、なんだい?」

「私の足……つかれちゃう。むくんだら、大変」



両足をぷらぷら振る。

まあ、浮腫んだことなんてないんだけど、建前は必要である。

相変わらず私は床に足が届かないのだ。

背が伸びないので、この館長席はいつまで経っても私にフィットすることはない。

スリッパを脱いだ私の生足を、彼は火を見つめる原始人みたいに凝視している。



「そ、そ、それはつ、つまり」

「察しの悪いぶたは、きらい」

「今すぐ足置きになります!!w」



凄い勢いで私の足の下に滑り込むオタ。

うつ伏せなので下から覗かれる心配はない。

彼は胴体が肉厚なので丁度良い感じに足が届く。

サービスで少しふみふみしてあげると歓喜の叫び声を上げた。



「ああァーー」

「だまって」

「ああァーー」

「お嬢様、蹴るのはおやめください。可愛いあんよが捻挫して痛い痛いになってしまいます」

「体よわっ」

「あと穢れてしまいますので、マットをお敷きください」



エル子はドン引きしているが、要は皆こうなれば良いのだ。

タマヨリもシン王子もエン帝もドラゴンも、あと議会のおじさんも。

彼らにとっては自分が主で私は従なのだ。

その認識を改めさせなくてはならない。

……要は彼らが自らの国に私を取り込もうとしているのが悪いのだ。



「わかった」

「お分かり頂けましたか」

「エステレア、私ちょっと、国作るから」



私は通信用の″窓″を開いた。







「あー、あー………ウガヤフキアエズとウルスに、つぐ」

『猫姫か? どうして帰ってこないのだ? 迷子か?』

『やあ魔王姫、良い天気だね』

「ほんとにやるんですか……?」



結局、国に対抗するにはやはり国がいるのだと思う。

だから作ることにした。

擬似的に、だけど。



「私は、セレストエイム天上国のトモシビ・セレストエイム」

『天上国……?』

「さっき作った、私の国。約束通りウルス、ウガヤフキアエズ両国を……併合してあげる」

『何かの遊びか?』

「会談場所は、国境の飛空艇の下、時間は明後日、すっぽかしたら、怒る。私は怒ると……とってもこわい」

『そうは見えんが……』



私は通信を切断した。

せいせいした。



「感無量でございますね」

「何がですか?」

「トモシビ様がついに国家元首になられました。ついこの前までは、あんなに小さくあそばされましたのに」



カサンドラは手を叩いた。

ついこの間まで敵だったくせに、今では昔からの旧臣みたいな顔をしているのだから大したものだ。

ちなみにセレストエイム天上国は一時的なものだ。

誰に認められたわけでもない。

領土は飛空艇ということになるだろうか。

私が帰ったら本物のセレストエイムに併合される予定だ。

ともかく一度、あの2国に思い知らせる必要があるのだ。

対等な立場で。







「トモシビちゃん……」

「気にしたらだめ」



フェリスが落ち着かない様子で尻尾を尻尾に絡めてきた。

澄まし顔でお茶を飲む私。

チラリと観衆に流し目を向けてみると、彼らは目を逸らした。



「で、でもちょっと恥ずかしいわ……」

「大丈夫、ここは私の国、だから」



エクレアもクロエも気まずそうだ。

何しろ360度グルリと観衆に囲まれた中でのお茶会である。

ファンではない。おそらく彼らはウルスとウガヤフキアエズからの偵察だ。


通告を出した次の日、朝起きて下を見ると誰もいなかった大地にまばらに人影があった。

獣人、商人らしき者、羊を連れた者、軍人らしき者、背格好は様々だが全員が空を見上げていた。

ショコラを旋回させても逃げない。

私達で話し合った結果、彼らを両国の偵察隊と結論付けた。

私の本気度を計りかねて、様子を見に来たのだろう。

我ながら子供の戯言と思われてもおかしくなかった。


しかし何はともあれ、せっかく偵察に来てくれたのだ。

しっかり私の絢爛たる帝国を見て帰ってもらいたい。

そんなわけで、私は地上に降りてお茶会を開く事にしたのだ。

ショコラの背中の上で、である。



「これはまた変わったお茶ですわねえ」

「これはウルスの黒茶ですね。ほのかに甘いのは発酵が進んでいるからだと思います」

「仰る通りです。さすがはメイさんですわ」



アナスタシア達とエステレアは緊張とは無縁である。

このトロリとした質感のお茶はいわゆるプーアル茶だ。お土産にしようとウルスで買っておいたものである。

ティーカップで飲むのもまた乙なものだ。

ちなみに、例によってこの場には女子しかいない。

全員学園の制服姿だ。

私の国は華やかな少女の帝国でなくてはならないのである。



「それにしても……そのセレストエイム天上国ですけれど」

「うん」

「わたくしの扱いはどうなるのかしら? 一応これでもグランドリアの王女ですわよ?」

「仲介役、とか」

「私は!? 私は皇族よ!」

「エル子は友達」

「……ふ、ふん。まあいいわ」

「おおー……」



アナスタシアもエル子もやんごとなき家柄である。

会談にこの二人を加えたら、西方南方東方から五カ国の王族が揃うことになるのだ。

そんな豪華な顔ぶれが揃うのは史上初の出来事ではないだろうか。

観衆が少しうるさくなった。

私たちの会話が聞こえているのだ。



「フェリス、苺大福、半分こしよ」

「わぁ、切り方綺麗だねトモシビちゃん」



エステレアが苺大福を、漆器の和菓子切りでスッと切る。

切る動作一つとっても気品というのは出せるものだ。その点エステレアは完璧である。

私はその片割れを菓子楊枝で刺すと……フェリスの口に運んだ。

ぺろりと食べるフェリス。

食べた後、舌で唇を舐める様子が実に猫っぽい。



「はいトモシビちゃん、お返し」

「あむ」

「おおー……」



今度はフェリスが差し出す片割れを食べる。

そして口直しのプーアル茶。

こんな組み合わせでも意外と合うものだ。

ちなみに、さっきから変な歓声を上げているのは観衆だ。

洋の東西を問わず、美少女同士がイチャイチャしているのはウケが良いらしい。



「本当に来るのかしらねー」



エル子が言ってるのはもちろんタマヨリやシン王子のことだ。



「来なければお嬢様のお怒りに触れるだけの事ですわ」

「でも貴女怒っても怖くないし」

「大丈夫ですわよ。一方が来なければもう一方がトモシビを独占する事かもしれない……そう思えば来ないわけにはいかないのではなくて?」

「あ、そっか、なるほどね」

「へえ、考えたねトモシビ」

「……」



私は目を背けた。

そうか、言われてみるとそうかもしれない。

2国は互いの様子はわからないのだ。

ならば、この観衆も互いが抜け駆けしないように監視するため……という目的もあるかもしれない。



「その通り、ですのでトモシビ様はわざわざお姿を晒しているのです」

「そうだったのトモシビちゃん!?」

「あえて監視されるってことね」

「てか、カサンドラさんも制服着なくても……」

「仲間外れは寂しいですから」



よく分からないけど、私は正しかったみたいだ。

私はドヤ顔で髪の毛をサラリと払った。

観衆が沸いた。

人の真意など分からないものである。

この人達だって私の美貌に感嘆しているなんて確証はない。

でも私がそう思っていればそうなのだ。

私は当たり前のように国を動かす為政者や王ではない。

たかだか辺境伯の娘である。

それでも偉そうな振る舞いだけは彼らにも負けない自信がある。

自信を持って振る舞えば、もうほとんど本物みたいなものだ。


一向に減らないどころか増えていく偵察を無視して、私達はそのまま夜までショコラの上で過ごしたのであった。







さらに一晩が明けた。

良い天気である。

甲板から地上を見下ろすと、また人影が見えた。

いや人影どころではない。



「軍隊が来てるようだね、しかも両軍」



私の隣にアスラームが並んだ。

今は何の準備もしてない寝巻き姿なので来ないで欲しいのだが、彼は意外とデリカシーがない。



「警戒されたのかしらねえ」

「相手国がどうくるか分からないからじゃないかな」



何万、もしかしたら何十万もの兵士がいる。

真ん中で綺麗に分かれた両軍は、とても友好的な雰囲気には見えない。

せっかく和解したのにまた火種を作ってしまった……とも思うが、私は自分を平和の犠牲にするつもりは毛頭なかった。


自室へ戻った私は直ちに戦闘服に着替え始めた。

衣装は制服の豪華バージョン、頭には赤黒のコサージュ、靴はヒールのブーツ。



「くふふ……魔王姫の名に相応しいオーラかと」

「お嬢様は天使です」



良いとこ、堕天使だろうか?

鏡に映る吸血姫じみた美貌の少女が口の端を釣り上げて笑った。



イギリスの近くにシーランド公国とかいう国(?)があるそうですね。海の上の建物を不法占拠して独立宣言したらしいです。

トモシビちゃんの国も大体そんな感じですね。


※次回更新は5月3日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかよくわかんないうちに勢いで複数の国を併合する話はありますが、それを世界規模でやっちゃう話は中々ないですよね。 戦記系世界統一ものとかに対するカウンターパートみたいでユニーク。 [一言…
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