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アイドルの衣装はとても扇情的です

※3月30日誤字修正&文章校正、ご報告ありがとうです!



「アナスタシア」

「やっぱりここにいましたわね」



アナスタシアと両手でハイタッチして、その手を繋いだまま左右に振る。

アナスタシアは困ったような顔をした。



「まったくもう……どうしてこの子はいつも行方不明になるのかしら?」

「私は猫姫だから、きまぐれ」

「猫姫?」



首を傾げるアナスタシアにアスラームが口を出した。



「なるほど、猫姫さんはここでやる事があるんだね?」

「うん」

「議会とは一線を引いて、君自身の目的で動く。そういうことかな?」

「だいたいあってる」



アスラームはいつも通り言わなくても分かってくれているらしい。

どうやら私の計画は話すまでもないようだ。

ドラゴンと戦うにしろ議会に逆らうにしろ、味方の存在はそれだけでありがたいものだ。



「そなたら猫姫を連れ戻しに来たのではないのか?」



タマヨリは訝しげに尋ねた。



「そういう命令は受けていますが、守る気はありません。我々は猫姫さんの味方ですから」

「……ふん、信じよう」

「ありがとうございます」

「滞在は自由だが猫姫宮は男子禁制、みだりに近づかぬようにな」



猫姫宮とは私が寝泊まりしてる建物のことだ。名付けられたのは一昨日である。

この国に着いたのも一昨日なのだが、彼女はとても私を大切にしてくれた。

夕食を共にし、膝の上で撫でられ、寝屋を共にし……まるでペットショップで一目惚れした愛猫に接するかのごとくである。

玉座の隣には私の席も作られたし、爪研ぎ板もくれた。

私は使わないのでフェリス用になった。


ちなみに私はこのウガヤフキアエズ国が獣人の国であることは知っていた。

一年前、実家に帰省した時ヨシュアに聞いたのだ。

私の猫人コスプレは評判が良いので、それで行けば心を許してくれると思ったのだが……どうやら効きすぎたらしい。

再会を喜ぶ私達に、タマヨリはまだ不機嫌な目を向けたのだった。







私の計画の第一歩として、まずウガヤフキアエズ国を征服する必要がある。

もちろん武力制圧するという意味ではない。魅力で制圧するのだ。

グランドリアのようにファンをいっぱい増やすのである。



「みて、エステレア」



私は猫姫宮に設置された姿見の前でクルリと回ってみた。

頭の片側につけた瀟洒な飾りが重い。

アナスタシアが持ってきた新作の東方風ゴスロリだ。

グランドリアを出発する前、私は服飾魔人のルビオラに服を注文していた。それを届けてくれたのである。

着物タイプで今までより東方っぽさは増しているが、下半身の作りは着物タイプではない。

裾が短い。

やたら足を測っていたのはそのせいか。

黒いアンダースコートみたいなのがセットなので、むしろ見せていけと言うことなのだろうか。



「はぁぁぁぁ……」



エステレアは両手を口元で合わせて上擦った声を出した。

目が潤んでる。

ちなみにエステレアも東方っぽいメイド服である。

皆の分も作ってくれたのだ。



「ここが極楽浄土なのでしょうか。私、心臓の高鳴りが止まりません……」

「生足とニーハイ、どっちにしよ?」



アイドル的には生足だろうか?

獣人は耳と尻尾しか興味ないのかな?

尻尾を自分の太ももにまきつけてみる。



「んんんんん!」



その瞬間、エステレアが突っ込んできた。

例によって押し倒される私。エステレアは露出した太ももに顔を擦り付けた。



「もうダメですお嬢様……! 私、お嬢様をどうにかしてしまいそうです!」

「もうしてる……」

「こんなものではありません。もっと……全身で味わって、味わい尽くしたいのです」



太ももに柔らかいものが吸い付いて、私は身を捩った。

キスマークでも付ける気だろうか?

それは困る。この衣装を着て街に出ようと思ったのに台無しだ。

私は押し倒されたまま上半身を動かし、エステレアの頭を掴んだ。

エステレアが頭を上げる。

私はそこを狙って顔を近づける。

エステレアを止める方法はいつも通りだ。ちょっとキスをするだけ。

本来とてもウブな彼女はただそれだけで止まる。

だが、今回はいつもと違った。



「はむ!」

「!?」



彼女が自ら私の唇を奪ってきたのである。



「は……ふっ、お嬢様……んっ、美味しい……」



軽い口付けを何度もされる。

その度、私の頭の奥が侵食されるように甘い痺れが広がる。

これは……やばい。

抵抗する気がなくなる。脳がかき回されるみたいだ。

エステレアの手が尻尾の付け根に伸びる。

私は次にくる刺激に対して身構える……そこで、ドサリとエステレアが倒れた。



「……エステレア?」



私に覆い被さって動かないエステレア。

息はしてる。目を閉じて軽く微笑んでる。

気絶したのだろうか?

興奮しすぎて頭の血管が切れたとか……。

私の顔から血の気が引いた。



「クロエ……」



クロエが必要だ。

早く治療しなければ死んでしまうかもしれない。

頑張ってエステレアの下から這い出すと、クロエが普通にエステレアを診ていた。

なぜここにいる? という疑問は無意味だ。なぜなら最初からいたからである。

姿が見えなかったのは、襲われた時外に出て覗き見に徹していたからだ。



「大丈夫です。ただの気絶ですね。限界以上の快感で気を失ってしまったみたいです」



クロエは何事もなかったかのようににこやかに診断結果を告げた。

押し倒して一方的に攻めてる方が快感で気絶とは前代未聞であろう。



「快感?」

「たぶんキス……ふふふ、キスで気持ち良くなったんじゃないでしょうか?」

「キスしたら、気絶するの?」

「エステレアさんですし、してもおかしくはありませんよ」



そういえば前もキスしたらおかしくなっていた。

エステレアだからということで誰も気にしてないけど、ひょっとするとキスで動きを止めてしまうのもそういう事だったのかもしれない。


私はそんなことを考えながら服の裾を直し、手で髪を整える。

その自分の姿を鏡で見て、私はドキリとした。

我ながら扇情的な姿だ。

閉じた脚は自然と揃えられ、寝台に腰掛ける姿には色気と気品が同居している。

他ならぬ自分でもそう思うのだから、変態が群れを成すのも仕方ないとも思う。



「お、お嬢様……」

「あ、気がつきましたよ」



エステレアが目を開けた。



「申し訳ありません、お嬢様が小悪魔ちゃんすぎて我を忘れてしまいました」

「エステレア、大丈夫?」

「お嬢様を十分に摂取いたしましたので、当分は問題ありません」



先程の痴態は何処へやら、冷静である。

まあ良いか。

私達も慣れたもので、特に拘泥もせず街に出ることにした。

皆で東方風の服を着てお出かけだ。

ただの観光ではない。

これもまた、私の野望への第一歩なのである。







私はエロかわいい衣装を身に纏って静々と街を練り歩いた。

よく見えるように私が先頭で歩き、エステレアが日傘を持つ。

日除け″窓″を使わない理由は高貴さの演出だ。



「あ、あれ、あれじゃない? 猫のお姫様」

「え、ちっちゃくてかわいー」

「猫姫様ー」

「……呼ばれてますわよ?」



私が尻尾を振って答えるとキャーという黄色い声が上がった。

私の知名度はもう既にけっこう高い。

タマヨリがドラゴンを追い払う猫の姫として国民に宣伝したおかげだ。

何も言ってないのに私の望み通りの展開にしてくれたわけだが、望み通りすぎて怖い。



「おい、見ろよあの尻尾……」

「エッロ……」



こんな声もある。

一体この尻尾の何がエロいのだろう?

獣人になっても彼らの感覚は私にはいまいちわからない。

私は彼らにアピールするように髪をサラリと払ってみた。

おー、とため息のような声がした。

誰もが私達を目で追っている。

彼らはレプタットの獣人とは違ってヒューマン的な美的感覚も持ち合わせているらしい。

自分の可愛さを讃えられるこの感覚だけは何度味わってもたまらない。

王都では皆慣れて見ないように気を使ってくれたりするけど、せっかく着飾ったなら見てほしいと思うのだ。



「あ」



私はとあるお店の前で足を止めた。

そこの売り物が目に入ったのだ。

『いちごだいふく』とある。

前世の記憶がドッと蘇った。



「いらっしゃ…………い」



お店の主人は私を見てポカンと口を開けたまま放心した。



「おじさん?」

「驚いた……お前さんすげえ美人さんだな。今日はいい日になりそうだ」

「私が来た時点で、人生最高の日、ちがう?」

「ちげえねえ!」



おじさんは快活に笑った。



「それで何にする高飛車お猫様。何か買って行ってくれるんだろ? これなんかおすすめだぜ」

「私に指図したらだめ。エステレア?」

「はい、お嬢様はこちらを全員分ご所望です」



苺大福を8人分購入して、店先にあるベンチに腰掛ける私達。

箱を開けると白い粉がまぶされた大福が入っていた。



「綺麗なお菓子ね」

「これお餅?」



一つ爪楊枝で刺して齧ってみる。

もっちりとした生地を破って甘酸っぱいフルーツの味が口に広がる。

これだ。

これこそ私が求めていた前世の故郷の食べ物だ。



「あら、美味しい」

「苺がいいアクセントになってますね」

「貴女食いしん坊だから見ただけで美味しいもの分かるのね」



どうやらエル子の中では、私は完全に食いしん坊キャラになってるらしい。

私はエル子の挑発に構わず、優雅にお茶を飲んだ。緑茶である。

東方と西方の作法は違うが、私はどちらも知っている。



「猫姫はどこででもすぐ人気者になるんですわねぇ」

「お嬢様ですので」

「好きこそ物の上手なれってやつですね」

「そうねぇ、わたくしなんて国から出たらだーれも知らないただの学生なのに……本当は貴女のようなのが王女になるべきだったのかしら?」



アナスタシアが黄昏れてる。

どう答えたらいいのかわからないので私はまたお茶を飲んだ。



「そうそう、知ってる? 議会が」


「猫姫様!」



アナスタシアが何か言いかけたが、走り込んできた誰かにかき消された。

ウガヤフキアエズ国の兵士みたいだ。たぶんこっそり私に付いて来ていたのだろう。



「ドラゴンが現れました! ご助力をお願い致します!」

「ドラゴン……!」

「来たね、トモ、猫姫ちゃん」

「どうかご助力を……時は一刻を争います」



私は湯呑みを置き、髪をサラリと払って立ち上がった。



「まかせて」



アイドルの衣装とかアニメキャラの衣装って可愛いですけど、日常的に着れるようなものじゃないですよね。

トモシビちゃんはそこを曲げて日常的に着てます。

好きだから苦にならないんでしょうね。


※次回更新は4月5日になります。

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