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貴種流離譚ごっこ

※3月17日、誤字修正。



魔王軍の行方を調査する。

そして、東方の国が襲われていたら本国と連携して助ける。

ついでにそれをきっかけに仲良くする。

大体この3つが私の任務だ。

しかし蓋を開けてみれば、現実は魔王軍が東方の国と手を組んで東方の国を襲っている。

このケースは考えていなかった。

いくら予想しても現実はそれを超え、思いもよらない方向へ進んでいくものである。



「なんか面倒な事になってきましたね」

「今のうちに叩くべきじゃない? 魔王軍が力蓄えたらグランドリアに復讐に来るかもしれないわ」

「魔物ってあんまり復讐とかして来ないイメージですけど」



私達は現在、与えられた部屋で作戦会議をしているところである。

魔物は基本的に野生動物のようなもの、とは学園でも教えてることだ。

動物というのは恨みつらみを晴らすより、リスクを回避する習性がある。

人間に害をなす個体を駆除したからといって復讐に来る動物は少ない。

感情がないわけではないが、過去の出来事のために未来を閉ざすことになっては本末転倒ということだろう。



「魔王軍はどうするつもりなんだろうね?」

「少なくとも、ドラゴンがトモシビ様を諦めることはありません」



カサンドラが断言した。

彼女ら魔人は私を魔王の後継扱いしているが、それを認めないのが今の魔王軍だ。

ちなみに私も後継になった覚えはない。しかし魔物を配下にしているのも事実である。

客観的に見たら、ちょっと平和的で可憐で高貴で可愛いけど、魔王には違いないだろう。

それでついたあだ名が魔王姫というわけだ。

そして現魔王軍は私を殺すと魔王が復活するとか思ってるらしい。

私を殺せば封印された魔王の力が解き放たれるからだ。



「以前の貴女みたいに?」

「仰る通りです。しかしそれがいつになるか、どのような行動を取るかは分かりかねます。彼らの感覚は魔人とも違いますから」

「要は何してくるか分からないってこと?」

「その通りでございます」



そうなるとやっぱり何とかしなきゃならないのだろうか?

しかし私に国家間の問題に首を突っ込む権利などないのだ。

グランドリアにもない。

ちなみに、先程先生にメッセージを送ったら待機を命じられた。

議会がそう言っているのだそうだ。

議会は現在会議をしているらしいが、不介入の線が濃厚らしい。

議会にしてみれば遠くに追い払った猛獣をわざわざ刺激しようとは考えないだろう。



「どうしようトモシビちゃん? 待機する?」



私は悩んでいる。

悩んでいるということはつまり待機命令が気に入らないということだ。

もちろん私も積極的に戦争したいわけではない。

ただ放置するには不安だし、今まさにドラゴンに襲われかけてる国があるのに待機というのもあんまり気が乗らない。


しかしそうは言っても私はグランドリアの使者なのだ。

議会の命令には従わなくてはならない。

いくら私が英雄でもセレストエイムのお嬢様でも、私は命令される側で、命令をするのは議会だ。

グランドリアの行政機関、実質上の支配者である議会の意思と私の意思、どちらが優先されるべきだろうか?


………………当然、私だ。



「やっぱりやめた」



腹が立ってきた。

なんで議会のロリコンおじさんに命令されなきゃならないのだ。

私には野望がある。

私は最強になって最かわになって、世界の全てを手に入れる。

いつか全世界を私の魅力で跪かせるのだ。

たかだか数人のロリコンおじさんの意思に従うために生きているのではない。



「えっ、待機しないの?」

「ウガヤ国にいく」

「怒られるよ〜」

「大丈夫、私の方が怒ってる」

「なんで貴女リスみたいな顔してるの?」

「ほっぺを膨らませるのがお嬢様にできる精一杯の怒りの表現なのです」



エステレアは私を猫のように持ち上げると、膝の上に設置して撫ではじめた。

どうやら私は人の下につける性分ではないらしい。

私の自由を縛る者は許さない。拘束していいのは寝起きのエステレア達だけだ。

怒られたら怒り返す。倍返しである。



「でも東方の国との関係がこじれちゃうんじゃない? 貴女の勝手な行動でグランドリアが迷惑しちゃうかもよ」



エル子は王族だけあって国の事をよく考えているようだ。

たしかに私に勝手な行動に振り回される国は堪らないだろう。

しかし……それなら一体誰が国の方針を決定する資格があるというのか?

私に命令を下すおじさん達は、当然とばかりに私と国家を振り回しているではないか。

気に入らない。

分からせてやらなければならない。

ロリコンおじさん達のプライドは私に屈服させられるために築き上げられたのだと。



「私、使者やめる」

「えっ?」



良い方法を思いついた。

議会のおじさん達に分からせることができる上に、国にもなるべく迷惑をかけないやり方だ。

私が国の代表として行動しなければ良いのである。



「使者はやめて個人として動くっていう事ですか?」

「うん」



そしてその上で結果を出す。

議会のおじさん達の思慮を上回る方法で、最高の結果を出せば誰も文句は言えないはずだ。

私は今からただの旅人になる。

西方から流れてきた謎の美少女だ。



「みんなで、貴種流離譚ごっこ、しよ」







私達は挨拶も早々にウルス国を離れた。

私達が来る前にウルス軍が遠征に行ったのなら、時間の猶予はない。

ただ、たぶんドラゴン達もある程度ウルス軍に歩調を合わせるはずだ。

一方、私達はドラゴンの全力にブースターを追加して飛ばしている。

つまり私達の足は彼らより大幅に速い。

急げばウガヤ国が滅びる前に付くと思う。



「ねえ、トモシビ・セレストエイム」



ベッドでゴロゴロしている私にエル子が声をかけた。

ドラゴンの背中に設置した簡易ソファにはウルスで購入したベッドカバーを敷いてある。

サンダーウールをふんだんに使った良いものだ。



「私も設定考えたの。南の大陸から来た謎の美少女エルフで、実は貴女達下僕とともに世界を救う旅をしてるの、どう?」

「私の設定、かえたらだめ」

「いいじゃない。ウルスでは私侍女扱いだったんだから」

「ただの旅人って名乗るなら裏設定いらなくないですか?」



いらないけど、楽しいから良いのだ。

地上を見渡すといくつか街を通過したようだが、特に被害は見られない。

まだここら辺はずっとウルス国の領土なのだ。

出発の際、シン王子にウガヤフキアエズ国について聞いておいた。

ウルスの東側に接している国で、最近やたらと軍を増強して調子に乗ってるらしい。

地図を見せてもらった限りではウルスからセレストエイムまでと似たような距離があった。

旅人がドラゴンに乗っているのもおかしな話なので、国境付近からは慎重に行くつもりである。


とりあえず到着まで少しばかり時間はある。

私達はまた空の旅を楽しみつつ、宿題に勤しんだのであった。









夜の帳が下りた空を切り裂いて、私達は進んで行く。

すっかり生活空間と化したショコラの背中で夕飯のウルス餃子を食べていると、不意に前方に閃光が走ったのが見えた。



「光った?」

「光りましたね」



そう話してるとまた光った。

私のレーヴァテインのように一直線に空から地面へ走る閃光。

夜空にとても映える美しい閃光だが、その光量はただごとではない破壊力を物語っている。

ひょっとしなくてもドラゴンブレスだ。



「戦ってる最中に着いちゃったんだね」

「助けよ」



予想外だが予定通りだ。

ウガヤフキアエズに加勢する。

この闇なら黒いショコラの姿は見えないだろう。

高度を上げて空から奇襲しよう。

ショコラが機種を上げ、垂直に上昇する。



「総攻撃ですね……」



上から見るとよく分かるドラゴンにワイバーン、エイの魔物などなど……それに地上には人間の軍隊もひしめいている。

それらが壁で囲まれた街を襲っていた。

多分これがウガヤフキアエズ国だろう。

地上から大きな火球が放たれ、ワイバーンが爆発して墜落する。

ドラゴンのブレスが城壁を破壊する。

そこへウルス軍が雪崩れ込んで行くのが見える。

私達は戦火飛び交うその空間に飛び降りた。







「フェリス、エクレア、クロエ、めすいぬは、下……無理しないで」

「うん!」



ドラゴンシールドを抜けた瞬間、私の髪の毛がパラシュートみたいに垂直になびいた。

ウルス正規軍の強さは未知数である。とにかく街の人を助けて追い払えば良い。


生温い感触の雲を突き抜け、私はスカートを押さえて木の葉のようにクルクル回りながら落下する。

具合悪くなりそうだけど我慢である。

魔物は魔力に敏感だ。

直前まで魔力は使わない方が良い。

皆は大丈夫だろうか?

回転する視界で周囲を見渡せば、全員完璧な姿勢制御で落下しているのが見えた。

回ってるのは私だけだ。

なぜ私だけこんな下手くそなスカイダイビングみたいになるんだろう?

悲しい。

エステレアが空中で抱え込んで安定させてくれた。



「赤いやつ」

「はい」



3体のドラゴンが見る見る内に近づいて来る。

最初の目標はよく目立つレッドドラゴン。

まさか彼らも自分たちより上から攻められるとは想像できまい。

と、思ったら、ドラゴンがクルリと宙返りした。



「バレてるじゃない!」



ドラゴンの口には既にブレスの凶暴な輝きが蓄えられている。

最初からバレていたのか。

気付いてないフリして、私達の不意打ちを逆に不意打ちするつもりだったのだ。

ノーロックで盗塁を阻止する投手みたいに。



「エル子、エル子シールド」

「わかってる!」



私はいくつかの″窓″を前面に展開した。

空間操作の終点の式が組み込まれた″窓″だ。

アルグレオでエル子達が使ったやつである。

ブレスが放たれると同時にエル子の杖が光った。



「お嬢様!」



熱線が目の前に迫り、私は思わずギュッとエステレアに抱きついた。

熱線は私達の目の前で歪曲し、そのまま跳ね返されてドラゴンの胴体に直撃した。

どうやら成功したらしい。エル子と私の合作、歪曲空間だ。


怪鳥みたいな鳴き声を上げるレッドドラゴン、その頭にトンと飛び乗る。

″窓″を出す。

位置はドラゴンの頭の中。

ドラゴンなんて怖くない。

ちょっと快感を与えてあげたら、すぐ情けない声で鳴いちゃうのだから。



「ワンちゃんみたいに……してあげる」



ショコラの時よりより何倍も強力な魔力信号。

ドラゴンの体が一瞬ビクリと跳ね上がり、全身がミミズのようにうねうね動き始める。

私の足が浮く。

ドラゴンが墜落しているのだ。


さらに追撃をしようとした瞬間、違和感を感じた。

左右に魔力の渦がある。

咄嗟に急上昇する。先ほどまでいた場所を熱線が通り過ぎた。

残りのドラゴンのブレスだ。

その隙にレッドドラゴンは体勢を立て直し、地面スレスレを滑空する。

怪鳥のような鳴き声が戦場に響き渡った。

残りの2体も私達から距離とる。

下の戦場からもラッパみたいな音が響いた。

どうやら撤退の合図らしい。

去っていくドラゴンを見送る私達。



「逃がしていいの?」

「うん」



それでいい。

私の目的は魔王軍の殲滅ではないからだ。

私達はそのまま静かに落下にしてフェリス達と合流

した。



「ドラゴンが……」

「な、何者だ?」



兵士達が私達を取り囲み、破壊された城壁からは住民が覗いている。

私はその畏怖と好奇の入り混じった視線をたっぷり浴びると、スカートの端を持ち上げてカーテシーをしてみせた。



ドラゴンの鱗は硬いので武器もあまり通りません。

なぜか弱そうになってしまいますけど超強い生き物ですね。


※次回更新は3月22日になります。

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