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その程度で珍獣ズラしないで下さい



シン王子はのそのそと起き上がると、私の手の甲にそっと口をつけた。



「こ、こんな感じでいいのかな……」



お腹の奥からゾクゾクとした感覚が這い上がる。

誰かが私に跪いて忠誠を誓う……どうも私はこれが好きらしい。

たぶん前世の自分にはこんな趣味はなかったはずだ。

これは私が小さな少女だからこその趣味である。

幼くて儚げでいかにもか弱そうな美少女だからこそ意味があるのだ。


不意にピコンと音がした。

私の脳内だけで聞こえる特別な音だ。

″窓″を開く。



「……?」



ペットに何かが追加されている。

名前が文字化けしててよくわからない。

私は目の前のシン王子を見た。

ペットに人間は登録できないはずだ。

でもこのタイミングでペットになる生物なんて他にいない。

まさか……。



「なんだろう、すごく気分が良いよ。心が温かい」

「う、うん」

「劇で見た姫に仕える騎士になった気分だ。王子なのにおかしいかな? その美しい足にも口付けしたいよ」



おかしい。

もしかしてなんか体に魔物ノミとか付いててそれがペットになったとか? いやしかし、それにしたってなぜ名前がバグってるのだろう?

やっぱり彼自身が魔物としか思えない。

このペット機能は人間が変化した魔人は人間とみなすらしく、ペットにならない。

なるとしたら完全なる魔物だ。

魔物が人間に化けてるということだろうか?

それとも……。

……いや、変な目で見るのはよそう。



「そ、そんなに、おかしくない」



おかしいのは私も同じだ。

ちょっと動揺したけど大したことはない。

仮に彼が人間っぽいだけの魔物だからといってなんだというのか?

私なんて魔物でも人間でもない謎の魔王種だし魂はメイドイン異世界だ。

人間っぽい魔物という程度で珍獣ヅラしないでほしい。



「あなたは、ぜんぜん普通。自信もって、どうぞ」

「……ありがとう、心に響くよ」



喜んでる。″窓″のペットステータスでも見えるし、魔力で感情が伝わってくる。

本当に彼がペットになったらしい。

彼はスッキリした顔をして立ち上がった。



「これがグランドリア流の仲良くなる方法なんだな……本当にさっきよりずっと君を身近に感じる」

「……そっか」

「生まれ変わったみたいだ。今なら貴女のためにドラゴンすら倒せる気がする」

「それは、明日やって」

「そうだね、もう寝よう。おやすみ僕の魔王姫」



そう言ってウインクをして出て行った。

なんか馴れ馴れしくなってる。ペットになったせいだろうか?

どちらかと言うと気持ちの良いものではない。

シン王子は世間的に言えばイケメンの部類だろう。でも私は男性に対して全く恋愛感情を持てないのだ。

前世の呪いか今世の性癖かは分からないが、そうなのだから仕方ない。

そう考えるとペットにするというのは彼らの変態的性欲を捌くには悪くないやり方だ。

まさかシステム的にペットに収まってしまう人がいるとは思わなかったけれど。







次の日、私は付近の探索をするために街を出た。

魔王軍が来る確証はないし、いつになったら来るのかも分からない。

ならばただ待ってるよりやつらの痕跡を探すなどした方が有意義だ。

私は十分に街から離れたタイミングで、皆に昨日の夜のことを話してみた。



「ただの変態じゃない」

「星空見ようとか自分に浸っててキモいわ」



彼は一瞬にして嫌われてしまった。

星空デートはNGらしい。

私は良さそうなシチュエーションだと思ったんだけど。



『くそ、お主らワシ抜きでキャッキャするな』



通信用の″窓″から先生の声がする。

音質は良好なようだ。

本来こんな距離では通信など不可能だが、私と愉快な仲間たちの技術はそれを、不可能を可能にした。

天脈に乗せて情報を伝達する手法を開発したのである。

この技術があれば遠く離れた地でも端末からメッセージくらいなら送れる。

魔王領にいた魔人がメッセージや写真を送ることができたのもそのおかげだ。

それを私の特殊な魔力で使えば通信すら開けるのだ。

現在、私達はショコラに乗って地上一万メートルの上空にいる。

ここなら天脈のおかげで魔力の消費もないし、内緒話にも打って付けというわけだ。



『魔物が人間になった例は聞いたことないのう』

「ないですか」

『しかし人間に化ける魔物がいないとも限らん。警戒しておくに越したことはない』

「ヘタレの変態だけど、悪い感じではなかったけどね」

『お主ら少し魔物を信用しすぎておるのう』

「魔物だからって、さべつしたらだめ」

『なんじゃこいつ、良い子ちゃんしおって』

「私は、委員長だから」



私は2年生になっても当然、委員長である。

私は一応捕虜となった魔物の身元引受人のようなものなので、魔物への悪評を立てられるのはよろしくない。



『それとは別の話じゃが、人型の魔物から進化した限りなく人間に近い魔物かもしれん』

「へ〜そんなのいるの?』

『知らん。しかし、あのグレンデルだって繁殖が進めばニンゲンと見分けが付かんようになるかもしれんぞ』

「グレンデル?」

『お主がオーク亜種とか呼んどる魔物じゃ。正式に名前が決定した』



どうやら私のネーミングは却下されたらしい。

私はがっかりした。



『グレンデルの知能は人間と変わらん。いや同じ年齢での比較なら人間より上じゃ』

「そういえば、あの魔物って生まれて一年も経ってないですね」

『魔物は基本野生動物じゃ。早熟でなければ生きていけん』



あのグレンデル……いやオーク亜種は魔法陣と魔物製造機の相互作用で生まれた特殊な魔物だ。

もしかしたら昔もそういうことがあって、それでシン王子の先祖が生まれたのしれない。



『だとするととても希少な例じゃな』

「私の方が、珍獣」

「トモシビちゃん、それ自慢だったの?」

『ともかく魔王軍の動きはわかった。援軍を差し向ける故、ウルス国に伝えておくが良い』

「わかった」



多分、セレストブルーが来るのだろう。魔物王子の件はとりあえず今は警戒対象とするだけだ。

私達がショコラの背中で会議をしていると、不意に高度が下がり始めた。



「何ですか?」

「何か、みつけたみたい」

『通信はこれまでじゃな。あー……なるべく早く帰って来い。お主らの無事を祈』

「ありがと」



私は″窓″を消して通信を切ると、ショコラの竜体の端っこに寄って眼下を覗き込んだ。


草原に蟻の行列みたいなのができていた。

隊商だ。

馬車や荷馬が何キロもの列を作って草原を横切っている。

隊商なら各地の情勢にも詳しいはずだ。魔王軍がどこにいるか知ってるかめしれない。

話をしてみる価値はある。

さらに高度を下げようとするショコラに私は命令した。



「ショコラ、ここで止まって」



突然ドラゴンが降りてきたら驚くだろう。

生身で行くべきだ。

私はショコラの鼻にご褒美のラム肉を突っ込むと、プールの飛び込みみたいにして地上へダイブしたのだった。







それから約2時間後、私は宮殿をツカツカと歩いてエン帝の元へ向かっていた。

留守番していたカサンドラが出迎える。



「おかえりなさいませトモシビ様」

「めすいぬ、ついてきて。エン帝を、問い詰めてあげる」

「恐れながら方向が逆でございますが……」



振り向いてまたズンズン進む。

今の私は少々機嫌が悪い。

何回か道を間違った後、私は帝の間へと続くドアをバン勢いよく開け……るつもりだったけど重くて開かなかった。

エステレアが開けてくれた。



「エン帝ー」

「どうした魔王姫? シンと鬼ごっこか?」

「ウルス国は、魔王軍に降伏したって、ほんと?」

「……誰から聞いた?」



エン帝の笑みが消えた。この反応は本当っぽい。

隊商から聞いた話だ。

なんでもウルスは魔王軍に襲われて、家畜を差し出して難を逃れたらしい。

それだけではなく、魔王軍に領土の一部を割譲したそうだ。

ウルスはこの辺りの草原を支配している国である。

つまり、この草原の西側は新しい魔王領というわけだ。



「降伏というのは正確ではない。同盟を結んだのだ。我らは羊を差し出す。魔王軍は我らを守る」

「情けないわね」

「騙していたことは謝ろう。しかし魔王姫なら分かるのではないか? 魔物と戦うより味方につける方が賢い」

「む」



彼の考えは私と同じだ。私は言葉に詰まった。



「グランドリアに統一されている西方とは違い、東方は群雄割拠だ。独立を保つには力がいる」



ウルス国は魔王領との緩衝材として今まで存在してきたのだそうだ。

いきなりドラゴンが飛んでくる領土なんて誰も欲しがらない。

ウルスの人たちは古くから魔物を操る才能があった。その才能で魔王領の脅威を恩恵に変えてきたのだという。



「魔王領が滅びればこの国も危うい。例え領土が削られようがドラゴンは得難い戦力だ」

「で、でも魔王軍ですよ?」

「魔物は信用できる。彼らは純粋だからな。そうだろう魔王姫?」

「……たしかに」

「人間と魔物の共存、それが我が国の国是だ。魔王姫よ、姫もそうではないかね?」

「そうかも……」

「トモシビちゃん……」



そんな目で見ないで欲しい。

言われてみると彼らは何も悪くない。私のやってることとあまり変わらない。

要はドラゴンを傭兵にしたのだ。

攻め込んできた相手に領土を与えてただ飯を食らわせてるのだから降伏と言えば降伏ともいえる。

でもそれでうまく行ってるならプライドを捨てて実利を取った上手い手だ。

私は何も言う権利はない。


でも厄介なことになった。

ドラゴンを攻撃したらウルス国の敵になってしまうのだ。これで簡単にはいかなくなった。



「嘘をついたのはすまなかった……それで、どうする魔王姫よ? まだ留まる言うなら歓迎するが、出立するなら止める権利はない」



私は振り返って皆を見た。

迷ったのだ。

予想外の事態である。今日は泊まって明日に先生に連絡、その後の方針を決める感じだろうか?

料理が美味しいし。

魔王軍も領土があるならそこで大人しくしているだろう。

それならもう帰るしかない。



「魔王軍は、新しい巣にいるの?」

「いいや」

「?」

「彼らは遠征に出かけたよ。世界初の魔物と人間の混合軍だ」

「なんですって?」



全然大人しくしてなかった。むしろ状況は悪化している。



「どこに?」

「ウガヤフキアエズ国」



それは私が東方で唯一聞いたことのある国だった。



リザードマンとか獣人の方がよほど魔物っぽいですけど彼らは一応人間です。なんか判断基準があるのでしょうね。


ところで勉強は朝やれって言いますけど、小説書くのは真夜中が一番捗る気がします。睡眠時間減るときついですけどね。


※次回更新は3月15日になります。

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