表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/199

東方お嬢伝



今から13年ほど前、ここより西のセレストエイムの地で美しい白子の少女が生まれたという。

白子のわりに自己主張の強いカラーリングをしていたその少女はその神秘的な容姿に違わず強大な魔法の力を秘めており、おまけに獣のような尻尾を備えていたらしい。

少女の名はトモシビ・セレストエイム、伝説の魔王の再来と噂された魔王姫である。


グランドリア魔法学園に入った彼女はその力と美貌で瞬く間に学園をまとめあげる。

彼女には不思議な才能があった。魔物を従え、自由に使役することができたのだ。それはかつての魔王と同じ才能であった。


そして彼女の名を大陸全土に轟かせた南の大陸との一戦。

熾烈な戦いの果てに勝利を上げる魔王姫。

だが勝利の余韻に浸る暇もなく、彼女は投獄されてしまう。

グランドリアの貴族達は魔王と同質の力を恐れたのである。

3日後、魔王姫の処刑が決定した。

知らされた魔王姫は絶望した。



「私が……私が一体何をしたというの? 国のために戦ってきた私への答えがこれなの?」

「なんか貴女っぽくないわね」

「口調は想像なんでしょうね」



まあ……所詮は伝え聞いた詩を元にした演劇だ。女優も13歳にしては老けてる。

そして魔王姫は三日三晩獄中で過ごし、処刑の日が来た。

引き摺り出される魔王姫。

なんて可哀想な私。

治安部隊で姫扱いされてる現実の私とは大違いだ。

だんだん私も劇にのめり込んできた。



「最後に言いたいことはあるか?」



無言で首をふる魔王姫。

死刑執行人達が槍を構える。

これはもうだめかも分からん。

しかしその時、奇跡が起こった。



「魔王姫を助け出せ!」

「なんだ!?」

「ま、魔物です! 魔物が攻め込んできました!」



処刑そっちのけで右往左往する貴族達。

魔物を率いるのはかつて魔王の部下であった魔人。そして手引きしたのは横暴な貴族に反感を持つ民衆だった。

そして進撃する魔物と民主はついに貴族を打ち倒し、魔王姫を助け出す。



「お迎えにあがりました魔王姫」

「なぜ魔物が私を?」

「あなたには使命があります。魔物と人間が平和に暮らす世の旗印となるという使命が」



魔人は跪いた。

魔物を操る力を持つ彼女こそが魔王を継ぐ者だと言う。

その力をもって魔物を平定してほしいと願い出る魔人。

それは魔物に近しい魔王姫にとっても理想とする世界だ。


こうしてセレストエイムの魔王姫は魔物達を従え、何百年にも渡る魔王軍とグランドリアとの諍いに終止符を撃つこととなった。







「なんて素晴らしい……感動が込み上げてまいります……」



カサンドラはパチパチと拍手をした。感動のあまり涙まで浮かべている。



「これ作ったの魔人じゃないの?」

「色々おかしかったですね」

「とんでもない駄作でしたねお嬢様、口直しに私の膝の上で抱き枕にして差し上げますわ」

「エステレアの口直しでトモシビ様が抱き枕にされるの?」



エステレアは私を膝に乗せて、ぬいぐるみかクッションでも抱くようにギュウギュウと抱きしめた。

歓迎の宴の催し物としてこの『セレストエイムの魔王姫』の演劇が始まったが、私たちへのウケは悪かった。

自分が出てこないのが皆不満だったのだ。

しかも事実と違う。



「どうだった? 吟遊詩人の詩などいい加減なものだ。多分に誇張はあるだろうが……」

「うん」

「ともかくこういうわけで大まかな事情は把握しておる。魔王姫が魔王軍残党を平らげる最終章の舞台がこのウルス国だとは、喜ばしいことだ」



事実と全然違うのに今の状況と大体合ってるのがすごい。

元々、このウルス国は魔物を飼育しており、魔人の交流を持っていた国である。

だから同じく魔物を使役する魔物姫の物語に共感を覚えるのだろう。

私はエステレアの膝の上で烏龍茶を飲んだ。

宴に出た料理はスパイスの効いた羊肉料理がメインだった。セレストエイムと少し似ている。

東方といってもここはまだ大陸の中央付近だ。極東と言うわけではない。

私の求める東方はまだ先にあるらしい。



「あ、やっぱり劇はお気に召さなかったかな? すまない」



シン王子が皆の様子を察して声をかけた。



「大丈夫」

「お嬢様はメイドがいない以外は良かった、と仰っております」

「フィクションとして見るなら良かったですよね」



演技も良いし、盛り上がりどころとあった。唐突に魔人が出てきた以外は引っ掛かるところもなかったと思う。

感想を述べ合う私たち。話題に置いていかれまいとするようにシン王子が声を張り上げた。



「あ、それじゃあ、今度は本物の魔王姫の冒険譚を聞かせてくれないか? 」

「む」

「おお、それは良い。是非とも聞きたいぞ」



私は皆を見た。

私のトークスキルで詩人の真似などできない。

せっかく友好関係を結べたことだし、どうせなら私の真実の話を伝えたい。

幸いにしてここには丁度いい人物がいる。私の行動を書き記すことに余念がないメイド兼神官が。



「クロエ、おねがい」

「わ、私ですか? こほん……」



クロエはやけに話し慣れた様子で語り始めた。







「お嬢様、お部屋につきましたわ」

「うん……」



クロエの語る冒険譚は長すぎた。

中盤くらいで眠気に襲われた私は、エステレアにおんぶされて部屋に戻ることとなった。

皆にはクロエに付き合って欲しいと伝えておいた。歓迎の宴なのだから途中で抜けるのは失礼だと思う。

私が抜ける分、皆には宴に付き合って貰わなくてはならないのだ。

申し訳ない限りである。子供すぎてごめん。

ベッドにゆっくりと降ろされる。

布団を手繰り寄せる私の手をエステレアが止めた。



「いけませんお嬢様、ちゃんとお身体を清めてお着替えをいたしませんと」

「……ねむたいから、このまま脱がして、エステレア」

「お嬢様ったら……ドレスが脱がしやすいタイプで良かったですわ」



ドレスの背中にあるジッパーを開け、力の抜け切った私の体を操作してドレスを脱がしていくエステレア。

さらにブラを剥ぎ取り、ショーツを脱がして完全に裸に剥かれる。



「さむい」

「お湯でお拭きしますから、少々我慢下さい」



温かいシルクの布が私の体を心地よく滑る。

エステレアはどんな時でも寝る前は必ず私の体を清めようとする。

入浴できない時はこうして拭いてくれる。

やられると気持ち良いので余計に眠たくなるのが困りものだ。

顔から始まって、首筋、胸……胸は先端に触れないように優しく円を描く。

そしてお腹に背中、太ももから脹脛へ。

下腹部や足の裏も布を取り替えながら余すところなく清められる。

最後に尻尾を頬に当てて感触を楽しむエステレア。



「さあ綺麗になりましたわ。次は下着を着けて……ふふ、可愛い」

「んー……」

「お嬢様ったらお人形みたいです。そのうちお暇ができたらお人形さんごっこいたしましょうね」



お人形さんごっことは、私を人形扱いして着替えさせたり抱いて寝たりする遊びだ。

エステレアのやることは普段とあまり変わりはない。

ただ私が動けないだけである。


私を寝巻きに着替えさせると、エステレアは自分を清め始める。

私はもう目を閉じているけど気配でわかる。

そして一瞬だか数分だか分からないくらいの後、私の布団がそっと開いた。

いつも通り私を抱きしめてくる柔らかい体を感じながら、私の意識は今度こそ完全に沈んでいった。







私の胸元がブルブル震えた。



「んー……」



何かが振動しているのだ。

私は胸元に手を突っ込むと、それを掴んで捨てようとした。

が、離れない。

肌が引っ張られる感触。どうやら振動する物体は私にくっついているらしい。



「トモシビ……雑に捨てようとしないで下さい」



振動が声になった。スライムだ。

バイブレーションで何かを知らせてくれたらしい。

ギイッという音がした。

床が軋んでいるのだ。

私の意識が浮上し、直ちに状況を理解する。

誰かがこの部屋に忍び込んで来たらしい。

私はエステレアの太腿に挟まれた尻尾を振って合図を送った。たぶんエステレアにもスライムの振動は伝わったはずだ。

エステレアは腕に力を込めて私の顔に胸を押しつけた。やっぱり侵入者に気付いてるらしい。


ギイッと鳴る。近づいて来る。

湧き上がる緊張感。

知らない人だ。

フェリスやエクレア、カサンドラは音なんか立てないし、エル子やクロエはもっと雑に入って来る。

それに足音が重い気がする。

たぶん男だ。

私は尻尾を左右にぴこぴこ動かしてメッセージを送る。

いちにのさんで拘束するのだ。

1、2の……。

3、と数えると同時に、私に密着していたエステレアの体が消えた。



「くせもの!!」

「うぐっ」



彼女は瞬間移動のような動きで、曲者を拘束していた。

床に叩きつけられて腕を極められているのは……シン王子だった。

ゾワっとした。

完全にアウトだ。真面目そうな人だと思ったら一瞬にして性犯罪者に早変わりしてしまった。



「何をするんだ!」

「それはこっちのセリフです。お嬢様に何をするおつもりだったのですか?」

「何をって、ただ一緒に星を見ようと思って……」

「何を馬鹿なことを」

「う、嘘じゃない! 何事にも段階がある。いくらなんでも魔王姫を襲えばこの国の立場がなくなる」



本当だろうか?

しかし確かにそんな度胸のあるような人物には見えない。

腕も立たなそうだし、気も弱そうでいかにも大切に育てられた感じの貴族だ。王都の舞踏会にいた貴族達と少し似てるかも知れない。

ただ本当にそのつもりだったとしても、私の美貌を見た瞬間に心変わりして襲いかかる可能性はある。

私は誰よりも変態おじさんの生体に詳しいのだ。

私は体に毛布まとってベッドに腰掛けると、彼に話しかけてみた。



「……段階って?」

「う、ウルス国では仲良くなるのに夜の散歩をするのが定番なんだ。草原の満点の星を見て語り合う。素敵だろ?」



……ロマンティックだ。

結構素敵かも知れない。

決して彼にときめくわけではないが、そのシチュエーションだけは良い。私の中の歪な乙女心がキュンキュンする。



「お嬢様……」



私はかぶりを降った。キュンキュンしてる場合ではない。

気持ちを切り替える。



「……王子は、ロリコンさんなの?」

「な……」

「ロリコン変態おうじ」

「なんだって? 僕のこと?」



私はシーツから脚を出してプラプラ振った。ショートパンツから見える真っ白い脚に彼の目は釘付けになる。



「変態っていうのは……こうやって小さい子に、興奮しちゃう人」

「補足いたしますと、小児性愛や同性愛などを含めた一般的ではない性癖の持ち主を指します」

「お、怒ってるのか?」

「おこってる」



ロリコン王子が押さえつけられたまま私を見上げた。



「王子は私と、仲良くしたい……の?」

「ああ……」

「して、あげなーい」



王子はしょんぼりした。

やっぱり素直な性格だ。

夜中に女子の部屋に忍び込んで仲良くしようなどと常識では考えられないやり方だが、それがここの文化なのかも知れない。



「でもグランドリアの定番、学んだら……仲良くできるかも」

「グランドリアの定番? それは……」



私はベッドから降り、魔王姫に相応しい笑みを浮かべながら右手の甲を差し出した。


スライムちゃんにバイブレーション機能があります。

骨振動で話したり色々と便利なのですが、基本服の下に潜んでいるのである意味危険です。


※次回更新は3月8日になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ