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ロビー活動は体を使うのが一番です

※3月31日誤字修正、ご報告ありがとうございます!



考えてみると、魔王軍のやりたいことは分からなくはない。

あの地域は近い将来魔力が枯渇するのだ。

魔力がなければ魔物は生きていけない。

ならば、どこかから土地なり餌なりを奪うしかない。



「グランドリアが手強いなら他を攻める。そう考えたのかもしれん」



ヤコ先生の持つ指し棒が、マップ上の魔王領の端から端へと移動した。

魔王軍が東方へ進軍したという情報は私からヤコ先生へ伝えられ、さらに議会へと伝達された。

騎士団ではなく議会へ連絡する理由は、現在騎士団が総司令不在であり、議会によって管理されているからだ。

例のクーデターの影響で王都では軍縮が進められており、軍の権力も大半が剥奪されているのである。

議会という分厚いクッションを挟んだので軍の動きは鈍い。

でもドラゴンに対抗するならまず間違いなく私達が出撃することになるはずだ。

そう思って血気に逸る私達に、先生はホームルームの時間を使って説明し始めた。



「二正面作戦は悪手って授業で言ってなかったか?」

「やつらは縄張りを守るライオンではない。飢えたイナゴじゃ。餌を求めて移動したにすぎん」

「先生」

「なんじゃトモシビ?」



このクラスで手を上げて発言するのは私くらいのものだ。



「援軍、いきたい」

「そんな簡単にはいかん」



先生は腕組みをして、いかにも難しい顔で答えた。



「どうして?」

「東方諸国はグランドリアと親しいわけではない。援軍を送ったとて受け入れてはくれん」

「そんなこと言ってる場合かよ。後ろから攻め込んでぶっ潰してやろうぜ」

「それも悪くはないが……お主らどうも危機感に欠けるのう」



先生はため息をついた。



「前回えらく簡単に撃ち落としたから、今回も鼻歌混じりに楽勝できると思っておるじゃろ?」

「そこまでは思ってねえよ」

「ドラゴンに通じる攻撃などトモシビとセレストブルーの砲撃くらいじゃ。お主らは足止めでも担当するか? 何人かは死ぬことになるぞ」



ツリ目は怯んだ。

ドラゴンに対抗できる戦力はそうそういない。私のお父様でもダメだったのだ。

もしかしたら対魔王戦力であるハンニバル元総司令とバルカ家なら有利に戦えるかもしれないが、どうしたって被害は出るだろう。


大体ドラゴン殺しの実績のある私がいても油断はできないのだ。

例えば空間を180度曲げるようや魔法があればどうだろう? レーヴァテインを返されて飛空艇ごと貫かれて墜とされてしまう。

アルグレオの技術ならそのくらいやろうと思えばできる。ドラゴンもできるかもしれない。



「何にせよ魔人の会話など写真があっても不確かな情報じゃ。まずは事実を確かめねばならん」

「他人事みたいですわねえ」

「実際に他人事じゃからな。それに東方も弱いわけではない。案外返り討ちにするかもしれんぞ」



そう言って先生は話を切り上げたのだった。







数日後、私はドラゴンのショコラの背中に乗って東方に向かっていた。



「そろそろ国境ですね」

「セレストエイムには寄らないの?」

「帰りに、よるかも」



寄り道をしている暇はない。なるべく急がなければならない。

先生の言う通り、事実を確かめに来たのである。

もし襲われていたらその国の許可をとって助けても良い。

ついでに国交を結んだりもできたら上々だ。


そもそも私がぐずぐずせずにショコラを説得に行かせていれば、こんな事は起きなかった可能性はある。

いや説得なんて通じるかは正直疑問だし、責任を感じる必要なんてないかもしれない。

正直に本心を言うと……私は東方に行きたいのである。

以前からずっと興味があったのだ。救援についでに観光したいなど、人の不幸を利用するみたいであまり大きな声では言えないが、自分の心は誤魔化せない。


もちろん無断で出てきたわけではない。ちゃんと議会に許可を受けているのだ。

客観的に見て、私以上の適任などいないはずだ。

私はドラゴンスレイヤーでドラゴンテイマーだ。戦力も可憐さも社会的地位も申し分ない。

問題は年齢だけである。

こんな小さな少女に大人を任せるのは誰だって抵抗がある。人間というのは見た目で信用を決めるものなのだ。


そんなわけで、私が東方に行くためにはあと一押しが必要だった。

一押しというのは端的に言うと……体を使ったロビー活動である。







最初に狙いを定めたのは王様だった。

政治的な権力をほとんど持たないとはいえ影響力はあるのでおあつらえ向きだ。



「……だから、いかせて、お願い」

「それは……急に言われてもな」

「誰かが行くとしたらトモシビですわよねえ」

「アナスタシア、お前まで」

「お願い、王様。マッサージ券、あげるから」

「むう……」

「王様……」

「う……わ、わかった。なんとか議会に話しはしてみよう」



腕を取って上目遣いにお願いすると、ほどなくして王様は頭を縦に振った。

ちょろいものである。

もちろん王様だけでは足りない。

私は議会でそれなりの影響力を持つ数人に対して同じように働きかけた。







「……かわいい?」

「可愛い! 可愛いとも! ああ、とっても聖女だトモシビちゃん……!」



改造したシスターみたいなコスプレをした私の写真を撮りまくるおじさん。

こんなのでも正教会の偉い人である。

私がアポ無しで部屋に行くと狂喜乱舞したので、苦労なくお願いを聞いてもらえると思ったのだが甘かった。

もう1時間近く撮影会をしている。



「じゃ、次はおじさんの膝に乗って……」

「ダメ、私は清楚だから」

「そ、そうだよね。トモシビちゃん清楚だもんね。じゃあ少しだけローアングルとか……」

「それよりおねがい、聞いて」

「ああ、いいよいいよ。いくらでも聞くからね。お小遣いもあげようね」

「それはいらない」



正教会はゴーレムを暴走させた容疑者ではあるが、こうしてみると単なる熱心なファンのおじさんである。

もしかするとこの人が首謀者ではないのかもしれない。

警戒してイカクラゲの皮を被せたエステレアを潜ませていたが必要なかったらしい。

ともかくそんな感じで議会の偉い人達を籠絡していった結果、私ははれて東方の使者へと抜擢されたのである。







「報告、ソロソロ焼キ上ガリマス」

「取り出して参ります」



エステレアは前方の監視をしている人間サイズのゴーレムに近づくと、お腹をパカっと開けた。

そしてその中から四角い入れ物を取り出す。

このゴーレムは改造したきなこもちだ。

お腹がオーブンになっているのでいつでもどこでもお菓子が焼ける。ちなみに胸は冷蔵庫になっている。

元の体は魔導院で研究しているので、頭だけすげ替えたのである。



「便利だね〜」

「これ、なに?」

「ブラウニーですわお嬢様」



チョコレートの香りがふんわりと漂う。

切り分けられたそれを一つ食べてみる。

圧縮して固めたチョコレートケーキみたいな感じだ。

そして紅茶を一口。

さわやかな柑橘の香りと苦味がチョコレートの甘味を洗い流す。



「雲を見ながらのティータイムもなかなか乙なものね」



エル子が三個目のブラウニーを口に放り込む。

使者のメンバーはいつもの私のチームとカサンドラとエル子だ。

魔王軍に詳しいカサンドラはともかく、エル子がついてきたのは使者の経験が豊富だからである。

まあ、豊富と言っても一回しかないんだけど。



「エル子、たべすぎ」

「貴女少食だからからいいでしょ」

「ショコラに、あげるから、残して」

「ふふふ、お嬢様ったら乗り物にすらお優しいのですから」



私はドラゴンの背中から首を歩き、鼻先まで移動した。



「口あけて、あーん」

「シュー……」

「……怖いから、鼻にいれるね」

「ブシュッ!?」



足元にある、私の腕より太い鼻の穴にブラウニーを突っ込む。

鼻先にぶら下がって口に放り込もうとしたのだが、高すぎたのでやめた。

飛べるけど本能的に足がすくんでしまったのだ。

その崖っぷちみたいな頭の下から爬虫類のような長い舌が出てきて、ブラウニーを舐めとった。

喜んでるようだ。魔力でわかる。



「なんかずっと荒野って感じね」

「最果てって感じですね」

「魔王領の8割はこんなものです。ろくな作物も育ちません」

「べつに、砂漠に比べたらまともな方じゃない」



だが眼下に見える荒涼とした風景は、アルグレオの砂漠より寂寞の情を抱かせる。

人がいないからだろう。

とは言えドラゴンでの旅はセレストブルーで海を渡るより安全だ。

索敵は乗り物であるドラゴンがしてくれるし、航路もあまり考える必要はない。

万一に備えてきなこもちが寝ずの番もしてくれる。

だからこうして高度数千メートルを飛行機並みの速度で飛ぶ中でも暢気にお茶会ができる。

私に相応しいエレガントな旅だ。

ちなみにテーブルなどは強力な粘着テープで鱗に固定しているので少々急制動をかけても安心である。



「さあ、まずは宿題をやらなきゃですね」

「後にしようよ〜」

「後になってやる時間がなくなるかもしれません。暇なうちにやっておきましょう」



三食昼寝付きとはいえ、やることはある。学園を休む分の課題を与えられているのだ。

私達は勉強したりお昼寝したりお茶をしたりしながら、目的地までの空の旅を楽しんだ。

最初の目的地は情報提供者の魔人の所である。






遊牧民みたいな格好をした魔人は荒野を一人で歩いていた。マップがなければ見つけられなかっただろう。



「嘘じゃないよ。ドラゴンやワイバーンなんかが群れで東に飛んでったんだ」

「何時ごろですか? 何か証明するものは?」

「いや、端末見てよ。時間も写真もあるから」



カサンドラが尋問するが、特に怪しい部分はない。

というか私は最初から疑っていないのだ。

この魔人はグランドリアに降伏した後、この魔王領の各地を巡って情報収集をしているらしい。

資源とか生物の調査任務だ。

魔人だからって身内以外見ていないグループ会話でそんな嘘をつく意味はないと思う。



「ではなぜグランドリアに報告しなかったのですか?」

「いや……その、見間違いだったら困るし」

「何を見間違うと? このような大規模な動きがあればまず一報を入れるべきではありませんか?」

「な、なんだよ。何でそんなに絡むんだよ」

「たぶんグループ誘ってもらえなかったから拗ねてるんじゃないですか?」

「ふん、もうトモシビ様の楽園にあなた方は入れてあげませんから」



大人気なさすぎる。

カサンドラの個人的な感情は置いておいて、事実確認はこんなもので良いだろう。

最後に魔王軍の向かった方向に心当たりがあるか尋ねてみた。



「あっちはウルス国があるよ」

「ウルス国? 聞いたことないわ」

「魔人と取り引きしていた国です。魔物を飼育しておりますので、魔王領で作られたものを売るにはうってつけでした」



なるほど、飼育している魔物を食べに行ったのかもしれない。

何しろ数日前のことなのでどんな惨状になってるか分からないが、ともかく行ってみなければならない。

私達は手始めにそこに向かうことにした。



トモシビちゃんは見た目あれですが、実績を積んできたので政府からこういう指令を受けてもおかしくは無さそうです。

というかロビー活動って言うけど、ロビーじゃなくてもロビー活動なんでしょうか。


※次回更新は2月22日になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 胴体部分にというか体内にと言うか、調理用の竈を内蔵しているゴーレムって中々見かけない設定ですよね。でも人型兵器ということは、いろんな環境でも自由自在に移動できると言うことですから、いつでもど…
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