お嬢様は東方お姫さまごっこがしたい
※2月8日誤字修正&文章校正、ご報告感謝です!
ファッションというのはどこの世界でも女子の興味の的である。
男子でも興味ある人は多いだろうが、自分を着飾って美しく見せたいという思いは平均的に見て女子の方が強いように思える。
少なくとも私がファッション大好きなのは今世で女子として生まれ育ったからだ。
「あ、これ可愛いねトモシビちゃん」
「おー」
私は現在、フェリスと一緒にベッドに寝転んでファッション誌を覗き込んでいる。
読んでいるのは私が以前から愛読していた雑誌である。
色々と珍しいファッションが乗ってたりするので見ているだけで楽しい。
ちなみに今見てるのはオフショルダーで肩を見せるタイプのパーカーだ。
前世基準で言うなら現代的と形容すべきだろうか。
この辺ではあまり見たことがない。
「フェリス似合いそう」
「トモシビちゃんの方が似合うよ。女の子っぽいもん」
「じゃ、おそろいで着よ」
ガーリーなファッションはボーイッシュなフェリスが案外似合ったりするのだ。
私の尻尾とフェリスの尻尾が巻きついたまま左右に揺れる。
「にゃあ、双子コーデだね。下はどうしようか」
「はかない」
「えっ」
私には丈が長いのでミニワンピースとして着ても良さそうだ。靴は厚めのショートブーツを履こう。
フェリスと少しでも身長を合わせるためである。
「そ、そんなのダメだよ」
「絶対、かわいい」
「可愛いけど裾が短すぎるよ」
「フェリスはショーパン、はいてもいいよ」
「私は最初からそのつもりだよトモシビちゃん」
フェリスの尻尾が私の足をすりすりと撫でた。
生足を出すなんて若いうちしかできないんだからやらなきゃ損ではないか。
私は私の体が大好きなので、どんな時でも手を抜かず、理想のままの美少女の姿を見せなければならないと思っている。
その方がファンも喜ぶし、私も気分が良い。
男性からは色々と性的な視線を感じることも多いが、それだって評価されてることに変わりはない。
私は前世のせいか、彼らに性欲の対象として見られることに対してそこまで強い嫌悪感を抱かないのである。
実のところ、私が短いスカートとか履く事については反対派も多い。
お父様もお母様も襲われるんじゃないかと心配していた。
もちろん私だってべつに露出狂ではない。
制服とかはミニスカートのゴスロリのミリロリだけど、時にはクラシックでお嬢様なロリになることもある。
私は可愛いと思った服を着ているだけなのだ。
変態のせいで可愛い格好を我慢しなきゃないなら、一番悪いのは変態ではないか。
幸いにも私には、宇宙一の美貌と全てを跪かせる圧倒的なお嬢様オーラがある。
私の覇道を邪魔をするものは全てこの自慢の脚で踏みつけて蹂躙してやるのだ。
「フェリスも、ロリコンおじさん踏んで、写真撮ろ」
「何を言い出すのトモシビちゃん」
フェリスと一緒にあーだこーだと言いながらウィンドウショッピング感覚でページをめくっていると、あるものに目が止まった。
「むっ」
「変わったメイド服だね、東方のやつ?」
和風メイドだ。
メイド服としては邪道と言えなくもないが、前世の影響で私としてはどうしても惹かれてしまう。よく見ると作りも丁寧で素材も良いものを使っている。
時々こういうものがあるからこの雑誌は侮れない。
「エステレアー」
「はいお嬢様」
私が呼ぶといつも通り1秒以内にドアを開けるエステレア。
「みて」
「これは……メイド服でしょうか?」
「これ着て、東方お姫さまごっこしたい」
「東方お姫さまごっこ……」
エステレアの目が何かを想像するかのように上を見た。
私には去年買った可愛い和風ゴスドレスがある。
合わせて街を練り歩くとちょっと面白そうだ。
「貴種流離譚ですねお嬢様! 東方のお嬢様とメイドがお互いを温め合いながら旅をして王都に流れ着くのです!」
エステレアは一瞬で妄想を完了した。まあセレストエイムもここと比べたら東方なので、境遇は現実と変わらない。
「え〜いいなあ、私も東方っぽいの欲しいなあ」
「おやおや、面白いものを見ておりますね」
そんな話をしていたらどこからともなくカサンドラが現れた。
彼女は部屋代を払って特別にこの寮に住まわせてもらっている。
「トモシビ様達はこういった服をお好みなのですか」
「こういうのも、すき」
「それでしたら作者に直接注文してはいいがでしょう?」
カサンドラはいかにもいいアイデアだと言うように、ポンと手を叩いた。
「い、い、今、お茶、お茶を」
「すごく慌ててるね」
「連絡したんですよね?」
「この者は少々人見知りでして」
なんだか親近感が湧く。
クロエを入れた5人で訪れたのはルビオラという魔人の家だった。
彼女は元々東方の地方出身で、例によって魔人ゆえに故郷を追われて魔王の膝下に流れ着いたらしい。
なんか息を切らしているのは気になるが、見た目も人間と変わりないし、常識もありそうだ。
これなら普通に街に溶け込めるだろう。
「わ、わ、私は裁縫が得意で……東方の文化とこちらのを……融合させたら楽しいと思って……」
「お嬢様、これは」
私は頷いた。
中々見どころのある魔人だ。
「お嬢様は大変興味を持たれております」
「は……はい」
「それにしても魔人が魔王領から商売してたなんてびっくりですね」
「驚くことではありません。魔人の寿命は長いのですから特技の一つや二つありますし、外貨を稼ぐ必要もありましたので」
「あ、あのあの」
ルビオラが遠慮しがちに手を挙げた。
「服は注文通りに作るので……トモシビ様にですね、ちょっとお願いがあって」
「?」
「さ、採寸させて下さい。色んな服を作るので着て欲しいです」
「わかった」
私は二つ返事で了承した。
良いに決まってる。可愛い服を着るのは大好きだ。
願ったり叶ったりである。
「し、姿勢いいですね、筋肉ないのに……すっごく綺麗」
ルビオラの指が背骨を這う。
ちなみに私は下着姿である。私の肌とか体付きとかを見たいらしい。
「腰……細いですね……お尻はプニプニしてる」
「そんなに、プニプニしてない」
「おのれ……」
「エステレアさん、我慢して下さい」
「で、ではお胸測るので、下着を……」
「はずして」
「はい」
エステレアは不満げに返事をした。
長い髪の毛をクロエが持ち、エステレアがブラを外す。
締め付けがスッと消え、胸が空気に晒される。
べつに私だって真っ平らというわけでない。
ちゃんと膨らんでる。
エル子は勝ち誇っていたが、私の方が形が良いし色も良い。
「わあ……」
ルビオラが感嘆の声を上げた。
私は両手で胸を隠した。
皆そういう反応をするけど、される方は普通に恥ずかしいのだ。
「は、測れませんので両手をですね、上げて……はい、そんな感じです」
「んっ……」
ひんやりしたメジャーが先端に当たった。
ビクリと体が動いた。
皆無言で見ている。変な雰囲気になる前にやめてほしい。
「……はい、OKです」
「はぁ〜なんか緊張しちゃうね」
「と、とりあえずこれだけ測っておけばなんでも作れます。お疲れ様でした」
「終わりですか……」
手足や頭のサイズまで測られた。
服飾職人というのはすごいものだ。
魔法や魔導具を使わずすべて自分の手で測らないと気が済まないらしい。
「あ、最後にですね、お知らせ送りたいので……トモシビ様の端末を登録させてほしいです」
「お嬢様に端末などありません」
「へ? ……わっ」
彼女の端末に私からの通知が届いた。
私の″窓″を再現しようと作ったのがこの端末だ。
私には無用の代物である。
端末も魔力を登録すれば通信ができる。
音声よりも文章を送る方が魔力的には楽なので最近は通信機よりこちらの方が主流になってきている。
ルビオラはここに来てから初めて端末に触れたと思うのだが、もう使いこなしているようだ。
魔人の順応性の高さは大したものである。
「じゃ、じゃあ登録しますね……」
ピロリンと音が鳴った。
私の頭の中だけに響く通知音だ。
通信が来たのではない。
感覚でわかる。
フレンドを開いてみると、大量に新規が登録されていた。
全て魔人らしい。
ルビオラの端末を通じて登録したのだろう。
端末の通信もこの″窓″のフレンド機能も本人の魔力を登録することに変わりはない。連動させればこうなるのである。
「みんなに自慢しちゃおっと」
「ところでそれ、私登録されておりませんが」
「え、だって、勝手にどっか行って何も連絡くれないから裏切ったんだと思って」
「ひ、人聞きの悪いことを」
カサンドラは魔人の中でも異端な存在らしい。
2人の言い合いを聞いているとまた脳内でピロリンと鳴った。
今度はメッセージだ。
たぶん魔人からだと思う。
魔人達はグループチャットまでしているらしい。その会話が来たのだろう。
″窓″を開けてみる。
『どうしよう?』
『報告すれば?』
『グランドリアに? だるいな』
『戦争になったらそのうち伝わるしいいんじゃない?』
『逆方向だしね』
聞き捨てならないことが書いてある。
スクロールすると写真が現れた。
それは編隊で飛ぶドラゴンと魔物達の写真だった。
魔王領は長いので東方に接しています。
その南に人間達の交易路がある感じですね。
※次回更新は2月15日になります。