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お嬢様は不思議な踊りを踊った

※三人称視点になります。

※10月26日誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!



グランドリア魔法学園はエリート校である。

たとえ成績最下位であろうと、ここを卒業するだけで将来が約束される。

国の上層部は魔法学園の卒業生ばかりだし、地方の貴族や有力者もここを卒業したというだけで一目置かれることになる。

魔法によって成り立つ文明において、魔法使い養成学校を出ることは一流の証なのである。


とはいえ、もちろん魔法が得意というだけで人格が保証されるわけではない。魔法を使える犯罪者など育成すれば大問題である。

そのため、魔法学園は魔法関連の学問だけを教えるわけではなく、一流の教養や振る舞いを身に付けさせるための教育プログラムが組まれていた。


そんな教養の授業の時間、アスラーム達BクラスはAクラスとともに体育館に集められていた。



「喜べ!今日の授業はダンスじゃ!」

「ダンスって、貴族がやってるようなあれか?」

「うむ、2人1組で男女が踊るやつじゃ。人間である以上戦いだけをしていれば生活できるわけではない。お主らが文化の中で生きる以上、文化を学ばねばならん」

「能書きはいいよ、つまらねえ座学よりはマシだ」

「ふむ、レクリエーションも兼ねておるので気楽にやるが良い」



ダンスにも色々ある。

音楽に乗って踊るのは珍しいことではない。

貧民には貧民のクラブがあるし、田舎には田舎の伝統舞踊がある。

人間は本能的にリズムをとる生き物だ。音楽に合わせて体を動かす事は本能に根ざした快感をもたらすのである。



「つまり今からから男女で密着して汗まみれになって運動する、と?」

「……テレンス、お主は女子とは組んでもらえそうにないのう」



男子達は静かにざわついた。

合同授業なのでここには2クラス分60人がいる。しかし魔法戦クラスに女子はたったの12人しかいない。

深刻な男余りが予想された。



「女子の数が足りない分は?」

「必ずしも異性と踊れとは言っておらん。同性でやるが良い」

「……マジかよ」

「我慢せよ。戦闘で友人に肩を貸すくらいよくやるじゃろ。ほれ、さっさと2人組を作れ! 時間がないぞ!」



2クラスの男子は互いに探り合いながら動き出した。







「……で、なんでこうなるんじゃ?」



クラスは完全に2つに分かれた。

男子と女子である。



「だってトモシビちゃんと踊りたいんだもん」

「女の子は女の子同士で、男は男同士で踊ればいいと思うわ」



トモシビの手を取ったまま離そうとしないエクレア。

もう片方の手はエステレアが抱え込み、後ろからはフェリスが抱きついている。

どうやら彼女らは交代でトモシビと踊るつもりらしい。



「……あれ、どう思う? グレン」

「構わねえよ。いつものことだろ」

「ぼ、僕、なんだかすごく興奮してきたよw」

「素質ありますよ」



Aクラスの男達はもう完全に諦めている。むしろ最初から彼女らと踊れるとすら思っていなかったらしい。

Aクラスの女子は全員が驚くほど美少女なのに、男が手を触れることができないのである。

彼女らはトモシビという女王蜂の作る百合園で戯れる妖精のようなものだ。Aクラスの変人達とは住む世界が違う。

その様子を見て、アスラームは密かにほくそ笑んだ。

トモシビが彼らと踊らないならばそれでいい。



(僕はもう……彼女と踊ったぞ)



それは去年の年度末のことだった。







魔法学園では卒業記念ダンスパーティーというものがある。

卒業する4年生が学園生活の最後を飾るためのパーティーだ。

出席できるのは4年生だけなのだが、ゲストとして在学生が呼ばれることもある。

そこにアスラームとトモシビが呼ばれたのだ。

トモシビは主従揃って嫌がったが、アスラームにはアルグレオの使者が来た時の社交デビューで庇ってもらった借りがあったので渋々了承したのである。


パーティー会場で注目を集める中、アスラームは片膝をついてエスコートした。



「僕と踊ってくれるかい?」

「あそんであげる」

「光栄だよ、君とダンスパーティーで遊べる男なんて僕だけだ」

「そうなるように、守って」

「努力するよ」



アスラームの手がトモシビの腰を抱き、柔らかな体を引き寄せる。

羽毛のような感触と熱い体温を感じた。

彼女の甘い香りが鼻腔を擽り……。







「アスラーム、どうした?」

「あ、いや」



アスラームは自分が過去にトリップしていたことに気がついた。

それほど甘美な時間だったのだ。

アスラームは優越感を抱いた。

自分だけがトモシビとダンスをした。彼女の抱き心地を味わった唯一の男。

約束された将来への切符を手にした気分だ。


実は以前トモシビは誕生日パーティーでヨシュアと踊っているのだが、そんな事はアスラームは知らない。



「あ、トモシビ様が踊るようだよ」

「相手はフェリスさんか、転んでも支えられそうで安心だな」



転ぶ?

馬鹿な事を言っている。

彼らはトモシビをまるで理解していない。

アスラームはニヤニヤした。



「何笑ってんだよアスラーム」

「ふっ……見ていればわかるよ」



アスラームは彼らの驚く顔を想像しながらトモシビに注目した。






エル子、ことディラは口を開けたまま固まった。

衝撃的だった。

トモシビのダンスはそれほどまでに上手かったのだ。


模擬戦で見せるあの……のたのたした動きはいったい何だったのか?

不慣れなフェリスをリードして男性パートを踊る彼女は、他のどのペアよりもスマートだ。

流れるロングヘアは意思があるかのように舞い、髪型が崩れることも邪魔になることもない。

キレのある軽やかなステップはまさに百合園の女王と呼ばれるに相応しい優雅さを演出している。


それは技術だ。

筋力のなさを感じさせないほどのスムーズな体の操縦と身体強化。

普段の運動音痴な姿とのギャップがそれらをさらに引き立てる。

可憐、妖艶、そしてなによりも格好良い。

その瞬間、誰もがトモシビに魅せられた。







ルビオラという魔人がいる。

カサンドラ配下であった彼女は上司の投降と共に自らもトモシビに降り、捕虜となった。

魔人は普通の魔物と違って人語を喋ることができる。

そのため、制限はあるが都市に住むことを許されている。

魔王のことを忘れたかのようにトモシビ様トモシビ様と連呼するカサンドラについていけなくなった彼女らに声をかけたのは王都の議会だった、

そうしてルビオラをはじめとする教養の高い個体はグランドリア政府に引き抜かれ、雇われることとなったのである。



(か、かっこいい……!)



ルビオラは感動していた。

感動のあまり霊術の透明化を解くところだった。

トモシビの警護。

それがルビオラがグランドリア議会から命じられた任務だ。

1日つけ回してその日の報告書を作成して提出する。変わったことがあれば写真を撮ることもある。

警護というより監視だが、そこは疑問を持たないようにしていた。

ルビオラはしばらく見惚れてから我に返った。自らの使命を思い出したのだ。

カメラを構え、撮り続ける。

こうすると連続で写真を撮ることができるのである。

その写真を繋ぎ合わせれば動画の完成だ。

最新型のカメラは動画モードにも対応しているのである。



「そうだ、みんなにも見せちゃお」



ルビオラは撮った動画をこっそり自分の端末に保存することにした。

グランドリアにこき使われている魔人仲間に見せるためだ。

魔人はグランドリア議会に雇われたが、忠誠を誓っているわけではない。

ルビオラ達が忠誠を捧げる相手は元より1人しかいない。


ただ……ルビオラはふと思ってしまった。

もう1人いても良いんじゃないかと。







「ダンスか、見事なものだな」



″彼″は語りかけた。

トモシビは沈黙した。状況を整理しているのだ。

ダンスをしてる最中に突然白昼夢に引き摺り込まれるのだから、彼女にしてみればさぞ混乱するだろう。



「俺には無縁だったな。人前で踊るなんて想像もできない」

「おじさんのざぁこ」

「ははは、そう言われても腹も立たないな」



それは本当のことだった。

″彼″はシャイで臆病で、そしてそんな自分を変えることもできなかった。



「どうして、喜んでるの……? 変態」



″彼″は不思議に思った。

なぜこの少女はこうなったのだろう?

元々男だったとは思えないほど、メスガキ染みた罵倒が板についている。



「しかしよく持つな。体力が尽きないのは魔力のおかげか?」

「うん、私は最強だから」

「……お前の中には穴がある」



″彼″はコミュ障特有の唐突さで本題に入った。

伝えなくてはならないことがある。それは世界に関わる重要な事だった。



「最初は小さな穴だったが、お前が成長するごとに徐々に開いてきた。自分でも感じるだろ?」

「……変態」

「は?」

「変態。変なことばっかり、言うなら……もう虐めてあげない」



怒っている。

何が彼女の怒りに触れたのか知らないが、美少女の舌ったらずな声で叱られて″彼″は怯んだ。

彼女から受ける軽蔑の視線は背徳的で変な高揚感があった。



「反省したら、そのうちかまってあげる」

「おい……」

「じゃ……またね」



彼女は手を振りながら、当然のような顔で消えていった。

白昼夢から目覚めたのだ。

なぜこの夢の中で自在に目覚められるのだろう?

本当に何もかもが意味不明だ。

まさか呼び込んだ方が混乱させられるとは思わなかった。

トモシビは既に何事もなかったような顔でダンスに戻っている。



「しかし、可愛いんだよなあ」



容姿は本当に天使のように可愛いのだ。

長い年月を過ごした″彼″も、理想を具現化したかのような美少女には弱いのだった。



ダンスって良いですよね。

表現がどうというより美しい動きに感銘を受けます。

それでダンスなんかまるで出来なさそうな人が、すごく上手かったりするととても格好良いと思います。


※次回更新は2月8日月曜日になります。

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