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少女はロリコンと魔物に餌をやる

※1月27日、2月1日誤字修正



春が過ぎ、例年の通りの肌寒い初夏が訪れている午後、私はフェリスとエル子と一緒に商店街を闊歩していた。



「エル子ちゃんなんでキョロキョロしてるの?」

「だって王都って変態ばっかりなんでしょ?」

「トモシビちゃんの周りだけだよ」



エル子は勘違いをしている。

王都の変態率はたぶん他の地域と比べて高いわけではないのだ。

酒場には酔っ払いが集まるし、マタタビには猫が集まる。

私には変態おじさんが集まる。

ただそれだけの話である。

それに最近は彼らもすっかりなりを潜めた。

私が有名になりすぎたせいである。

私の周りには常に誰かの目がある。道行く人々は皆私のことを知ってるし、フェリスによるとたくさんストーカーもいるらしい。

それにいつもエステレアやフェリスがついてる。

変態が変態的な活動をする隙間などないのだ。



「やあ、トモシビちゃん。今日もお使いかな? 小さい子ばかりでおじさん嬉しくなっちゃうね」

「な、なに? 早速変態?」



言ってる側から出てきたけどこれは違う。

この人はそこのスーパーマーケットの店長さんだ。小さい子が好きなロリコンではあるが、犯罪は犯してないのでギリギリセーフなのだ。



「へいき。ロリコンだけど、変態なのは顔だけ」

「えっ、ロリコンって全部変態じゃないの?」

「と、トモシビちゃん、いつになったらおじさんに慣れてくれるのかな?」

「おじさん、どうして足ばっかり見るの……? きもちわるーい」

「わあ、トモシビちゃん器用だね、見上げながら見下すなんて」



慣れてはいるんだけど、目線がねっとりして気持ち悪いのでついこういう対応をしてしまう。

おじさんも毎回変質者扱いされてるわりには懲りずに話しかけてくるあたり満更でもないらしい。



「いや、それはトモシビちゃんが放送で変なことを言うからだよ。足蹴にするとか……」

「ロリコンのくせに、言い訳しないで」

「き、君って子は……!」

「何事かな?」



店長さんで遊んでいると新たなおじさんが現れた。

司祭の服を着ている。ここの商店街にある教会の司祭だ。



「いえ……私は何も……トモシビちゃん達が来たから挨拶したのですよ」

「嘘ね! 変態よ変態!」

「エル子ちゃん、やめようよ」

「落ち着きなさい。この人は怪しいがただの子供好きのおじさんだよ」

「そ、そうだよ。怪しくもないけどね」



それから司祭は私に目線を合わせた。



「君達は教会に来てくれたんだろう? さあ、行こうか、エスコートしよう」



司祭は人好きのする笑顔で言った。

彼が唐突にこんな事を言うのには理由がある。

実は先日、私宛に教会から手紙が届いた。

私を崇める宗教団体について話し合いたいという内容だ。


一応、このグランドリアにおいて国教は正教会であり、彼らにしてみれば文字通り地下で信者を増やすクロエの宗教は掟破りの異教徒だ。

はっきり言って邪教の類である。

野放しにされているのは単に私の影響力を恐れているのだろう。

だから正教会がトモシビ派と話し合いを持ちかけるのは理解できる。



「行かない」



だが、私は断った。



「知らないおじさんに、ついて行くなって……先生が言ってた」

「知らなくはないだろう? 私は司祭のエドモン。君はトモシビ・セレストエイムちゃん。ほらもう知り合いだ」

「……ほんとだ」

「トモシビちゃん!?」



一理ある。

何度も会ったことはあるし、名前も名乗られたらもう知らないおじさんではない。

だが私とて馬鹿ではない。

実は教会からの手紙と時を同じくして、アンテノーラの手紙も届いたのだ。

それはプロメンテ村の事件を起こしたのは正教会の仕業だという報告だった。

言われてみると、正教会なら聖火教の村を潰したい理由はある。

タイミングよく私に粉をかけてきたのも怪しい。そんなわけで、正教会は信用しないことにした。

話しがあるなら自分から来て欲しいと返事を出したのがついさっきのことである。



「東方の美味しいお菓子を用意したよ。最高級の玉露と一緒に食べながら、綺麗な大聖堂で写真を撮ってはどうかな」

「む」

「シスターの服も着てみたくないかな? トモシビちゃんのために特別豪華な聖女タイプを用意したのだが」

「……それって、かわいい?」

「もちろん」



ちょっとだけなら……いいかもしれない。

私の心が揺れたのを察したフェリスが私の腕をグイッと引っ張った。



「と、トモシビちゃん、急いでるんだよね! 早く行こっ!」

「そうね、ゴールドなんとかに行くんでしょ?」

「……そうだった」

「そうかね。いつでも来ると良い。待っているよ」



手を振って別れる私たちを、司祭はあまり気にした様子もなく見送った。







「親友! 親友じゃないか!」

「アイナ」



ゴールドマン・ファミリーのお店では相変わらずアイナが店番をしていた。

アイナは三つ編みをやめてサイドテールにしている。ちょっと大人っぽくなったみたいだ。



「いらっしゃい、トモシビお嬢様。今日はメイドさん達はいないの?」

「きなこもちを、メイド教育してる」

「きなこもち?」

「ゴーレム」



エステレアはどうやらメイド長としての使命に目覚めたらしい。

スライムやカサンドラだけでは飽き足らず、ついに無生物にまでメイド教育を施し始めた。

私に仕えるものは全てメイドであるべきだと思っているのだ。

たぶん次はショコラ……新しくペットにしたブラックドラゴンの名前なのだが……ショコラを教育し始めることだろう。

ちなみに私がここに来たのはそのショコラの件である。



「ヨシュア、ドラゴンの餌、ある?」

「ど、ドラゴン? いや……なんでまた?」



ペットだからだ。ペットには責任を持たなくてはならない。

ドラゴンをノリノリで調教した後、こんなことがあった。







「エステレアエステレア」



私はエステレアのメイド服を引っ張った。



「どうなされましたか?」

「穢れ、おとして」

「まあ!」



エステレアは目をまん丸にして驚いた。



「どうなされたのですか? あんなに嫌がっておいででしたのに」



たしかに嫌がっていた。

一方的に巨大な快感を与えられ、頭の中が真っ白に塗りつぶされるあの感覚は今でも怖い。

しかし考えてみてほしい。躾とはいえ私はショコラに同じことをしたのだ。

自分が嫌がることを他人にしてはいけない。当然である。

ならば私も同じ目にあって、戒めとしなくてはならない。



「男らしすぎるよトモシビちゃん」

「ああお嬢様……私、お嬢様の気高く可愛く美しいマンチカンのようなお姿に、言われずとも押し倒しそうでございます」

「かくご、できてる」

「ですがお嬢様、あれごときの下劣な爬虫類にお心を砕く必要はありません。お嬢様にき、気持ちよくして頂いたのならご褒美ではありませんか」

「エステレアさんも同じことトモシビ様にしてますしね」

「快感にお耐えになられるお嬢様が可愛くて可愛くて仕方がないのがいけないのです」



エステレア達はショコラが私に調教されたのは当然のことだと考えているらしい。

私もそんなに間違っていたとは思っていない。

サーカスの猛獣だって鞭で調教される。ドラゴンをペットにするなら人間に絶対服従が条件だ。

ただ……力で服従させるというのが好きじゃないのだ。私は加虐性癖があるけど、それは相手が望んだ時にのみ与えるべきだと思うのだ。

エステレアに優しく抱きしめられる私にクロエが言った。



「もし罪悪感を感じておられるなら餌でもあげてみたらどうでしょう?」

「餌?」

「飴と鞭ですよ。調教の基本です」



良いアイデアかもしれない。

なぜクロエが調教の基本を知っているのかは分からないけど、私の気持ちの落とし所としては悪くない。







というわけで私はショコラに与える餌を買いに来たのである。



「魔物肉、売ってない?」

「あるにはあるけど高いよ? 定期的に仕入れるなら冒険者や軍から直接仕入れた方がいいと思う」

「私が狩ってきてやるよ! 試作品の軍用端末があるんだ! 私でも魔法使えるんだぞ!」

「む、無茶だよ。というかそれならお嬢様達が魔物狩った方が早いよ」

「最近あんまり魔物がいないんだよ〜」

「そうなんだ? 少し前はたくさん湧いてたのにね」



ショコラを調教した後、オーク亜種もそんな事を言っていた。

だんだん獲れる魔物が減ってきてるんだそうだ。

魔力は有限であり、魔物は魔力のあるものを食べる必要がある。

餌になる野良魔物がいなくなれば人間を食べるしかない。

魔物の食糧難は頭の痛い問題である。

肉は野菜みたいに生えてこないのだ。

肉を生み出す機械のようなものがあれば……。



「……あった」



私の脳裏にグロテスクな肉袋の姿が浮かんだ。







商店街を後にした私達は魔導院に向かった。

魔導院には例の魔物製造機がある。

あれをちょこちょこ改造すれば魔物になる前の肉だけ取り出すことができるかもしれない。



「できますが」



私の問いにレメディオスは事もなさげに答えた。



「さすが教授ね!」

「魔力が必要ですので、魔力の集まる場所に設置するのが良いでしょう」

「トモシビ君も面倒見が良いね。次から次へと色んなのを拾ってくるから僕らも大忙しだよ」

「研究しがいがあるって張り切ってたじゃないですか」



ラナさんがお茶を持ってきた。

ティーカップが豪華になってる。

ちなみにここは魔導院に作られた私用の客室だ。

私の持ち込むものはどれもこれも機密情報の塊なのでこういう物理的・魔法的な防御のある部屋が必要なのだ。

ちなみに、いざというとき脱出できるように転送機もついてる。

vip待遇を通り越して姫である。

私に相応しい扱いだ。



「ああそうそう、貴女の聖堂とやらにあった魔物製造機ですが」

「あの喋る魔物生み出すやつね」

「ええ、あれは他のと同じですね。魔力を吸って魔物を生み出すだけです」

「それって?」

「つまり、あの喋る魔物はおそらくあの聖堂に設置することで生まれるという事です」

「…………魔法陣のせい?」



一瞬考えるも、私はすぐに原因に思い至った。

あの部屋には最初から魔法陣が描かれていた。

遺跡にあったのと似たようなやつだ。

魔物製造機は丁度その上に置いてあった。それが何か思いもよらないを作用した可能性が高い。



「確証はないけどね。で、ちょっとそれは置いといて……ジェノバ遺跡にあった魔法陣、覚えてるかい?」

「うん」

「あれの簡単な方なんだけどね。どうやら魔力を集める作用があるらしい。人工的に地脈の通り道を作りだすんだ」

「へぇ、タブロバニーみたいね」

「まさにそういうことだよ」



なるほど、じゃあその魔法陣の上に魔物製造機を置けばいいのだ。

丁度私の聖堂の時みたいに。

スミスさんによると、どうやら聖堂の魔法陣はジェノバ遺跡にあった2つを複合したタイプらしい。

魔力を集める作用で魔力が流れ込んで魔物製造機が動き出した。そしてもう一つの魔法陣由来の謎作用であの魔物が生まれたわけだ。



「不思議だね〜」

「うん」

「変なの」



なんで古代の人はそんなもの作ったのだろう?

兎角この世は謎だらけである。

謎の一端を解き明かして興奮している大人を他所に、私とフェリスとエル子は他人事のようにお茶を飲んだのであった。



小さい子3人でお出かけですね。見ていると和みます。

たまに和まない人もいます。

もうちょっとお出かけ感を出したかった気がします。


※次回更新は2月1日です。


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[気になる点] ドラゴンの名前、ショコラではなくてカバヤキ? 改名したのですか?
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