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ポンコツPCみたいなゴーレム

※1月13日誤字修正、ご報告ありがとうございます!



…エステレアの舌がトモシビの体を這い回る。

彼女の愛撫は巧みだ。

時にゆっくりと丹念に舐め上げ、時に強く吸い付いついて緩急をつける。

吸い付いた唇を離すとトモシビの真っ白な体に赤い内出血の跡が残る。エステレアはこうして愛した痕跡を主人の体に残すことを好んだ。

神たるトモシビの体に傷跡など残らないので、内出血など明日の朝には消えてしまう。

神の肉体に反逆するかのようにエステレアは儚い愛の証を作り続ける。

やがてトモシビは小さく声を上げ始めた。



『んっ……ぁ……』

『お嬢様の可愛いお声……もっと聞かせて下さい』



エステレアは全身を絡みつかせ、小さな主人を抱きしめた。

彼女はこうして肌と肌を直接密着させて愛撫するやり方も好きだった。

唾液で潤った肌を擦り合わせ、2人は正面から向き合った。

トモシビの潤んだ瞳が訴えかけるかのようにエステレアを見つめる。



『お嬢様……どうなされたのですか? 』

『エステレア……』

『はっきり仰って頂けないと分かりませんわ』

『もっと、して……?』

『あぁん! 可愛いですお嬢様……では……挿れて差し上げますね』







「そしてエステレアは舌先を主人の敏感な耳穴に滑り込ませ……」

「おお……!」



クロエの朗読に地下礼拝堂のおじさんは興奮して身を乗り出した。

私は脚をもじもじと擦り合わせた。

恥ずかしすぎる。

なんでこんな羞恥プレイをさせられているのだ。



「まあ、こんな感じですね」

「む……とりあえずこれは部外秘がよろしいかと」



読んでいたのは新訳聖火書と呼ばれる書物の外典である。

そんなものがあること自体初耳なのだが、どうやら内容が過激すぎるので一般公開は断念する方向になりそうだ。

断念してくれてよかった。

この外典の内容は私から見ても何かと心当たりがある。


私はエステレアをチラリと見た。

彼女は平然としている。

自らを題材とした官能小説のようなものを朗読されてこの態度。

だが私は知っている。エステレアはすごい図太い神経を持っているように見えるが、ただこの内容が性的だと思ってないだけなのだ。

彼女からすればただいつも通り私と戯れているようにしか聞こえないのだ。

一応エステレアもクロエから性教育を受けたはずだが、それは私への奉仕とは全く別物だと思っているらしい。



「そうですね、持って行くのは新訳聖火書だけにしましょって」

「それがよろしいかと、長老には刺激が強すぎるでしょう」



なんでも、プロメンテという村で聖火教のお祭りがあるらしい。

それに招待されたのだ。クロエの謎宗教の規模が大きくなりすぎたらしい。

新訳とか名乗ってるのだから旧訳としては面白くないのだろう。

喧嘩を売られてるかもしれないが、行ってみなくては分からない。

ということでとりあえず聖典を持参して招待に応じることになったのである。

あわよくば信者を奪おうとしているらしい。



「時に先ほどの外典ですが、私用に一つ刷って頂けませんか? 何でもしますぞ」

「どうしましょうかトモシビ様」

「ダメ」

「だそうです、やっぱりこれらはトモシビ様の百合園のみに公開しますね」



百合園って一体誰がメンバーなんだろう。

ともかくこうして私達は聖火教のお祭りに行くことになったのであった。







鏡を見る。

クロエの持って来た衣装を着た私がいる。

悪くはない、むしろ良い。

私の体にピッタリ合ってるし、崇められるに相応しい神聖さも感じる。

十字架の杖とか武器にしてそうなとってもファンタジーな聖女だ。



「わあ、トモシビちゃん綺麗」



自分のことだけど綺麗だと思う。

しかし、なぜガーターベルトが必要なのだろう。

幼女とか少女とか言われる私がガーターベルトなど着けて良いのだろうか。

一年前は早すぎると言われたけど1年経ったから良いのだろうか。

素早く横を向く。

ドレスのスリットから白ストッキングに包まれた脚が見える。

際どい。

一体彼らは神に何を求めているだろう?



「ふぅーっ……ふぅーっ……!」

「え、エステレアさん、今はダメです。村の集会所なんですから」



エステレアの目が血走っている。

私はドレスのスリットをそっと手で閉じた。

ここはプロメンテ村の集会所だ。

私の正式なお披露目のために着替えているのである。



「お着替えは終えられましたかな?」



長老が衝立から顔をのぞかせながらそう言った。



「ちょっと、許可してないでしょ!」

「ふほほっ、固いことはなしじゃ」



長老はカラカラと笑った。

もう着替え終えてるから良いものの、脱いでるところを見られていたらエステレア達が黙っていなかっただろう。

集会所に更衣室がなかったのでこうして目隠しを作って着替えたのだ。

お祭りのゲストとしては普通かもしれないが、神に対する扱いとしては粗末と言わざるを得ない。

その辺りから私という存在を長老が決して神とは思っていないのが分かる。

とはいえ、対立する宗派への対応としては穏やかなものだ。



「おお、おお……これは美しい。なるほど、こういうのが今風なのですな」

「お嬢様の神性に今風も昔風もありません」

「エロいから若者ウケはいいんじゃね?」

「いやはや、ジジイでは信徒が集まらんでな。トモシビ様には感謝しておりますぞ」



ビジネスライクな宗教者である。

まあ元々私は神じゃないし、私のアイドル性に目をつけたと思えば悪い気はしない。



「ではこちらへどうぞ、信徒達がお待ちです。他の皆様は……」

「トモシビ様の警備でしょ、分かってるわ」

「助かります」



長老は集会所の裏口に私を誘導すると、エスコートするように私の手を取った。

老人らしからぬキザな仕草だ。若い頃はアスラームみたいなプレイボーイだったのかもしれない。







夕暮れ時で暗くなった外に篝火が灯っている。

裏口からはそのまま広場に続いており、ファッションショーのランウェイみたいな道の両側に大勢の信者がいる。

私が出ると歓声が巻き起こった。

ワーワーキャーキャーという黄色い声に混じって、可愛いとか綺麗とか聞こえる。

すごい。

ゾクゾクする。

もう本当にトップアイドルではないか。


私は信者の歓声の中をゆっくりと歩いた。

少し露出は多いし、ローアングルで見てくる人もいるけど、コスプレみたいなものだと思えば気にならない。

緊張はしている。私は本来人見知りなのだ。治るようなものではない。

昔の私は人の視線が嫌いだった。

だが今、この視線は全て私を讃えるものなのだ。

その確信が突き刺さる視線を全て快感へと裏返していく。

視線に過敏な人格だからこその見られる快感。

背筋のゾクゾクが止まらない。

歩きにくいピンヒールをカツカツ鳴らして、中央のステージみたいなところに私は座った。



「こんなに盛り上がるのは初めてですな、ほっほっほ」



長老はステージの隅に移動した。

私だけ見せ物になってるような感じである。



「これから、何するの?」

「まずはお祈りですな。それが終われば宴の時間ですぞ」



炎といえばバーベキューである。

そこら中で焼かれている肉や野菜を食べまくり飲みまくるのだ。

そして気ままに演奏したり踊ったり歌ったりするらしい。


座っていた長老と幹部の人たちが国歌斉唱みたいに立ち上がった。

そしてクロエがやってた変なお祈りを始める。

Aメロとかサビとかあるあのお祈りである。

これが長いのだ。

大袈裟に手を広げたりしてぶつぶつ呟く長老達。

よく見ると魔王城で見た拝礼に似ている。もしかしたら似たようなものがルーツなのかもしれない。

そう思って見ると、この椅子も魔王城のやつとちょっと似ている。

年代物なのかもしれない。


その椅子に偉そうに座りながら見物する私。

やがてお祈りは、サビに差し掛かった。

……ここで聖炎を出してみたら盛り上がるのでは?

良い事を思いついた。

これだけ歓迎されておいて何もせず座っているだけというのも気が引ける。

彼らが祈る対象は炎である。クロエと同様に私の聖炎を崇めているのだから喜ぶはずだ。

私は髪の毛に聖炎を灯してみた。

もうこのくらいならほとんど集中もいらない。ガスコンロをつけるかのように発火できる。

驚きの声が上がった。祈りの声が大きくなる。

驚いてる驚いてる。

私はさらに全身を発火させた。椅子ごと炎に包まれる。

人間キャンプファイアーだ。

炎と共に歓声が大きく……。


その瞬間、目の前の景色が消えた。







「……?」



白い。

目の前が白い。

視線を下げる。

聖女ドレスを着た私の体が見える。

目がおかしくなったわけではない。

いつもの夢?

…………でもない。

私は胸元に手を突っ込み、肉塊を取り出した。



「スライム、なにこれ?」

「……不明です。辺りから魔力は感じません」



どうやら目の前にあるのは白い壁のようだ。

何も聞こえない。

シンと静まりかえっている。

大歓声から一転して、静寂に放り込まれた私はひどく不安になった。

不安……いや、怖い。

何が起こったのかわからない。どこなのかも分からない。

分からないのが怖い。

″窓″のマップを開く。

誰もいない。何もない。


私は椅子から立ち上がり、白い床に降りたった。

ここは正方形の部屋のようだ。

私が座っていた椅子はその中央にある。

そして椅子の背後の壁には正方形の穴が空いていた。

通路だ。



「スライム、大丈夫?」

「大丈夫ですトモシビ」



私は不安を紛らわせるためにスライムを撫でた。






私は通路を進んで行った。

窓も照明もないのに明るいのは壁や天井自体がうっすら光っているかららしい。

見たことない素材だ。

白いセラミックみたいな質感は魔王城に似ているが、もっと高度な文明の香りがする。

一本道をしばらく進むと、大きな部屋にたどり着いた。

その円形の部屋からは放射状に幾つかの通路が伸びていた。

私が来たのはその一つだ。

作りからするとここが何か中心的な部分らしい。

さらに部屋の中心に進んでみる。



「王権を確認できません」



合成音みたいな声が響いた。



「おうけん?」



静寂。

会話はできないのかもしれない。

機械……魔導具の類だろうか。

疑問に思うも束の間、グラリと空間が揺れたような感覚がした。

魔力の揺らぎだ。

私の視界が暗くなった。







ワッと音が溢れた。

炎が見える。



「お嬢様!」



エステレアが足元に縋り付いた。

ここは元のステージだ。

プロメンテ村の広場だ。

私は先ほどと変わらず普通に椅子に座っていた。



「お嬢様、どこへ行っていらしたのですか!?」



やっぱり夢ではなかったらしい。

長老はいなくなってる。

……悲鳴が聞こえる。何かが起こっている。

村の様子は先ほどまでと一変していた。

暗闇の中、炎に照らされて群衆が駆け回っているのが見える。

いや……逃げ惑っているのだ。

手足の生えた雪だるまみたいな不恰好な影がいくつか見える。

大きい。人間の数倍ある。

誰かと戦っているように手足を振り回して暴れている。

不意にそれが動きを止めてこっちを向いた。



「お嬢様! 敵です! ゴーレムです!」

「ゴーレム?」



なんでそんなものが村に?

一体のゴーレムがズンズンと重厚な足音を立てながら私に迫る。

レーヴァテイン、いやエクスプロージョン……。

ダメだ、水平撃ちは村に被害が出る。

それなら……上空から撃ち下ろす。


エステレアと共に飛び上がる。

高度10メートルほどで一度ブースターを止める。

ドレスのスカートがフワリと浮き上がる。

ゴーレムが私を見上げる。

何もない球体の顔の中央に一つだけ目のような部分がある。それが赤く光ってる。

昔見た遺跡のゴーレムより強そうだが、私のレーヴァテインには耐えられないだろう。

付近に人はいない。

″窓″の発射装置を展開、その上に魔法陣を重ね……止めた。

ゴーレムが何か言ってる。



「……確認……システムヲ更新シテイマス……ソノママオ待チクダサイ」

「……なんでしょうか?」



ゴーレムはポンコツPCみたいなセリフを吐くと、目をチカチカ点滅させた。

私は魔術をキャンセルして消した。



「待機モードニ移行シマス」



ゴーレムの目が緑色になった。



2020年も終わってしまいますね。

仕事と執筆しかしてませんけども、よく考えるとこのご時世では恵まれている方ですね……。


※次回更新は1月4日月曜日になります。

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