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政治の中枢もロリコンでした

※1月13日誤字修正、ご報告ありがとうです。



グランドリアの謁見の間には王座が2つ並んで置かれている。

国王と王妃は一日の数時間をそこに座って過ごす。

報告を聞いたり外交行事をしたりするためだ。

あまり権力のない王様だけどなんだかんだやることは多い。

地方領主や他国からの商人は週に何度も来訪するのだ。

彼らはこの謁見の時間を見計らって国王に会いに来るのである。



「お父様、よろしい?」

「どうした? アナスタシア」



王様は怪訝な声を出した。王女が謁見する必要性について疑問を感じたのだろう。

もちろんアナスタシアは謁見しにきたわけではない。

王様に会いにきたのは彼女の後ろに隠れている私である。



「む、さては捨て猫を拾ってきたな? 尻尾が見えているぞ」

「ふふ、大きな猫ね」

「私……でしたー」



顔を出すと2人は笑った。



「ははは分かっておるよ、よく来たな。さあ隣に座りなさい」

「お茶にしましょうか」

「議会の前にちょっと挨拶に来ただけですわよ」

「おお、わざわざ挨拶に来てくれたのか。さあ隣に座りなさい」

「どうしてそんなに隣に座らせたいのかしら……」



王様は王座の端によると、少しできたスペースを催促するように叩いた。

そこに腰を下ろす私。

アナスタシアも兵士が差し出した椅子に座った。



「今日は泊まるのか?」

「うん」

「マッサージもしてくれるのか?」

「んー……」

「トモシビ、お父様を甘やかしてはダメよ」



そんなに私のマッサージは効くのかな?

すっかり虜になっている王様を見て私は嬉しくなった。

温熱が良かったのかもしれない。今度、エステレアで試そう。



「そうそう、セレストエイムはどうだった? ブライトのやつは娘と共に戦えて喜んでおったか?」

「……あんまり、分からない」

「そうか……あやつのことだから過剰に意識してしまったのだろうな」

「でも、ちゃんと、しかってあげた」

「偉いわね、肉親でも悪い事したら叱ってあげないとね」



2人は交互に私の頭を撫でる。

叔父や叔母を通り越してもはや祖父母と話してるみたいな気分である。

先の戦争のことを話していると、ドアが空いて兵士が入ってきた。

そして一礼すると声を張り上げた。



「ステュクス家のカイン様が謁見を申し込まれております」

「後にしてくれ」

「議会の前にどうしてもと」

「わかったわかった。うるさいのう……」



なあトモシビ、と王様は私の頭を撫でた。

どうやら私を隣に座らせたまま謁見をするらしい。

合図をすると恰幅の良いおじさんが入ってきた。ハゲてる。

彼は王座に座る私に向かって一礼した。



「おお、ついにトモシビ嬢が国王になられましたか」

「馬鹿を言うな。楽しい時間を邪魔しおって」

「いやいや、あながち冗談ではありませんぞ。今やトモシビ嬢こそがグランドリアの趨勢を決めていると言っても過言ではありません」

「否定できんな」

「むふ」

「トモシビもドヤ顔が板についてきましたわね」



私は王座で足をプラプラ振った。

中々見所のあるおじさんだ。

話を聞くと、このおじさんはステュクス家の当主代行らしい。

彼の奥さんが当主だったのだが若くして亡くなってしまったため、後継が決まるまで彼が代理をしているそうだ。

ステュクス家は女系の家柄で、代々女性が当主を勤めているのである。

それで今年、彼の3人の姪が無事魔法学園を卒業し、その中から当主を決めることになったのだと言う。



「で、まだ保留か?」

「ええ……しばらくは3人に分担して仕事してもらおうかと。今日の議会も出席は私だけです」



3人とは魔法学園にいたジュディ、トロメア、アンテノーラの事である。

3人とも学園を牛耳るくらい優秀だったのだが、同じくらい色々問題があったのだそうだ。性格とか性癖とかだろう。

それから王様とおじさんは打ち合わせを始めた。進行の時間配分とか議題とかそういうのだ。



「あなた、そろそろ」

「もうこんな時間か」

「おっと、ではお願いいたします」

「うむ、行こうかトモシビ」



王様は椅子から立ち上がると、私の手を取って椅子から下ろした。

議会とは前世で言う国会のようなものだろうか。

要は国政を決める会議だ。

そう、今日の私はお城に遊びに来たのではない。

議会に出席するために来たのだ。







「ではお手元の予算案を…………」



さっきのおじさんが眠くなる声で会議を進めていく。

私は予算案を見てみた。

細かくてよく分からない。

……あ、なんかセレストエイムに税金投入されてる。

すごい。

…………この議会の運営、4000万使われてる。



「持続可能な魔力の利用について……」



資料をめくる。

…………。

……グランドリア牛って課税対象じゃないんだ、知らなかった。

グランドリア牛……食べたい。極上のやつ。

フェリスがニャアニャア言いながら食べるのを見ていたい。

今日王様にお願いして出してもらおう。



「…………捕虜はこれでよろしいですな?」



……できた。

猫の絵だ。もうハクビシンなんて言わせない。

私は芸術の才能もあるかもしれない。

アイドルらしく歌って踊れるようになりたいな。



「魔人の登用の件ですが……」



……向い側のおじさん、私のこと見てる。

私はニッコリと微笑んでみた。

笑顔の練習である。無表情な私もこんなに可愛い笑顔ができるようになったのだ。

目線に遠慮がなくなった。

足を組む。

あちらからは太ももが見えてるはずだ。

ちなみに生足である。

今日は真冬並みの寒さだけど、生足に拘ったかいがあった。

おじさんは一瞬目を逸らすも我慢しきれず、チラチラ私を見ている。

やっぱりロリコンだ。

私はしばらくおじさんの反応を楽しんだ。



「以上で……」



……飽きた。

私は頬杖をついた。

やることがない。

私は目を瞑って夕飯のことを考えることにした。







「トモシビ、トモシビ」

「……ん」

「もう終わりましたわよ」



アナスタシアが呆れ顔で私を見下ろしていた。

会議室にいた貴族達は帰り支度を始めていた。

……ボーっとしてたら終わってしまった。

発言権も議決権もない見学とはいえ、全く話を聞いていないのはまずい。

私にハゲたステュクスのおじさんがニコニコしながら話しかけてきた。



「首尾は上々ですなトモシビ嬢」

「?」

「魔物の捕虜の件ですわね」

「予算もたっぷり分取っておきましたからな。ステュクス家は全面的に貴女の味方です。何でもお申し付けください」

「ありがと」



よく分からないけどどうやら魔物の捕虜は正式に認められたらしい。

今はまだ捕虜だがしばらくすれば正式に国民になると言う。

と、そこでアスラームがフラフラ近づいて来た。ステュクスのおじさんは彼と入れ替わるように離れて行った。



「トモシビさんも疲れてたんだね」

「……」



疲れてない。

やる気満々だった。

でも全然聞いてなかった。というか最後寝てた。

だって……だって、退屈だったのだ。

予算がどうとか環境がどうとか。

私はそういうのが苦手なのだ。



「仕方ない子ですわねえ」

「魔物の件はすんなり通ったね……ま、バルカとステュクスと君が賛成なら誰も反対なんてしないか」

「……アスラーム、つかれてる?」

「まあ、ね……剣を振るってる方がよっぽど楽だよ」



また目の下にクマができてる。

疲れ方が不健康だ。

無理もない。学園に通いながら当主の仕事もしてるのだ。

自分の時間など全然ないだろう。

戦争の時はやたら張り切ってたけどストレスから解放されて舞い上がってたのかもしれない。

私は彼の手を取ると、両手で包み込んだ。



「え、トモシビさん?」

「……ハンドクリーム、つけすぎちゃった」

「ハンドクリームなんて……」

「手、荒れてるから、ぬってあげる」



ハンドクリームを塗り込むように彼の手に私の手を這わせる。

これは48の小悪魔テクニックの一つ、ハンドクリーム攻めだ。

そんなもの塗ったことないけど、私の肌からはもっと良い成分が出てるらしいので効果はあるだろう。


なんだか今の彼を見ていると前世の記憶が疼くのだ。

ブラック企業に就職した人みたいで見てられない。

ひょっとしたら彼も私と同じく政治なんか向いてない人間なのかもしれない。

可哀想だから少しくらいサービスしてあげても……良いかもしれない。

ちょっとそんな気持ちになったのである。



「あったかくて、きもちぃ……でしょ」

「あ……うん」

「……はいおわり、またね」

「あ……ありがとう」



喋るのにいちいち『あ』をつけるのがまるでクラスのメガネみたいである。

それだけインパクトがあったのだろう。

私は用は終わりとばかりに立ち去った。

これからお泊まり会なのだ。

皆が待っている。

アスラームはそれをボンヤリと見ていた。







「きえー!」

「きゃっ」



ドアを開けた瞬間、パンと布団叩きみたいな音がした。

枕だ。

アナスタシアの顔面から枕がずるりと落ちた。

部屋の中ではエル子が枕を投げたままの格好で止まっていた。



「な、なに?」

「枕投げだよ〜」

「ちょっと! わたくしの客室ですわよ! 枕なんか投げびゅっ」



再びアナスタシアの頭に枕が直撃した。



「あはははは! 王女も大したことないじゃない!」

「この……! 生まれてきたことを後悔させてあげますわよ!」

「お、やる気だねアナスタシア」

「おーし! 死ねえエクレア!」



枕投げが始まった。



「エステレアさん普段の仕返しです!」

「それは残像です」



いや来る前から始まっていたらしい。

一体どこから持ってきたのか。

部屋の中は枕が飛び交う戦場と化していた。

すごい楽しそうだ。

枕投げなんて初めてだ。

私は目の前に飛んできた枕を拾った。



「ええーい」



エステレアに向かって投げる。

ボテっと途中で落ちた。

投げられた事すら気づいてない。

私は悲しい気持ちになった。



「しねー」



気を取り直して今度はエル子に投げてみた。

枕は別方向に飛んで、壁に当たった。

再び悲しみに襲われたが、今度は気づいてくれた。



「決着の時ってわけね!」

「のぞむところ!」



枕が飛んできた。頭に当たった。

痛い。

その枕を掴んで投げる。

しかし当たらなかった。

お返しとばかりに、飛んできた枕を受け止め……ようとしたら二発目が顔面に直撃した。

けっこう痛い。

私も負けじと投げる。

90度右にズレてエクレアに当たった。



「……やめましょ。引き分けね、引き分け」

「でも、心が折れてないから」

「こんなので心折れたら私が困るの!」

「お嬢様……議会はいかがでしたか?」

「そ、そうです。トモシビ様の議会デビューですよ」



どうって……覚えてない。おじさんに足を見せつけてた以外何かしただろうか?



「あ、書類に落書きしてる」

「これフェリスだよ」

「トモシビちゃん、私にヒゲはないよ」

「……議事録はわたくしがまとめておいたから、みんなで見直しましょう」

「そうしよっか、トモシビは少し休んでてもいいよ」



気を使われてる……気がする。

ひょっとして結構不甲斐ないところを見せてしまった?

まるでお父様みたいな事を考えてしまう。

私は華々しく活躍してるように見えるけど、その裏ではこういう地味な仕事の積み重ねがあるのだ。

何を決めるにもお金がいるし、色んなものを手配しなきゃならないし、法の整備やらもひつようだろう。

私がこうすると言っても、それだけでは絵に描いた餅なのである。


そういえばお父様も政治が全然ダメでよく書類に落書きしてた……。

そんな変な部分遺伝してほしくなかった。

私は三度悲しい気持ちになった。



「良いのですよ」

「メイ」

「こういうことは私達でやります。トモシビ様はトモシビ様しかできないことをやれば良いのです」

「そういうことね」



良いのかな。

そう言われてみると……そんな気がしてきた。



枕投げって青春ですよね。

私はやったことないですけど修学旅行の定番というイメージがあります。


あと私はタイツも好きですが冬の生足も好きです。


※次回更新は21日月曜日になります。

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