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私は性的かもしれません



「住所、年齢、職歴……どういたしましょう? まともに書ける所がありません」

「いいよ、住所不定無職なんて貧民街じゃ珍しくもねえ」



冒険者酒場のマスターは特に気にした様子もなく言った。



「だが冒険者登録をするなら信用ってもんがいる、わかるな?」

「私の紹介だから、大丈夫」

「人物を見るのは俺だ。いくらお前でもガキの言葉じゃ保証にならねえ」



孤児院組と遊びに行こうと思ってこちらの方に来たので寄ってみたのだ。

カサンドラを更生させるにしてもとりあえずは手に職をつけなくてはならない。

一応私の侍従ということになるのだろうけど、メイドはもう必要ない。

とりあえずは冒険者でもしてもらおうかと登録に来たのである。



「姉さん、これまで何して来たんだ?」

「まお」

「おまつり!」

「なに? 祭り?」

「レプタットとかの、おまつりで……盛り上げたりしてた」

「コンパニオンか何かか? なんで辞めたんだ?」

「盛り上げすぎて死人が出る所だったからです。それに主催者の家に泥棒に入りました」

「そりゃクビになっても仕方ねえな」



嘘ではない。ただクビではなく失踪しただけである。



「それからは?」

「卵とか、ぬすんでた」

「それはトモシビ様にお入れしようと」

「おいおいどんな変態だよ」

「まあ、そうやってトモシビ様に悪戯してたのよ。それで捕まったの」

「とんでもねえな……落ちるとこまで落ちたって感じか」



嘘ではない。

重要な情報を伏せるとこうなるのだ。



「ま、いいだろ」

「いいの!?」

「そこのお嬢に悪戯したいやつも珍しくねえからな」

「おっさんそういうのアウトだからね」

「自分で蒔いた種ってやつだ。ここの奴らも昨日の放送見て盛り上がってたぜ」

「これだから冒険者は……」

「あーしらも盛り上がったけどね」



ロリコン達を挑発してしまったアレのことである。

お仕置きするだの股間の魔物だの言ってくる変質者になぜ私が屈しなきゃいけないのか。

売り言葉に買い言葉で言ってしまったわけだが、不思議と女子に好評を得た。

いや不思議ではない、なんとなくわかる。

一年間魔法学園の女子生徒として過ごしてきて思ったことがある。

私達は無敵だ。

街を歩けば老若男女の視線を受け、カフェに行けば目立つテラス席に案内される。

皆でキャーキャー騒いで遊んでるだけで怖いもの無しである。

皆そんな感じのノリだから変態をやり込める私はわりと応援されるのだ。



「いや俺は見直したぜ。魔物保護しておいて有耶無耶にして済ませちまうんだからな」

「全てお嬢様の計算通りです」



私は目を泳がせた。

魔物を捕虜にした件は思ったより反発を受けなかった。

まあそのために亡命とかではなく捕虜という身分にしたんだし、それは計算通りなんだけど、煽ったのはその場の勢いだ。


どうも私は信者以外からはちょっと頭の弱い子と思われてるらしい。もしかしたら信者すらもそう思ってるかもしれない。

いや、年相応に見られているだけだろうか?



「ほいよ、これが冒険者証だ。魔力登録しておけばいつでもここで仕事を受けられるからな」

「はあ」



カサンドラは気のない返事をして冒険証を受け取った。

まあ、今は仕事を受ける気がなくても良い。身分証になるし、私達が彼女を経由して依頼を受けることもできる。







それから私達は商店街に向かった。

私達の遊ぶ場所と言えば基本商店街である。



「ここで何をなさるのですか?」

「皆で売り物を見たり、カフェで会話をしていますね」

「楽しいのですか? トモシビ様にしては庶民的に思えますが」

「楽しみとは刺激です。他者との関わりは最も簡単に刺激を得る方法と言えるでしょう」



アパレルショップに入っていく私達の後ろでスライムとカサンドラが訳の分からない事を言っている。



「クロエももっと攻めた格好すれば?」

「そだね、スカート短くしてみる?」

「昔と言ってること真逆ですよ?」

「そうだっけ? まあ昔はあーしらも若かったし」


「スカートを短く、とは性的アピールでしょうか?」

「はい、思春期とはそういうものです」

「カッコいいからしてるだけよ。変なこと言わないでよね」



ぶつぶつとおかしな会話を繰り広げスライムとカサンドラをエクレアが一蹴した。

私だって短くしているけどそれはファッションだ。

決して変態おじさんに性的アピールしてるわけでは……。


……いや、本当のことを言うと性的アピールしているかもしれない。

私は全方向に自分の可愛さをアピールしているのだ。

可愛さというのは色んな要素が含まれてはいる。その中には性的な視点だってある。

私自身の中にもある。私が自分自身を可愛いと思う時、それは私自身への性的アピールも含まれているのである。

だからおじさん達にそういう目で見られるのは狙い通りと言える。



「どうしたのトモシビちゃん? ぼ〜っとして」

「フェリス、尻尾なでて」

「えっ……う、うん」



フェリスはおずおずと私の尻尾に手を伸ばし、柔らかなタッチで撫で始めた。



「おー……」



もしかしたら皆と私では目線が違うのかもしれない。ロリコンおじさんを魅了して喜んでるのなど私だけなのである。

エクレア達は性的な目線などカケラもないのかもしれない。



「フェリス……私、普通じゃないかも」

「どう見ても普通じゃないよトモシビちゃん」



そもそも普通とは一体何なのか。

私の中身は複雑である。

前世のせいだろう。

……まあいいか。べつに悩んでいるわけではないのだ。

私は私のなりたい私になろうとしているだけである。時に奇抜なファッションもそれを模索しているのだ。

多分そこは皆同じなのだろう。







夕方になり、家に帰ってきた私はお風呂に入ることにした。



「お嬢様、お疲れですか?」

「ちょっとだけ」

「まあ! では私が癒して差し上げなければなりません」



問答に意味はない。エステレアは私が疲れていようがいまいが好き勝手に私の体を弄ぶのだ。

エステレアは私を椅子に座らせ、後ろから抱え込んだ。

いつもの体勢である。



「お嬢様は……刺激が欲しいのですか?」



エステレアが耳元で囁いた。



「……そうかも」



そうかもしれない。いやつまるところそうなのだろう。

エステレアが耳を甘噛みした。そして、ねっとりと温かい舌が私の頬を伝う。



「ぁ……」

「お嬢様は……こんなに刺激的ですのに……もっともっと……求めてしまうのですね」



エステレアは蛇のように私の体に自分の体を擦り付ける。

どう見ても刺激を求めてるのはエステレアの方だ。



「お嬢様は悪い遊びばかりしてしまう小悪魔ちゃんですが……それはきっと……お嬢様の器が大きすぎて、刺激が不足してしまうのですわ」

「エステレア、耳はやめて」

「お嬢様が可愛く拒否なされるからついやってしまうのです」



これはこれで気持ち良いから良いけど。

その時、何の遠慮もなくドアが開いた。



「あの……あら?」



カサンドラが裸の私を見て目を輝かせた。



「くふふ、どうぞお続け下さい」

「どうしたの?」

「トモシビ様の脱ぎたての衣服をお借りしようと思いまして」

「やめて」



変態だ。

体液がどうとか言ってたのを思い出した。

許可できるわけがない。

いやしかしわざわざ聞きにくるあたりは律儀とも言える。本物の変態ならきっと勝手に盗んでいるだろう。



「聞きにきたのは……褒めてあげる……?」

「お嬢様、お気を確かに……この者は伝えることでお嬢様の反応を楽しんでいるのです」

「くふふ」



上位クラスの変態だ。

しかし、そんな常軌を逸した趣向を見破るあたりエステレアも只者ではない。



「冗談です。本当は魔物の処遇を伺いに参りました」

「廃村に住まわせると決めたはずです」

「魔人やドラゴンなどはもう少し良い使い道があるかと」



……いきなり真面目な話をし始めた。

私が保護した魔物は主にオーガ、オーク、ゴブリンなど人型の者たちだが、1匹だけ危険な魔物がいる。

ドラゴンだ。

撃ち落としたドラゴンは1匹は頭を吹き飛ばされたが、もう1匹は羽を撃ち抜ぬかれて墜落した。

その後も抵抗を続けていたが、飛べないドラゴンなどただの大きなトカゲだ。

最後は降伏した。

テレパシーみたいに降伏の意思が伝わってきたのだ。



「使い道って?」

「戦奴とするのがよろしいかと。彼らを使って残りの魔物どもを殲滅するのです」

「……そんな事したらダメ」



それは私も考えたけど……元の仲間と戦わせるのは残酷だ。私の好みじゃない。



「めすいぬ」

「はい」

「私は明るくて、楽しいのがすき、わかった?」

「明るく楽しく、ですか」

「うん……暗いのも悲しいのも、きらい」

「……それがトモシビ様の方針ならば」



ドアが閉まった。

捕虜ドラゴンには残りのドラゴンにも降伏するように呼びかけてもらうつもりだ。

その後は旅客機か宅急便でもさせてみようか。

肉親が死にかけるような陰惨な体験はもう懲り懲りである。



「おっ嬢様っ」

「うぎゃ」

「ふふふ……続きですわ」



エステレアは楽しそうに私を洗い始めた。

エステレアはとても欲望に忠実だ。

しかも感情をストレートに出して裏表がない。主人にすら遠慮しないのだから相当である。

でも私はそれで良いと思ってる。

明るくて楽しいからだ。

何より主人である私がさらに欲望の塊なのだから。



「エステレア、私、欲深いかも」

「存じております」

「あと傲慢で、性的」

「天使に性などございません」

「でもそれが私の普通……ちがう?」

「まあ……! 困ったお嬢様です。シャワーを浴びているだけでついうっかり真理の扉を開けてしまうのですから」



自分がどんな人間だろうが、自分が自分を肯定していれば良いのだ。


そうして私は明日も変態を煽って遊ぼうと決意したのであった。

そして敏感にそれを察したエステレアに責められたのであった。



悪いことに興味出てくる時期ってあると思います。

トモシビちゃんは13歳だからそのくらいなのでしょう。

あとエンジョイ&エキサイティングって良い言葉ですよね。


※次回更新は12月14日月曜日です。

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