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エステレア、私はだれ?



白く輝く玉座は私を待っている。

この玉座もお城も誂えたかのように私好みの造形をしている。

カサンドラが、そして他の魔物達が私を見ている……いや、待っている。

私は唐突に理解した。

彼らは待っていたのだ。

私を。

この玉座が空になった時からずっと。

これは私の席で、ここは私の城で、彼らは私の民だったのだ。



「トモシビちゃん!」

「……フェリス」



フェリスが私の腕を掴んでいた。

知らないうちに私は玉座に向かって一歩踏み出していたらしい。



『トモシビさん、あまり深く考えない方が良い。彼女は信用できない』

「そうっすよ、また同じことするだけっす」

「しかしトモシビ様は心惹かれているご様子ですよ?」



図星である。

だって……それは私の理想国家なのだから。

この変な街にずっと隔離されていた魔物なら、人間を襲わないかもしれない。

アルグレオみたいに少しずつ交流すればいい。

野良の魔物はいるだろうけど、それらだって管理できるようになるかもしれない。

いや、懸念はいくらでもあるだろう。それは分かってる。

これだけの魔物を受け入れればもはや研究目的などと言い訳はできない。



『よせトモシビ、せっかく築いた信用を捨てる気か?』

『そうだぜ、お前の配下になった魔物が人を襲ったらどうする?』

『むしろわざと暴れさせる可能性もあるんじゃないかな』



あり得る話だ。

でも彼女がそんなケチな嫌がらせをするとも思えないのだ。

カサンドラは私を魔王にしたがっている。

実のところ、彼女が言ってる事は今までと変わらない。

魔王の意志を継いで魔王になってほしい、それだけだ。

ただ手段が違うだけである。

以前はなにやら物理的に意志を注入しようとしたようだが、今回は懇願である。

そしてそれは私に対して最も効果的な手段だった。



「では手土産に一つ機密を話しましょう」

『機密じゃと?』

「トモシビ様を魔王様のお世継ぎとして従う事に決めました。情報だって渡します」

「いってみて」

「もうじきこの魔王領は魔力が尽きます」

『魔力? 地脈のか?』

「はい、この街にかけられた魔法も消え、魔物達を養う魔力もなくなります」

『おいおい、つまりあれか』

「はい、もう魔王領は滅びるということでございます」

『なぜそんなことがわかる?』

「実際に尽きかけているからです。おそらく地脈の流れが変わったのでしょう」



心当たりはある。

グランドリアでは最近魔物が大量発生しているのだ。

魔王軍が置いた魔物製造機のせいだと思っていたが、実はそれ以前から大量発生はあった。

スミスさんが言うには、魔物製造機は溢れる魔力を効率良く使うためのものなのだそうだ。

溢れるほど活性化したグランドリアの地脈、その根本的な原因がここの地脈の流れが変わったことだと考えると辻褄は合う。

つまり、その分が流れ込んできたわけだ。



「お分かりですか? 私達はトモシビ様に縋るしかないのです」

『……彼女の情報は価値がありそうですわね』

「お嬢様、情報だけ引き出して用無しになったら過酷な鉱山にでも送ればよろしいかと」

『魔導具に加工するという手もありますね』



メイド達が魔王と呼ばれつつある者の配下に相応しい邪悪な発言をした。

私は皆を見た。

エステレアとクロエはいつも通りだ。私が何を選ぼうが関係ないらしい。

フェリスとエクレアとプラチナと不安げな顔をしている。


フェリスはオーガが嫌いだ。妹が食べられたのだから無理もない。

私も好きではない。

ゴブリンも好きではないし虫も嫌いだ。

生理的にダメなのだ。

私は全ての生き物を平等に愛せるような聖人ではない。

しかし、だからと言って私を頼って縋り付く生き物を振り払うほど薄情でもない。

最後に私は服の中にいるスライムを撫でた。

私はこの子と約束したのだ。

あの時語った未来を今から創る。

私が変わらなくて良かった。何も恐れなかったあの時のままだ。


答えは決まった。

私は魔物を受け入れる。

ただし……玉座は受け入れない。



「……捕虜にする」

『なんじゃと?』

「捕虜は、ちゃんと扱わなきゃだめ、ちがう?」

「魔物の捕虜っすか……」

『人間同士ならそうじゃがのう……』

「オーガも? 全部?」

「うん」

「ああ……さすがはトモシビ様、いや魔王様とお呼びしても」

「よろしくない」



私は魔王ではない。



「エステレア、私はだれ?」

「お嬢様です。誰が何と言おうと私のお嬢様です」

「お嬢様……ですか」

「お嬢様は上り続けるのです。魔王などで止まったりはしません」

「……」



思うに魔王なんて名乗るから悪いのだ。

グランドリアにおいて魔王のイメージは最悪である。それだけ忌み嫌われているのだ。

私はお嬢様でいい。

可愛いから猫姫様でもいい。ファッションリーダーでもいい。

何はともあれ……これで街は制圧完了だ。



「めすいぬ、武装解除して……要るものだけもって、アスラームのところに行って」

『あ、そこで僕に任せるのかい?』

「お父様……セレストエイムの領主がくるまで、だから」

『クソつまんねえ、これで魔王領も終わりかよ』

『スッキリしねえな』

『せっかく気合入れて来たのにな』

「くふふ、勘違いしておられますね」



ボヤくクラスメイトにカサンドラが言う。



「現在魔王軍は二つに分かれております。私達はトモシビ様を選びましたが、大多数は違います。彼らは私に従っておりません」

『へえ、そいつらはどこにいるんだよ?』

「あなた方と交戦していないのでしたらセレストエイムの領主の所に行っているのでは?」



……盲点だった。

空飛ぶ私たちをスルーして与し易いお父様の方を撃破しに行ったのか。

大丈夫かな。

おそらく、ここにいない魔物……例えばエイやドラゴンやワイバーンが徹底交戦派なのだろう。

……ドラゴンや……ワイバーンが?

私の脳内を嫌な想像が駆け巡った。







私はすぐに飛空艇に戻った。

ドラゴンにお父様は対抗できない。

地を這うドラゴンになら勝てるだろう。うちの父は剣の腕だけはすごいのだ。

でも空飛ぶ魔物に剣は通じない。

空中で戦うには魔力量が重要なのだ。

だからこそスカイサーペントが神獣扱いされて来たのである。

ドラゴンも神話の魔物だ。おそらくスカイサーペントと同等の強さはあるだろう。

かなり、まずい。



「トモシビ様のお父上など魔王様お一人で十分ではないですか?」

「捕虜は黙っていなさい」



カサンドラはもう私の側近気取りである。

飛空艇を飛ばす時間ももどかしい。考えが浅かった。

私は国境地域の小競り合いと思ってた。

この街……幻影都市とでも名付けようか。幻影都市が魔王領全体に広がっているというなら、魔王領に街は一つしかないということだ。

ならばお父様の相手は私に投降した以外の魔王軍全軍という事になる。



「あ、いました。まだ無事です」



私の広げたマップの光る点を指さすクロエ。

お父様だ。生きてる。

わざわざ幻影都市から戻って来たのは位置が分からなかったからだ。

向こう側の魔力を検知できないのである。

戻るのにはカサンドラの謎の技術がないと出来なかったのでその点は感謝しなくてはならない……のかな。

それは後にするとして、飛空艇が遅い。



「うー……」



私は艦長席で足をバタバタさせた。

発進するには1万メートルまで上昇しなければならないのだ。

縦に10キロ移動するのである。どうやったって時間はかかる。

いっそ生身で飛んで行こうか。



「お嬢様……スカイドライブは一つしかありません。飛空艇が飛べなくなります」

「プラチナちゃんが浮かせれば良いんじゃないの?」

「何時間酷使するつもりっすか。集中力が切れて落ちるっすよ」

「落ち着け、どの道お主の魔力が切れれば援軍の意味ないじゃろ」



もどかしい。

そうこうしてる間にお父様が死ぬかもしれない。

怖いのだ。

お父様だけではない。兵士も死ぬ。交戦してるならたぶんもう死んでる。

私が危ない目に合ってる時の両親もこんな気持ちだったのかな。

焦りが焦りを生む。

そんな時、ブリッジのドアが勢い良く開かれた。



「お困りのようね!」



エル子がすごいドヤ顔で立っていた。







数分後、私は空を飛んでいた。

自力で飛んでいるわけではない。

蜂と翼竜を掛け合わせたみたいな謎の生物に、エル子と二人乗りをしている。

エステレア達は来れなかった。泣きそうな顔をされたけど、二人しか乗れないので仕方ない。

その代わり通信は開いてる。たぶんこの距離なら大丈夫だ。

エステレア達がギュッてしてくれると私も心強いのだが。



「すごいでしょ、2人乗りで音の速さを出せるのよ」

「私の、シールドのおかげ」

「私のバイヤキーのおかげでしょ! あ、見えてきたわ」

「む」



ドラゴンだ。大きな鳥みたいなのがいくつか飛んでる。

5匹いるけど、まさかあれ全部?

その周りにも小さいのがたくさん飛んでる。

地面にはパラパラと蟻みたいなのが落ちてる。

私は″窓″のレンズをつくり、望遠鏡のように調整してみた。

人間の死体だ。

魔物のものもある。

すごい激戦だ。

そんな中、お父様の姿はすぐ分かった。

魔物の群れがそこだけ鋏で切られたように分断されているのだ。

魔物が近づくだけで寸断され、吹き飛ばされる。まさしく無双状態だ。

ドラゴンが放った魔術を避けながら空中を駆け翼を斬りつける。

伝説の英雄みたいな戦いぶりだ。



『ご主人様はご無事ですか?』

「うん」

「強いけど……あれは無謀ね」



いくらお父様でも魔力が尽きたら終わりだ。

そうこうしている間にもセレストエイムの兵が他にドラゴンに焼かれ、爪で切り裂かれるのが見える。

私の領民が死んだのだ。


そしてそのドラゴンがお父様の方に向いた。

同時に他のドラゴンも向いた。

レーヴァテインみたいな熱線が迸った。

ドラゴンブレスというやつだ。

お父様は避けた。飛び上がり目の前のドラゴンを足場にし、斬りつけて離脱。

そこに次々とブレスが襲いかかる。

5体のドラゴンの波状攻撃は少しの休む暇もない。

私は焦った。この虫がやけに遅く感じる。



「ブースターつけるね」

「えっ……ぎぇぇぇ!」



悲鳴を上げるエル子。

加速度のせいではない。私が後ろからしがみついて首が圧迫されたのだ。

お父様はまだ無事だ。

振われた爪を空中でかわして……そこにまたブレス。避ける。鞭みたいな尻尾が掠める。爪を受け止める。

バランスを崩して落ちた。

着地したところにさらに5方向からブレスが放たれた。



「あ」



避けられない。

大地を焼き焦がす熱線が迫る。

お父様は動けない。

私の時間がスローモーションになった。



ドラゴンブレスは当たった岩が煮え立つくらいの熱さです。

炎というよりゴジラみたいなやつですね。


※次回更新は23日月曜日になります。

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