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千年前に用意された私のための古い椅子

※11月10日、2月8日誤字修正。ご報告ありがとうございます!



『おお、意外と栄えてんな』

『あれ魔物が作ったのか?』



などと観測班の暢気な声が聞こえる。

高層ビルとは言うものの高度一万メートルから見ればグランドリアの建築と大差はない。

アルグレオくらい圧倒的な高さがあれば別だが、この灰色の無機質な街並みでは皆はさほど驚かなかったらしい。

ただし私は別だ。

この薄暗い中でも違和感を感じずにはいられない。

やっぱり魔王は私と同じ世界から来たのだろうか。

その可能性がいよいよ現実味を帯びてきた。


飛空艇は徐々に高度を下げて、ヘリコプターのように要塞都市の真上に静止した。

ちなみに今回は魔力節約のため双子の精霊術で浮かせてもらっている。

近くで見るとビルはところどころひび割れ、崩れている。

建てられてからかなりの年月が経っているようだ。



『誰もいないぞ』

『きっと私に怖気付いて逃げたのね』

『めんどくせえ! 行くぞてめえら!』



ブリッジの窓の前を飛び降り自殺者みたいなのが通過していった。

バルザックだ。

飛空艇から飛び降りたらしい。



『あ、ちょっと! トモシビ、バルザックが!』

『とにかく、僕らは降りるよトモシビさん』

「わかった……あそこ、攻撃するから」



船に魔力を充填させる。

砲撃回路起動、目標は街を壁のように囲むビルの一部だ。

船体の下部に魔法陣が現れる。

使い方はちょっと複雑な魔導具と同じである。

要するにセレストブルー自体が私の魔導具のようなものだ。



「はっしゃ」



閃光がコンクリート壁を貫いた。

すぐに煙が上がり、コンクリートが融解して崩れていく。

エクスプロージョンで破壊した方が効率的かもしれないが、セレストブルーの砲撃はこのレイジングスターしかないのだ。

砲撃跡から誰かが逃げるような様子はなかった。

本当に住民はいないらしい。

何の抵抗もないのが逆に不気味である。

まるで廃墟だ。



『なんだよ敵が出てこねえぞ』

『こっちも誰もいない』

『トモシビ、どれが街の中心施設か分かるかしら?』

「うーん……」



全然わからない。

全部廃墟のビルだ。

マップを見てもピンとこない。

生活感がないのだ。

また地下だろうか?

お父様達の調査によるとこの辺から魔物が来るのは確からしい。

だったらそれなりの規模の街なり巣なり、魔物が暮らしている場所があるはずだ。

金属の鎧を使ってるような軍隊がゲームみたいに突然ポップしてくるわけがない。

鋼鉄の装備を作るのは大変なのだ。鉄を採掘して、製鉄して、鋳造なり鍛造なりして剣や鎧の形にしていく。

高度な設備と技術が必要だ。



「適当に、はいってみて」

『んだよクソ面倒くせえ』

『バルザック君の鼻でも分からないのかい?』

『そこら中が臭えんだよ、空気から臭いやがる』



空気……?

言われてみるとどことなく違和感のある空気だ。

うまく言えないがどんよりとして重い感じがする。

それに暗い。

そういえば、先程見た地上も薄暗くて奇妙な感じがした。そのわりに空はあまり暗くなかったような気がする。

……つまり空が暗いのではない。

空気が暗いのだ。

いや空気というより空間だろうか?



「お察しの通り、あそこは街でも要塞でもありません。遺跡です」



聞き覚えのある声。

見ればブリッジの片隅にカサンドラが立っていた。

毎度毎度、一体どこから侵入しているのか。

弾かれたように皆が動いていた。

エステレアとエクレアが剣を抜き、フェリスの尻尾が太くなった。威嚇してるらしい。

当然の反応である。

彼女は私を魔王に乗っ取らせようとしたのだ。



「ああ……トモシビ様のご来訪を心より歓迎いたします」

「めすいぬ、ほっぺ出して」

「はい! どうぞ引っ叩いて思う存分唾をお吐きかけ下さい! 他の体液でも構いません!」

「や、やっぱりやめる……」



こわい。

私はドン引きした。



「トモシビ様、こいつ頭おかしいわ」

「おのれ……お嬢様の唾液は私のものです! 一片足りとも貴女などにやるものですか!」

「ごめん、そんなにおかしくなかったわ」

「きっとトモシビちゃんの唾の効果を知ってるんだよ」



そうか、言ってることはセクハラだが、よく考えると全然おかしくない。

私の体液に含まれるらしいセラムは少しキスしただけで目に見えて肌が艶めく。

私が舐め続ければ酷い火傷痕だって完治する。

もし私が成長しないのがこのセラムのせいならば……不老不死の霊薬の可能性すらある。



『おおい、なんじゃ? 何を言っておる? 誰がきた?』

『先生! 通信聞かれます!』

「……邪魔者が来る前に済ませましょう」



開きっぱなしの通信を聞いたカサンドラが指をツイっと振った。

その瞬間、レンズの焦点がズレるように室内の景色がぼやけた。

一瞬目がおかしくなったのかと思ったが違うらしい。

ぼやけた景色が薄くなり、薄暗い空間がステレオグラムのように像を結んでいく。

私の目に青空が飛び込んできた。

先ほどまでの薄暗い空ではない。

そして下には街があった。

そう、街だ。

廃墟ではない。



「綺麗……」



エクレアが思わず感嘆の声を漏らした。

舗装された道路、立ち並ぶ建物はどれも綺麗でゴミもほとんど落ちてない。グランドリアより綺麗かもしれない。

いつのまにか、私達はその中にある二階建ての家の屋根の上に立っていた。

道にはオークやゴブリンが歩いている。

魔物の街だ。

カサンドラはその街をバックに全く邪気のない顔で微笑んだ。



「ようこそ、ここが魔王様の創造された国です」

「そ、それより今のは? 転移魔術ではないですよね?」

「はい、魔王様の秘術により街の空間を魔王領全土にまで引き伸ばし、実空間と重ね合わせているのです」

「トモシビちゃんどうしよう、何言ってるか分かんないよう」

「待って、それよりセレストブルーは!? キセノ一人じゃバランス取れないっす!」

「……あ」



どうやらブリッジにいた人は皆ここに移動させられたらしい。

カサンドラと私のチームとプラチナがいる。

プラチナとその弟のキセノは飛空艇の上部と下部でそれぞれ精霊術を使用していたのである。

そのプラチナが突然消えたら飛空艇は……たぶん落ちる。

私は開きっぱなしの通信に呼びかけた。



「誰か、飛空艇おねがい」

『何が起こってる? 降下してるぞ』

「強制転移させられたんですよ! 操作できないからどうにかしてください!」

『もうやっとる、こちらは任せておけ』

「先生」



飛空艇の方は先生が着陸させてくれているらしい。

飲んだくれて部屋から出てこないのでお酒を与えたのは間違いだったと思っていたが、いざというときくらいは仕事をしてくれるのだ。



「……あの女が離れていたのは僥倖でしたね。ではこちらへどうぞ」

「どこに行くつもり?」

「本当の街をご案内いたしましょう」



カサンドラは民家から身を翻して飛び降りた。

少し迷って私達もそれに続いた。

ちなみに私はフェリスにおんぶしてもらって降りた。

街中でブースターを使うと風で迷惑なのだ。

街はグランドリアと似た街並みだが、時折近代的な建物も見える。

住人は魔物ばかりだ。

ゴブリン、オーク、オーガなど繁殖力の強い魔物が多い。

フェリスが剣呑なオーラを出したので私はフェリスの足を尻尾で撫でた。

魔物達の身なりはやっぱり少し汚い。街は綺麗でも生活ぶりはそんなに良くないらしい。



「人間みたいなのもいますね」

「魔人です。人間が魔物になればもう人間の国では暮らせません」



居心地が悪い。

魔物や魔人は私に気がつくと立ち止まってじっと見てくるのだ。

人間なら感情も読み取れるというものだが魔物は難しい。美味しそうと思われてるのかもしれない。



「あっ、獣人もいるよ!」

「かつて魔王様についた獣人達の末裔ですね。ここでは比較的高い地位を得ている種族です」

「思ったよりは良さそうな暮らししてるっすね」

「でも森がないよ」

「王都にもないよ」

「私はトモシビちゃんで狩り欲を満たしてるんだよ」

「そっか」



魔物の街は綺麗なのは綺麗なのだが全然活気がなかった。

物売りもいなければ人通りも少ない。騒ぐ若者……若い魔物もいない。


そんな平日の遊園地みたいな雰囲気の中を歩き、私達は街の端にたどり着いた。

なぜ端だとわかるのかと言うと、そこに壁みたいな膜があるからだ。

膜には色とりどりの光がモザイク状にぼんやり光っている。緑と茶色が比較的多く、上の方は青色。

その膜がカーテンみたいに街全体を囲っているのである。

そして、膜のすぐ近くに一際大きな建物があった。



「ここがどこかお分かりですか?」

「?」

「ここはセレストエイムとの国境です。トモシビ様のお屋敷もここから見えるのですよ」

「トモシビちゃんちはもっと遠くのはずだよ?」

「この街は魔王領と同じ広さなのです。街の端は即ちセレストエイムとの国境というわけです」

「んん〜?」



フェリスは頭を悩ませている。

要はこの街を少し歩けばすごい距離を移動した事になると言うわけだ。

なんでそれが可能なのかはわからないが理屈はわかる。

そんなすごい技術があってなんで魔王は負けたのだろう?

先生達がそんなに強かったのだろうか?

というか先生、何歳なんだろう。


どうやら砦はセレストエイムの監視を目的として作られたもののようだ。中には妙な魔法陣と魔導具の設備がある部屋がいくつかある。

それから生活感のあるベットルームなどを通り過ぎ、入った先は転送魔法陣のある部屋だった。

一体どこへ連れて行かれるのかと少し警戒しながら魔法陣に乗る。

移動した先は、白いセラミックみたいな独特の作りをした建物の中だった。



「ここが街の中心、魔王城です」

「ま、魔王城って魔王がいるって事ですか?」

「……おりません。お力を封印されてから魔王様はずっと不在です」

「私たちにそんな事言っていいの? 一応敵なんだけど?」

「これは誠意です。少なくとも私にとってトモシビ様は敵ではございません」

『ふん、あんなことをしでかしておいてよく言うわ』



先生が釘を刺した。

もちろんまだ通信は維持している。

私たちは密談などするつもりはないし、こうする事で無事を知らせることもできるからだ。

魔王城は白くて綺麗な城だった。

魔王城と言うより聖城と言った方がそれらしい。

私達はカサンドラに先導されてさらに歩く。

大ホールみたいな中央廊下を奥に進むと、真っ白に金の意匠をあしらったこれまた巨大な扉があった。

それが自動で開いた。

飛空艇も格納できそうな広々とした空間。

そこにポツンと白い玉座があった。



「これ、魔王の?」

「はい、私達は街を離れる前には今でもこの玉座に拝礼して出発します」

「空の玉座にですか?」

『律儀なもんじゃのう』

「……ですがこれからは空ではなくなります」



カサンドラは私の正面に来ると、辺りを見回した。

私も釣られて見回す。

緊張が走った。

そこには闇に蠢く魔物達がいた。

ゴブリン、オーガ、オーク、それに魔人。

玉座の間はいつのまにか魔物の壁で取り囲まれていた。

彼らはなにやら両手を広げたり上に向けたりししている。おそらくこれが拝礼なのだろう。

異様な雰囲気の中、カサンドラが跪いて言った。



「トモシビ様、どうか貴女様が魔王となり魔物達をお導き下さい。それで全ての戦いは終わります」



獣人や魔人は魔物より頭が良いので重宝されます。

ドラゴンとかも頭良さそうですね。


先生はお酒飲みすぎて目が回ってますが、まだかろうじて理性が残ってるみたいな状態です。


※次は11月16日月曜日になります。

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