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加虐的で破壊的で反抗的

※2月4日誤字修正、ご報告感謝です!



私は夢を見ている。

夢の中で夢だと分かるのは、いつもの砂浜にいるからだ。

ジェノバの砂浜。

水平線の向こうには懐かしいクルルスの像が聳え立っている。

現実ではなくなったはずだが、どういうわけか夢の中では健在である。



「最初からあるものはそうなるらしい」

「最初?」

「世界の最初だ」



世界に最初があるのか。

私は一瞬疑問に思ったが、改めて考えると当然の事だ。

世界だってなんだって始まりはある。

前世の世界も今世の世界も何らかの現象があって出来たはずだ。

神様が作ったのかもしれない。それでクルルスを配置したのだ。

少なくともこの世界には神様がいる。

祈ると回復とかしてくれる神様だ。

不思議なことに私に祈っても同じ現象が起こるのだが……。



「この世界に神はいない」

「え?」

「神の座は空白なんだ」



いきなり何を言い出すんだろう。

私はもっと現実に沿った話をしてるのであって、そういう思春期特有の設定語りをしたいのではないのだ。

まあ、でも……このおじさんって友達いなさそうだし、しょうがないのかな。

こんなロリコンおじさんをまともに相手してあげるのなんて私くらいだろう。

だからこうして私の夢に出てくるのだ。

いつも砂浜なのはたぶん私の水着姿が見たいだけだろう。

自分の体を見てみる。

当然のように水着を着ていた。



「その座にお前も座ってみるか?」

「……おじさんは、椅子とお足置き、どっちになりたい?」

「えっ?」



砂浜に連れ込んで水着を着せて妄想話を聞かせる中年男性。

完全に変態だ。

どうせまた椅子にしてくれとか踏んでくれとか言うのだろう。



「しっかり、わからせてあげなきゃ」

「いや、神の座だぞ? 興味ないのか?」

「世迷いごとを。お嬢様が座ったものこそが神の座になると知りなさい」



うん、エステレアならそう言うだろう。

となるとドMもオタもある意味神の座ということになる。

そしてこの変態おじさんもその仲間に加えるか検討中というわけだ。

………あれ? エステレア?







「エス……」



そこは実家だった。

実家の私の部屋のベッドの上だ。



「お尻……お嬢様のお尻は……あら?」



私を抱きしめていたエステレアが起きた。



「おはようございます、今日もお嬢様日和ですわ」



変な夢を見ていた。そしてその夢にエステレアが出てきたような……まあいいか。

あたりを見回すと皆うんうん唸ったり起きたりしているのが見える。

この部屋には12人ほど寝ている。

女子チームの10人の予定だったがそこにエル子とプラチナも加わって、私の部屋でパジャマパーティーをしたのだ。

楽しかった。



「エステレア、夢にでてきた」

「まあ! 私の夢を見てくださるなんて!お嬢様と私の絆の勝利ですわ!」



変なおじさんもいたけど……。

エステレアは頬を私の顔に押しつけてスリスリしてきた。

起き抜けでもすべすべである。

スキンシップというのは良いものだ。

すればするほど幸福感に包まれる。

昨日も思う存分楽しんだ。

だから女子全員を集めたのだ。

一緒にお風呂も入った。エル子は若干引いてたけどプラチナは意外と平気だった。



「おはよう、久しぶりにトモシビ汁使ったからお肌の調子いいよ」

「私も一晩でニキビ消えてるっす」

「そうでしょう、お風呂にトモシビを浮かべておくだけでいいのよ」



アナスタシア達とは一ヶ月に一回くらい一緒にお風呂入ったりしている。

最近はお城のメイドや王妃様もたまに入ってる。肌がしっとりして、皺が伸び、きめ細かくなると評判である。



「セレストブルーの様子はどうでした?」

「まだ寝てるみたい、少し出発遅らせてもいいかもね」



女子は私の部屋、男子はセレストブルーと綺麗に分かれて一晩過ごしたわけだが、あちらでも夜遅くまで騒いでいたらしい。

異郷の地で一晩泊まるというのは中々に刺激的なものなのだ。

男は身支度が早いのでギリギリまで寝ていられるわけだが、女の子は支度に時間がかかる分早く起きなければならない。

アナスタシア達やプラチナ、エル子はもう起きて身支度を整えていたようだ。

エル子が抱えていたスライムがピョンと飛んできて私の胸元に潜り込んだ。



「あっ、こら」

「やはりこちらが落ち着きます」



正確には12人と1匹だった。

エル子はスライムを一眼見て興味を持ってしまったらしく、昨日は使い魔にして召喚登録をしようと頑張っていた。

残念ながら出来なかったようだ。

スライムは虫じゃないし、そもそも私のペットである。



「なによ、私の胸の方が大きいのに」

「私の方が美乳」



どんぐりの背比べならぬ胸比べである。

胸の大きさなんて私は気にしないけど、エル子は気にしているらしい。

お風呂で散々勝ち誇られた。

そうなると私も張り合ってしまう。最終的に私の方が美乳で決着がついた。

エル子は納得してないけど、たぶん着いたはずだ。

まあ、ともかく、皆はしゃいでいたのだ。


夢のロリコンおじさんも少しはそういう友達を作れば良いのである。

一人で黄昏てばかりいるとあんな変態になるのだ。







朝早くセレストエイムの街を飛び立った私達はお父様の野営地に向かった。

ゲルみたいなテントが並ぶ野営地の真ん中にぽっかりと空き地がある。

わざわざ空けてくれたらしい。

そこに飛空艇を着陸させた。

もう飛空艇の運用は慣れたものだ。

火や燃料を使わないので前世の航空機より安全だしエコロジーだ。

実は理想の乗り物ではないだろうか?


先生から伝えられた作戦はお父様に協力して、魔王領にある要塞を攻めることだけだ。

具体的な部分はお父様と相談して決めなければならない。

お父様は当然通信機などという文明の利器は持っていないので野営地に直接足を運ぶ必要がある。

ゾロゾロと蟻の行列みたいに飛空艇から降りるとお父様と側近達がいた。

風が強い。

私は靡く髪を押さえながら、わざと偉そうに胸を張ってお父様と対峙した。


……お父様は真面目な顔をしている。

しかし私にはわかる。

無理やり真面目な顔を作っているのだ。

私の方はと言えば、笑いを堪えるのに必死だった。

笑ってはいけないと思うほど笑えてくる。

他の人には理解できないだろう。

お父様が真面目な顔をしているというだけで可笑しくなってしまう。

実の娘にパパ活を頼むような人間なのである。

我慢できずに頭を撫でたり抱きついてきたりするかもしれない。

そうしたら私の威厳がなくなってしまう。

なんだかんだで私もお父様に会うと気が緩むのだ。



「……援軍感謝する。すぐに作戦会議といこう」



お父様はくるりと背を向けた。

あれ?

無視である。

私などどうでも良いと言わんばかりの態度。

なんだかイラッとした。

おかしい、これではまるで戦いの場に私情を持ち込まない立派な大人みたいではないか。

私たちがゾロゾロ行列になると副官のおじさんが言った。



「申し訳ありませんが代表者を選んでください、地図を囲むには狭くなりますのでな」

「地図は、まかせて」



いつものようにマップを出す。



「おお……! これがお嬢様の魔法ですか!」

「みんなで見よ」

「ふむ」



副官をはじめとする兵士達は素直に驚いてくれたのにお父様は『ふむ』の一言である。

不満だ。

私を軽んじてる気がする。

でも口にも顔にも出さないで耐えた。

私だってそのくらい弁えているのだ。







作戦会議は滞りなく進む。

お父様は何も喋らない。

作戦説明をするのは側近のおじさんだ。

私はマップ係に徹して不機嫌さを紛らわしている。



「砦がポツンとあるわけではない。都市だ。グランドリアの地方都市と同規模の都市があると思われる」

「それを占領するわけね」

「エステレア、お茶のみたい」

「はい、お嬢様」

「可能ならばな。何しろ内部の状況がわからん。魔物だらけの都市など占領しても使えん」

「とにかく中を見てみないと分からないってことか」



作戦のキモは人類初の航空戦力である飛空艇の運用ということになるのだが、無理してやられてしまっても困る。

乗っているのは学生であり、経験を積ませるのが先決なのだ。

そう考えて遊撃や撹乱でちょこちょこ攻撃させようとお父様達は考えたようだが、血気盛んなクラスメイト達はやっぱり無茶したいらしい。

都市に降りて占領までやろうと言うのだ。

やはり魔法戦クラスというのはそういうクラスなのである。

ちなみに私も賛成である。このセレストブルーがあれば要塞都市の一つや二つ落とせると思ってる。


協議の結果、『危険感じたら逃げる』という条件付きで無茶は許されることとなった。

判断を先生が行うのである程度は安心できる。

最後に側近おじさんがこちらを向いて切り出した。



「トモシビお嬢様は飛空艇の中で待機をお願いします、くれぐれも外へ出ないように」

「どうして?」

「危険です、そのお体に傷でもつけば人類の損失です。これはお館様のご命令ですぞ」

「お父様?」



お父様を見る。

なんで自分で言わないのか。

お父様は無言で鷹揚に頷いた。

私を一瞥すらしない。

モヤモヤする。

当然、アスラームもクラスメイトも先生も賛成である。

私は指揮官練習中なのでそれは甘んじて受けよう。

ただお父様に対するモヤモヤは溜まる一方だった。







作戦会議を終え、再び飛空艇を離陸させた私はブリッジのソファに深く腰を下ろして寛いでいた。

お父様はこの作戦の最高責任者だ。指揮権はお父様にある。

私よりずっと威厳を出さなくてはならない。

私に抱きついたり頬擦りしたりなんかできないのだ。

それは分かる。

ただこんな愛情の感じられない他人みたいな態度を取られるとは思わなかったのだ。

どうやら私はそこに腹が立っているらしい。

そう考えると……私はお父様のあの恥ずかしい溺愛っぷりを望んでいたのだろうか?

あれだけ嫌がっておいて? そんな馬鹿な。



「むぅぅぅ……」

「あら可愛い、お嬢様のほっぺがぷくっと膨らんでおります」

「トモシビちゃん、そんな表情初めて見たよ」



私の頭の中は一体どうなっているのだ。

自分はもっと大人だと思ってた。前世の記憶との折り合いもついてきた。

でも私の心は理想通りの聖人とは程遠い。

破壊衝動はあるし、加虐性癖はあるし、自制が効かなかったら反抗期どころではない。背徳の限りを尽くしそうだ。



「お父さんもトモシビちゃんのこと嫌いで無視したんじゃないと思うよ」

「むしろ好き過ぎて過剰に意識してああなったんだと思うわ」

「うん……」



そうだろうけど。

うまく感情をコントロールできないのだ。

お父様からするとさぞかし面倒臭い娘だろう。

まだこうして客観的に見えているだけマシだろうか?

……フェリスと尻尾を絡めてるとだんだん気持ちが落ち着いてきた。



「そろそろ国境ですよ、警戒するように言っておきました」

「ありがと」



クロエの報告に窓の外を見てみる。

国境線は目に見えないが魔王領の空はちょっと暗い。

なぜかは知らないが昔からそうなのだという。



『うぉい、トモシビ』

「先生」

『釘を刺しておくが、魔物が飛んでいても攻撃を仕掛けるなよ。普通の魔物はこんなでかい乗り物には手を出さぬからのう』

「無駄な戦いを避けろってことね」

『そうじゃ、魔王領の魔物とて全て好戦的というわけではない。むしろグランドリアのものより慎重じゃ』



魔王が国家元首なら魔物は国民である。国民とて軍属もそうでないものもいるということだ。

あちらは航空戦力が多いので無駄に相手を増やす必要はない。

その代わり、街に着いたら遠慮はなしだ。思う存分破壊のエネルギーを解放できる。


いつものように魔力反応を避けつつ、暗い空を進んでいく。

やがて野山の向こうに壁に囲まれた奇妙な街が現れた。

遠目に見えるそれは、前世で飛行機から見下ろした高層ビル群のような姿をしていた。



スキンシップしたら幸福ホルモンとかいうのが出るらしいです。

そしてハグをしたときの幸福ホルモンの上がり方は男女や男同士より女同士が圧倒的に高かったそうです。

すごいですね。


※次回更新は11月9日月曜日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エステレアは正妻 いや…逆かな? トモシビはエステレアの正妻?
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