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猫姫様と呼ばれました

※10月19日誤字修正、ご報告ありがとうです!



戦闘は1時間ほどで終わった。

これが長いと見るか短いと見るかは微妙な所だ。

今の私たちにとってオークは手強い相手ではない。ましてや空から飛空艇で奇襲しているのだから楽勝のはずだ。

しかしそれでも1時間かかってしまったのは、オーク達が軍になっていたからだ。

一匹一匹が急所を守る動きやすいアーマーを身につけ、鋼鉄の武器や盾を手に持っていた。

元々生命力が高い魔物だが、しっかりした武装をするとここまでタフになるのかと驚いた。

私のエクスプロージョンの爆風を至近距離で浴びても生き残っていたくらいだ。

それに戦術もしっかりしていた。

私達を確認した後すぐに隊列を整え、炎の魔術で攻撃してきたのだ。



「被害は負傷者数名か」

「なに負傷してんだよ情けねえ」

「いやよくやった。魔術攻撃から仲間を守った名誉の負傷だ」

「グレン……」

「なんでもいいけど治療しますね」

「い、いや俺はいいよ」

「聞けません、トモシビ様のご命令ですので」



手をブンブン振る負傷者を無視して、クロエが手を当てる。

仕方ないではないか。

クロエも負傷者も嫌そうだが本番前にベストコンディションにしてもらいたいのだ。



「ひっ………ひぐぅぅ!!!」

「はい、お疲れ様でした」



彼女が快感を刺激する治療しかできないのは前からだが、まだ男子への治療は乱暴だ。

わざと敏感な場所に手を当てて楽しんでいるようにすら見える。

もう皆彼女がシスターじゃないことは薄々知っているが何も言わない。

魔法戦クラスで唯一の回復役なので逆らえないのだ。



「魔王軍相手に初陣でこれなら上々じゃ。目的も達成できたし完全勝利じゃぞ」

「先生、お酒くさい〜」

「当たり前じゃ! 酒を飲んだんじゃからな!」



酒気に顔を赤くした先生が開き直った言い訳をしながら降りてきた。

目的というのは馬車に乗っていた獣人の保護、それからオークの引いていた人が乗っていると思われる車の確保である。



「……何か揉めておりますね」



メイの言葉で馬車の方に目を向けると、獣人同士が言い争いをしているのが見えた。

……よく見るとオークの車からも獣人が降りてきている。

乗っていたのは獣人だったらしい。

襲われていた獣人の馬車は3台、オークの車も3台だ。



「……あの人たち、魔王領に亡命しようとしてたみたいだよ。それで後ろの馬車が追いかけて止めようとしてたみたい」



耳の良いフェリスが会話を伝えてくれる。



「亡命? どうして?」

「ははあ、そういうことか」



先生が頷いた。



「魔王領にも獣人の村があるのじゃ。そこへ行こうとしたのじゃろう」

「獣人ってレプタット以外にもいるの?」

「聞いたことありませんわね」

「昔もそういうことがあった。魔王領の魔物は魔王によって統制されておるからな。レプタットより住みやすいと考える者もおるじゃろう」

「貧乏なんじゃないの?」



魔王領は貧乏と聞く。

グランドリアは多少魔物が多いけど文明の発達した良い国である。獣人もヒューマンも平等の権利が与えられている。

私なら魔物の襲撃がなくてもグランドリアを選ぶ。

私は貧乏生活には耐えられない。何しろ私はお嬢様なので、何事も贅沢にエレガントにお嬢様お嬢様していないといけないのだ。



「獣人は狩猟採取が基本じゃからな、獲物がいればどこでも食うに困らんのじゃ」

「俺様みたいに頭柔らかいやつは珍しいんだよ」

「てめえが柔らかい方なのかよ」



私はレプタット村での出来事を思い出した。

フェリスと比べると100倍劣るがバルザックも頭の柔らかい方ではあるだろう。

私達が近づくと獣人達はピタリと争いを止めてこちらを見た。

こちら、というか私を見ている。

というか……私の耳と尻尾を見てる。



「なんだ、すごい美少女……」

「あの耳たまんねえ」

「綺麗な毛並み……」

「レプタットの子じゃないな」

「もしかして魔王領の……?」



さっきフェリスとにゃんにゃんしててそのまま耳を出しっぱなしだったのだ。

レプタットでは狩猟大会で優勝して私は有名になったはずだが、獣人にとっては耳が生えただけで別人に見えるのか。

そういえばレプタットの行った時、獣人は皆私の美貌に見向きもしなかった。

もしかして耳と尻尾がなかったからだろうか。

獣人達は初めて派手なアイドルを見た純朴な田舎者みたいに私を見ている。

……ゾクゾクする。

私達は彼らを飛空艇に招待して話を聞くことにしたのであった。







「きっかけは騎士団が撤退したことだった」



獣人のリーダー格の狐男はポツポツと語り始めた。

冬に起こった王都内乱の事件によって騎士団は半ば瓦解した。その後すぐに再編されたわけだが、各地の魔封器が失われたことで国は対応に追われる事となったのだ。

で、その煽りを受けたのが以前から騎士団の駐留で守られていたレプタットというわけである。

駐留していた部隊のほとんどが他に回されて、魔物の襲撃に対応しきれなくなったのだ。

ただでさえ森に囲まれおり、魔物が多いレプタットにとっては影響が大きかった。



「領主はどうしたのじゃ?」

「病気だよ。けっこう前から寝込んでて息子のオルクスが仕切ってる」

「オルクスは?」

「魔王への上納金を集めるのに必死だよ」

「魔王への上納ですって?」

「聞き捨てならないね」

「ああ、狩猟祭で何か弱みを握られたらしい。毎週獲物や金をこっそりどこかへ送ってやがる」

「……」



その魔王は私だ。

フェリスが気まずそうにこちらを見た。



「ふふん、読めたわ。そのオルクスっていうのに頼んで魔王軍に渡りをつけてもらったってわけね」



何も知らないエル子が得意げに言った。

たぶん全然違う。



「いや奴は反対派だ。俺たちは攻めてきた魔王軍に投降したのさ」

「馬鹿なことを! 食料にされるだけだ!」

「魔王領についてから逃げればいい。奴らの粗末な縄なんて紙みたいなもんだ」

「どこに逃げるんだ!? 魔王領の獣人村だってどうなってるか分からんぞ!」

「お前らこそどうするんだ! 隣村のだって移住を開始してる! あそこでどうやって暮らすつもりだ!?」

「他に逃げればいいだろ!」

「どこにだ!? ヒューマンの街には森がない!」



また言い争いを始めた獣人達。

どうやらレプタット村はわりと深刻な危機に陥ってるらしい。

パァンと空気の弾ける音が響いた。

私が爆竹の魔術を使ったのだ。

村人達は驚いてこちらを見た。



「ある」

「……?」

「セレストエイムに森ある」

「セレストエイム?」

「お嬢様はセレストエイムに移住すれば良いと仰っております」

「えっいいの? トモシビちゃん」

「まかせて」



我ながら良い考えである。

気候的に考えて、獣人が好みそうな森を備えているのはセレストエイムだけだ。

私のお屋敷の裏にも林がある。

あの独特のムワッとした空気はレプタットと少し似ている。

他の土地では湿度が足りない。

セレストエイムの中にワンニャン動物王国を作るのだ。

フェリスの両親も呼び寄せたら休みに一緒に帰省できる。



「セレストエイムったって……いきなりそんな」

「大丈夫ですよ。トモシビ様はセレストエイムのご令嬢ですから」

「何だって? どうりで高貴な毛並みだと……」

「いや、だとしても魔王軍が攻めてきたら」

「大丈夫、私と、私の騎士団がいる」

「……なるほどのう。今一番勢力が強いのはセレストエイム軍じゃ。比較的安全な土地かもしれんぞ」

「む……」



迷うように目線を交わし合い、ヒソヒソ相談する獣人たち。

耳と尻尾をピンと立てて胸を張る私をチラチラと見ている。

やがて狐男がこちらに向き直って言った。



「わかった、猫姫様のお言葉に甘えさせてほしい」

「……猫姫様?」

「猫姫様! ぴったり!」

「フェリスとつがいみたいだしね!」

「よし、今日から猫姫様が俺たちの領主だ!」

「俺は村のみんなを説得してくる!」



獣人はワーワー盛り上がった。

やっぱりお祭り好きな人達なのかな。セレストエイムの住民と気が合うかもしれない。



「トモシビちゃん、猫姫様だって」

「フェリスっぽいあだ名」



私が高貴な美少女なのは事実だけど、猫耳尻尾は偽物なのでなんか騙してるみたいである。

その名に相応しいのはフェリスの方ではないだろうか。



「ちがうよ、私にとってトモシビちゃんはお姫様だから、猫人のお姫様で猫姫様だよ」

「じゃ、フェリスは?」

「私はトモシビちゃんを守る……なんだろう? わかんないや」



フェリスは私の目を見て微笑んだ。

騎士って言うと私の配下だから違う。友達というには近すぎる。

ともかく、これからはフェリスもセレストエイムの領民になるかもしれない。

それは私にとってとても嬉しい事だ。



「なんでワシには無反応なんじゃ? ワシこそ狐姫様じゃろう」

「ただの狐人じゃねえのか?」

「クソが! ワシはこやつらの先生じゃ!」

「良いのトモシビ? 貴女のお父様に相談しなくても」

「うん」

「問題ありません。ご主人様はお嬢様の言いなりですので」

「こわっ、何その親子関係」



まあこの場合相談すべきはお父様よりお母様なのだが、お母様だって路頭に迷う民を見捨てろとは言うまい。

とにかく話はついた。

私達は彼らを乗せてセレストエイムへ向かった。







その半日後、セレストエイムについた私達は予定通り広場にセレストブルーを着陸させた。



「お母さま」

「トモシビ! あらまあどうしましょう! すごい大人数だわ!」

「ここがセレストエイム様の国……」

「良いところだね」

「寝るところ決めてあるの? クラスメイトまでは泊められないわよ?」

「お母様、獣人ひろってきた」

「……は?」



何言ってるんだ、という顔で聞き返したお母様にもう一度詳しく説明する。



「……トモシビ、エステレアは来なさい。あとは……」

「ああこやつらは飛空挺で寝るから大丈夫じゃ。世話かけてすまんのう」

「あら先生! こちらこそいつもトモシビがご迷惑をかけて……トモシビ、それでその獣人さんだけど」



お母様は私とエステレアをお屋敷に連れて行くと、表情を厳しくした。



「ちゃんとお世話できるの?」

「うん」

「本当に? お母さん任せじゃだめよ?」

「うん」



まるで捨て猫を拾ってきたみたいな言い方である。



「お嬢様、お嬢様もですわ」

「……そっか」



獣人は狩りで自給自足できるし、余った分をヒューマンに供給してくれる。

森は小さいけど魔王領から動物が押し出されてくるので獲物はいると思う。



「まったくもう、今日はお屋敷に泊まるのね?」

「うん、あと10人くらい、とまるかも」

「なんてことなの……! お友達倍になってるじゃない! ああどうしましょうエステレア!」

「はい、王都にはもはやお嬢様の下僕か友人しかおりません」



王様とかいるけど。

私に屈服したがる人はたぶんそういう素養のある人なのだろう。私にはなんとなく彼らのして欲しい事が分かるのである。

自分より大きい人や偉そうな人が私の美貌一つで屈服するのを見るとお腹の中がキュンキュンしてしまうのだ。

そういえばメガネ達はどうするんだろう?

彼らはレプタットの隣村の住民だったはずだ。

もしかしたら彼らも移住することになるかもしれない。

ともあれ、こうして私の領民に獣人達が加わったのであった。



セレストエイムの森は魔王領に続いていますが、魔物はあまり来ません。

熊があまり人里に来ないようなものだと思います。


※次回更新は10月26日月曜日になります。

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