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空から女の子が落ちてきたら大体ヒロイン

※10月13日誤字修正、ご報告感謝です!



「では作戦説明を行うぞ!」



整列する私たちの前でヤコ先生が叫ぶ。

今日から私達は騎士団の作戦に参加することになる。

一応これも授業の一環だ。実地訓練である。



「まずは目的地じゃ、トモシビ」

「ん」



先生の隣に立つ私がマップを出した。

範囲を広くしてグランドリアと魔王領の国境まで表示できるようにする。

魔王領とグランドリアの北の境目は海峡がある。

幅が広いので人間が渡ることはできない。

飛空艇ならできると思うが、一機で攻めてもやられるだけだろう。

国境はそこから湾岸に沿って南東に引かれ、やがてセレストエイムに達する。

そこで初めて魔王領と陸地でつながるのだ。



「我々が目指すのはここじゃ」

「セレストエイム様のセレストエイムじゃん」

「うむ、セレストエイムの北側から魔王領に入って少し行くと……トモシビ」

「ん」



魔力でマップに印をつけてみた。

私って便利だ。



「どうやらこの辺に要塞があるらしい」

「なるほど、そこまで飛んでいってぶっ潰すのか」

「そこまでは期待しておらん。お主らの任務は援護じゃ。セレストエイム軍が攻め落とすから援護して来い」

「攻めるって、グランドリアが本格的に魔王領に攻撃を仕掛けるってことですか?」

「その通りじゃ。攻撃は最大の防御じゃからな」



最近相次ぐ魔物の襲撃やら何やらでもはやグランドリアと魔王領は実質戦争状態にある。

今までは守ることに手一杯だったが、守ってばかりではやられたい放題だ。そんな中、最近軍備が増強されて調子に乗ったお父様が提案したのがこの作戦である。

セレストエイムに行くのなら両親をクラスの皆に会わせることになるかもしれない。

私一人だけ授業参観状態だ。

……実は内心すごく恥ずかしい。



「……シビ、おいトモシビ」

「ん?」

「ん、ではない。最後にお主から何か挨拶せよ、これも訓練じゃ」

「えと…………みんな、おとう……セレストエイムの領主とは、なるべく会わないで」

「なぜじゃ?」

「……なんか、変な人だから」

「そうか……? まあ良い」



あんな恥ずかしい親を見られたくない。

人目を憚らずいきなり抱きついてくるかもしれない。クラスメイトの前でそれはきつい。



「ではアスラームは何かあるか?」

「はい。我々の役目は飛空艇の機動力を活かした撹乱だが、それ以上の働きをしようと思う」

「ほう」

「僕らの力を見せる良い機会だ。この機会に英雄になろうじゃないか。敵は魔王軍、遠慮は不要だ。殲滅してやれ」

「おお!」

「っしゃ! 戦争だ!」



アスラームの言葉で盛り上がるA・Bクラス。

望むところである。

メインアタッカーをセレストエイム軍から奪うくらいの働きをするのだ。

私も最後に拳を振り上げて檄を飛ばした。



「セレストエイムに、目にもの見せてあげろー」

「お嬢は力が抜けるからやめろ」

「お主、親に恨みでもあるのか?」

「お嬢様は反抗期であらせられるのです」



私の檄は不評だった。

私はただお父様より活躍して、両親を見返してやりたいのだ。

それは反抗期なのだろうか?

人生2周目のはずの私に反抗期など存在するのか疑問だが、精神的に大人かと言われると自信がない。

私の情動も好みも子供そのものである。

精神と体は不可分ということなのだろうか。







私は可愛いものが好きだし、着飾るのが好きだし、中でもゴスロリとか少女性を主張するようなものが大好きである。

何しろ私に似合う。

私はいつだってキラキラしてフワフワしていたいのだ。

エステレア的に言うとプニプニしてるらしいが、それも私の少女性の発露なのだろう。

できれば自慢の体をもっと見せたいという願望すらある。ただやっぱり恥ずかしいので、せいぜい足を出すくらいだ。

その辺の葛藤もまた私の少女性、というか乙女心故なのかもしれない。


まあ、ともかく私は子供であり、少女なのだ。

だから持ち物も可愛いものを揃えている。

もちろん私の飛空艇であるセレストブルーもそうする。



「またやりやがったなお嬢」

「む……」



ツリ目とグレンが顔を歪めた。

セレストブルーの内装を変えたのだ。

前の騒動で荒れたブリッジはピュアホワイトを基調とした姫系の家具で揃えた。

白以外に使う色は淡いパステルカラーのピンクやラベンダーやエメラルドだ。こういうのを夢かわいいと言うのだろうか?

世界で一番お姫様である。

ちなみに共用の化粧台もあって色とりどりの可愛いメイク道具が置いてある。

私は化粧しないけど髪を整えたりする。

こういうのは置いてあるだけで楽しいものである。



「趣味がもうメスガキなんだよなあ」

「小さい女の子がこういう色合い好きだよな」



失礼な事を言う。姫系で統一したのはブリッジだけだ。

私の部屋はゴシックな吸血姫系だし、アナスタシアの部屋はお城みたいにゴージャスでバロック調なグランドリア様式である。

ちなみに先生の部屋は希望により和風の畳敷きだ。お酒もたくさん置いてあると言ったら飲みに行ってしまった。



「ふーん……ほー……」

「ディラさんは気に入ったみたいですわね」



エル子はブリッジの内装を熱心に見ている。



「白くて綺麗だよね、私も好きだよ」

「こういうとこでトモシビちゃんを抱いてお昼寝するとお姫様気分になれるよね〜」

「抱いて……? ふ、ふん、それより私の部屋はどうなってるの?」

「エル子の部屋も、こんな感じ」

「! ! ……ちょっと見てくる!」



行ってしまった。

なんだかんだで私の趣味は女子にはわりと好評である。

アイナとヨシュアのお店で売ってる私関連商品も売れてる。

このゴスロリチックな服だけは誰も真似しないけど、そろそろ本格的にファッションリーダーを名乗っていいと思う。



「そろそろですわ、お嬢様」

「わかった」

「出発ですね」



私はブリッジの中心にあるクッションの敷き詰められた艦長席に座った。大人用なのでクッションがないと隙間ができて座り心地が悪いのである。

私に続いて皆が配置につく。



「はっしん」



私の起動魔力で船体が浮き上がる。以前の事件で荒らされたセレストブルーも完全復活だ。

向かうは南東のセレストエイム。

今回は親善試合でも人間相手でもない、殺し合いの戦争だ。

皆いつも通りに見えるけど少しだけピリピリしているように感じるのは気のせいではないだろう。

こうして私達の本物の戦争が始まったのであった。







機体を浮かせ、天脈まで高度を上げたらもう私は引っ込んでいて良い。

あとは観測班が観測して、進路を決めて進むだけだ。

判断するのもアスラームかアナスタシアがいれば良い。

部屋で惰眠を貪っていてもOKである。

私は部屋のベッドに腰掛けた。



「トモシビちゃん、耳出して、耳」

「はい」

「違うよ〜猫人の耳」



そういうことか。

猫耳をイメージしながら頭にグッと魔力を移動させる。

毛並み、感触、わずかな重心の変化まで全てイメージするのが重要だ。

私の色に合わせて白猫バージョン。

そのイメージを保ったまま……魔力を固定する。

えい。

ニョキっと猫耳が生えた。そのぶん尻尾が短くなる。



「えへへ……キラキラして綺麗だね」



その猫耳をフェリスは舐めはじめた。

たぶん毛繕いだ。



「トモシビちゃん、緊張してるんでしょ」

「……してる」

「体硬いもん。柔らかくしてあげるね」



フェリスが尻尾を優しく巻きつけながら毛繕いをする。

魔王軍は知能がある。それが怖いのだ。

初めてゴブリンを退治に行った時を思い出す。

例えばどんなに強くても食事に毒を入れられたら終わりだ。私が寝ている時にミサイルみたいにワイバーンが突っ込んできたら防げない。

魔物が戦術を駆使するというのは怖い事なのだ。

だからこそお父様も何かされる前にこちらから攻撃しようと言うのだろう。



「フェリスは、緊張しないの?」

「そんなにしないよ〜」

「どうして?」

「トモシビちゃんがいればなんとかなるよ」

「そうかな」

「そうだよ」



そうかもしれない。

そこまで信用されると私としてもなんとなくそんな気になってくる。

たしかに今まで色々あったけど私は何とかうまくやってきたのだ。

魔物相手なら私の炎の魔法も使い放題だ。

飛空艇でガーッと強襲してそのまま帰れば良い。

前は油断して落とされたけど今回はハッキング対策もしてある。

よく考えると楽勝ではないか?



「たしかに、私がいればなんとかなるかも……」

「トモシビちゃんは相変わらずだね」

「お嬢様お嬢様」



その時、ドアの外からエステレアの声がした。



「前方で戦闘が行われております、いかがいたしましょう?」

「戦闘?」

「魔物と人間の戦闘のようです」

「大変だよ! 助けなきゃ!」



無視するという選択肢はない。私達も正規軍なので助ける義務がある。

勢いよく立ち上がるフェリスに促されて、私はすぐに甲板へ向かった。







甲板ではプラチナが双眼鏡を覗き込んでいた。



「豚っすね豚」

「オークですね」

「戦ってるのは獣人っすね」



獣人。

そう聞いてフェリスの雰囲気が変わった。

フェリスの身内かもしれない。



「トモシビちゃん!」

「……飛び降りるから、プラチナは船を降下させて」

「かしこまりっす!」



私はフェリスとエステレアを伴って甲板から身を投げた。

気圧低下と気温と風の影響は自前の風圧シールドで防ぐ。

これをやらなければ死んでしまうので経験者の私達以外は飛び降りはできないだろう。

慣性で浮きそうになるスカートを押さえながら尻餅をつくような格好で私は落下する。

フェリスとエステレアは両腕にしがみついて頭を下にして落ちて行く。

そうやって落下しながら私は通信を開いた。



「フェリス、エステレア、もっと顔寄せて」

「なんで!?」

「もちろん、もう寄せておりますわ」



せっかくだから写真を撮って画像付きで通信するのだ。

その方が可愛い。

ポーズを撮ってパシャリと撮る。そして皆の端末に送る。



「私だよ」

『やだ可愛い! 何やってるのトモシビ様』

「落下してる」

『おま、デコ見えてんぞ!」

『おでこ? ああ、可愛いですわね……それが?』

『グレンはデコフェチなんだよ』

「飛空艇も降下するから、戦いたい人は来て」



向こうから歓声が聞こえた。

戦いというのは待ってる時間こそ緊張するものだ。

彼らもウズウズしてたらしい。



「バルザック!獣人が襲われてるって!」

『ああん? だからなんだよ』

「助けるの! バルザックも来て!」

『知らね、命令すんなフェリスのくせに』



フェリスと違ってバルザックには仲間意識はないらしい。

やがて豆粒みたいだった戦闘の様子が肉眼で見えてきた。

オークが獣人の馬車隊を襲っているっぽい。

……いや、違う。

オークの馬車が獣人の馬車を襲っているのだ。

たぶん魔王軍である。

馬車を使うオークなんて見たことがない。



「フェリス」

「にゃあ! 行くね!」



十分に高度が下がったのを見計らってフェリスが飛び出す。

獣人の馬車を襲う魔物を殲滅するためだ。

私は空間からマスケット銃を取り出してオークの馬車の一つに狙いを定めた。

よく見ると車を引いているのもオークだ。馬車というより人力車、いや豚力車か。

パンと空気の弾ける小さな音を立てて弾丸が発射される。

弾丸は豚力車の前方に着弾し……大爆発を引き起こした。

リンカーで付与したエクスプロージョンだ。面で制圧するならこれが一番である。

豚力車がバランスを崩して止まる。

立て続けに撃とうとしたとき、馬車の中にチラリと人影が見えた。

人影だ。

オークではない。

茶色い髪の毛があった。

指揮官か人質だろうか?

私は馬車への攻撃を禁止することにした。



獣人は珍しい種族です。

オークは豚の獣人のような気がしますけど知性が低くて人語を喋りません。


※どうでもいいですが引っ越し完了して今日から新しい仕事です。生きるって疲れますね。


※次回更新は19日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひらがなではっしんとか言ってるところすこ 言葉がぷにぷにしてますね~
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