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タワーディフェンスで姫プレイします

※9月15日、10月6日、誤字修正。ご報告ありがとうございます!



「ダメじゃ」



エル子と勝負したいという申し出を先生は切って捨てた。



「どうして?」

「悲しそうな声を出すな。すごく悪い事してる気分になるわい。部活は遊びではないのじゃ」



クラスでバトルロイヤルとかやらせてゲラゲラ笑ってたくせに一体どの口で言っているのだろう?



「ワシだってふざける時と場合は選ぶ。ほれ、前にも王都に襲撃があったじゃろ? お主が親子パワーでどうにかしたやつじゃ」



あのワイバーンが突撃してきたやつだ。

親子パワーなんか使ってないけど私がいなければ危なかったと思う。



「あんな手を使ってきたのじゃ。何をしてくるか分からん。カサンドラの計画が崩れてやつらも焦っているのかもしれんな」

「魔物どっちが早く倒せるか、とかでいいんだけど」

「トモシビは前線には出さん。オペレーターをしてもらう」

「えー」

「ぶーぶー」

「口を尖らせてもダメじゃ。お主は味方の位置を把握し、遠隔から強化を発動し、通信網を構築できる。歩く司令塔じゃ。司令官の経験を積ませる必要がある」



がっかりだ。

勝負を生配信しようと思って、服も気合い入れてきたのに。

今日の私はピッタリとした黒いワンピースを着ている。襟元とプリーツスカートの裾の部分だけが白いバイカラーだ。

お嬢様チックで瀟洒なレースの襟の清楚さとエロティックな黒のニーハイタイツがお互いを潰しているようで逆に引き立てている。

歩くとニーハイとほぼ同じ高さにあるスカート部分の裾が動いて白い太ももがチラチラ見える。

退廃的な雰囲気を出すために髪の毛は若干雑に流している。

コンセプトは地上に舞い降りた天使だ。

ちなみに、クライマックスにはカラスみたいな漆黒の羽も生える予定だった。魔王尻尾を変化させたやつである。

せっかく演出を考えたのに、それも全て水泡に帰した。







かくして私は王都近くの野営で司令塔をすることになった。

他のチームは全員出撃している。

エル子はアスラームチームだ。お互いの国の戦術のすり合わせみたいなことをしてるらしい。

私の周囲には″窓″が浮かんでいる。

それによって各チームに持たせた端末によってリアルタイムで情報が送られてくるのだ。



『グレンだ、こっちは終わった。次は?』

「もう少し北に行って、蟻の魔物がいるから倒して」

『キセノのチームが戦ってるやつか』

「後ろから、挟み撃ちにして」

『わかった』



任務は街の周辺の魔物の討伐である。

今の私たちなら下手な魔物など簡単に倒せるだろうけど、最近は集団で現れることが多いので囲まれると厄介だ。



「会長チーム、そこちがう、もっと南」

『地形が分かりにくいんですよ』

『トモシビ、もう終わったから応援大丈夫ですわよ』

「会長チーム、戻っていい……どんまい」

『なんだよドンマイって馬鹿にしやがって』

「なさけなくて、かわいそうだから」

『その小気味好いメスガキっぷり……わからせがいがありますね』

「きもちわるーい」



はっきり言って暇な任務だ。

暇な時はメガネ達をからかうと面白い。

彼らは去年の最初に部活から逃げ出したメンバーだが、なぜかまた戻ってきたのである。

たぶん今年の新一年生も入るだろう。報酬の取り分は減るが我が部が賑やかになるのは良いことだ。

私は即席ベッドに寝転びながら、足をバタバタさせた。



「お嬢様お嬢様」

「なに?」

「見えてしまいます、野外なのですよ」

「……そっか」

「なんでそんな短いスカート履いてきたんじゃ」



私は足を閉じて裾を直した。

なんでと言われても見栄えがするからだ。

履いているのも見せパンではない。もうちょっときわどいやつである。太ももを限界まで見せるためにはそういうのを履かなくてはならない。

女の子のお洒落というのは動きやすさと等価交換なのだ。

見えない部分で努力しているのである。



「何もすることないね〜」



隣に寝転んで私の髪の毛を三つ編みにして遊んでるフェリスが言った。



「でもトモシビ様の護衛は必要だしね」

「平和が一番ですよ」



クロエが切り分けたリンゴをテーブルに置いた。

それをフォークで優雅に口に運ぶエクレア。

エレガントだ。スッと伸びた背筋といい、よく手入れされた長い赤髪といい、貴族の娘にしか見えない。

私の騎士にふさわしい美しさである。

一方、先生はワイルドに手掴みして次々に口に放り込んだ。



「……もう一つ剥きますね」

「すまんのう! 採れたては美味くてついな!」

「かまいません、お嬢様の分は確保しておりますので」

「ワシもメイドがほしいのう」



先生も役得というやつだ。

私は寝転がりながら仰向けになり、頭上方向にいるエステレアに視線を向けた。



「エステレアエステレア」

「はいお嬢様、アップルジュースですね」

「のませてエステレア」

「だらけすぎじゃろお主」

「お嬢様はだらけているくらいがお可愛いのです」



エステレアが差し出したストローを咥えてチューっと吸うと口の中に甘い汁が溢れた。

採れたてのリンゴを絞ったものだ。

私は固体を食べるとお腹がいっぱいになるのでジュースくらいが丁度良い。

私は足をばたつかせる代わりに内腿を擦り合わせ、尻尾を左右に動かした。

それをフェリスがペシペシと手で叩く。リラックスしすぎである。

完全に猫だ。

私もさながら楽屋裏でダラけるアイドルのごとくリラックスしている。



『蟻は片付いたぞ、次へ向かう』

「がんばれ、がんばれ」

『こちらも担当範囲は終わったよ……トモシビさん達は何をしてるんだい?』

「こんな感じ」



私は写真を撮った。

仰向けで撮ったアップとその辺で寛いでる皆の写真、それから腰掛けてローアングルから撮ったサービスショットだ。



『ふむ……』

『うおおおおお!w』

『いいご身分だなお嬢』



ゲーム内でチャットしてるような気分である。

しかも姫プレイだ。

私の指示でマップの点が動くのも楽しい。

タワーディフェンスゲームみたいだ。



『 もっと実用的なのお願いします!w』

『これは定期的に写真を送って頂かないと安心できませんね』

『やめなさい。トモシビも変なの送らないの。で……トモシビ、もうすぐお昼ですけれど』



もうお昼か。

紅茶飲んで寝ながら指図してるだけで午前が終わった。

私は休憩の指示を出すことにした。

なるべく集まって食事を取るのが望ましい。

近くのチーム同士で集合して野営をするのだ。

グレンはプラチナ達と、アナスタシアは会長、アスラームチームは……。



「やあ、楽しそうだね」

「ごきげんよう」



……私達か。







「ごきげんいい」



エル子の気取った挨拶に私は気取った声で返した。

アスラーム達男性陣はベッドに寝転がる私のどこを見たら良いのかわからず、落ち着かない様子で視線を彷徨わせた。

エル子は杖の石突きを地面にトンとついて勝気に笑った。



「私の勝ちね、貴女が寝てる間に私は10匹は魔物を倒したんだから」

「笑止」

「お嬢様は倒す必要などありません。魔物が負けを認めて去っていくのです」

「そんなことあるわけないでしょ!」



そんなことを言ってる間にメイド達が昼食のセッティングしていく。

執事も合わさっているので早い。

あっという間に貴族がテラスで食べるような瀟洒テーブルセッティングがされた。



「トモシビさん、鴨のサンドイッチは?」

「ありがと」

「食後にプリンもございますよ」

「プリンだって、やったねトモシビちゃん」



アスラームは少しやつれているようだ。

声もどこか投げやりで覇気がない。

彼はこの歳で家を取り仕切ることになったのだ。

ちなみに騎士団は半分くらいがステュクス家の派閥へ行ってしまったそうだ。

無理もない。総司令は言うまでもなく、アスラームもあの事件当初は私のストーカー扱いだったのだ。

それから愛の力で精霊の支配を跳ね除けた英雄になり、さらに私が放送でストーカー疑惑を否定してあげたおかげで人気も回復し、バルカ家も取り潰しは免れた。

元総司令も蟄居という形で家にいるとはいえ、アスラームの重圧は推して知るべしである。



「せっかくだから、早食い勝負でもする?」

「勝負はみえてる」

「愚かな、早食いでお嬢様に挑むなど」

「へえ、自信満々じゃない」

「トモシビちゃんが絶対負けるって意味だよ」

「えぇ……」

「勝負はクラス合同の模擬戦まで我慢せよ」



のどかなランチタイムを過ごした私達はまた魔物討伐を再開した。

我が部の優秀なメンバーは予定範囲を探索し尽くしたのでお昼からは範囲を広げることになる。

私たちは主に街道に沿って怪しい地点を虱潰しに調べた。

ゴブリンや虫などを掃討していくうちに時間は経ち、やがて夕方になった。

そろそろ帰る時間だ。

私は皆を呼び集めた。

人数が増えて騒がしくなる。



「解散といきたいんじゃがな、今連絡が入った」



ヤコ先生の真剣な声に私たちは話をやめた。

先生はそろそろ型落ちしつつあるイヤリング型の通信機をつけている。

どうやら普通の連絡ではないらしい。



「城壁内に魔物が侵入したそうじゃ」

「空飛ぶやつですか?」

「いや人型のオーガのようなやつらしい」



城門は閉じている。城壁も無事だ。

どこから侵入したのか分からないので侵入経路を調査する必要があるそうだ。



「あー、それでじゃな、お主ら今から……やるか?」

「勘弁してくれ」

「お風呂入りたいわ」

「治安部隊の仕事だろ」

「やつらは別件で忙しい。冒険者向けに依頼が出されておるそうじゃ」

「じゃあそっちにやらせろよ」

「じゃよねー」



やるわけがない。

私たちはともかく、戦っていたメンバーは疲労困憊も良いところである。

現れたオーガっぽいやつはもう倒されたらしく、魔物はそれきり現れていない。

調査はしなければならないだろうけど王都は広いので時間がかかるだろう。

私たちがやるとしても後日じっくり調査することになる。

そんなわけで今日の部活はそのままお開きとなったのであった。







夜になり、私は寝間着に着替えて部屋で魔導書を読み解いていた。

今日は部活だというのに全然疲れてない。

これからずっと私はこんな感じでタワーディフェンスみたいなのをやり続けるのだろうか?

今は面白いけど……やっぱりちょっと不満だ。

私の戦闘欲が満たされないのである。

強くなればなるほど戦闘から遠ざけられている気がする。

人の向き不向きというのはどこまでもついてくるものだ。


窓がコンコンとノックされたように鳴った。

ここは5階だ。

不審に思いながら窓の外を見た。


そこにはフードをかぶり杖を持ったエル子がいた。



姫プレイって嫌われますけど一度はやってみたいですよね。


※ところで私事ですが、現在転職に伴う引っ越し準備などものすごく忙しいです。でも次の仕事が比較的楽そうなので小説書く時間増えるんじゃないかと目論んでます。そうなれば良いんですけどね……。


※次回更新は21日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エル子すこぉ この世にも数少ない勝負ができるライバルなのでもっと出番が増えたらいいですね。天に二日無し もう一人ライバルの子がいたような気がしますが きっと気のせいなのです 仕事?仕…
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