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留学生と講師が来ました

※9月8日、文章校正しました。



頬に何か触れている。



「ふふふ」

「んー……」



手で払う。

今度はツンツン突っつかれる感触がある。

払う。

また突っつかれる。

なんなんだろう?

……なんか寒い。

私は丸くなって、手近にある毛布を手繰り寄せた。



「あら?」



毛布が覆いかぶさってきた。

なんだろうこの毛布? 柔らかくてとても落ち着く匂いがする。

なぜかちょっと重いけど。



「苦しい、何なの?」

「エクレアは朝食をどうぞ、お嬢様は私の朝食にいたしますので」

「ええ……どういうこと?」

「エステレア」



私は目を開けた。

エステレアが私に覆いかぶさっている。

布団と思ったのはエステレアだったらしい。

それで私に体重を乗せないように気を使って、隣で寝ていたエクレアに体重を乗せたというわけだ。


ベッドにはチェスのポーンみたいな人形がいくつか転がっている。

昨日はエクレア達と遅くまで魔導人形を使った対戦ゲーム……私がポケ人バトルと名付けた遊びをやっていたのである。



「あ、トモシビ様の人形まだ魔力切れてないわ」

「ほんとだ」



枕元あたりに私の人形を発見した。

寝ている。

相変わらず可愛くデフォルメされているが、広がった髪の毛が女の子らしくてどこか艶っぽい。

なるほど、私はこういう感じなのか。



「魔力が強すぎたのね」

「はぁ可愛い……世界中にミニお嬢様の種子を植えて増やしたいです」

「そんなこと、しないで」

「まあ! お嬢様ったらそのように可愛く頬を膨らませて……ご安心下さい、生身のお嬢様が一番ですわ」



可愛い可愛いと言いつつ私に頬ずりするエステレア。

最近、私の魔力が上がりすぎて細かい加減が難しくなってきたのである。

昨日もブースターを発動させるべく人形に魔力を送ったらばね仕掛けみたいな勢いで射出されて天井にぶち当たったり、爆弾を使おうとしたら生身と同じくらいのものを発生させたり……まともに遊べなかった。



「さあ皆さん今日は身体検査ですよ。トモシビ様の至高のお身体を見せつけてやるのです」

「見せつけたくはないけど早くしなきゃね、遅刻しちゃうわ」



朝から元気なクロエと急かすエクレアとしがみついて離れないエステレアを連れて、私はフェリスの待つラウンジに向かったのであった。







「どう? トモシビ、伸びてまして?」

「……ううん」



私は測定結果の書かれた紙を見ながら首を振った。

身長の話だ。

身体検査は全クラス合同である。適当に並んで順番に測る。

周りからは伸びたとか伸びてないとか、体重が増えたとか胸が大きくなったとかそんな話が聞こえる。

私達は皆13歳から15歳だ。

女子の成長は大体入学前の11歳から12歳ごろがピークなのでそこまで急激に伸びた人はいない。

可能性があるなら私のはずだが、予想通り1ミリも変化がなかった。



「あんたって本当に何も変わらなかったんだ。冗談かと思ってたし」

「お嬢様はこれで完成しておられるのです。身長が不気味に伸びたりはしません」

「……アスカは?」

「3センチ伸びて体重減った」

「すっげ、どうやったん?」

「薬。飛んでるエイいたじゃん、あの尻尾の毒から……」

「いや怖いよ」



なんか皆とどんどん差ができてきた気がする。

グレンなどもう頑張れば親子で通じるほどの見た目年齢である。

私は本当にこのまま合法ロリになってしまうのだろうか?

……まあ、それはそれでいいか。

老けないしね。



「トモシビ・セレストエイムさーん」

「あ、トモシビ様の番ですね」



診察である。

検査用の部屋から保険の先生が顔を出した。

今年からアルグレオの最新機器を導入したらしく、より高度な検査を受けられるんだそうだ。



「トモシビ、頑張って!」

「セレストエイム様、ガツンと言ったれ!」



やけに気合の入った声援を受けながら部屋に入る。



「お久しぶりですね、トモシビ・セレストエイム」



レメディオスがいた。

私は声援の理由を理解した。

散々嫌がらせされた記憶が蘇る。

あのアルグレオの全権大使だった彼女が、白衣を着て眼鏡をかけて足を組んで女医みたいに座っている。



「私はグランドリアから正式に招聘されてきています。侮辱は許しませんよ」

「私、何も言ってない」

「顔に書いてあります」



侮辱なんて思ってもいないんだけど、私の嫌そうな顔を彼女はそう受け取ったらしい。



「身長、体重、座高、胸囲、何一つ変化ありませんね」

「うん」

「聞くところによると、魔王の力なるものの依り代となったとか」

「なった、大変」

「……これは私の推測ですが、やはり貴女は魔物の一種だと思いますよ」



しつこい。



「しつこい、と思いましたね」

「ばれた」

「バレます。おそらくこれも貴女の特殊な魔力のせいなのでしょう」



レメディオスは私を座らせ、服を脱ぐように催促した。

私はブラウスを脱ぎ、ブラを取って上半身裸になる。

それから彼女はおもむろにカメラを取り出し……パシャリと写真を撮った。

アルグレオ製のインスタントカメラだ。

すぐに写真が出てきた。

胸を隠そうとしている私が写っている。

意味がわからない。



「……へんたい」

「よく見なさい」



レメディオスの持つ写真が変化していく。魔力を込めているのだ。

背景が黒くなり、写真の中の私が血のように赤く染まっていく。



「人間の魔力は無色です。貴女は赤……ほら見なさい、以前言った通り人外です」

「そっか」

「特に髪の毛が赤いですね、貴女の髪の毛は良い魔道具になるでしょう」



魔物の組織を加工すれば魔導具になる。

私の髪の毛も加工すれば魔導具になるというわけだ。

ふふん、と歪んだ笑みで見下すように笑うレメディオス。

なんか勝ち誇ってるらしい。

なんなんだこの人は。



「というわけです。異常だらけですが異常なしとしましょう」

「ありがと」



私は椅子から立ち上がった。

私に悪感情はない。

髪の毛を魔導具にできるなんてお得ではないか。



「ああそれと……」

「?」

「次の魔導生物学ですが、私が教鞭を取りますので」



レメディオスはまた歪んだ笑みを浮かべた。







魔導生物学は地獄だった。

レメディオスを守るように現れた三匹の巨大ゲジゲジが教室を睥睨しているのだ。

彼女が召喚した個体である。

私は一番前の席に座っていることを初めて後悔した。



「魔力は多かれ少なかれ生物に変化をもたらします。それをコントロールすれば望む通りの特性を持った魔物を作り出すことができるのです、それっ」



レメディオスは杖を振った。

ゲジゲジは私に向かって素早く動いた。



「!?」



私は逃げた。

教室の隅まで逃げて、壁に張り付く。

ゲジゲジは追ってこない。私に突進するふりをしただけだ。

授業なので聖炎を使うわけにもいかない。



「んだよちびっ子、こんな虫けらにビビんじゃねえよ」

「いい悲鳴ですねえ」

「やりすぎじゃなくて? 教室で魔物を使うなんて」

「理事会から許可は得ています、ほらほら」



レメディオスがさらに杖を振った。

ゲジゲジが教室の壁を伝って私に接近してくる。



「エス……エス……!」



そして私に触れる直前でスッと煙のように消えた。

血相変えて駆けつけたエステレアが私を抱きしめる。



「何をなさるのですか? 授業でなければこの場で決闘を挑んでいたところです」

「虫達は完全に支配下に置いておりますので危害は与えません。それを証明したまでです」

「メスガキの弱点はやっぱり虫か」



レメディオスは私に何か恨みでもあるのだろうか?

あるか。

親善試合で負けた腹いせに嫌がらせしているのだ。

なんでこんな人を招聘したのだろう?

担任が変わるわけではないのが救いである。

今年から一部の授業を外部から招聘した講師に任せるらしいのだ。

この魔導生物学はアルグレオの影響で導入された新科目である。

グランドリアには教えられる人がいないので彼女に来てもらったのだろう。

人格面も考慮してほしいものである。







そんなこんなでお昼になった。

私はすぐに放送室へ向かった。

王都で定番となったお昼のニュースは未だに学園から生放送している。

例の事件のおかげで私の人気はさらに高まった。

私が不便して出なくなっても困るということで、とりあえず私が卒業するまで学園で放送することになったのだ。

もはやこれは私の番組であり、私抜きでは成り立たないのである。



「2年生になったトモシビ・セレストエイム……だよ」

「昨日はお休みを頂きましたが、今日からは新学期です。トモシビちゃんも張り切ってますね」

「今日はゲスト、よんだ……えと、クリス、ピン・クリス、ピア……」



名前が長い。

誰だろう?

毎日こんな放送をやるなんて大変だと最初は思っていたが、なんのことはない、よく考えると校内放送と変わらない。

最近はリハーサルや台本もなくなってきた。出されたものを読んで適当に話すだけだ。

たまに答えに詰まったり慌てたりもするが、不思議なことにそっちの方がウケが良い。

何も事件がないときはこうしてゲストを呼ぶ。

ゲストが勝手に喋ってくれるので私としても楽だ。



「クリスピン・クリスピア・ノ・ディラ! いい加減名前覚えて!」



私がノロノロ名前を読んでいると、痺れを切らした本人が群衆から飛び出して名乗った。

それは私がエル子呼ぶ人物だった。



「殿下は留学生第一号ということで、これからはBクラスに編入されるとか」

「ええ、私魔術を学びたいの」

「そうですか、トモシビちゃんとは自他共に認めるライバルの間柄だそうですが」

「そうね」

「そうだっけ」

「そうよ」

「観客も盛り上がってますね」

「……そっか」



自他共に、という点に引っかかったのだ。それにもう決着ついて気がするけど……でも言われてみるとまだライバルのような気もしてきた。



「まあいいわ、それで決着付けるのに丁度良い案件があるの」

「?」

「明日、あなた達部活動っていうのがあるらしいじゃない。そこで勝負してあげる」



うぉーっと野次馬が沸いた。

こうなると私も燃えてくる。

地元でこの私に勝てるはずがない。

私は口の端を吊り上げた。



「また分からせてあげる」



野次馬がさらに沸いた。

こうしてグランドリア魔法学園にエルフの留学生と講師が所属したのであった。


そういえば今更ですが魔法学園は4月進級です。エルフの学校もそうですね。

最上学年は4年生です。


※次回更新は9月14日になります。


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