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トモシビの魔法



どうやらうまくいったらしい。

アスラームは口をぽかんと開けて私を見つめている。

どういう理屈かは分からないが私のパーティー機能は魔法ではない。糸が繋がってる感じはあるが、その糸は魔力を視覚化できるシーカーでも見えない。

なので魔力を消されても通じるのだ。

パーティーにしてしまえば敵対できなくなるはずだと思ったのだが……当たっていたようだ。

ゲームならそれが普通だ。



「でもトモシビちゃんいつも私と模擬戦してるよ?」

「それは……模擬だから……」



言われてみると皆はパーティーに入ったまま普通に模擬戦をしている。

敵対関係ではないとはいえ、攻撃可能なのは事実だ。

そうすると、アスラームは私を助けるという理屈なら普通に攻撃できるのではないだろうか?

だんだん自信がなくなってきた。

考えていると頭の中でピロリンと音が鳴った。

通信だ。どうやらアスラームが精霊術を解除したらしい。

通信用の″窓″を開くとお父様の声が聞こえてきた。



「おとうさま」

『!? トモシビ! 無事か!? 』

「うん」

『そうか、こちらも無事だ。バルカも捕縛したぞ。父はすごいだろう?』



私はエステレアと顔を見合わせた。

すごい。

早すぎる。少し前にグレンに呼びに行ってもらったばかりなのに、到着してすぐハンニバルを倒したのだろうか?

うちのお父様は自称だけじゃなくて本当に強かったのかもしれない。



「すごいけど、もっと早くきて」



素直に認めるのが恥ずかしいのでちょっと反発してしまった。



『すまない。少し休みをとった。魔物さえ倒せば一緒にいられるぞ』

「……魔物?」



初耳である。

王都周辺に魔物が出たらしい。しかもすごい数だと言う。

なぜ王都に魔物が攻めてくるのだろう?

王都には魔封器がある。あれのおかげで魔物の襲来から逃れているのだ。

混乱に乗じて誰かが仕組んだとしか思えない。

とにかくどうにかしなければならない。

魔物が相手なら容赦しない。私は天を衝く大山のようなクルルスですら消滅させたのだ。

例え何十万の大軍でも私だけで勝てる。

ただ、その前にやらなくてはならない事がある。



「アスラーム」

「な、なんだい?」

「目、とじて」



彼は何か期待する顔で目を閉じた。

私はその首にガチャリと奴隷の首輪をかけた。



「ん……?」

「これあげる」

「トモシビちゃん!?」



これでもう精霊術は使えない。

この奴隷の首輪は体内の魔力を乱す魔導具だ。

体内に入った魔力信号も変質させるはずである。

仕組みが分かれば対策は色々とあるのだ。

念のため剣は回収して、私は彼をパーティーから外した。

なんというか……糸が繋がっている感覚が気持ち悪く思えたのだ。

彼が男だからだろうか?



「ちょ……ちょっとプラチナと扱いが違いすぎないかな」

「大人しくしてて」

「さすがはお嬢様です。これで」

「……ええ、これでトモシビ様に逆らう者は1人もおりません」



エステレアの言葉に被せられたその声は部屋の隅から聞こえた。

誰がどう聞いても悪巧みをしている悪い人にしか聞こえないその声。

魔王配下のカサンドラがいつのまにか部屋の隅に立っていた。







「なに、やる気? ってかこれどうせ貴女の仕業でしょ?」

「ええ、憎き精霊をも打倒した最強の魔王の誕生に祝辞を、と」

「僕が言うのもおかしいけど……彼女にそのつもりはない」

「私、何も魔王っぽい事してない」

「そうです、お嬢様はただ世界を征服しようとしているだけです」

「もはや魔物など供物にすぎません」



カサンドラは微笑んだ。



「しかしトモシビ様はお力を振るうにあたって懸念があるご様子」

「貴女の存在とかでしょ」

「トモシビ様は人に恐れられるのがお嫌なのでしょう?」

「……うん」



私はノースドリアの村を思い出した。まるでメガネ2がバルザックを見る時のような表情をした村長。

今度は王都でそんな扱いをされるようになるかもしれない。

今、王都の人々は私の味方だ。私のことを魔王と糾弾する反乱軍は滅びた。

しかし……ここで魔王の力を使ってもまだ信じてくれるだろうか?

……正直、自信がない。



「お気持ちは痛いほど分かります。かつての魔王様も……そして私もそうでした」

「めすいぬ……」

「無理もありません。魔王も貴女もお嬢様ほど可愛くないのですから」



見て来たかのように断定するエステレアに、この場のほとんどの者が頷いた。

私は自己評価が高い人間だがまだ足りなかったらしい。



「今、トモシビ様には2つの道があります。1つは魔王への道。畏怖されながらもこの世に安定をもたらすでしょう」



カサンドラは魔王領の方角を指差した。このまま魔王の力を振るうとそうなると言いたいのだろう。



「そしてもう一つは……神への道」



言葉と同時に右手の人差し指を天に向けた。



「中途半端な力が恐れを呼ぶのなら、恐れごと消し去れば良いのです」

「どういうこと〜?」

「人間など所詮は信号で動く人形のようなもの。強大な力があれば他人の感情も意思も意のままです。先程実際に体験したではありませんか」



ドキリとした。

たしかに可能だ。精霊がやっていた。

いや、実は分かっていた。考えないようにしていただけだ。

私は精霊の魔力信号だって解析できる。そうすれば人を簡単に操作できるのだ。

それは禁忌の扉だ。私は今その前に立っている。

私は沈黙した。皆も反論しない。彼女の言う通りだからだ。



「可能です。魔力信号などトモシビ様なら容易く生成できます。魔王様のお力と合わされば全人類を操作できます」



それは私の主義に反する。

そんなものでファンを得たって何も嬉しくない。

″俺″の記憶が戻ったあの日に、私は考えた。

もしここがゲームの世界で私が主人公で、全てが私の思い通りなら……それはとても虚しいことだろう。

人が私を好きになってくれても、それがただプログラムされてそうしただけなら何の意味もない。



「……こちらの案は破棄という方向になりそうですね」

「うん」

「当然です。トモシビ様はそんなことしません」

「ではせめてこれを献上いたします」



カサンドラはどこからか5つの卵を取り出して床に置いた。

豪華な作りの支えが付いているので転がったりはしない。

ダチョウの卵みたいな大きさ。その中に異様な魔力の胎動を感じる。



「魔封器!?」

「はい、魔王への道を歩むトモシビ様に相応しい力です」

「王都の魔封器を盗んだのか!」

「何を騒ぐ事がありましょう? トモシビ様が魔王様と一体になれば魔物も服従するでしょう。人間と魔物が和合する理想郷です。トモシビ様を卵割り係としたあなた方の狙い通りではありませんか」



まだ何か勘違いしてるらしい。

全ての魔封器を割れば一体どれほどの力が手に入るだろう?

魔封器一つですらこの強さなのだ。

私とて力を求める人間だ。少しの興味もないかといえば嘘になる。

卵にピシリとひび割れが走った。



「わ、割れちゃうよ!?」

「私、ピンチじゃないよ」

「魔王様最大の敵である精霊憑きの前ですので」



パリ、と殻が割れて落ちた。光のような魔力が溢れる。

それらが私を見た。

目も顔もないがそんな気がした。意思があるのだ。

尻尾一本くらいなら平気だった私だが、一度にたくさんの尻尾を受け入れて無事でいられるのだろうか?

カサンドラは恍惚とした表情で両腕を広げた。



「さあ喝采を!! 最強の魔王の誕生です! !」



エステレアが私を抱きしめた。アスラームやフェリス達が守ろうと動いた。

光はそれらを空気のように素通りして私に殺到し、吸い込まれていった。

私のお腹の下の方が熱くなるのを感じる。

尻尾も熱い。

前の時とは全然違う。

不意にクロエの神術を受けた時のような快感が湧き上がってきた。



「やっ……あ……! 」

「お嬢様!」



クロエのよりずっと強烈だ。

何か考えようとする私の意識が快感に支配されていく。



「貴様っ!」

「おっと……暴力はおやめください。私が死ねばドラゴンが暴れ回りますよ?」



執事による剣の一閃を容易く避けながらカサンドラは脅した。

もはや彼女を斬ってもどうにもならないだろう。

私の中で何かが暴れ回っている。頭も全身も熱い。

浅い呼吸をする度に声が漏れる。

体がガクガクと震える。

私の意識にどこからか光が到来し、溢れそうになる、その寸前……。



「この時を待っておったぞ」



私はその声を聞いた。







私はエステレアの腕の中から背を起こした。

快感の残滓が一瞬腰の辺りに走って消える。

なんともない。



「よく頑張ったなトモシビ、封印完了じゃ」



床にへたり込んでる私の頭にポンと手が置かれた。

ヤコ先生が私の前で微笑んでいた。

ふういん、かんりょう……。

封印完了……? 魔王の力を?

理解するのに時間がかかった。1時間くらい全力疾走した後のような気分だ。10秒もできないけど。



「魔王の力が入ってくればお主と一体化した部分も引っ張り出される。その瞬間こそが唯一の好機じゃった」

「な、なんともないんですか? まだ尻尾ついてますけど?」

「その尻尾に全て封印した。もう何の力もないただの尻尾じゃ。ワシのようにな」



先生は自分の尻尾を動かしてこちらに持ってきた。

たしかに私のとよく似ている。



「お揃いじゃな! もう親友って感じじゃ! 何を隠そうワシの尻尾も魔王が封印されておる!」

「それって……尻尾が魔封器ってこと?」

「ワシが魔封器オリジナルじゃ。卵は全てワシの力。ワシが魔封器そのものじゃ」



先生は今まで見た中で一番のドヤ顔をした。

訳わからないけどとにかくもう魔王の力は感じない。



「そんな……まさか貴女は……」

「どうじゃカサンドラよ? 今どんな気分じゃ? ん?」

「この外道……! 一度ならず二度までも……!」

「ぎゃはははは! 騙される方が悪いのじゃ!」



どうやら2人は知り合いだったらしい。たぶん昔も似たような感じで封印したのだろう。



「はぁー、スカッとしたのう……さてトモシビよ。今の状況は分かっておるな?」

「うん、魔物が来る」

「先生のせいで卵の魔封器も無くなりましたが」

「ワシのせいじゃなかろう。ともかく食い止めねばならん。そこでじゃ!」



先生は姿勢をただした。



「お主に課題を出す。合格すれば休んでいた分はチャラにしてやる」



好きで休んでいたわけではないが学園には決まりがある。

決められた授業を受けられなければ課題をこなさなす必要がある。そうしなければ単位を取得できないのだ。



「よし、ミッションを与えるぞ! 魔物から王都を救え! 方法はお主が考えるのじゃ!」



私は頷いた。

もう魔王の力はない。魔封器もない。

でも問題ない。

作戦はもう出来上がっている。



「アスラーム、奴隷の首輪、めすいぬにつけてあげて」

「あ、ああ」

「めすいぬ、私の許可なく、道を用意しないで」

「はい……」



他人が用意したレールなんか無視してきたのが私だ。

私がなりたいのは神や魔王ではない。

私は私になりたいのだ。

私の理想とする私の価値はそんなものよりずっと上なのだ。

それを見せてやる。







「こんにちは。トモシビ・セレストエイム……だよ」



私は再び放送を始めた。

飛空挺から地上を見下ろすと王都を囲む暗闇が蠢いているのがわかる。

見たこともないほどの大群だ。

そしてそれらから守るように王都の城壁に沿って無数の灯火が見える。



「今、魔物が王都に攻めてきてる」



私は彼らに語りかける。

これが私の景色。私の立ち位置。

今は私が総司令だ。



「正規軍、セレストエイム軍、反乱軍も動ける人は、戦ってほしい。あと学園の生徒とか……冒険者も……全部……頑張って、立ち上がって、戦ってほしい」



疲労困憊のところ申し訳ないのだが、やらなければならないことだ。

こちらの都合の悪いことをやるのが敵というものである。

飛空挺はぐんぐん上昇する。スカイドライブと双子の力を使っているのだ。すぐに天脈に達するだろう。



「大丈夫……みんななら、簡単に勝てる。私が魔法をかけてあげる」



私は精神を集中した。

遠隔地からあの灯火の座標の魔力を感じるためだ。

そして全てを糸で繋ぐ。


パーティー機能は″窓″の機能というより私の不思議能力だ。

″窓″は表示するだけ。処理も記憶も全部私がやっている。

魔力さえ感じ取ればフレンドと同じように登録できる。そしてフレンドと同じように何人でも……私の頭の容量が続く限り登録できるはずだ。

この王都の全軍を私のパーティーにしてやる。



「私の中に……炎がある。それを分けてあげる」



次々と糸が繋がる。感覚でわかる。

大半が男なのでやっぱりちょっと気持ち悪い。

私は嫌な顔してるのを見られたくないので放送を切った。



『魔力信号などトモシビ様なら容易く生成できます』



カサンドラの言葉が脳裏をよぎった。

ふと思いついてしまったのだ。

先ほどアスラームが精霊の支配から解き放たれたのは、私がこの糸から直接信号を叩き込んだからではないかと。

もちろん私にそんなつもりはなかった。

だが無意識にやってないかと言われると分からない。


そもそも……普段から垂れ流してる魔力の中に私自身を好きにさせる信号が入っているのでは?

私は特殊な人間だ。いや人間がどうかも分からない魔王科の珍獣だ。

変な成分を分泌して周囲の人を綺麗にしたりできるし、全然成長しないし、魔力もおかしい。

あくまで仮説だ……仮説だが……集中できない。



「お嬢様」



それなら……私がいつもパーティーに入れてる皆はもっと影響を受けるのではないだろうか。

私の魔力が増大するに従ってファンが増えてきたのは?

私といつも一緒にいるエステレア達は……?



「お嬢様、お聞きください」



エステレアの手が頭に乗せられた。

それだけで反射的に心が落ち着いてしまう。

エステレアはいつものように私の髪をサラサラと梳いた。



「私達がお嬢様を好きになったのは信号などではございません」

「ん……」

「きっかけがあったはずです。思い出してください。フェリスさんもクロエもエクレアもお嬢様の気高いお心に触れたのです」

「そうです、助けて頂きました」

「そ……そうね。なんか今思うと恥ずかしいけど」



そうかな……そうだった気もする。

私の中に今までの思い出が溢れた。

この一年、色々あったのだ。

私は私を好きになってもらえるような事をしてきた……の、かな。

言われてみるとだんだんそんな気がしてきた。

フェリスがフワリと抱きついた。



「トモシビちゃん。トモシビちゃんは出会った時から私にとってヒーローだったんだよ」

「弱かったのに……?」

「強かったよ。弱くても立ち向かうトモシビちゃんはずっと最強だったよ」



私はおずおずと尻尾を動かし、フェリスの尻尾に巻き付けてみた。フェリスは優しく受け入れた。

私からやったのは初めてだ。

甘い空気が流れた。

カサンドラはその様子を見守っている。

先生はニヤニヤしている。

アスラーム達は気まずそうにしている。



「どんなに弱くとも強くあろうとするお嬢様はいつだって光り輝いておりました。私の大好きなお嬢様は最初から最強で最高で最かわです」

「うん……私も、大好き」



気がついた時には頭の中に軍が入っていた。

全軍の位置が手に取るように分かるのだ。魔王の力で遠隔地から魔力を支配したあの感覚がまだ私の中に残っているのかもしれない。



「スライム、おねがい」



スライムは無言で答えた。

天脈の魔力が私に注がれる。生半可な魔力ではダメだ。

今から私がやるのは……ただの身体強化。それをパーティーに全体化する。

身体強化は基礎の基礎、学園で習った最初の魔法だ。

そして私が最初に活用した″窓″の機能がこれだった。

あまり使えない機能だと思った。なにしろ私自身にはあまり効果がないのだ。

いたら多少は役に立つマスコット……それが私だと思っていた。


魔法陣を描く。自分を強化するのに魔法陣は必要ない。

しかし今回は別だ。付け足すものがあるからだ。

身体強化全体化……リミッター解除。

グンと魔力が吸われて行く。

私の中にいつも燻る炎のような思いが魔力と一緒に出て行く。

伝われば良い。強者に立ち向かうのは得意だ。

私の炎の意思が伝わるならそれは歓迎すべきことだ。

……そうだ。

この魔法をこう名付けよう。



「灯火の魔法」



私はプツンと糸が切れたように意識を失った。



作品のテーマ的な部分を書けた気がします。

ちなみにトモシビちゃんの尻尾は付いたままです。

魔王の力はもう使えないですが、自分の肉体に魔王が封印されてるってなんかすごくワクワクしますね。


次回エピローグ的な内容をやった後、一週間ほど空けて次の章に行きたいと思います。


※次回更新は17日月曜日になります。

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