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無敵の魔王2

※3人称視点になります。

※10月14日、文章校正しました。



アスラームは天才だった。

剣術、格闘術、魔法、装備、戦術、全てにおいて常にトップクラスだった。

特に父から教わった剣はこの歳にして騎士を打ち負かすほどであり、その上さらに精霊の力があった。

魔法を完全に打ち消す精霊術。

この力はトモシビとは極めて相性が良かった。彼女がどんなに大規模な魔法を使ってもアスラームは無傷でいられるのだ。

自分が前衛となって彼女が後衛。そうやっていくつもの魔物を倒し、国の英雄となり、そしていつかは魔王すら討伐して伝説の勇者へと至る。

そんな将来を夢に描いていた。



「アスラームのざこ」



しかし今、その彼女が魔王となって彼の前にいる。

しかも罵詈雑言を浴びせてくる。

彼女の意思は刻一刻と魔王の尻尾に侵食されているのだ。

ああ、なんという悲劇か。

せめて彼女を邪悪なる尻尾から救い、運命を司る神と精霊に一矢を報いてみせよう。

彼は自分に酔う癖があった。



「でも安心して、アスラーム。今から私が……」

「今から僕が……」

(君を助ける!)



アスラームは学園に入って初めて本気を出した。

仲間の4人がよく訓練された狩猟犬のような動きでカバーに入る。

彼らはトモシビの取り巻きを剥がす役目だ。アスラームを完璧にサポートしてくれる。


トモシビはもういっそ優雅にすら見えるほどの緩慢な動きで剣を構えた。

アスラームの精霊術はこのブリッジくらいなら部屋全てを魔力を打ち消す空間に変えることができる。

トモシビのチームも強い。

床を蹴り、天井を足場にし多角的な動きで襲いかかるアスラームチームの攻撃を彼女らは的確に防ぎ、反撃まで行った。

しかしそれはアスラームの狙い通りだ。

取り巻きが手一杯になったことでアスラームの前に愛しの彼女へ続く道が開けた。

次の瞬間、アスラームは彼女の眼前に到達していた。

トモシビにしてみれば大地が縮んだかのような速さだった。


狙いはその手に持つ剣だ。

まず剣を弾く。

それから余裕をもって尻尾を切り落とす。

魔法が使えないトモシビは何もできない。

得意の魔術も霊術も使えない。

手持ちの武器がなくなれば終わりだ。

トモシビはノロノロと剣を動かした。

彼はそこへ向かって稲妻のように剣を振り下ろした。







白銀の剣が宙を舞った。

ラナ・ニルセン特務隊員は意識が空白になった。

彼女の剣を飛ばしたハンニバルはさらに圧縮した竜巻のようなエネルギーで大剣を横薙ぎに振ろうとしている。

頭の中に死が浮かんだ。

走馬灯のように今までの記憶が思い出される。


特務とはトモシビ・セレストエイムの担当になったときに付けられた任務だ。

トモシビと出会ったのは今年の春、入学式の日だった。

とても綺麗な子だった。彼女は子供は大好きだ。

その子は他の生徒と比べても幼く、小動物のように可愛かった。

そのくせ魔法は強力。

危なっかしい。私が守らなければ。

そう思っていたらあれよあれよと言う間にその子は街を救い、英雄になり、そして王都を二分する大混乱の中心となった。


実のところ、ここ一年の騒動には全てトモシビが関わっている。

彼女はとにかく狙われやすかった。

魔物に狙われ、変態に狙われ、他国から狙われ、魔王の手下に魔王にさせられて、騎士団から魔王として命を狙われている。

こんな不幸な少女がいるだろうか。

あまりに不憫に思えた。

ラナはこんな子供を守るために騎士になったのだ。

治安部隊の隊長がトモシビにつくと言った時も真っ先に賛成した。


治安部隊は強い。普段人間を相手にしている部隊だけあって、対人戦のプロフェッショナルなのである。

彼女も剣は得意だった。騎士団の大会で優勝すらある。

治安部隊では隊長とどちらが強いか噂になっていた。

しかしハンニバルは強すぎた。

その隊長と2人がかりでなお勝ち切れず……今まさに敗北しようとしている。



「ラナ!」



刃のついた鉄塊が目にも留まらぬ速度で迫る。

斬られる。

いや、トモシビのマンティコアの馬車に轢かれるようなものだ。打ち捨てられた人形のように吹き飛ぶ。

ラナは身を硬くして、直撃に備えた。

しかしそのギロチンの刃は彼女に届かなかった。



「こんばんは」



長身の男がラナの前に立っていた。



「トモシビの父、ブライト・セレストエイムです。いつも娘がお世話になっております」



その男はラナに向かって保護者面談みたいな挨拶をした。

ハンニバルがドサリと前のめりに倒れた。



「は? え?」



目の前の男によってハンニバルが一瞬で倒されたと理解するまでの10秒ほど、ラナの脳内は完全に空白になった。







アスラームは一瞬思考が空白になった。

放った聖剣の一撃はトモシビの量産品の剣に叩きつけられ……キンと小さな音を立てた。



(手応えが……)



重力に従って落下する彼女の剣。

狙い通りでありながら、予想外の光景。

トモシビは剣を自ら手放したのだ。

勢い余ってアスラームの体が流れた。



『直接受けたら力の差でやられる。受け流すんだ』



受け流された。

アスラームが教えた通りに。

残念ながら彼女には剣の才能がない。せめて受け流すくらいなら筋力に依存せずできると思った。


絶妙なタイミングで剣を手放した彼女は今、何の武器も持っていない。

魔法を封じられたら予備の武器も出せないはずだ。

そんな状況にさせないために自分が付いているはずだった。

もし誰かの剣が彼女を傷つけるなら、自分が前に立って守る。

しかし、それでもダメな時……ほんの少しでも命を守れる可能性があるなら。

そう思ってあの時教えたのが、これだった。



(あ……)



フワリと心臓を震わせる香りがアスラームの備考をくすぐった。

それは彼女の香りだ。


バランスを崩したまま彼女の顔に目を向けた。

こんなに間近で顔を見たのはあの時以来だ。

全然変わっていない。

彼女を腕に抱いた時の記憶が瞬時に脳裏を駆け巡る。

ありありと思い出す。

彼女の羽毛のような柔らかい体を、サラサラした髪の手触りを、そして上気した顔を。

その大きな目が赤く光を放っている。

瞳の奥で炎が燃えている。

彼の心臓が再び燃えるように熱くなった。







「おいどうした!?」

「トモシビちゃん!」



アスラームは魅入られたように動けなくなった。

剣を持ったままの右手が力なく下がる。

微細な化粧粉をはたいたかのような肌が美しい。

彼女の容姿は何度見ても新しい発見がある。

髪がかかった耳まで芸術のように見える。

長い睫毛に縁取られた目が彼を見ている。それだけで誇らしくなる。

横から尻尾がピョコリと覗いた。

もう彼はそれも気にならなくなっていた。彼女の一部だ。

むしろ愛らしく思えてくる。

もはやアスラームにトモシビを傷付ける事などできなかった。

彼女の綺麗なピンク色をした唇が笑みの形を作った。



「……パーティーメンバーに、してあげた」

「ぱ、パーティー……?」

「同じパーティーだと、敵対できない」



何を言ってるのか彼にはわからない。

彼女がそういう魔法を持っていることは知っている。だがそんな付随効果があっただろうか?

しかし彼女の言う通り、もう戦おうとは思わなかった。

先程までの『なんとしても尻尾を切らなければ』という気持ちも消えていた。



「なんと……トモシビ様はこのフィールド内で魔法を使えるのですか?」

「お嬢様の″糸″は魔力を使わないのです」

「でもトモシビちゃんいつも私と模擬戦してるよ?」

「それは……模擬だから……」



トモシビは目を背けた。

アスラームは戦いの終わりを悟った。

いや、最初から彼女は戦ってなかった。

完敗だと思った。



「どうする? アスラーム」



仲間達が戸惑った顔でアスラームの顔を見た。



「もういい、やめよう」



アスラームが首を振ると彼らは剣を収めた。

彼らは精霊憑きではない。ただアスラームに付き合ってくれただけだ。

アスラームが精霊術を止めると、トモシビは何かに気付いたように″窓″を開いた。



『トモシビ……トモシビ……』

「おとうさま」

『!? トモシビ! 無事か!? 』

「うん」

『そうか、こちらも無事だ。バルカも捕縛したぞ。父はすごいだろう?』



それなりに尊敬している父が既に敗北していたという事にアスラームは少なからずショックを受けた。



「すごいけど、もっと早くきて」

『すまない。少し休みをとった。魔物さえ倒せば一緒にいられるぞ』

「……魔物?」







王都に向かって魔物が大量に押し寄せてきているという情報は近隣の村で駐在していた騎士団員からもたらされた。

ハンニバルが倒された直後のことである。

どこから湧いたのかは不明。発生源は複数あるらしく、王都を包囲するように四方から向かって来る、との事である。

アンテノーラは物陰で通信をしていた。



「遅いでしょ! もう終わってるじゃない!」

『そう言われましても、今更止める事はできません』

「あと量多すぎ!」

『申し訳ありませんが、トモシビ様の下へ参りますのでこれで』



プツッと通信を切られた。

アンテノーラは苛立った。これでは自分達も危なくなる。魔物に人間の区別はつかない。

魔物は反乱軍の戦力を削がせるために彼女が魔王軍とのパイプを使って要請したものだ。



(戦力全部出せなんて言うから……!)



それだけの苦しい戦いになるかと思ったらそんな事はなかった。

トモシビのおかげで反乱軍は半分くらいが離反したらしい。

そうなっても反乱軍はよく持ちこたえていた。グランドリア最強軍だけのことはある。

しかしそこへセレストエイムの騎士団がやってきた。

反乱軍は壊滅した。

そして……壊滅した後にようやく魔物が来た。

魔物はトモシビを助けるためだけに用意したものではない。

なので、通信の相手であるカサンドラにしてみれば好都合なのかもしれない。

だが王都はピンチだ。

両軍とも疲弊している。

どんなに強い騎士団でも魔力がなければオーガ一匹に苦戦するのだ。


万一に備えて家の者を連れて脱出するべきかなどと考えていた。

その時だった。

噴水広場のモニターに再び彼女のアイドルが映った。



『こんにちは。トモシビ・セレストエイム……だよ』



トモシビちゃんのお父様の剣の強さはハンニバルさんより上っぽいです。人類最強レベルですね。

でも戦って勝つより仲間にしてしまう娘の方がやばいかもしれませんね。


※次回更新は8月10日になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 父上お強い… 股間さえ強打されなければガチ最強なんだな…
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