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※10月11日、文章校正しました。



まずは礼。

そしてお互いに模擬刀を構える。

開始の合図とともに、私は一気に間合いを詰めた。

身体強化とジェット噴射を併用しているのだ。

ロボットのブースト移動のようなイメージだ。

そしてそのまま横薙ぎに剣を振るう。



「ッ!」



受け止められた。

ガン、という衝撃が手に伝わる。

グリップを力を入れて握り込む。剣を離したらそれだけで負けだ。


あ……まずい。

踏ん張りがきかない。

勢いを殺しきれずに体ごとぶつかってしまう。



「きゃあ!」

「わぁ」



もつれ合って倒れてる。

そのままわちゃわちゃして……気付いたら右手を取り押さえられていた。

私の負けである。



「大丈夫ですか? トモシビ様」



対戦相手であるクロエが心配そうに声をかけた。



「大丈夫……」



全然、大丈夫ではない。これでクラスの女子全員に負けたことになる。

今のは事実上の最弱決定戦だ。

私のプライドはズタボロだった。

現在やっているのは模擬戦、3、4限目を通して一対一で戦いまくる授業の真っ最中である。

周りは皆、楽しそうに戦っている。

隣ではフェリスとエステレアが私達とは比べ物にならない打ち合いを繰り広げている。



「と、トモシビ様はすごい魔法を使えるのですから……」

「大丈夫……」



壊れた音声案内のように大丈夫と繰り返す私。

クロエが慰めてくれているのは分かる。しかし私にとってはあまり意味がなかった。

私はクラス最弱だ。

守られて守られてやっと効果を発揮する支援ポジション。いたら少しは役に立つがいなくてもなんとかなりそう、それが私である。

しかもそれは降って湧いたような″窓″のパーティー機能のおかげであり、私が努力して考えてきた戦闘技術はショートカットを使ってもこの様なのだ。

こんなのでバルザックやグレンと戦おうなどと……馬鹿みたいな考えだ。

隣でやっていたエステレアとフェリスの戦いはフェリスの勝利で終わった。

フェリスはこれで全勝。女子最強である。

同じ歳なのに。



「トモシビちゃん、どうしたの?」

「お嬢様……」



二人が私を心配してくれる。

そんなに分かりやすく落ち込んでるのだろうか。

気分を切り替えよう。



「フェリス強いね」

「でも私はトモシビちゃんみたいに頭良くないから」



いや、私は頭も良くない。私が座学ができるのはこれまでそれしかしてこなかったからだ。


……ダメだ、卑屈になっている。

こんなのは私じゃない。いついかなる時も堂々と、だ。

例え勝負に負けても心は負けない。

弱いなら強くなれば良いのだ。


私の得意なものは魔術だ。

それは間違いない。しかし最も得意な炎の魔術が対人では使えない。それが敗因の一つだと思う。

ならばもっと工夫して違う系統の魔術を使っていくべきだ。

フィジカルが弱くても戦える方法で。

……よし。

私は溜めた息を勢いよく吐いた。



「強くなるからみててね」

「う、うん」

「それでこそお嬢様です」



頭を撫でるエステレア。私はしばしその感触に身を任せた。







前世の″俺″にとって授業というのは非常に退屈なものだった。だが不思議なことに、この学園での授業を私はわりと楽しんで聞いている。得意分野だからだろうか。それともヤコ先生の授業が面白いのか。



「さて、お主らは既に攻撃魔術を習った。攻撃があれば防御がある。むしろ防御の方が重要じゃ。トモシビ」



歩き回るヤコ先生が私の前で止まった。



「どうやって防ぐ?」

「対魔力強化」

「その通りじゃ。ちょっとやってみよ」



自分の体に膜を張るイメージ。

見た目は変化ないが、自分では魔力が体を覆っていることがわかる。

身体強化と似たようなものだ。だいたい魔法使いは本能的にこれを使っている。

このため一般人では焼死するような魔法を受けても魔法使いなら軽傷だったりするのである。

ちなみに物理的な攻撃に対しては無力である。



「うむ。なかなかのものじゃな。ファイアーボールを撃つぞ。逃げずに受け止めてみよ」

「!?」



私はこれで魔術を受けた経験はない。なかなか、と言われてもどの程度のものなのか分からないのだ。

そんな私に構わずファイアーボールを投げつける先生。しかもなんか楽しそうである。

この教師頭おかしい。

私は目一杯魔力を込めて手で受け止める。

……熱くない。



「よくやった。見ての通りじゃ。しかしもっと上級の魔術なら当然無傷というわけにはいかん。可能なら避けるべきじゃ」



これも私の不利な点の一つだ。この対魔力がある以上、魔法を飛ばすより物理で殴る方が強いのである。

さらに、もし仮に私が炎の魔術全開で戦ったとしても、身体強化をかけた連中にはそうそう当たることはないだろう。

しかも距離を詰めて使えば当然私自身も火傷する。

だから、まず私はねこだましのような技で動きを止めようと考えて爆竹を作ったのだが……あれでは不足かもしれない。

道のりは遠い。

もっともっと何か考える必要がある。



「それから、グレン。立て」

「なんだよ」

「お主、以前に障壁を使っていたな? あれを見せてみよ」

「あんまり見せたくねえんだがな」

「いいじゃろ、成績におまけしておいてやるから」

「わかったよ」

「よし、ではいくぞ」



先生がまたもファイアボールを使うと、グレンも魔法陣を描いた。

これはあれだ。

あの時のやつだ。

撃ち出されたファイアボールが透明な壁に阻まれて消滅した。

……これを学ぶべきだ。

私の拳を防ぎ、私の爆弾を覆った魔力の壁。これが使えれば私ももっと強くなれるはずだ。



「これは障壁の魔術。高度な魔術じゃ。これを使えるものは多くないぞ。学園では教えられぬがな」

「どうしてですの?」

「開発者によって秘匿されているからじゃ。自分のアドバンテージを守るために強力な魔術は秘匿したりする」



そんなのグレンはどこで習ったのやら。

でも私には秘匿など無意味だ。

どうせそんなとこだろうと思って、さっきの魔法陣をスクリーンショットで激写したからである。

家に帰ったらゆっくり試してみよう。







ダメだった。

スクリーンショットはまあまあよく撮れてる。

だが、その通りに魔法陣を描いても発動しないのである。

魔力の使い方に何かあるのかもしれない。もしくは裏の見えない部分に続きの魔法陣があるのかもしれない。よく分からない式が多いのだ。



「うーん……」



エステレアの入れてくれた紅茶を飲みながら悩む。これは一筋縄ではいかないらしい。

そもそも……グレンの使った一連の魔法は同じものなのだろうか?

あの日、グレンは私の爆弾を包むボールのように障壁を出した。爆弾が移動したら障壁も動いた。

しかし今日見た障壁は空中に設置されているように見えた。

対象指定の違いだろうか。

……そういえば私の拳を防いだときは壁なんか見えなかった。あれは別の技術か?

もしかして本当に私の拳が弱すぎただけかもしれない。



「トモシビちゃ〜ん、宿題しよ〜」



フェリスだ。エステレアが中に入れてくれたらしい。没頭してて気付かなかった。

障壁の研究は中断することにしよう。



「するー」



今日の宿題は対魔力強化に初歩の魔法式、それに数学に社会。

当然、前の世界にあったような授業もある。

″俺″の知識があるので楽勝……などということはない。

こちらの社会は前世とは全く違うし、数学にしても魔法式なるものがある文明である。例えばベクトルだの座標変換だのに魔法法則が絡んでくるのだ。

結局は地道な努力が必要なわけである。



「私もご一緒しますわ」

「私もお願いします」



エステレアとクロエも加わった。

リビングには鉛筆の音だけが響く。みんな集中してる。

そのまま数十分が経過した。

……終わった。

まあ、私はお屋敷で引きこもってる間にこのくらいのことは勉強してきたのである。″俺″の経験より、たった12年しか生きていない私の努力が優っているのは喜ぶべきか悲しむべきか。



「トモシビちゃん終わったの? じゃあ数学教えて〜」

「どこ?」

「ここ」



前世でいうと論理学に近い内容。魔法式は電子回路にも似た部分があるので、こういうのも基礎として出てくる。

私はなんとか噛み砕いて説明する。



「ゆっくり、考えてみて」

「……こう?」

「合ってる」



私の語彙力で伝わるか心配だったがどうやら問題なかったようだ。



「……えへへ、トモシビちゃん、やっぱりすごいんだよ。教え方もうまいもん。私馬鹿なのに」

「馬鹿じゃないよ」



フェリスは馬鹿じゃない。

フェリスはすぐにみんなと仲良くなった。無口で舌ったらずな私とうまくお喋りしてくれるし、私が今日落ち込んでたことを覚えていてこうやって励ましてくれる。

それに、あんなに強いのに全然威張らない。いつもニコニコしていて誰も傷つけない。

改めて考えると本当にすごい子だ。

初日から大暴れしてエステレアに心配かけたり、クロエがいじめられる原因を作った私よりずっと頭が良いではないか。



「フェリスはすごく他人の事考えられるから、頭良い」



フェリスは目を丸くした。



「そんなこと、初めて言われたよ〜」

「トモシビ様、今良いこと言われませんでしたか? 記録しないと……」



クロエって意外と図太い。というか飄々としてるみたいだ。



「じゃあトモシビちゃんもこうやって他人の事考えられるからやっぱり頭良いってことだよ」

「そうですわ」

「そうですよ」



そう、かな?

論理的には正しい……気がする。



「そっか」



よかった。私も頭良いのか。

実技があんなだから、せめて座学では一番になりたい。

フェリスは勉強の方も教えたらすぐ理解した。実際、そっちの方面の頭も良いのだろう。

クロエもエステレアももう終わって勝手に私の宿題で答え合わせしている。

この調子なら私のアドバンテージなどすぐになくなりそうだ。

こちらも頑張らなくてはならない。



この世界の文明は中世レベルに見えますが実はけっこう高度です。

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