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全軍突撃、私につづけー

※7月20日誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!



魔法陣を観察した私は、すぐによく見知ったものであることに気づいた。ジェノバ遺跡と同じ転送魔法陣だ。

あの頃はこんな難しい魔法陣分からなかったけど、今では見ればすぐ分かる。

ただ、転送先の指定がよくわからない。ジェノバのやつもそうだが、ここだけ特殊な魔法式で描かれているのだ。



「また遠いところに行くための転送機なんでしょうか?」

「近いところに行くためにこんなの作るわけないものね」



エクレアの言う通りである。

きっと大陸を超えるような長距離移動なのだろう。

あの遺跡を思い出す。

ガーゴイル像みたいなゴーレムを倒して、フェリスが音を聞いて隠し部屋を見つけたのだ。

ここには像はないようだけど構造としては似通ってる。

もしかしたら、また隠し部屋があるかもしれない。


にわかに盛り上がる私達。

そんな中で、入口あたりにポツンと立ってる者がいた。



「あ、アンテノーラ」



アンテノーラだ。

俯いて震えてる。

また寒いのだろうか?

この子はどうも考えが読みにくい。

ただ、とりあえずこうやって輪に入れなくて一人ぼっちの子は気になってしまうのが私である。

なんだか他人事とは思えないのだ。

前世がチラついて心がざわざわする。

私は彼女に歩み寄った。



「……なに」

「これ、つけて」



マフラーを巻いてあげる。

彼女は目を丸くしてこちらを見た。戸惑っているようだ。

ぼうっとしている彼女の手を引っ張ると素直にこちらについて来た。



「まだ隠し部屋、あるかも」

「そうですね。ワタシもこの部屋までは入っていません」

「やだ、また財宝見つけちゃったらどうしよう?」

「ふ……ふぅん、余裕じゃない。魔王殺しのバルカに追われてるのに」



アンテノーラの声が響いた。

皆、水をかけられたように黙った。



「……ご安心ください。ここなら何日でも隠れられます」

「尻尾を封印するまでの辛抱ですからね」



……私の中で少しだけ、何か引っかかるものがあった。



「上の奴らもうまく撤退してるはずさ。お嬢様を助け出したら逃げることになってる」

「正規軍の相手なんかできねえよ。それに大将は魔法効かないんだろ? 」

「トモシビちゃんとは相性悪いよね」



私の騎士候補はどうやら私をお嬢様と呼ぶことに決めたらしい。

たしかにここなら滅多なことでは見つかるまい。既に騎士団が調査済みの場所なのだから。

……そうか、私はしばらくここに閉じこもる事になるんだ。

逃げていればそれで済むのだ。何も大陸最強の軍勢と戦う必要はない。

それが最良の選択……。



「そ、そうね。貴女なんて魔法がなきゃクソザコなんだから。神とか魔王とか言ってもやっぱり幼女ね、うん」



………………そんなわけがない。



「ちがう」

「え?」



たしかに私は魔法を封じられたらただの雑魚だ。魔術も聖炎も魔力が消されるなら効果はない。

しかし……それがなんだというのだ。



「撤退、やめさせて」

「え? 今?」

「そう言われても……」



分かってる。彼らは通信機なんて高価なもの持ってないのだ。

私は全ての通信用の″窓″とカメラを一斉に起動させた。



「全軍、ていしー!!!」

「なっ……」



聞こえてるだろうか?

治安部隊は通信機を持ってる。教団や私の騎士候補はモニターを見てくれていると思う。



「きをつけー!! やすめー!!」

「と、トモシビちゃん……」

「何やってんだよ、せっかくうまくいったのに!」

「はやく、やすんで!」



私の号令に私の騎士候補はノロノロと従った。

力が抜けると評判の私の号令だが、それはもうどうしようもない。

それが私なのだから。

私は囚われの姫君ではない。

魔法戦士で委員長で学園代表で、最強を夢見る戦うお嬢様なのだ。

精霊ごときに逃げ隠れするなら最初から最強なんて目指さない。



『トモシビ嬢、どうした?』

「きいて! 総司令……じゃなくて、テロリスト……ハンニバル、と騎士団は……テロリスト! 悪いやつ!」

『セレストエイム様、居場所バレちゃうよ!』

「ああ、一生懸命演説するお嬢様可愛い……ずっと見ていたいです……」



……ちがう。そうじゃない。

落ち着こう。

私が……私が言いたいのはつまり……。



「……助けてくれて、ありがと」

「おお神よ。なんと勿体ないお言葉」

「でも……まだ助かってない、人もいる」



私は少し間を置いた。



「精霊に操られたテロリストを……精霊の支配からたすける!」



腹が立つのだ。

私の知り合いを操って私を殺そうとするなんて。

精霊なる存在がいかなるものか私には分からない。でも私を殺しかけ、総司令を無職のテロリストにして高みの見物してる黒幕は……気に入らない。



「今、軍には偉い人がいない。みんな、テロリストになっちゃったから……」

『いや、私が……』

「だから指揮できなくて、ばらばら……でも大丈夫」



私は口の端を持ち上げ、自慢の髪の毛をサラリと払った。



「私が戻った。今、指揮権は……予備隊で、学園代表で、臨時騎士団員の……私にある!」

「えっそうなんだ! トモシビちゃんすごい!」



たぶんない。

でも私があると言えばあるのだ。言ったもの勝ちである。全軍をまとめる力があるのは私だけだ。

他国との戦争を勝利に導いた実績のあるこの私以上の適任がいるだろうか?

向こうの反応は分からないけど、少なくとも通信からは歓声が聞こえる。



「じゃ、今から……解放作戦する。国を乱す反逆者を、捕まえる。反逆者は……えと、大変な罪」

『そうだな、全員5年から10年の禁錮は免れん。幹部は死罪もある』

「家族も大変、でも……今なら許してあげる」



私は勝手に恩赦を与えてみた。

精霊に操られたならまだしも自分の意思で従ってる人は厳罰であろう。

とはいえ、今はそれどころではない。相手の戦力削いでくれるならその方が良い。

……来てくれるだろうか?

なにしろこちらの戦力は少ない。


教団含む民間人に無理強いはできない。でも騎士団でこちらにつく人が多ければどうにかなるはずだ。

今はハンニバルがクビになった直後だし、混乱状態だから従ってるという人も多いはずだと思う。

ともかく戦力を整える必要がある。

他に戦力は……何かいただろうか?



「あ、セレストエイム騎士団も来てますよ。トモシビ様のお父様がお越しです」

「えっ」



お父様?

私はマップを開いた。いない。

拡大する……いた。

全力で逃げてる。

なんて間の悪い父親だ。

もちろん田舎者のお父様は通信機など持ってない。

なら呼んで来てもらうしかない。

私はピンクのブザーを取り出した。



「グレン! どこ!?」

『なっ、なんだ!? どうした?」

「お父様呼んで来て!ノースドリアの方にいるから……おねがい」

『…………まかせろ!』



これでよし。

あとは……。



「アンテノーラっ!」

「ひゃい!」

「戦力、ぜんぶだして! 」

「ぜ、全部?」

「動かせるもの、ぜんぶ」

「全部……」



私は矢継ぎ早に指示を出していく。

ヨシュアとアイナには武器の調達。

全部こちらの買い上げだ。あとで騎士団から賠償金をたっぷりもらえば良い。

敵は精霊、相手に不足はない。



「しかし我が神、精霊は邪悪なるものではありません。聖なる炎をもってしても通じません」

「大丈夫」

「魔王の力を使うの? それこそ……」

「つかわない」

「ええっ、じゃあどうやって戦うの?」



元々彼らは魔王に対抗するために精霊憑きになったという。ならば精霊に魔王の力が通じないのは道理だろう。

でもそんなのは関係ない。

なぜなら、私は神でも魔王でもないからだ。

そんなものは過去の誰かに私を重ねてるだけだ。

今から全部超えてやる。

この私と……。



「みんなの力で」







地上に出た私はすぐにフラッシュグレネードを打ち上げた。

ドン、と花火のような音と共に夕暮れの空が明るく照らされた。

地上にひしめく人々はほとんどが一般人だ。

いくつか規律正しく整列してるのは治安部隊と私の騎士団、そして……制服を着てるのは学園の生徒達か。

その中の一人が私に走り寄った。



「トモシビ!」

「アナスタシア」



抱きつかれた。

メイとジューンもいる。



「ごめんね。早く助けたかったのだけれど……不便だったでしょう?」

「平気。エステレアがいたから」

「おじょ……わ、私こみ上げる笑いを、こ、堪えきれません」

「そこは普通に笑いなよ」



私が皆と会えなくなってからせいぜい一週間くらいなので久しぶりという感じでもないのだが、心配してくれていたらしい。

あとリノ先輩やステュクスの残り2人もいた。ついでに先生達も。

学園の生徒を集めてくれたのだ。

考えてみれば予備隊とはこういう時のためにいるのである。

魔法戦クラス以外は戦闘に出すわけにはいかないが、市民の誘導や後方支援など雑用がいる。

戦闘は治安部隊が引き受けてくれる。

私のクラスなら元正規軍とも戦えそうだが、他の学生では荷が重いだろう。

あとはお父様が来たら楽になるはずだ。







夕日が沈み、すっかり暗くなった街に怒号と戦いの音が響いた。

なんだかんだで戦えている……むしろ押してるのは治安部隊の強さと充実した援護のおかげというのもあるが、実のところ相手が少ないからだ。

王都に駐留していた騎士団というのはそこまで多くなかったらしい。

各地で起こっている魔物の異常発生のおかげだ。それで近隣の村に分散して防衛に入っているのである。


さらにもう一つの理由は、元騎士団……つまり反乱軍から離反が相次いだからである。



「勝っても負けてもテロリストじゃそうなりますわね」

「さすがはお嬢様、とどまることを知らぬ神算鬼謀でございます」



そもそも女の子1人殺すためにこんな騒ぎ起こして許されるわけがないのだ。精霊はあまり人間の事情に詳しくないのだろう。

この調子ならお父様を待たなくても勝てるかもしれない。

と……呑気に構えていた私達の前にそれが姿を現した。



「……退避! かくれて!」



夜空にゆらりと浮き上がる巨体。

流線型のそのユニットは、まさしく私の飛空挺セレストブルーだった。

すぐさま退避命令を出す。

あれには砲撃がある。

私のレイジングスターを撃つ、私が付けた魔法の砲撃だ。

撃たれたら死人が出る。



「浮くやつトモシビちゃんが持ってるんじゃないの!?」

「もってる」



メインエンジンのスカイドライブは私が持ってるのだ。

どうやって動かしてるのか知らないけど実際に動いてる以上認めるしかない。



「トモシビ! ほら、魔力で停止できるんじゃなくて!?」

「ああ、そうだよ。アルグレオにやられたやつやり返せばいいんだよ」

「……それは、もう無理」



なぜなら私がオタに頼んで改造してもらったからだ。停止信号は効かない。

私の改造が全部裏目になって私に返って来た。

酷い嫌がらせだ。


いつもよりゆっくり上昇していく飛空挺。

あれが天脈に到達する前に止める必要がある。

ということはつまり……長く飛べる私がどうにかしなきゃならないという事だ。



「アナスタシア、後おねがい」



私は握りしめたスカイドライブに魔力を込めた。



テロリストは何罪になるんでしょうか?

この場合は内乱罪とか国家反逆罪的なものを考えてます。

トモシビちゃんもドサクサに紛れて勝手な事してる気がしますが、民意を反映してなし崩し的に認められてますね。


※次回は7月27日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがお嬢様は人の上に立つ人ですね! [気になる点] ヤコ先生はどこにいるの? 反乱軍から離反した騎士は何人いたんだろう… さらば、セレストブルー!?トモシビは大ダメージを与えずに…
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