私の騎士団ができました
※6月15日誤字修正と加筆しました。ご報告感謝andすみません。
「お嬢様できたよ!w」
戦いが終わった次の日の朝、ようやく観光でも行えると思ったら、オタが散歩に行く前の犬みたいな顔で報告してきた。
一体何のことだろう?
「あの件ですよトモシビ様。ほら、セルとかの魔力供給源を魔力信号から守れって」
「この者は愚かにも今まで作業をしていたのです」
「あ」
思い出した。
オタに頼んだのはヒヒイロカネの加工だ。
かの金属でタブロバニーの角とセルを覆うように指示したのである。
ヒヒイロカネは魔力を込めると光る性質がある。つまり魔力を吸収して光にして放出するのだ。
それを利用すれば飛んでくる魔力パルスから魔導具を守れるのではないかと考えたのである。
ちなみに材料は私の刀だ。
もう戦闘は終わったので正直必要ないのだが……。
オタはすごく期待に満ちた目で私を見ている。
愚かと言っては可哀想だ。
……まあ、また同じようなことがあった時の保険にはなるかもしれない。
そう考えると無駄ではないか。
「褒めてあ……」
違う。褒めてはいけない。
彼は罰が好きなのだ。
「……どうして、私の前に立つの? 」
「えっ、ご、ごめんw」
「私の行手を遮ってはだめ、わかった? 豚」
「ああァーーー」
「お嬢様の進撃は例え犬のフンが落ちていようと止めることかないません」
「汚いから止まった方がいいよトモシビちゃん」
「……罰として、そこに寝て」
「え、まさか……」
オタはその場で仰向けに寝転がった。
「ちがう」
私は隅にあるマットを指差した。
ソファが足りなくて床に座る場合に使うものだ。
言われた通りにノロノロとそこに寝直すオタ。
私はその顔を覗き込み、たっぷりもったいをつけてからゆっくり足を伸ばし……止めた。
彼のいつも口元に浮かべている薄ら笑いがさらに濃くなっている。
その目線は私の太もも辺りに釘付けだ。
ちょっと気持ち悪いが、その角度からは見えないことは熟知している。
「踏んで……あげない」
「え……」
オタの顔が曇った。
「疲れが取れるまでそうしてて、命令」
「ええー……」
あれからずっと徹夜で作業していたというなら流石に見過ごせない。
私はブラック企業ではないのだ。
休ませなくてはならない。
「思ったより優しいんだな」
入り口から声がした。
その声に振り向いて私達はギョッとした。
何十人という男女が押しかけていたのだ。
皆、子供である。
私達と同じくらいの年だろう。
「もしかしてこちらに連れてこられた……ええと、グランドリア人の方じゃないかしら?」
「はっきり言ってくれていいぜ、奴隷だって」
「グランドリアに奴隷という身分はないですわよ」
「そうかい、まあどうでもいいさ。これからは違うんだから」
「私らそこのセレストエイムさんに仕えることになったの」
「えっ」
…………?
私は混乱した。
トルテとアンから話を聞くとどうやらアスラームがそう言ったらしい。
ちょっと腹が立ったが、なるほど元々彼らは売られるような環境にいた子達である。
帰ったところで受け入れるところがあるかどうか分からない。
孤児院ですらこの人数は無理だろう。
しかしそんなこと言われても私もセレストエイムも財政に余裕などない。
どうしようかと思っていたら、先頭の一人が口を開いた。
「なあ、握手してもいいか? 俺らあんたのファンなんだ」
「……ふぁん?」
「ああ、放送見た時からずっと会うのを楽しみにしてて……」
「ほんと?」
「本当だよ、な?」
「ほんとほんと! 実物めっちゃかわいー!」
私は一瞬で受け入れることを決めた。
考えてみると全員魔術の才能があるらしいし、騎士見習い……のそのまた見習いあたりにしてはどうだろうか?
給料はまだちょっと無理だけど食べさせるくらいならいけるかもしれない。
「じゃ、このエクレアが騎士隊長、みんなは騎士見習い見習い、わかった?」
「え、私!?」
「騎士? 騎士になれんの?」
「頑張れば、してあげる」
「嘘だろ!? 俺らが!?」
「ひょう! セレストエイムすげえ!」
「ちょっと! 様を付けなさい!」
これでよし。
あとはエクレアに教育を任せれば良いだろう。
エステレアも多分勝手にやってくれると思う。
メンターの仕事も大事である。
そんなわけで、寝てるオタと彼らを船に残して私は出かけたのであった。
数時間後、私はアルグレオの学校の制服を着ていた。
私はファッションにうるさい。
誰も真似してないけど自分のことをファッションリーダーだと思ってるし、常に見られることを意識して日々を過ごしている。
着るものは専ら学園の制服ばかりだが、色んな部分に変化を付けて楽しんでいるのだ。
なんだかんだであの制服は私によく似合う。
グランドリア魔法学園はグランドリアにおける唯一の魔法使い専門学校であり、そのブランド価値は極めて高い。
制服もブランド価値に見合ったデザイナーが手掛けたらしく、王都の若者からは憧れの目で見られる。
特に魔法戦クラスの女子制服は希少価値が高いこともあって絶大な人気を誇る、と制服ショップの店員さんが言ってた。
マニアの間では中古の制服が高額で裏取引されているのだそうだ。
まあ、学校の制服というものは前世からそんなものだ。
うら若き乙女はやっぱり可愛いものを着たいし、うら若き乙女が着ているという事実がさらに男にウケるのだ。
今、私が着ているアルグレオの学校制服もやっぱり可愛くて人気があるのだそうだ。
機能性やら連帯感の醸成やら制服を着る目的は色々あるらしいが、私にとって重要なのはやはり可愛いかどうかである。
「……この制服は、きゅうだいてん」
「ふん、偉そうに」
と、苦々しい顔をしているのはレメディオスである。
私達は今、彼女の研究所にいるのだ。
グランドリアから連れて来られた奴隷……というか人身売買被害者を引き取るということでいつのまにか話がついていたわけだが、彼らは全員が親善試合に参戦していたわけではなかったらしい。
実は残りがまだレメディオスの研究所にいるということで、私が直接ここを訪れたのである。
ちなみにアルグレオという国は魔法を専門に教える学園というものはない。卒業後にこのような研究所に入って学ぶのだそうだ。
前世でいう大学のようなものだと言える。
私が今着ているこの制服は研究所の制服ではなく塔の街にあるエリート校の制服である。
せっかく異国に来たので異国の服を着て楽しみたいと思って借りたのだ。
前来た時はそんな暇もなかった。
私は手でピースを作り、それを目元に持ってきて″窓″のカメラを構えた……が、やめた。
一人で撮るのは寂しい。
「みんなで一緒に、とりたい」
「お嬢様! 私と! まず私と2人で!」
エステレアが私の顔に顔をグイグイ押し付けて自己主張してきた。
エステレアもアルグレオの制服姿だ。
彼女は彼女でよく似合ってる。
まあ、いいか。
順番に撮って最後にみんなで記念写真だ。
ちなみにエステレアは私と顔の高さを合わせるために空気椅子に座ったような格好になっている。
私はさっきのポーズをして、カメラでパシャリと撮った。
「あらかわいい。お嬢様の貴重なあひる口ですわ」
「あははっ、トモシビちゃん変な顔してる〜」
エステレアの手と顔に押されて口がタコみたいになってしまったのである。
しかしこれでも私は可愛い。
「エステレアの端末に、おくってあげる。私がいない時に見て」
「ありがとうございます。ですが金輪際お嬢様から金輪際離れるつもりなどございません」
「と、トモシビ様っ、私の端末にも送って!」
「どれがいい? エクレア」
「こ、これと……もうちょっと……」
今まで撮った写真を表示して見せると、エクレアは私の背後に密着して″窓″を覗き込んだ。
「これとこれとこれと、あと……これと……」
後頭部と背中に体を押し付けてグリグリと動いている。
なんか息が荒い。
制服を貸してくれたレメディオスは気まずそうにしている。
私はそんなエクレアと自分にカメラを向けてパシャリと撮った。
彼女のトロンと蕩けた顔が写っている。
「え、やだ、私こんな顔してるの?」
「いつもしてるよね」
「自然でいいじゃん、それあーしにも送って」
「わかった」
ちなみに端末はここにいる私以外の女子グループ9人全員が持ってる。
個人用は通信機に毛が生えたようなものなのでそこまで高価ではないのだ。
「グランドリアの魔導具も侮れないものがありますね。戦争において情報共有は重要です」
「素直」
「認めるところは認めるのが研究者というものです」
「トモシビ、一応この国の要人なのだから丁寧な言葉遣いで言うんですわよ」
「やだ」
「困った子ねえ」
このレメディオスとは色々と因縁がある。
今更礼を尽くせというのは無理な話だ。
「こちらとしてもいきなり態度を変えられても困りますので」
「お嬢様には言葉遣いを改めなさい無礼者」
「え、エステレアさん……」
「ふん、奴隷ならそこにいますので、さっさと引き取って帰りなさい」
レメディオスはプイッと横を向いて、アゴで示した。
そちらを見ると数人の男女の子供が所在無さげに立っていた。
どうやら彼らが残りの奴隷らしい。
これで人身売買事件は完全解決というわけだ。
と、思ったら、また問題が生じた。
彼らが帰りたくないと言い始めたのである。
「お嬢様の下へ帰りたくないと?」
「まるで最初からトモシビの部下だったみたいな言い方だね」
「そうしたいのは山々だけど……」
彼らはここから離れたくないそうだ。
この研究所がもはや故郷とか言う者までいた。よほどグランドリアに酷い目にあわされたか、ここで良い目にあったのだろう。
ちなみにレメディオスは何やら感動していた。それを見ると後者かもしれない。
意外と慕われているのか。
とはいえ、彼らはグランドリアの国民である。売られたとは言え国民を守るのは国の義務だし、国境の管理もまた義務である。
勝手に行き来することはできない。
つまり、彼らは亡命ということになるのだ。
亡命者が出るということは即ち、グランドリアの統治に問題があるということである。それはやはりグランドリアとしてはまずいのだ。
「私達の権限ではどうにもならないですわね。お父様に相談してみましょう」
「うん」
私としても無理して連れて行くつもりはない。
なんだか私が責任持って預かるみたいな気持ちになってるけど本来そんな義務はないのだ。
私達は所詮子供だ。
あとは大人がうまくやってくれるだろう。
ちなみに唯一大人のスミスさんはどこかへ行ってしまった。
さて、色々あったが、なんだかんだで私達だけでアルグレオとの事は解決してしまった。
その中心となったのは当然私だ。
もしかしたらまた受勲の話が出るかもしれない。
今度は辞退する必要もない。
私達はそのまま数日の休暇を楽しんだ後、意気揚々と凱旋したのであった。
彼らがトモシビちゃんのファンなのは煽ててるわけではなく本心です。
あとなんだかPVとかがすごく増えてる! ご紹介本当にありがとうございます! 嬉しい通り越してなんか申し訳ないです!
※次回更新は6月22日月曜日になります。