表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/199

天頂を目指す虫

※6月8日、文章追加しました。



エル子と私は暗い通路をコツコツと歩く。

迷宮都市は地下のわりに明るい。なんか発光するコケみたいなのが生えているのだ。



「貴女、尻尾とかあったっけ?」

「……これはアクセ」

「お尻に直に付いてなかった?」

「ひゃっ」



後ろから私の尻尾の根元を握るエル子。



「やっぱり生えてるじゃない」

「……敏感だから、さわらないで」

「ふぅん、これ触れば良かったのね」



面白がってさらに触ろうとするエル子。

私はその腕を尻尾を振ってペシペシと払う。

そんなことをしながら歩いているとピロリンと音が鳴った。

通信である。



『お嬢様!お考え直しください!!!』



通信を開いた瞬間、エステレアの大声が響き渡った。

私が単独で乗り込むという作戦を聞いたエステレアから通信が来たのだ。



『変態はお嬢様の天敵ではありませんか! お一人で行かれるなど承服できません!』

「変態って陛下のこと?」

『紛れもなく変態ではありませんか!』

『そうだわ、せめてトルテとアンを連れて行った方が……』

「でも人数足りないと、囮にならないかも」



相手もアスラーム達の人数は把握しているはずだ。

人数が足りないと警戒される。

特に女子2人は目立つので減らすわけにはいかない。

私が地下落ちして増えた分は、ドMを入れれば頭数は合うだろう。あとはアスラーム隊のショタあたりにフード付きローブでも被ってもらおうか。

怪しまれるかな?

じゃあ全員に被ってもらうとか……。

まあその辺はアスラームがうまくやってくれるだろう。



『それならば私達がすぐに参りますのでお待ちください!』

『危ないよトモシビちゃん。捕まったら今度こそ結婚させられちゃうよ』

「でも時間」

『時間も勝敗も関係ありません! お嬢様の無事が最重要です!』

「エス」

『なぜお嬢様はすぐに無茶なことばかりしてしまわれるのですか!? 私がどれだけ……』

「ぴえん」

『ッ!?』



まくし立てるエステレアが絶句した。

私が両手を目に当ててあざとく泣き真似をしたのだ。

しかも音声だけではない。

画像を自撮りして送ったのである。

私のパーティー機能で自撮りを表示するというだけの魔術を全体化したのである。

動画はともかく静止画なら簡単なものだ。



『く、クロエ、お嬢様人形を……! 早く!』

『はい!』



エステレアは苦しげな声を上げている。



「ど、どうしたの? あのメイド病気なの?」

『トモシビ様欠乏症です。エステレアさんは定期的にトモシビ様を摂取する必要があるのです』

「こわっ、貴女麻薬か何かなの?」

『うう……お嬢様、胸が張り裂けそうです』

「……着いちゃったから、ちょっとまってて」



ここだ。

タブロバニーの真下。

あっさり着いてしまった。もしかしたら陽動もいらなかったかもしれない。指揮官のエル子が捕虜になったからうまく指揮が取れてないのかな。その点いつでもどこでも通信できる私は有利である。


塔の外壁……いや外皮のようなものは見えない。

見えるのは例の硬い鉱石みたいな岩である。

この岩は虫が出すなにか特殊な物質なのだろうか?

それで周囲を固めて崩れにくくしているらしい。

聖炎を浴びせると岩に穴が空いた。

空いた穴をさらに聖炎で深めていく。

そうしていくと壁の色が白く変わった。

タブロバニー内部に入ったのだ。

そこからさらに斜め上方向に聖炎を放射する。

トンネルの先から光が射した。



「いこ」

「あーあ……何やってるのよ。入られちゃったじゃない」



自分を棚に上げてボヤくエル子を連れて中に入る。

階段状に加工したトンネルを抜け、頭を出すと見覚えのある一階に出た。



「エステレア、近くに、モニターある?」

『モニターですか?』

『あ、あるよ、さっき奪ってきたからいっぱいあるw』



オタが答えた。

略奪は良くないが、今はそれは置いておこう。

カメラ起動。



「こんにちは、トモシビ・セレストエイム……だよ」

『お嬢様!』

「ここは皇帝の塔の中。だからもう、私の勝ち」



精一杯、見下すような目でカメラを見る。



「13歳の女の子に……国が負けちゃうなんて、なさけない……ね」

「まだよ! まだ占領されたわけじゃないんだから!」

「というわけで、今から……皇帝を分からせてあげるから、みててね」

『うひょ、お嬢様たまらんw』



カメラを起動したまま移動する。

中央の転送部屋の扉はロックされた様子もなく普通に開いた。

衛兵の姿も見えない。



『トモシビ、敵が止まりましたわ。相手も放送に注目してるみたいですわね』

『トモシビちゃん、がんばれ〜』



見てる人の反応がリアルタイムで分かるというのは良いものだ。

アルグレオ軍の反応も分かればもっと良かったのだけど。

エル子と一緒に転送部屋に入ると普通に作動した。

どうやら誘われているらしい。



「やっと来たか、待ちくたびれたぞ」



扉を開けると、窓の外を見ていた皇帝がこちらを向いた。







「座れ。ディラ、お前は飲み物を持って来い」

「う……うん」

『ちっ』



通信から舌打ちが聞こえる。クロエが以前言ったことを律儀に守っているのだ。

私は奥へ進むと、一番偉そうな椅子に優雅に腰を下ろし、足を組む。

そして髪をサラリと払う。



『トモシビ様ーー! カッコいいーー!』

「……それは余の椅子だが」

「気に入ったから、すわってあげる」

「やれやれ」



皇帝は別段怒った様子もなく、私の対面に座った。



「また、私の勝ち」

「ほう」

「次はちゃんと、国交を開いて、スパイとかやめて……そしたら、また遊んであげる」

「ほほう」

「だから、もう、グランドリア侵略は、諦めて」

「ほほほう」



……なんなんだろう。

皇帝は面白そうに私を見ている。

負けたと理解してないのだろうか?



「ちゃんと話、聞いて」

「聞いているぞ」

「負けたんだから、グランドリアに、変なことするのはやめて」

「お前にはしても良いのか?」

「それもダメ、わかった?」

「ふむ……お前には聞こえぬのか?」

「?」

「本当に聞こえぬようだな」



何言ってるんだろう?

誤魔化してるわけでもなさそうだ。



「タブロバニーの声だ。余はその王座に座った時から聞こえていた」

「……きこえない」

「余は弱い。力も知恵もない雑魚だ。お前くらいの歳の時はいつもオドオドしていたものだ。そんな余がその王座に座った時、全ては一変した」



それがタブロバニーの声だったと言う。

力を貸す代わりに、夢を叶えて欲しいと言ったそうだ。



「この世を統べ、天の頂に立つ……それがタブロバニーの夢だ。その日以来、余の夢にもなった」

『愚かな……お嬢様は貴方も塔もまとめて消し炭にできるのですよ』

「消し炭にしたところで、似たようなものが現れるだけだ。力を持ったものは全てそうする。それが本能だ」

「私とバニーも?」



と、エル子がコーヒーを持って部屋に入ってきた。

そんな本能聞いたことがないけど私には分からなくもない話である。



「そうだな……コーヒーは飲めるか?」

「砂糖とミルク、いっぱいいれて」

「子供舌ね」

「ちがう、私以外が年寄り」



私は山盛りの砂糖を入れたコーヒーを優雅に飲んだ。



「安心しろ。お前に頭を吹き飛ばされてから余にもタブロバニーの声は聞こえなくなった。やはり休眠しているようだな」

「休眠?」

「形が変化しただろう? おそらくは蛹だ」



さなぎ……そういえば頭がちょっと変化した気がする。



『じゃあ……』

「喜べ、この勝負お前たちの勝ちだ」



皇帝は負けたとは思えない顔でニヤリと笑った。

通信の向こう側から歓声が聞こえた。



『やった! 大変だったねトモシビちゃん! 』

「よゆうだった」

『さすがはお嬢様。世はなべて事もありません』

『エステレアさん、捕まったらどうしようとか言ってなかった?』

「タブロバニーが目覚めるまで余も休止だ。国交だの条約だのはまた使者を送ろう」

「いつ目覚めるの?」

「数十年、数百年後であろう。魔物の寿命は長い」



特にこんな巨大な魔物は長生きである。スカイサーペントもクルルスも古代から生きてるようなやつらだ。もう寿命とかあるのかすら疑問である。


さて、皇帝に侵略の意思がないならもう話は終わりだ。

残る用事は一つだけである。

私は立ち上がり、左手の甲を皇帝に突きつけた。



「ん」

「……何の真似だ? 」

「ここに口付け……してもいいよ?」

「何? どういう風習だ?」

「そうしたら、また遊んであげる」



私は白く滑らかな陶器を思わせる自慢の手を皇帝の鼻先に持って行き、ニッコリと微笑んで見せる。

皇帝は怪訝な顔をしながら手を取るとそっと唇を当てた。

……体の奥がゾクゾクする。

カメラで撮っているのだ。

皇帝が……この大陸で一番偉い人間が私に忠誠を誓ったところを。

ついでにスクリーンショットも撮っておこう。



「これで良いか?」

「ん……じゃ、ロリコンさんの皇帝にごほうび……ふーっ」

「なっ……!」



私はその尖った耳に息を吹きかけてあげた。

さしもの皇帝も動揺したように私を凝視して沈黙した。

エル子はさっきから固まっている。

通信の向こう側も静まり返っている。



「良い子にしてたら、次はもっとすごいことしてあげる」

「す…………」

「じゃ、またね」

「…………ああ」



皇帝はようやくそれだけを口にした。







戦いは終わった。

皇帝もエル子も私の前に膝を折った。

タブロバニーが蛹になったのは気になるが、たぶん私に恐れをなしたのだろう。

飛空挺に飛んで帰った私を待っていたのはエステレアのベアハッグだった。



「本当にもう!お嬢様はなぜあんな素敵なご褒美を私にやって下さらないのですか!」

「くるしい」

「トモシビ様……」

「お嬢様は……お嬢様は……ふーっ!」

「ひう」



耳に息を吹きかけてくるエステレア。

ゾクっとする。

さっきよりずっとゾクっする。

私の耳はエルフの耳より敏感なのだ。



「……でね、トモシビ。この後何日かここに滞在しようと思うんだけどいいかしら?」

「売られた子達の引き取りもあるし、あとお土産も買わなきゃね」

「せっかくだから観光しないと勿体ないっしょ」

「そっか」



もちろん構わない。

夏に来た時より涼しいし、追われることもないのだ。気温が下がったせいか虫も少ない気がする。

私は今度こそこの新大陸を満喫すべく、しばし体を休めることにしたのであった。



もっとすごい事というのはたぶん頭を撫でるとかそういうことでしょう。

皇帝はそんなにM属性の人ではないですけどやられちゃってますね。


※次回更新は6月15日月曜日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] エル子の腕vsトモシビの尻尾 耳弱い [気になる点] エステレアのお嬢様欠乏症 [一言] 文章追加ありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ