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吸血姫っぽいって言われます



私達は当然のように遅刻した。



「またか!何の支度しておるのだ!舞踏会か!? 」



ヤコ先生が私の制服を見ながら皮肉を言う。とっさにしては気の利いた台詞だ。



「先生面白い」

「面白がっちゃだめだよ!」

「まったく!どいつもこいつも!」



ふと、そこで普段よりクラスがどよめいていることに気づいた。どうやら皆私を見ているようだ。



「皆、お嬢様に見惚れております」



見惚れてるのか、呆れてるのか……しかしもう昔の私ではない。微笑む余裕すらある。

私のセンスは最高だ。そう信じてる。

髪の毛をサラリと手で払ってみる。

グレンやバルザックまで見ている。

これは気分が良い。可愛いは正義である。

私はファッションモデルのような気分で自分の席まで歩いていく。



「わぁ、トモシビちゃんカッコいい」

「くそっずるいぞ!ワシだってかわいい服が着たい!」



遅刻はあまり問題にしてないらしい。いつもながら変な教師である。



「次は先生もお誘いいたしますので」

「む……よかろう、お主らも早く座れ」



ちなみにフェリスもクロエもエステレアも昨日買ったコーデだ。エステレアは制服の上からメイドファッションをしてチョーカーをつけている。



「さて、今日はBクラスと合同演習をしてもらうぞ。お待ちかねの魔法実習じゃ。危ないので騎士団と監督を多数配置することになる。ちゃんと挨拶するんじゃぞ。」

「俺らはガキじゃねえんだぞ」

「ガキ以外の何者でもなかろう」



クラスで一番ガキなのは私とフェリスだが、精神的にはバルザックだろう。たぶん。

ホームルームが終わると私達は7人で教室を出て演習場に向かったのであった。







この学校には運動場とは別に演習場というものがある。こちらは校舎とは少し離れた場所にあり、魔法被害が出ないように周囲を高い壁で囲っている。

ちなみに先日の爆発によって大穴が開いた運動場は使用禁止になっている。大迷惑である。


演習場に整列した私達の周囲には武装した騎士団や監督役がかなりの数配置されている。



「なんかこっち見てない?」



あからさまにこちらを警戒している騎士達。

たぶん例の件で私が要注意人物になってるのだろう。その中には調書をとった隊長ナザレとお姉さんの姿もある。お姉さんは目が合うと微笑んで手を振ってくれた。



「これから学ぶのは攻撃魔法じゃ。街中で使うのは禁止されているものもある。犯罪じゃ」



ヤコ先生が授業を進める担当のようだ。もう一人の先生、Bクラス担任の男の先生は生徒を見回っている。



「剣を持つのに免許はいらん。しかし攻撃魔法は国の許可が必要となる。 剣よりはるかに危険じゃということじゃ。この授業を受けたらもう一般人ではない。一人一人が兵器になると心得よ」



そんなケレン味ある演説の後、ろうそくが配られた。

各々が炎の魔術を使ってろうそくに火をつけるわけだが、3分の2くらいは早々に終わらせたらしく待機場所で暇を持て余している。私達も終了して、悪戦苦闘するクロエを見守っていた。


そんなクロエに3人の女子が近付いていくのが見えた。



「ねえ、あんたAクラスだよね?」



見覚えのない顔。たぶんBクラスの女子だ。ちょっと嫌な笑い方をしている。



「男に媚びる暇があったら勉強しなよ」

「私らが教えてあげよっか?」

「その服何? スカート短すぎでしょ。 魔法戦って何するかわかってんの?」



絡まれているらしい。クロエは俯いてもごもご言っている。

これはいけない。現場に向かう私とエステレア。フェリスはヤコ先生を呼びに行った。

しかしその前に声をかける者がいた。



「何やってるお前ら」



Bクラス担任だ。



「問題児に注意してます」

「せんせーこの子がパンツ見せつけてきてみんな集中できませーん」



Bクラス担任はクロエを厳しい目つきで見回す。



「なんでそんなに短くしてるんだ。お前リボンはどうした? クズノハ先生は何も言わなかったのか?」

「あ、あのこれは」


「私がさせた」



いつもより声量を上げた私に注目が集まった。彼女にそれを勧めたのは私である。これ以上は居た堪れない。



「あ、この子……」

「きれい……」

「お前はセレストエイムか。どういうことだ?」

「彼女は私のメイド。私が着せた」



思えばクロエは最初から乗り気ではなかった。私が調子に乗ってこんな格好をさせたのだ。クロエには悪い事をした。



「ごめんクロエ」

「と、トモシビ様、そんな」

「侍従を庇う態度は見上げたものだ。だがその服装は頂けないな」



まあ普通の教師はそういう反応をするだろう。

そのうち言われるような気がしていた。



「しかし先生、校則には制服着用としか書いておりません」



エステレアが反論する。



「校則になくても常識的な判断は必要だ」

「そのようなフワフワしたものでお嬢様を縛ろうというのが愚かなのです」



議論は続く。しかし問題はそこではない。



「その3人は私のメイドをいじめた」



私が見ると、Bクラスの3人は少し怯えた様子で目をそらす。

こちらの良い悪いを問う議論になど付き合う必要はないのだ。そんなもの勝っても負けても3人のイジメは問題にされない。



「注意していたのだろう? 君たち」



案の定、惚けるBクラス担任。しかし3人で取り囲んで罵声を浴びせるのが注意のわけがない。



「いじめの現場発見。エステレア」

「はい。校長先生とご主人様でよろしいですか?」

「アナスタシアにも」

「……何?」



焦り出すBクラス担任。



「理事会と王様にも直訴する」



こちらには証拠がある。

何か言う前に畳みかけよう。



「見て」



私が″窓″を操作して呼び出したのは『スクリーンショット』。そう、これは私が見たままの景色を保存できるのだ。



「む、この魔法は……」

「先生は現場を見てない」



見てたかもしれないが、見てなかったという事にしてほしい。そうすれば3人を注意するだけで済む。全面対決にはしたくない。



「お前たち、これはどういう事だ?」



その思いが伝わったのか、本当に最初から現場を見てなかったのかはわからないが、先生は3人を詰問し始めた。

どうやらうまくいったらしい。



「また別なの買いにいこ」



クロエを慰める。頭を撫でると涙ぐんでしまった。

……あとはあの3人にもフォローが必要だろうか。

見てない場所でまたいじめたりするかもしれない。たぶん誤解なのだからちゃんと話し合おう。



「エステレア、放課後あの3人招待したい」

「御意」



まだ説教中だがエステレアならうまくやるだろう。彼女らは私に気圧されてたみたいだし、直接行かない方が大物感が出ていいと思う。

その後、ヤコ先生が駆けつけたが、全て終わった後だったのですぐ帰ってもらったのであった。







クロエに絡んだBクラスの3人は今私の家にいる。

リーダー格の赤髪ロングがエクレア、赤髪ショートがアン、ギャルっぽい子がトルテと名乗った。

私は偉そうに足を組んで椅子に座り、ソファに座る彼女らを正面から威圧した。

相手はいじめっ子だ。舐められてはいけない。

女王様のように接するのだ。

借りてきた猫のように大人しい彼女らに紅茶を与えると、ポツポツと語り出した。



「そんな大した理由はないんだけど……」



ただちょっと羨ましかった、と語った。

この3人は孤児院育ちで制服以外ほとんど服は持っていないそうだ。

クロエがBクラスの男子と仲良くしててムカついて、今日見たらさらに男ウケしそうな服装して媚びをうっていたように見えた。

イライラして軽い気持ちで絡んだら、持ち前の口の悪さでああなったんだそうだ。

素直に話すあたり悪い子たちではないようだ。



「男ウケなんて考えていません!私の身命はトモシビ様に捧げました!」



初耳である。



「一度お嬢様の味を知れば男など野良犬にしか見えなくなりますわ」

「え、あんたらそういうあれなの?」



どういうあれか分からないが、エステレアはたまに耳を噛んだりするだけである。つまり普通に舌で味わっているのだ。



「でも、うん。反省してる」

「ごめんね。本当にもうしないから。内申に響いたら困るしね」



クロエに謝る3人。孤児院からこの名門に来たのなら奨学金を借りている可能性が高い。よほど優秀なのだろう。



「もう、大丈夫ですよ……3人はやっぱり騎士団志望なんですか?」

「うん、私達が騎士団で出世すれば孤児院の運営を助けられるじゃない?」



良い話だ。しかしそれなら何も騎士団である必要はないのではないだろうか。

女騎士とかに憧れがあるのかもしれない。

まあ格好いいしね。



「とにかく、セレストエイム……様には感謝してるわ。なんか問題にしないでくれたみたいだし」

「クロエが許したから」

「トモシビ様にこれ以上ご迷惑はかけられませんから!」

「良い心がけです。くれぐれもお嬢様に恥をかかせぬよう」



私を辱めるのが趣味のエステレアが言っても全く説得力がない。



「はい、私の忠誠心はエステレアさんにも負けませんよ!」

「まあ!お嬢様、ご覧ください。クロエが起きたまま寝言を言っております」



エステレアはそう言いながら距離を詰め、いつもの感じで私の手を取って口付けをした。



「お嬢様への忠誠でわたくしの右に出る者などおりません」

「あぁん! 悔しいけど様になってます!」



テンションが上がり始めたクロエ。



「あ、あーしら、そろそろ帰るね」

「うん、そうね、お邪魔みたいだし。行こ、エクレア……エクレア?」



立ち上がるアンとトルテ。

しかし、エクレアはぼーっと私達を見ている。

このトロンとした目。夢見てるような目付き。そういえばこの子は昼間から私を見る視線が妖しかった。


これは、きっとあれだ。

私は彼女の前に歩いていって、手を差し出した。

戸惑いながら、その手を握って立ち上がろうとするエクレア。



「違う」



ぱしっと払いのける。

私は芝居掛かった動作で手の甲に自分で口づけしてから、促すようにエクレアの顔の前に持っていく。



「……あ」



彼女は熱に浮かされたような顔で私を見た。そしてゆっくり跪くと、私の手の甲に唇をつけた。

周囲が息を飲んだ。



「エクレア……」



呆けてる彼女の頰を撫でてやる。そのまま顎を持ち上げて彼女の目を覗き込んで囁く。



「私の騎士になる?」



エクレアは口をパクパクさせた後、コクリと頷いた。



「トモシビ……様ぁ……」

「ち、ちょっと、エクレア? 行くよ、ほら!」

「やっば……やばいもん見ちゃった……」



引きつった顔の2人が足取りの覚束ないエクレアを連れて出ていった後、私は内心焦っていた。私はなぜあんな行動をとったのだろう。



「お嬢様、素晴らしいカリスマでした」

「なんかヴァンパイアのお姫様って感じでした!」



まさしくそんな気分になっていた。

ゴスロリ風制服のイメージに自分が引っ張られてしまったのだろうか。

私は暗示にかかりやすいのか?

なんだ私の騎士って。



「でも大丈夫なんですか? 彼女にトモシビ様の騎士を名乗らせて」

「そうですね、忠義と作法を叩き込んで使えるようになるまでは半人前の見習いとしてはどうでしょう?」

「肉の盾としては良いかもしれませんね」



勝手に話を進める2人。

何気に酷いことを言っているが、そもそもエクレアも一時の気の迷いかもしれない。また今度、冷静な時に聞いてみよう。



「ふぅ……」



紅茶を飲むと落ち着いてきた。今日はベリー系のハーブティーだ。



「はぁ……睫毛長い……」

「物憂げなお嬢様をもう少し見ていたいですが、お着替えいたしましょう。クロエが仕事になりません」



そういえば今日はクロエのメイド初日。色々と仕事を覚えてもらわなければいけないのである。

私の着替えの手伝いもその一つだ。

本当は一人で出来るんだけど……。

ワンピースジャケットとスカートを脱ぎ、ブラウスのボタンを外して下着姿になる。



「トモシビ様のお肌すごく温かいですね。見た目は雪みたいなのに」

「必要以上のお触りは禁止です」



自分を棚に上げまくって厳しく指導するエステレア。

彼女は私を私服に着替えさせるとクロエに指示を出していく。

洗濯の仕方。畳み方など一つ一つ細かくやり方があるらしい。

考えてみると教える手間があるぶん、いつもより大変なのだ。エステレアの助けになると思ったのだが逆になってしまった。

少々申し訳なく感じる。一緒に寝るくらいで安らげるなら今夜もそうしようかと思うのであった。



銀髪×ゴスロリ×吸血姫=破壊力

そういうキャラ好きです。

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