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戦場のトモシビ・チャンネル



生物というのは関数のようなものだという。

数値を与えたら数値を返してくる。

単純な微生物や虫など言うに及ばず、人間など高等生物であっても多少複雑なだけで同じ事だ……と、なんかの本で読んだことがある。


先ほどの思い出したくもないゴキブリを思い出してみよう。

ゴキブリが魔術を使ったその瞬間、飛空挺は浮力を失って落下し始めたのだ。

私は魔法を覚えるのは得意だ。あの魔法陣は魔力変換……だったと思う。

あのゴキブリから発せられた魔力パルスが何か影響を与えたのだ。



「いかがですかお嬢様?」



私はエステレアにお姫様抱っこされながらケースに入ったキリン体の心臓……セルと呼ばれる物を観察する。

内部にはまだちゃんと魔力がある。

にも関わらずそれが浮遊器官まで流れていかない。

導線に問題はない。

ならばこのセルがあの魔力パルスによって供給を止めたのではないだろうか。



「おろして」

「いけませんお嬢様、魔力欠乏は絶対安静が原則ですわ」



私はもうほとんど回復しているしスライムから最低限の魔力はもらったので大丈夫なのだが、エステレアはこの機を逃すまいとばかりに力を込めて抱きしめ、頭に顔を押し付けてくる。

……まあいいか、このままで。


たしか……こうだったと思う。

ゴキブリの使った魔法陣を発動する。

セルに動きがあった。

シーカーを通してみると分かる。

中に留まっている魔力が解放され始めている。



「なおった」

「さすがはお嬢様」



これでよし。

しかしゴキブリが魔術なんか使えるだろうか?

そんな魔力があれば私は真っ先に勘付く。

いや、何か違和感があった……かも。

先ほどゴキブリ魔方陣が発動する前に私は魔力を感じていた……気がする。

ひょっとするとゴキブリはただの魔法の発動体であり、どこか離れた場所から遠隔で使ったのかもしれない。

だとすると恐るべき技術だ。


まあそれはともかく、飛空挺は治ったことは治ったのだが、外からまた止められる可能性があるので今は飛ばない方が良いだろう。

敵から奪ったものをそのまま使うというのはどうやら甘い考えだったようだ。

用意周到なアルグレオは対策を用意していたということだ。

こちらももっと考えなくてはならない。

私は通信用の″窓″を開いた。



「魔導具係」

『は、はい!w』

「ちょっとブリッジにきて」



用があるのはオタだ。

ちょっとエンジン周りの改造がいる。彼にはそれを頼みたいのだ。

私はエステレアに抱かれたままブリッジに戻った。







私のお尻の下がグニョグニョ動いている。



「……っていう感じ、できる?」

「命令して下さい! あと最後にブタって付けて下さい!w」

「やって……ぶ、ぶた」

「もっと蔑んだ感じでお願いします!w」

「……ぶた」

「ああァーー」



豚、もといオタはお尻の下で歓喜の声をあげた。

彼はまた椅子になっているのである。

今度はちゃんとクッションを敷いているのだがやっぱり座り心地は悪い。

でも座らないと仕事をしないと言うのだから仕方ないではないか。

私はお茶を一口飲んだ。

皆一所懸命にここを守っているというのにこんな事してて良いのだろうか。



「椅子、たのしい?」

「天にも昇る心地ですw」

「本当に昇天してしまえばよろしいですのに」

「許可なくのぼったらダメ、ぶた」

「ああァーーー!」



私の言葉一つで歓喜に転げ回るオタ。

外は静かだ。

敵は無闇に攻めるのをやめたらしい。

膠着状態だと言える。

こちらの攻め手といえばアスラーム達なのだが、彼らはどうなってるのだろう?

マップを開く。

彼らのアイコンは市街地の道に沿って移動している。

地上に降りたらしい。

私が通信を開こうとしたその時、声が聞こえた。



「出てきなさい! トモシビ・セレストエイム!」



外からだ。

窓から外を見る。

小山のような生き物が蠢いてる。

……虫だ。

しかも芋虫か蛆虫っぽいやつだ。

私の髪の毛がぞわっと逆立った。

かつて戦ったミミズよりは小さいが小さな足がたくさんついていて気持ち悪さは倍増している。

そのかたわらにエル子がいた。



「一騎打ちを所望よ! 拒否した時はその乗り物ごと焼き払う用意があるわ!」

「わあ、とんでもないこと言ってるよトモシビちゃん」

「……どうしよ」

「トモシビ、応じる必要はないですわよ」



まあ聖炎があるので蛆虫なんか一撃なんだけども……いや、相手を過小評価するのは良くない。

私の魔法も何か対策されてるかもしれない。

いや、というか飛空挺を焼き払うほど破壊力のある攻撃なんてルール違反である。

私の言えた義理ではないが……。

そうだ、そもそもこれは親善試合だ。

ルールのある試合なのだ。

エル子もこの様子だとそれを忘れているに違いない。

私は窓を開けて声を張り上げた。



「ひさしぶりー」

「え、うん!」

「元気だった?」

「まあね! じゃなくて話聞いてた!?」

「ご飯食べるから、まってて」

「はぁー!?」



エル子は素っ頓狂な声を上げた。

もうお昼だ。

試合なのだからお昼ご飯を食べるための休憩があるはすだ。

ルール上で言及はなかったけど、普通に考えて当然の権利ではないか。



「……1時間ね!それ以上は待たないから!」

「ありがと」



エル子は芋虫にどっかりと腰を下ろし、自らも何かを食べ始めた。

なんだかんだでエル子は人が良いのだ。

やっぱりあまり彼女とは戦いたくない。

とりあえずお昼ご飯を食べながら今後の作戦を考えるとしよう。








「お嬢様、あーん」

「むぐ」



エステレアの差し出すサンドイッチをかじる。

私専用の小さく切り分けたやつだ。

中にはなんとスモークサーモンが入ってる。

サーモンは一応川魚なので魚介類の料理に乏しいグランドリアでも手に入るのだ。


さて……食べながら状況を整理してみよう。

飛空挺は飛べない。飛べばまた機能停止されるかもしれないし、タブロバニーが撃ってくる可能性もある。機能停止信号への対策はオタにやってもらっている最中だ。応急処置なので間に合わないかもしれない。とりあえずあまり期待はできないだろう。

ならばここで防衛に徹する必要がある。


そして防衛に徹した私達はかなりのものだったらしい。

あちらは手強いと見たのか、攻撃して来なくなった。

その上で寄越してきたエル子と芋虫はきっとあちらの秘密兵器なのだろう。

エル子は私の魔法の威力を知っている。レーヴァテインの破壊力やスカイドライブで皇帝の下まで飛んでいった様子を見てるはずだ。

ならばそれを考慮した上で私に勝つ自信があるということである。

それに対して私は相手のことを何も知らない。

勝てるだろうか?

いざとなれば、私はタブロバニーごと全部焼き尽くすことができるだろう。

でもそれを防がれたら?

聖炎は見せたことあっただろうか……?


……一先ずそれは置いておこう。

当然、防衛だけでは勝てない。

私達もアタッカーがいるのだ。

先程はエル子のお陰で中断されたが、今のうちに確認しておこう。

マップを見ると、アスラーム達はまだ市街地にいるらしい。さっきと位置がほとんど変わってない。

どうかしたのだろうか?



「アスラーム、きこえる? 何かあった?」

『聞こえるよ。そちらは回復したようだね。こっちは負傷者が出てしまった』

『すまん、しくじった』



野太い声。

たしかアスラームチームの……ワル男だ。

どうやら彼はあの芋虫にやられたらしい。

飛んでいると砲撃の的になる、と忠告を受けた。



「……砲撃?」

『厄介な飛び道具だ。威力は大したことはないけど、避けるのが難しい』



なるほど。

連絡して良かった。やはり情報共有は重要である。

ワル男は足をやられたらしい。

敵陣を突破しなきゃいけないので回収班を行かせることはできない。

どうしようか。

アスラーム達は建物に待機させておくつもりらしい。

早々見つからない場所だとは言っているが……。

敵に見つかったらどうなるんだろう?

…………何か、近くで他にアイコンが動いてる。

名簿を見る。

……ドM。

ドMだ。

…………閃いた。



「……前の路地を右に曲がって、少し行って、十字路を左、レストランがある。そこにいって」

『レストラン?』

「トモシビ様、そこって……」

「そこから、地下に潜れる」

『地下……君がいた場所か。了解した』



情報に疎いリザードマン達だが、あそこの店主は今の情勢を知ってるはずだ。

たぶん匿ってくれると思う。

もしかしたらそこから地下を通ってタブロバニーまで安全に行けるかもしれない。

あとは……これだ。

私はレンズ型の″窓″、カメラを起動した。



「お嬢様?」



そしてそれを自分に向ける。

ずっと疑問だったのだ。

私がここでうっかり全国ネットで動画配信してしまった時のことだ。

皇帝の塔であるタブロバニーの中で天脈に接続してるからといって、私が魔力を送ったのは近くのモニターだけである。

なのになぜ街中のモニターに映ってしまったのか?

おそらく、あのモニターには魔力を受け取ってまた同じものを飛ばす中継する機能があったのではないだろうか。

ちょうどあのゴキブリのように。

そうやって街中に繋いでいるのでは?


つまり、ここから私のカメラで撮影し、近くのモニターに飛ばせば……。



「こんにちは……トモシビ・セレストエイム、だよ」



私は周囲の塔や家まで届くように目一杯魔力を飛ばしてみる。



「今、私はアルグレオに攻め込んでる最中……でも民間人には何もしないから、大丈夫」

「え、これ放送してるの?」

「これは、猫のフェリス、とってもつよい」

「猫人だよトモシビちゃん」



フェリスも引き込んでほっぺをくっつける。

この方が注目してもらえるだろう。

なんか楽しくなってきた。



「それで……椅子が仕事に行っちゃったから、代わりの椅子、持ってきてほしい……いつものとこ、おねがい」



ドMに向けたメッセージだ。

通じるかな?

彼は見ているだろうか?



戦争中に敵陣に向けた厭戦放送って実際にあったみたいですね。

トモシビちゃんがやってるのは厳密には戦争じゃないですけどね。


※次回更新は5月25日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品のM男…それも有能M男の多さよ まぁ仕方ないよね、トモシビ様の御前だもの。
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