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この日はみんな家族と過ごします



元々、私はインドア派……というか引きこもりであったわけだが、冬の寒さと無縁だったかというとそうでもない。

冬であろうとも朝は窓を全開にして額面通りエステレアの心胆を寒からしめるのが私の日課であった。

決して嫌がらせをしていたわけではない。

空気がこもると気持ち悪かったのだ。

私は外に憧れる引きこもりだったのである。

そして大体窓の外にはアイナがいてこちらを見ていた。

今でこそ幼馴染(?)となった彼女であるが、当時を思い出すとほぼストーカーだった気もする。

女の子同士で良かった。

さすがの私も男に覗き見されるのは気持ちが悪い。

そんなことを考えつつ、今日も私は窓を開けてみた。



「おー……」



真っ白だ。

外は雪が降っていた。

道も庭もどこもかしこも真っ白である。

外に手を出してみる。

ハラハラと落ちて来た雪が私の手に当たって溶けた。

これは良い。

セレストエイムでは滅多に雪など降らなかった。

早速外に出て遊ぼう。

私はベッドに戻ってエステレアを起こそうとした。



「おきて、おき」

「お嬢様」



毛布からニュッと伸びてきた腕に掴まれて引っ張り込まれる。

そのまま柔らかいものに締め上げられて身動きが取れない。



「いけませんお嬢様、主人はメイドより後に起きるものです」

「雪ふってるよ、みて」

「まあ! 寒いわけです。これはお嬢様湯たんぽで温まらなければ起きられません」



いつになく腕に力を入れるエステレアに私は朝のお散歩を諦めた。

今日は祝日で学園はお休みだ。

エステレアのメイド業務もお休みである。

ちなみにクロエも休日にしてある。

王都では殆どの人が休日である。

開いてるお店はほとんどないはずだ。

今日は聖誕祭という正教会のお祝いの日なのだ。

エステレアの温もりに包まれてぬくぬくしていると、勢いよくドアが開いた。



「トモシビ様!お待たせしました!」

「クロエ」



クロエは全く休んでなかった。

ものすごく元気である。

机にドンっとスムージーを置く。なんか量が多いけど私の朝ご飯だ。



「さあさあ、グイッといっちゃってください!」



元気すぎる。

クロエは朝に強い。

いつも最初に起きている。夜遅くまで何か書いてるのに大したものである。



「クロエ、今日はお休み」

「ええ、でも私には正教会の風習は関係ありません。トモシビ様のお世話は労働でもありませんし」

「むっ……」



エステレアが上半身を起こした。

クロエの言葉に対抗心を刺激されたらしい。



「無理しないでエステレア」

「いいえお嬢様、このエステレア少々世俗に染まりすぎていたようです」



エステレアは浮世離れしていたいのだろうか。

私としては時間外勤務はあまりさせたくない。ちゃんと人間的な学園生活を送って欲しいのだ。

彼女は意を決したように立ち上がると、ベッドを整えた。



「お休みするお嬢様をより快適にして差し上げるためにメイドは存在するのです。それを忘れておりました」

「あ、私がするから大丈夫ですよ」

「クロエ、よもや貴女に教わろうとは……私もまだまだでした」



よくわからないが奮起しているエステレア。

彼女は少し考えた後、部屋から出て行った。







数分後、私はマットを敷いた机の上にうつ伏せに寝かせられ、その時を待っていた。

水着をつけただけのあられもない格好である。



「整いましたエステレアさん」

「ご苦労様」



クロエから受け取った瓶を傾け、掌にトロリとした液体を出すエステレア。

甘い香りが辺りに広がる。

アロマオイルである。

それでマッサージをしようとしているらしい。

私のふにゃふにゃ触るのとは違う本格的なやつである。

ピチャリ、とその手が私の背中に触れた。



「んっ……」



背骨に沿ってオイルを塗られる。

ゾクゾクする。

温かいオイルで濡れた肌を彼女の手が滑る。

滑らせるごとにジンワリ温かくなり、体から力が抜けていく。



「気持ち良いですか? お嬢様」

「うん」

「ではつま先からほぐしていきますね」



最初は先端からだ。

足の指を丹念に揉み込んだあと足の裏を指圧する。

その刺激に思わず笑ってしまう。



「ふふっ、ふふふっ……」

「困ったお嬢様です。本当にどこにもコリがありません。普通は痛いくらいですのに」



バタバタさせようとする私の足を押さえ込むエステレア。

そのままヌルヌルと足に沿って手を滑らせながら圧力をかけていく。

頭がぼーっとして心地良い。

手はお尻をスルリと触った後背中に回る。

尻尾付近はスルーしてくれた。

エステレアにしては珍しくちゃんとマッサージしてくれるようだ。

背中から首筋、頭まで丹念に揉みあげていく。

あまりの気持ち良さに私はウトウトと眠くなってしまう。



「仰向けになってください。もっともっと気持ちよくして差し上げますからね」

「うん……」



いつのまにか水着のブラの部分が外されていたせいで胸が露わになる。



「ああ……だめですこれは……エッチすぎます」

「……ただのマッサージです。お嬢様、失礼いたします」



胸を隠そうとする私の手を退けるエステレア。

いや、今更隠す必要もないのだが、いきなり晒されるとついやってしまうのだ。

エステレアは極めて真面目な表情で私の脇腹にそのヌルヌルした手を這わせた。



「やっ……」



思わず身悶えして手から逃れようとする私の体を片手で押さえる。



「マッサージ……マッサージですお嬢様。何もおかしな事はありません」



脇腹から胸の膨らみの下、そして鎖骨、円を描くように揉まれる。

揉まれるたび勝手に息が漏れる。

酸欠のように頭が熱くなってくる。


ピロリン、と唐突に脳内で音がした。

二人には聞こえていない。朦朧とした頭の中だけに鳴り響くアラーム音。

パーティーチャットだ。

意識を向けると″窓″が開かれ、そこから音声が聞こえてきた。



『トモシビちゃん、雪降ってるよ! シロップかけて食べよ〜』



フェリスだ。

フェリスが個人用端末から連絡してきたのである。

元々私のチャット機能が使えなかったのは相手に受け取る機能がなったからだ。

しかし、その問題は新しく開発された個人用端末によって解決した。

ついでに通信機の機能をつけたのでボイスチャットまでできるようになった。

もう私の″窓″に死角はない。

が、それはそれとして今はそれどころではない。



「フェリスぅ」

『……? どうしたのトモシビちゃん?』

「雪……食べたら、んっ……だめ、お腹……ぁ」

『トモシビちゃん大丈夫?』



なんか不倫してる最中の電話みたいになってしまった。



『待ってて! 今行くから!』

「ちが」



ガン、という音がしてそれきり反応がなくなった。

端末を放り出してしまったらしい。

壊れたかもしれない。



「エステレア、もう、胸はやめて……」

「そうですか……」



名残惜しそうに手を離すエステレア。

また裏返しになって首筋から頭を重点的にほぐす。

これは普通に気持ち良い。私は目や頭を使うことが多いのでこの付近の血流を良くするのが効くらしい。



「トモシビちゃん!」



フェリスがいきなり入ってきた。

早い。



「うわぁ……」



半裸でニチャニチャ音を立てて体をくねらせる私を見て、フェリスが変な声をあげた。







「びっくりしたよ〜、なんで朝からそんな事してるの?」

「聖誕祭だから、でしょうか?」



肩甲骨のあたりが圧迫され、″あ″に濁点がついたような声と共に肺から空気が押し出される。



「ぅあー……」

「トモシビちゃん気持ち良さそうだね」



聖誕祭の日はあまり外出せず家にいるのが一般的である。

仕事もなく、店も休みだからだ。

ゆっくりと家族で過ごすのだ。

まあ私の場合は普段から外出せず家で家族と過ごしていたわけだが、やはり特別な日という印象はある。


私にとっては王都に来てから最初の聖誕祭だ。

せっかくだから家でゆっくり休むとしよう。







「……」



ベッドに転がって目を閉じる。

完全に休む体制だ。

私は小食のくせにエネルギーが有り余っているので、じっとしてるのはわりと苦手だ。

寝るときはスイッチが切れたように眠くなる。

ちなみにオイルは落としてある。



「ん〜……」



隣で寝てるフェリスが寝返りをうった。

ついさっきまで寝ていたのに、なぜまた簡単に眠れるのだろう?

やっぱり猫なのだろうか。

私はフェリスの頭を抱きかかえて猫耳の感触を頬で味わってみた。

これでよし。

猫耳は副交感神経とかなんとかを活発にさせてリラックスさせる……気がする。

休むことは重要だ。

たまにはこうして午前から二度寝も良いかもしれない。

あんまり眠くないけど目を閉じてじっとしてるだけで……。

…………。



「調子はどうだ?」



どこかで聞いたような声が聞こえた。

男の声だ。

……思い出した。

ジェノバの砂浜で聞いた声だ。



「トモシビ・セレストエイム」



いつのまにか眼前には海が広がっていた。

私は自分が砂浜にいることに気付いた。

誰もいない砂浜。

前と違ってハラハラと雪が降っていた。

……ああ、夢だ。

夢で夢と気付いたのは初めてだが、気付いてみるとなんてことはない。

現実とは質感が違う。

違う……気がする。



「現実も夢も似たようなものらしいぞ」

「おじさん、だれ?」

「おじさん……」



ショック受けてるっぽい。

姿は見えないが私からすると成人男性は大体おじさんである。



「俺はあれからいつもお前を見てる」



その言葉に息を飲んだ。

つまり……ロリコンのストーカーではないか。

私は防犯ブザーの紐に指をかけた。



「あっおい! 待て!」



焦ってる。

ロリコンおじさんは大体そういう反応をするのだ。

私は紐を引こうと……引く真似をして脅そうと力を込めた。

ピロリン、と脳内で音がした。







『おおい、親友!』



″窓″から声が聞こえた。

意識がクリアになってくる。

いつのまにか寝ていたようだ。

私は猫耳をモグモグ食べてる自分を発見した。



『私も入れてくれー! 寂しいんだ!』



今度はアイナから通信だ。どうやらドアの前にいるらしい。



「入ってきて」



魔導鍵を遠隔で外して答える。

なんか変なおじさんの夢を見ていた気がする。



「ああっ、お前らまたイチャイチャして!」

「あ、いらっしゃいアイナさん。頼んでいた料理ですか?」

「ああ、ガチョウにおまけのプディングだ! 金はヨシュア持ちだからいらないぞ!その代わり私も混ぜてくれ!」



相変わらずヨシュアにたかっているようだ。

彼も家族で過ごすのだろう。

エクレア達は孤児院で過ごすし、アナスタシア達はお城で過ごす。

アイナは一人になるのは不憫である。

私は押し寄せる現実の認識に変な夢のことを忘れ、快くアイナを受け入れたのだった。



聖誕祭は大体クリスマスですね。

何かが誕生した日なのでしょう。


※次回更新は4月27日月曜日になります

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