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核兵器を持った少女

※3月26日誤字修正しました。ご報告ありがとうです。



空にひし形の絨毯みたいなのが飛んでる。

普通のエイより少し大きいだろうか?

編隊で飛んでいたと言っていたが一匹しかいない。



「卵産むやつですか?」

「た、たぶん!」

「なら予定通りですわね」

「死なない程度に痛めつけて案内してもらいましょう」



魚って巣で子育てとかするのかな?

しないかもしれないが、やつらも卵は守りたいだろう。

それなら産んだ場所で守ったりはするかもしれない。

私は透明な″窓″を出した。シーカーだ。



「少し戦ってて」

「何するの? トモシビ」

「フレンド登録する」



私のフレンド機能はパーティー機能から魔法全体化を抜いたものである。

それだけでは何の意味もなかったこの機能は、私の改造によってマップに座標が表示されるようになり、敵を登録する事で追跡までできるようになった。


しかし、スミスさんによるとこのフレンド・パーティー機能というのは″窓″が処理しているのではなく、私の力で何かやってそれを表示しているだけだと言う。

つまり……フレンド登録も私が魔力を記憶して識別しているのである。

そう考えてみると心当たりはないわけではない。近くで魔力が動くと何となく違和感を感じるのだ。

私は魔力に対する感覚が鋭いのだろう。

……魔物みたいに。


フレンド・パーティー機能を使用するにあたって、今までは私が直接触れる事で魔力を登録していた。

でもふと思ったのだ。

魔力を記憶できれば触れる必要はないのではないだろうか?

私にはシーカーがある。魔力を見ることのできる″窓″だ。

これで詳しく魔力を分析して感じ取れば、もしかしたら登録できるかもしれない。



「3人で前塞いで、残りは後ろね」

「あ、尻尾に毒とか……」

「あるんだね!」

「あるかも。魚は詳しくないから分かんない、ごめん」



孤児院組が前、残りは後ろ、エステレアとクロエは私の守り。

大体いつもの陣形である。

マンティコアはアスカの守りだ。


私はシーカーでエイを見る。

うん……紛れもなくエイだ。

シーカーには図鑑と連動して魔力で動植物を見分ける機能を新たに作ったのだが、今は図鑑は表示されてない。

なぜなら私がエイの魔力を知らないからである。こいつをエイの魔物として登録したら似たような魔力の持ち主全てがエイの魔物と表示されるはずだ。


魔力を登録する、という作業は魔法式で実現するのは難しい。

なぜなら外界から入力しなくてはならないからである。

前世のコンピュータで例えるなら、キーボードやタッチパネルが入力デバイスである。

私の″窓″はただの出力デバイスだ。モニターと同じである。

ではこの″窓″における入力デバイスは何なのか?


私である。

私が入力し、記憶し、ほとんどの処理まで担当しているらしいのだ。

ならば別に触れなくてもできるはずだ。

私が遠距離から頑張って魔力を感じとれば良いのである。



「むむむむむ……」

「トモシビちゃん、まだ!?」

「まって。なんか、できそう……できそう……」

「ゴーゴーお嬢様! レッツゴーお嬢様!」

「うるさいなこのメイド」



皆空飛びながら戦うのは慣れているとはいえ、殺さず逃さず戦うのは骨が折れるようだ。

その様子を見ながら私は精神を集中する。

シーカーで魔力が見える。

対象が見えるのと見えないのでは集中力が違う。

この魔力をフレンド登録……いつもやるみたいに……。

どうやってたかな……。

無意識にやってることを意識的にやって行うのは難しい。

腕を振るのに筋肉の動きを意識する人がいるだろうか。そんな感じだ。

ただ、私は尻尾の力で魔力を遠隔操作することができる。

この感じを……応用すれば……。



「あ、きたかも……」



フレンドの″窓″にエイという名前が現れた。



「できた」

「OK、逃しますわよ!」

「りょ!」



7人が包囲を解くとボロボロのエイは一目散に逃げて行く。

ドラゴンのときみたいに私一人で追っても良いのだが、安心させた方が巣に戻りやすいだろう。

一先ずリリースして追跡するのだ。


アナスタシア達が戻って来るのを私はマップを開いて待った。







エイは東の方に飛んで行く。

私たちはそれを追って走る。

飛んでいる相手を走って追いかけるのは普通の鳥相手でも難しいものだが、こちらにはマンティコアがいる。

全員マンティコアに乗って追えば良いのだ。



「けっこう遠くまで行くね〜」



山が見える。

グランディア山だ。私達が実地演習で行った山。



「エイって山に卵産むの?」

「わかんないけど……空飛ぶ魔物は大体山とかに巣を作るはずだよ」

「げえ、またあの山登んのー?」

「魔物に乗ってるんだから文句言わないの」



エイはグランディア山に飛んで行き……スルーした。



「あれ?」

「通り過ぎましたね」

「あっちって……」



グランディア山の裏側は海峡がある。

エイはその先に飛んで行った。

私達は立ち止まった。

もう追うことはできないからだ。

なぜならその海峡の先は……魔王領だからである。



「魔王が送って来た魔物ってことでしょうか?」

「魔王領にいる野生の魔物が侵入したという可能性もありますよ」

「ああ、セレストエイムではよくあるって言ってたわ」



たしかにセレストエイムではよくあるけど国境周辺に少し入ってくる程度である。

いくら空を飛べるとはいっても遠くの村まで来ることなどないはずだ。

魔物だって不用意に人里に近付けば殺されることくらいわかっているのだ。



「どうしようトモシビちゃん。もう追いかけられないよ」

「……もどろ」

「ええー無駄骨じゃん」

「あちらから来てることが分かればそれでよろしいかと」

「残念だけどしょうがないね」



肩を落とすアスカ。

彼女としては初めての魔物退治である。

肩透かしを食らった気分なのだろう。

あとは先生に報告して騎士団を駐留させるなりなんなりしてもらおう。

しかしそれにしても……なんでエイは森にいたんだろう?

戻りながら考える。

村長の話ではいつも森を飛んでると言っていた。

魔王領からわざわざあの森を餌場にしに来た?

変な話である。

餌場ならグランディア山で良いはずだ。


腑に落ちないものを抱えて走る事一時間ほど、村の近くまで来てその答えが分かった。







森から何かが溢れている。

遠目にはアリの群れみたいに見えるが……あれはオークだ。

知能の高い豚の魔物。



「まずいね、村に向かってる」

「お嬢様……」



エステレアが私を見た。

私は頷いた。

すぐ行こう。

オークはゴブリンのように繁殖力が高いものの、手に負えなくなる前に駆除されるのが普通だ。

彼らは大食いなので森の獲物では満足できず、すぐに人里を襲い始める。

皮肉にもそのせいで早期に発見できてしまい、増える前に殺されてしまうのである。


しかし目の前のこの大軍団はどうだ。

数百……いや千匹はいるかもしれない。

森に潜んでいたのだろうか?

それにしては森の入り口しか行っていないとはいえ、食い荒らされた形跡がなかった。

……エイが魔王領から餌を運んでオークを増やしていた?


とにかく、なんとかしなくてはならない。

私が。

列をなすオークに先んじて、私達は村に到着した。



「セレストエイム様!」



村長が駆け寄って来た。

サウスピーク村でオークを全滅させた時のことを思い出す。

似たようなシチュエーションだ。

あれより数が多い。

10倍はいるだろう。

だが、今の私なら関係ない。



「突然森からやつらが溢れて……」



説明し始める村長の前に立つ。



「分かった」



10倍いるなら10倍の火力で焼き尽くせば良い。

手を前に出す。

描くのはレーヴァテインの魔法陣。

ただのレーヴァテインではない。

魔王の力を使う。

私の尻尾が逆立った。

私の中の太陽から吹き出す炎を制御して……手を伝わせる。



「さがってて」



眩い光が視界を埋め尽くした。

レーヴァテインの光柱なのだ。太すぎて前がどうなっているのか見えない。

宇宙戦艦の主砲みたいなその恐るべき光は、しかし全く熱を感じなかった。

聖炎で出来ているからだ。


本来ならスカイサーペントを消滅させてレイジングスターくらいの熱量が発生しただろう。周囲にとんでもない被害が出ていたはずだ。

でもこれなら問題ない。

聖炎はオークに触れ、オークの魔力をも聖炎に変えてさらに周囲のオークに燃え広がる。

そのくせオーク以外は何も燃やさない。

今の私はこんなことも出来る。


光が止んだ。

オークは綺麗さっぱり消えていた。

撃ち漏らしなし。被害なし。

火傷すらしてない。

完璧だ。



「もう、大丈夫」



振り向く。

村人たちの異様な目が私を射抜いた。

……静かだ。

サウスピーク村みたいに騒がれると思ったのだが……。

私は村長の方に一歩踏み出した。

村長は後ずさった。

何か……思ったのと違う。

横にいるエステレアを見る。

睨んでる。村人達をだ。

そんな彼女を見て、村長はすぐに笑顔を浮かべた。



「あ……ありがとうございます。おかげで村は助かりました」



取り繕ってるみたいな不自然な笑顔である。



「今日は……ここで泊まられますかな? 精一杯歓待させて頂きますが」

「いえ、すぐに戻って報告しなければなりませんので」

「そうですか、残念ですな」



村長はむしろホッとしたような顔で言った。

私達が歩くと村人達は突っ立ったまま、目で追いかけてくる。

そのまま馬車に乗り込む。

彼らの視線から解放されて、私はようやく一息ついた。

フェリスの尻尾が私の尻尾に巻きつく。



「トモシビちゃん……」

「まったく無礼な輩です」

「お嬢様、気にすることはありません。彼らが愚かなのです」



私のチームの4人とスライムが励ましてくれる。

この4人は私と一緒に色々やってきて慣れているのだ。

しかしアスカは違った。

彼女は村人達を少しマイルドにしたような表情で私を見た。



「いやいや普通ああなるでしょ。あんたら感覚狂ってんじゃん?」

「まあ冷静になるとやばいよね、セレストエイム様」

「トモシビ、あれが……例のあれね」

「うん」



例の、魔王の力を応用したものだ。

使うなって言われたけどまた使ってしまった。

だって村がピンチだったのだ。仕方ないではないか。

この魔力支配は私の力と相性が良いらしい。

あのクルルスですら倒した力だ。

オークの群れなど敵ではない。


というか……敵なんかいるのだろうか?

私と正面から戦って勝てる存在などもうないのではないだろうか?

自惚れているのかな。

私はやろうと思えばすぐにでも王都を灰に変えることだって出来る。

あの村なんて一瞬で……。


……私は何を考えているのだろう。あんな目で見られるのも理解できる。

聖炎の高揚感が完全に冷めてきた。

私は核兵器を持ち歩いてる中学生だ。

危険極まりない。

そんなやつを野放しにするだろうか? 魔王みたいに排除されるのではないだろうか?

いくら火力が高くても私はただの人だ。

悪口を言われたら傷付くし、毒を盛られたら死ぬし、変な目で見られたら嫌な気分になるのだ。

そんなのは嫌だ。

そんなのは……私の望んだ強さではない。



魔王の配下は基本的に魔物ばかりです。

魔物だけど頭良いのもけっこういます。


※次回更新は30日月曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] できそう…できそう…って なんか電波みゅんみゅん受信しているみたいでかわいいですね…みゅんみゅんと… 核兵器って、最近はザコ感が抜けて大変ですね 昔はあんなにザコみたい可愛かったのに エ…
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